山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

専用GPUを搭載、Google Playストアも使える13.3型E Ink端末「BOOX Tab X」

「BOOX Tab X」。実売価格は12万9,800円

 「BOOX Tab X」は、13.3型の大型E Ink電子ペーパーを搭載したAndroidタブレットだ。Google Playストアにも対応しており、電子書籍に限らず、好みのAndroidアプリを自由にインストールして利用できるほか、BSR(BOOX Super Refresh)なる独自技術により、高速な描画を実現しているのが大きな特徴だ。

 BOOXは主に画面サイズごとに独自のペットネームが設けられているが、前回紹介したハイエンドモデル「BOOX Tab Ultra」以降、これまでのペットネームとは外れた新機軸のモデルがリリースされている。今回紹介する「BOOX Tab X」は、従来の13.3型モデル「BOOX Max Lumi2」の後継に相当し、スペックが大幅に強化されている。

 今回は、国内代理店であるSKTから借用した製品をもとに、電子書籍ユースを中心とした使い勝手を、前回紹介した10.3型の「BOOX Tab Ultra」や、画面サイズが近い12.9型iPad Proと比較しつつチェックする。

従来の13.3型モデルをベースに独自GPUを追加し高速化を実現

 まずは前回紹介した10.3型の「BOOX Tab Ultra」、および従来モデルに当たる13.3型の「BOOX Max Lumi2」との比較から。

BOOX Tab XBOOX Max Lumi2BOOX Tab Ultra
発売月2023年1月2021年11月2022年11月
サイズ310×228×7.9mm310×228×7.9mm225×184.5×6.7mm
重量560g570g480g
画面サイズ/解像度2,200×1,650 Carta 1250(207dpi)2,200×1,650 Carta 1250(207dpi)1,872×1,404ドット(227dpi)
ディスプレイ13.3型Mobius Einkスクリーン13.3型Mobius Einkスクリーン10.3型 フラットHD Carta
通信方式Wi-Fi (802.11b/g/n/ac)Wi-Fi (802.11b/g/n/ac)IEEE 802.11b/g/n/ac
CPUSnapdragon 662(8コア)Snapdragon 662(8コア)8コア
メモリ容量6GB LPDDR4X6GB LPDDR4X4GB
ストレージ128GB UFS2.1128GB UFS2.1128GB
MicroSDカードスロット--あり
フロントライトあり(暖色/寒色)あり(暖色/寒色)あり(暖色/寒色)
指紋認証-ありあり
端子USB Type-CUSB Type-CUSB Type-C
バッテリ容量6300mAh4300mAh6300mAh
発売時価格(税込)129,800円109,800円99,800円
備考ワコムスタイラスペン(BOOX Pen2 Pro)が付属ワコムスタイラスペン(BOOX Pen Plus)が付属ワコムスタイラスペン(BOOX Pen2 Pro)が付属

 本製品はその型番からして、前回紹介した10.3型モデル「BOOX Tab Ultra」の大画面版のように見えるが、筐体が金属ではなく樹脂製だったり、縦向きでの利用を想定した筐体デザインだったりと、むしろ従来までの13.3型モデル「BOOX Max Lumi2」寄りの仕様が多く見られる。画面サイズ、解像度、CPUやメモリなども、BOOX Max Lumi2と同等だ。

 その一方で、BOOX Tab Ultraにも搭載されている、GPUを中心とした独自技術BSR(BOOX Super Refresh)の恩恵か、BOOX Max Lumi2と比べてレスポンスは劇的に向上している。考え方としては、BOOX Max Lumi2をベースに、BOOX Tab Ultraにも搭載されているBSRを追加したモデルという解釈が正しい。詳しいベンチマークは後述する。

 そのほかの違いとしては、BOOX Tab Ultraにあった書類スキャン用カメラやメモリカードスロット、外部キーボード接続用のポゴピンは、本製品には非搭載。重力センサーによる自動回転機能が追加された一方、BOOX Max Lumi2に搭載されていたホームボタンは指紋認証機能ごとなくなり、画面のロックはパスコードのみと、従来モデルから省かれている部分も見られる。

 注目すべきなのはバッテリで、BOOX Max Lumi2の4,300mAhから、6,300mAhへと大幅増量されている。これでいて重量が増えることなく、逆に10g減っているのは、従来モデルを所有していたユーザーからすると魅力的だろう。

