山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

Apple「iPad Air(第5世代)」で電子書籍を試す。性能が向上したiPadのミドルクラスモデル

「iPad Air(第5世代)」。今回試用しているスターライトをはじめ5色をラインナップする。実売価格は7万4,800円から

 「iPad Air(第5世代)」は、10.9型の画面を備えたApple製のタブレットだ。従来の第4世代と同様、画面の下にホームボタンがなく、指紋センサーと一体化した電源ボタン(トップボタン)を備え、電源オンと同時にロック解除できるギミックが特徴だ。

 iPad Proと同じ狭額縁デザインにがらりとモデルチェンジした従来の第4世代モデルと異なり、本製品は外観はそのままに、主にCPUなどのブラッシュアップがはかられている。今回は筆者が購入した実機をもとに、電子書籍ユースを中心とした使い勝手を、従来の第4世代モデルと比較する。

外観などは第4世代そのままながら性能は向上

 まずは従来モデルとの比較から見ていこう。

iPad Air(第5世代)iPad Air(第4世代)iPad Air(第3世代)
発売2022年3月2020年10月2019年3月
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)247.6×178.5×6.1mm247.6×178.5×6.1mm250.6×174.1×6.1mm
重量約461g約458g約456g
CPUApple M1チップ
8コアCPU、8コアのグラフィックス、Neural Engine
A14 Bionicチップ
Neural Engine
A12 Bionicチップ
Neural Engine、組み込み型M12コプロセッサ
メモリ8GB4GB3GB
画面サイズ/解像度10.9型/2,360×1,640ドット(264ppi)10.9型/2,360×1,640ドット(264ppi)10.5型/2,224×1,668ドット(264ppi)
通信方式Wi-Fi 6Wi-Fi 6Wi-Fi 5
生体認証Touch ID(トップボタン)Touch ID(トップボタン)Touch ID(ホームボタン)
バッテリ持続時間(メーカー公称値)最大10時間最大10時間最大10時間
コネクタUSB Type-CUSB Type-CLightning
スピーカー2基(上下)2基(上下)2基(横)
価格(発売時)7万4,800円(64GB)
9万2,800円(256GB)
6万2,800円(64GB、税別)
7万9,800円(256GB、税別)
5万4,800円(64GB、税別)
7万1,800円(256GB、税別)

※いずれもWi-Fiモデル

 本製品は、狭額縁デザインを採用した10.9型のディスプレイに、指紋認証センサーが一体化した電源ボタン(トップボタン)を搭載するなど、外観面は従来モデルとまったく違いがない。ボディサイズも同一で、見た目には区別がつかない。重量はほんのわずかに重くなっているが、計測上の誤差レベルだ。

 ディスプレイの仕様も変わっておらず、サイズや解像度はもちろんのこと、広色域ディスプレイやTrue Tone、耐指紋性撥油コーティング、フルラミネーションディスプレイ、反射防止コーティングといった仕様も同一。iPad Proで採用されているProMotionテクノロジーに対応しないのも共通している。バッテリのサイズも28.6Whと変わっていない。

 大きな違いとして挙げられるのはCPUとメモリだ。CPUはA14 BionicからM1へとアップグレードされ、iPad Proと肩を並べている。また従来は非公開ながら4GBとされていたメモリは8GBに倍増している。これらによって性能面はかなりの恩恵を受けているとみられる。このあと詳しく見ていく。

 これ以外では、前面カメラがセンターフレームに対応したり、モバイル回線が新たに5Gに対応するといった進化も見られるが、基本的には処理速度の向上と、ほかのiPadやiPhoneとバランスを取りつつ機能を順当進化させたモデルということになる。

