山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Googleの折りたたみスマホ「Pixel 9 Pro Fold」、電子書籍ユースでも使いやすいその理由とは?
2024年9月11日 06:12
「Pixel 9 Pro Fold」は、折りたたみ式の画面を備えたGoogle製スマートフォンだ。たたんだ状態では6.3型のスマホとして、広げた状態では8型の小型タブレットとして使えるという、いわゆるフォルダブル式の構造を備えている。
従来モデルに当たる「Pixel Fold」は、画面を広げた状態ではアスペクト比が横長になるという、フォルダブルスマホの中では珍しい設計だったが、本製品は広げても縦に長いという、他社のフォルダブルスマホと変わらない構造に改められた。電子書籍ユースでは大きなメリットだったこの特徴がなくなったことで、使い勝手がどのように変化したかは気になるところだ。
今回はメーカーから借用した実機をもとに、電子書籍ユースでの使い勝手をチェックする。
全般的な製品紹介はすでに平澤氏によるレビューが掲載されているので、そちらをご覧いただきたい。
「画面を広げた時に横長」という従来モデルの特徴が消滅
まずは従来の「Pixel Fold」との比較から。
Pixel 9 Pro Fold | Pixel Fold | |
---|---|---|
発売 | 2024年9月 | 2023年7月 |
サイズ(最厚部) | 155.2×150.2×5.1mm | 158.7×139.7×5.8mm |
重量 | 257g | 283g |
CPU | Google Tensor G4 Titan M2 セキュリティ コプロセッサ | Google Tensor G2 Titan M2 セキュリティ コプロセッサ |
メモリ | 16GB | 12GB |
ストレージ | 256GB/512GB | 256GB/512GB |
画面サイズ/解像度 | 8型/2,076×2,152ドット(373ppi) | 7.6型/2,208×1,840ドット(380ppi) |
リフレッシュレート | 最大120Hz | 最大120Hz |
最大輝度 | 最大輝度1,600cd/平方m(HDR)、2,700cd/平方m(ピーク輝度) | 1,000cd/平方m(HDR)、1,450cd/平方m(ピーク輝度) |
通信方式 | Wi-Fi 7(802.11/be) | Wi-Fi 6E(802.11ax) |
生体認証 | 指紋認証、顔認証 | 指紋認証、顔認証 |
防水 | IPX8 準拠 | IPX8 準拠 |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 最小 4,560mAh 標準 4,650mAh | 最小 4,727mAh 標準 4,821mAh |
コネクタ | USB Type-C | USB Type-C |
価格(発売時) | 257,500円(256GB)~ | 253,000円(256GB)~ |
本製品はその名前が示す通り「Pixel 9」シリーズの1つで、独自チップのTensor G4を搭載するほか、メモリの増量、最大輝度の向上、さらにはAIを用いたカメラ機能の向上など、ほかのPixel 9シリーズと共通する特徴を備えている。一方で従来モデルに当たる「Pixel Fold」との最大の違いは、冒頭でも述べた画面のアスペクト比だ。
従来の「Pixel Fold」が備えていた、画面を広げた時に横長になるという特徴は、フォルダブルタイプのスマホでは非常に珍しく、電子書籍の見開き表示に非常に適していた。しかし本製品は画面は広げた状態でも縦長という、Galaxy Z Fold6などほかのフォルダブルスマホと変わらない仕様に改められてしまった。
一方で画面サイズは従来の7.6型から8型へと大きくなっているほか、開いた状態の筐体の厚みも5.8mmから5.1mmへと大幅な薄型化を果たしている。これは薄型化で話題になった13型iPad Pro(M4)と同等だ。重量も257gと、8型タブレット並だった従来の283gから大幅に軽量化されている。