画面サイズは13.3型。下部ベゼルのみ厚みがあるデザインで、縦向きでの利用を想定しているようだ
ベゼルの一方が厚いためバランスはやや悪いものの、横向きでの利用も問題なく可能
背面。10.3型モデル「BOOX Tab Ultra」にあったスキャン用のカメラは非搭載
本体上部には電源ボタンを搭載。指紋認証のギミックはない
底面にはUSB Type-Cポートを備える
背面下部にはスピーカーを備える
ベゼル幅は左右および上ともに13mmとやや厚め。ちなみに下は27mmある
10.3型の「BOOX Tab Ultra」(右)との比較。本製品のほうがふたまわりは大きい
12.9型iPad Pro(右)との比較。画面サイズは酷似している
厚みの比較。いずれも左が本製品、右上がBOOX Tab Ultra、右下が12.9型iPad Pro。樹脂製としてはかなりの薄さだ

13.3型としては軽量。ホーム画面は新デザインを採用

 セットアップのプロセスはBOOXシリーズに共通する、まず電源周りなどの基本設定を済ませてホーム画面が表示させたのち、あらためてネットワークの設定を行なう流れだ。確認した限りでは、前回の「BOOX Tab Ultra」とは共通のようで、GSF IDを取得しなくともすぐにGoogle Playストアにログインできるのも同様だ。

セットアップ開始。まずは言語を選択する
アグリーメントおよびプライバシーポリシーに同意して次に進む。前回の「BOOX Tab Ultra」で初めてお目見えした画面だ
スリープおよび電源オフまでの時間を設定する。かつてあったタイムゾーン設定の画面はなくなっており、あとで手動で日本時間へと変更する必要がある
操作方法をナビゲーションまたはジェスチャーから選択する
設定はここで完了。いったん再起動する
ホーム画面が表示されるがこの時点ではまだネットワーク設定が完了していない。下段の歯車マークをタップして設定画面を開く
「WLAN」へと移動し、検出されたワイヤレスネットワークをもとにWi-Fiの設定を行なう
Wi-Fi設定が終わればすぐにGoogle Playストアを利用できる。ログインして基本情報を入力
Google Playストアが表示された。かつてのモデルと異なり、GSF IDの手動設定は不要だ

 そんな本製品を手に持ってまず感じるのが軽さだ。13.3型という大画面でありながら、筐体は樹脂製ということもあり、重量は560gに抑えられている。サイズは12.9型iPad Pro並で、重量は11型iPad Proとほぼ同じと言えば、理解してもらいやすいだろう。前回紹介したBOOX Tab Ultraがサイズの割にずっしりくる重さ(480g)だったのと比べると、本製品はその軽さが際立つ。

 また外観面の特徴として、縦向きに保持した時に下のベゼルに厚みがあるという、明らかに縦向きを想定したデザインでありながら、「BOOX」のロゴが直立しているせいか、横向きに保持した時も違和感がないのが面白い。そうした意図があってのデザインであれば、狙いはピタリとはまっていることになる。

正面下部のBOOXロゴは直立している
このロゴの向きもあってか、本体を横向きにして右側ベゼルだけ厚みのある状態にしても違和感はそれほどない
本体重量は実測549g。画面サイズからするとかなり軽量だ

 動作は高速で、前回のBOOX Tab Ultraに勝るとも劣らないレスポンスだ。BOOX Tab Ultraと同じく専用GPUを搭載しているのが大きな要因だろう。ベンチマークではE Inkであるためか一般的なAndroidタブレットに比べてスコアは低くなりがちだが、それでも項目別ではAmazonの「Fire HD 10 Plus」を上回るケースもある。10.3型の「BOOX Tab Ultra」と比べて約1~2割低いのは、画面が大きいぶんパワーを消費しているのだろう。

「Google Octane」でのベンチマーク結果。本製品(左)が「3428」、BOOX Tab Ultra(右)が「4357」と、本製品が若干低め。ちなみにこれらはAmazonのタブレット「Fire HD 10 Plus」の約半分ほど
「GeekBench 5」でのベンチマーク結果。テストが不完全な状態で終了しているが、本製品(左)が「シングルコア288/マルチコア1213」、BOOX Tab Ultra(右)が「307/1251」と、Google Octaneよりも差は小さい。「Fire HD 10 Plus」とはほぼ同等だ

 ホーム画面以下の構成については、前回紹介した「BOOX Tab Ultra」と同じで、上段にウィジェットが、中段にインストール済みのアプリが並ぶデザインを採用している。かつてのホーム画面では画面左列に並んでいた「ストレージ」、「ノート」、「ライブラリ」はホーム画面下部のアイコンへと姿を変えている。直感的に使えるという意味では、今回のデザインのほうが明らかに上だ。

 E Ink関連の設定は、画面下部に表示されるE Inkセンターから行なう。中でも画面切り替え時の挙動を選択できるリフレッシュモードは、特に優先順位の高い項目だ。またアプリ単位の最適化機能の中にもE Inkの挙動にまつわる項目があるが、まずはE Inkセンターでできるリフレッシュモードの設定を試し、最適化はその次という順序になるだろう。

ホーム画面はBOOX Tab Ultraでお目見えした、上段にウィジェットが、中段にアプリが並ぶ新デザイン。従来のカテゴリは最下段にアイコンとして表示される。なおこの画面以下、スクリーンショットは一部カラーの場合があるが、画面上ではすべてモノクロとなる
画面右上を下にスワイプするとコントロールセンターが表示される。暖色寒色いずれにも対応したフロントライトの調整はここから行なう
E Inkセンターは画面下に表示される。リフレッシュモードは「HD」「Balanced」「高速」「超高速」の4つ。アプリによってはさらにもうひとつ「Regal」が使える場合もあるようだ
各アプリごとのリフレッシュモードは設定画面の「アプリと通知」から参照できる。翻訳漏れか「高速」が「Fast」になっている
アプリ単位での最適化機能を備える。アプリ一覧でアイコンを長押しして「最適化」をタップするとメニューが開く
「最適化」のメニュー。アプリごとのDPIや色合いといった調整が行なえる
補助入力ツールの「ナビボール」ことナビゲーションボールはデフォルトではオフになっているので「システム設定」から有効化する
ナビボールを展開したところ(右下)。ダブルタップするとホーム画面へと戻れる
指紋認証は非搭載のため、画面ロックの解除で利用できるのはパスワードのみ
従来はホーム画面左列にアイコンとして並んでいた「ストレージ」はホーム画面下部のアイコンからアクセス可能。「ノート」「ライブラリ」なども同様だ

見開きコミックは原寸以上のサイズ。新聞ビューアとしても快適

 では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最新号を使用している。アプリはKindleを用いている。

 本製品はA4がほぼ原寸大で表示できるサイズゆえ、その迫力はかなりのもの。コミックや単行本の見開き表示は、紙版を上回るサイズとあって、なるべく大きなサイズで読みたいユーザーはもちろん、老眼気味のユーザーにも最適だ。

 E Ink Carta 1250を採用するとあってコントラストも高く、クオリティは十分。解像度は207ppiと低く見えるが、実際には2,200×1,650ドットと、同等サイズの12.9型iPad Pro(2,732×2,048ドット)よりわずかに低い程度でしかない。ページめくりの速度も、わざわざ「高速」モードに切り替えなくとも、画質優先の「HD」で十分なパフォーマンスだ。

 電子書籍を読むにあたっては、デバイスの存在をどれだけ意識せずに済むかは1つのポイントだが、本製品はパフォーマンスの高さゆえそうした心配が少なく、極めて電子書籍を読むのに向いた製品といえる。こうした点については、筐体がややずっしりした10.3型の「BOOX Tab Ultra」よりもむしろ上かもしれない。

コミックは見開きにしても十分なサイズ
紙の単行本(左)との比較。本製品のほうがページサイズが大きい
【動画】リフレッシュモードを画質優先の「HD」にしてページめくりを行なっている様子。E Inkならではの反転は気になるがレスポンスは高速でストレスがない
【動画】リフレッシュモードを速度優先の「高速」にしてページめくりを行なっている様子。Kindleアプリはこのモードだと左右スライドのエフェクトが発生する
リフレッシュモードによる画質の違い。左が「HD」、右が「高速」。ほかにも3つのモードがあるが画質はこの2種類に大別される。「高速」で実用に堪えるかどうかは、線の細さや作画の密度などにも依存する