また実売価格が従来モデルから大幅に上昇したPixel 9シリーズにあって、実売価格が25万7,500円と、従来比で微増と言っていいレベルにとどまっているのは特筆モノだ。ライバルにあたる「Galaxy Z Fold6」(24万9,800円~)を意識しているのかもしれないが、ユーザーにとってはありがたい。
軽量化と薄型化はインパクト大
さて実際に本製品に触れてみて、驚くのはその軽さだ。公称257gということで、iPad mini(293g)と比較しても約40g軽量だ。競合に当たるGalaxy Z Fold6の239gには及ばないが、こちらは画面が7.6型とわずかに本製品より小さいので、8型であることを考えると十分に軽い。
たたんだ状態での厚みも10.5mmしかなく、黎明期のフォルダブル端末と違って、たたんだ状態での画面の隙間もほぼ皆無。これならば一般的な6.3型のストレート端末として使うにも違和感は少ない。片手での保持も容易なので、電子書籍でテキストコンテンツを読むには、むしろこちらのほうが扱いやすく感じる場合もある。詳しくは後述する。
ちなみにこの外部ディスプレイは6.3型で、アスペクト比は20:9、OLEDで解像度は1,080×2,424ドット(422ppi)、最大輝度は2,700cd/平方mと、Pixel 9のメインディスプレイとまったく同じスペックで、同じ部材を使っている可能性が高い。部材の共通化でコストを下げるという意図ならば、従来モデルからそれほど値上がりしていないのにも納得がいく。
背面のカメラバーは、本体の向かって右側の背面に配置されている。背面から大きく突出したこのカメラバーは、形状こそモデルごとに違えど、Pixel 9シリーズ共通の意匠だ。このカメラバーがあることで、本体の重量バランス的にはやや右に寄っているので、片手で持つ時はこの右側を保持するのがベターだ。左手持ちはできないわけではないが、カバーディスプレイに直接触れることになるため、なるべく避けたほうがよいと感じる。
また電源ボタンと音量ボタンも、本体の向かって右側に配置されている。電源ボタンは指紋認証と一体化しており、ほかのPixelシリーズのような画面内センサーよりも使いやすいように感じる。電子書籍ユースではこの音量ボタンを使ったページめくりも可能だ。
ベンチマークについては、前回の「Pixel 9 Pro XL」と似たりよったりで、ベンチマークツールによって上だったり下だったりと結果もバラバラだ。両製品ともにTensor G4採用、メモリ16GBであることは共通しているので、妥当な結果と言っていいだろう。
見開き表示はもちろん単ページ表示も指定可能
では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」を使用している。アプリは特に断りがない限りKindleを使用している。
解像度は373ppiということで、表示性能は十分。画面サイズが比較的近いiPad miniと比べてもクオリティは遜色ない。また最大輝度は、Pixel 9 Pro XLの最大3,000cd/平方m(ピーク輝度)には及ばないものの、2,700cd/平方mを維持していることから、直射日光下でも十分に見やすい。
画面は中央に折れ目こそあるものの、左右がつながっていることから、見開きのページが真ん中で分割されることがなく、テキストが折り目の部分にかかってもきちんと読める。使い勝手で言うと、iPad miniなど、コンパクトサイズのタブレットに近いものがある。
さて気になるアスペクト比についてなのだが、結論から言うと、今回試した電子書籍アプリのほとんど(後述)では、通常の向きのまま見開き表示が可能だった。黎明期のフォルダブルスマホのように、画面を見開きにするたびに表示が90度回転してしまい、本体を横倒しにしなくては読めないといった問題はない。正方形に近い画面ゆえ、上下に大きな余白ができることを許容できるかどうかというだけだ。
実は本製品は、アプリが本製品のアスペクト比に最適化されていない場合にどのようなレイアウトで表示するかを、アプリ単位で指定できるようになっている。「アプリ」の設定画面の中にある「アスペクト比(試験運用版)」がそれで、これがあるが故に、アプリ側の最適化が不完全であっても、意図通りの表示が可能になる。