 一方で表示はモノクロゆえ、雑誌の表示にはあまり向かないのだが、そんな本製品の強みを活かせるのは新聞だ。13.3型という本製品の画面サイズであれば、新聞の紙面を縦2×横2で、原寸大で分割表示できる。E Inkならではのざらざらした質感は新聞紙のそれに近く、相性も良好。またモノクロであることのハンデもない。

 試しに「日本経済新聞 紙面ビューアー」をインストールしサンプル紙面を表示させてみたが、ドラッグしての上下左右の移動も含めてスムーズに行なえた。端まで到達するとズームが解除されるというアプリ側の使いづらさはあるものの、13.3型のE Ink端末である本製品との相性のよさは文句なしだ。著作権の関係でサンプル画面は掲載していないが、本製品を購入した場合はぜひ試してみてほしい。

サイズ的には雑誌表示にも十分に耐えうるが、モノクロなので表現力のハンデはある。むしろ新聞などのほうが相性はよいだろう。右は12.9型iPad Pro
解像度は12.9型iPad Pro(右)にはやや劣るものの、注釈の細かい文字も十分に読める
モノクロであることで図版が意味をなさなくなる場合がある

 もう1つ、画面の分割表示についてチェックしておこう。本製品は従来モデルの「BOOX Max Lumi2」と同様、画面を水平または垂直に分割し、別々のアプリを表示できる機能を備える。使い方は、対象のアプリを開いた状態でコントロールセンターを開いて「分割画面」を選択するだけ。13.3型という画面サイズを持つ本製品ならではの使い方だ。

 ただしこの分割表示に対応するかどうかはアプリに依存する。電子書籍アプリでも、例えばKindleは対応する一方で、DMMブックスは対応しないといった具合に差がある。このあたりはiPadの画面分割機能「Split View」にも通ずるものがあり、サードパーティ製アプリのどれもが使えるわけではないので要注意だ。

対応アプリ(ここではKindle)を開いた状態で、画面右側にコントロールセンターを開き「分割画面」をタップ
どのように画面を分割するか尋ねられるので選択する。ちなみに画面が縦向きだと「垂直モード」という選択肢も用意される
画面が中央で分割された。左側にはすでに開いていた対応アプリが、右側にはこれから開くことができるアプリが表示される
ノートアプリを開いた状態。このように電子書籍の隣にノートを並べて手書きでメモを取るといった使い方ができる。ちなみに左右画面は入れ替えることも可能

使っていてストレスがたまらない製品。価格も妥当か

 以上ざっと見てきたが、完成度は高く、またパフォーマンスも高いとあって、使っていてストレスがたまらない製品だ。もちろんE Inkであるが故の使い方の向き不向きはあるが、特定の用途で使おうとした時にパフォーマンス不足が原因で断念することは考えにくく、そうした意味で安心して使える一品だ。

 実売価格は12万円台と、従来モデル(の発売当時)から見ると約2万円プラスだが、BSRの搭載でパフォーマンスが大幅に向上していること、バッテリが強化されていることに加えて、当時より円安であるという事情を考慮すると、むしろよくこの値上げ幅にとどめているものだと感じる。

 12.9型iPad Proや14.6型のGalaxy Tab S8 Ultraなどにも言えるが、このクラスの大画面タブレットはいまや実売が十数万円後半というのが一般的になりつつあり、本製品はむしろリーズナブルな印象だ。しかも本製品の場合スタイラスペンが標準で付属しているので、そのぶんお得感は高い。

BOOX Tab Ultraと同じスタイラスが付属する。ちなみに筐体が樹脂製ということもあり、マグネットでの吸着はサポートしない

 前回のBOOX Tab Ultraでも述べたが、これだけスペックが高ければ、いかに短いスパンで新モデルが登場するBOOXシリーズの中にあっても、本製品を超えるモデルがすぐに登場する可能性は低いと考えられる。そうした意味で「買い時」なのは間違いない。唯一悩みどころがあるとすれば、10.3型のBOOX Tab Ultraと本製品のどちらを選ぶかで、その点だけはユーザーを悩ませる一品と言えそうだ。