用意されているレイアウトは3つで、電子書籍に関係するのは「全画面表示」、「3:2」の2つ。前者は見開き表示、後者は画面の高さに合わせて1ページだけが拡大表示される。両者でどのくらいサイズが違うかというと、サンプルで使用しているコミックのコマ幅でいうと「全画面表示」は61.5mmしかないのに対し、「3:2」では73.5mmまで大きくなる。
つまりページサイズが小さくても見開きで表示するか、1ページ単位だが少しでも大きく表示するかを、ここで指定できるというわけだ。今回試したアプリでは、Kindle、ebookjapan、BOOK☆WALKER、楽天Kobo、ブックライブ、DMMブックス、Google Playブックスについては、これらを切り替えての表示において、問題がないことを確認した。
ちなみに今回試した中で唯一「紀伊國屋書店Kinoppy(Ver.3.12.3)」は、一部コミックの見開き表示に対応せず、そればかりかページを正常にめくることができない不具合があったのだが、これも「3:2」に指定すれば、最低限1ページ単位でめくることは可能になった。この機能があることによって、アプリが使えない問題が回避された格好だ。
もっともこの機能はあくまで「試験運用版」であり、アプリによっては挙動が不安定な場合がある。たとえばKindleアプリは、「3:2」に切り替えると、他のアプリと同様、画面上部に黒帯がついた状態で拡大表示されるのだが、何かをきっかけにこの黒帯が非表示になる場合がある。こちらのほうがひとまわり大きく表示できるので、可能ならこれを標準としたいのだが、試した限りでは再現性がなく、任意に切り替えることもできない。
またKindleアプリは、自動回転をオンにして本体を縦向きにすると単ページ表示に切り替わるのだが、そのあと本体の向きを戻すと、見開き表示に戻らず単ページ表示が維持される不具合がある。面白いのはこの状態だと、前述の「3:2」表示と違って上部に黒帯もなく、さらに余白を極限まで切り詰めた、あらゆる表示方法の中で最大サイズになることだ。コマの間隔も86mmと圧倒的に大きい。ちょっとしたバグ技である。
この表示はアプリを再起動すると元の見開き状態に戻ることから明らかな不具合で、ほかのアプリでもこうした問題は少なからず存在する可能性がある。とはいえ、今回のアスペクト比を指定できる機能を使えば多くは回避可能なはずで、そうした意味でも有用と言える。本製品で電子書籍を読んでいる時に何か問題が発生したら、まずはこの機能を試してみることをおすすめする。
3つのパターンでの読書に対応。保持しやすさは一工夫が必要
以上ざっと試用してみたが、決して100点ではないものの、筆者の中での評価は高い。少なくとも発表直後に「画面を開いても縦長」という本製品の仕様を知ってガッカリした時の印象は、実機を試したことで、完全に覆された格好だ。
実際、Pixel 9 Pro XLやiPhoneの「Pro Max」シリーズなど、6型後半ながら重量が220~230gあるスマホと比べても、257gで見開き表示ができる本製品のほうが、電子書籍では圧倒的に使いやすい。まず見開き表示を試し、サイズが小さく読みづらければアスペクト比設定で3:2に切り替えて単ページ表示を試せるし、片手で持って読みたければバックディスプレイを用いるという、3つのパターンでの読書が楽しめるからだ。
ただし本製品を開いた状態で快適に使うには、本製品を片手でホールドするための仕組みが整っていることが欠かせない。片手での保持が容易なスマホと比べて、画面が大きい本製品はこの点でどうしても不利だ。
具体的には、背面に装着した保護ケースの上からスマホバンドを貼り付けたり、あるいは本体上下の端にフックで引っ掛けられるバンドを取り付けるといった方法が考えられる。前者は背面のワイヤレス充電機能が実質使えなくなるし、後者は折りたたむたびに取り外さなくてはならないなど一長一短だが、こうした一工夫があれば、開いた状態で長時間の読書も難なくこなせるようになるはずだ。
実売価格は25万円台からとかなりの額だが、ストレートタイプのPixel 9 Pro XLが19万円台からであることを考えると、約6万円しか差がないのは、むしろリーズナブルにも感じられる。7年のアップデート保証があり、早い時期に行なわれるであろうAndroid 15対応でさらなる機能向上が見込まれるほか、サードパーティ製の保護ケースなどアクセサリも続々登場しつつあるのも、快適に使い続けるうえでプラス要因となるだろう。