縦向きに表示した状態。iPad ProやiPad miniと同様、上下左右のベゼル幅が均等な狭額縁デザイン
横向きに表示した状態。11インチiPad Proと同じく、アスペクト比4:3よりも若干横長
従来の第4世代iPad Air(右)との比較。外観に変化はなく見た目での判別は困難だ
背面の比較。下部の印字が「iPad」ではなく「iPad Air」になっているのが興味深い。また従来モデル(シルバー)は今回の第5世代では廃止されているため、色味が若干異なる
厚みは6.1mmとまったく同一
下が本製品、上が第4世代モデル。ボタン類の配置、形状、さらにカメラの突起に至るまで違いはない
カメラの横に指紋センサーを備えた電源ボタン(トップボタン)と、音量ボタンを備える
上面はスピーカーに加え、指紋センサーを備えた電源ボタン(トップボタン)を搭載する
底面はスピーカーとUSB Type-Cポートが配置される
USB Type-Cポートの裏側にあたる位置にSmart Connectorを搭載する
重量は実測462g。ちなみに従来モデルは464gだったので、誤差の範囲内だ

電源ボタン一体型のTouch IDは電子書籍ユースには便利

 外見上の変化がないのと同様、セットアップのフローからホーム画面に至るまでも、従来の第4世代モデルと大幅な違いはない。ホーム画面にはウィジェットが並んでいるが、第4世代モデルを最新のiPadOSにバージョンアップすれば、これらも含め、見た目の違いを完全になくすことができる。

 外観がよく似たiPad Proとの最大の違いは、第4世代モデルで採用された電源ボタン一体型のTouch IDだ。本体を横向きにした状態では左上に、縦向きにした状態では右上に配置され、指紋によるロック解除の精度も高い。

 電子書籍で利用する場合、本体を手で持って使うことが多いわけだが、これがiPad Proだとカメラ部をうっかり指でふさいでFace IDがエラーになることが多いので、そうした恐れのない本製品のほうが、より電子書籍での利用には向いている。欲を言えば両方に対応しているとよいのだが、そこはないものねだりだろう。

指紋センサーは電源ボタンと一体化しており、ロック解除時は画面にボタンの位置が表示される
フロントカメラはトップボタンのある短辺側のベゼル内にある。iPad Proと異なり、Face IDには非対応

 なお本製品はiPad miniと同様、本体の向きに応じて音量ボタンの役割が切り替わる仕様になっている。具体的には、縦向きにした状態では角に近い側が音量「大」なのが、横向きにすると角から遠い側が音量「大」へと切り替わる。

 これは本製品と同じタイミングでリリースされたiPadOS 15.4の機能であり、つまり従来の第4世代モデルにも適用されるのだが、音量ボタンの向きがより直感的に操作できるという意味で、歓迎すべき機能だろう。

本体を縦向きにした状態(音量ボタンは右側面)では、角に近い側のボタンが「大」、遠い側のボタンが「小」として機能する
本体を横向きにした状態(音量ボタンは上部)では、角に近い側のボタンが「小」、遠い側のボタンが「大」として機能する

 ベンチマークについては、「Wild Life Extreme」は第4世代に比べてスコアがほぼ倍増しており、動画再生時のフレームレートが明らかに向上しているのが目立つ。一方でJavaScriptの実行速度をはかる「Google Octane」については第4世代比で12%増と、それほど極端な伸びはみられない。

「Wild Life Extreme」でのベンチマーク結果。左が本製品で「5,021」、右が従来の第4世代モデルで「2,489」。なお本製品ではなく第4世代に「iPad Air(2022)」と表示されているがアプリ側の誤認識とみられる
「Google Octane」でのベンチマーク結果。左が本製品で「66,805」、右が従来の第4世代モデルで「59,509」

コミックは見開き表示に最適。容量選択に気を付けたい

 では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最新号を使用している。

 解像度は264ppi。これは従来の第4世代はもちろん、現行のiPadに似ていた第3世代の頃から変わっておらず、第4世代で画面が10.9型に大型化したことでより見やすくなっている。ちなみにこの264ppiという解像度は、エントリーモデルのiPad、さらに11インチiPad Proとも同じで、条件はまったくの横並びだ。

 コミックの表示は、単ページだといささか大きすぎるので、基本的に見開き表示で使うことになる。紙のコミックと比べると二回りほど小さいが、解像度的にはまったく問題なく読める。アスペクト比は4:3よりもややワイド寄りだが、バランスはよく、余白はそれほど気にならない。

 電子書籍ユースにおいて本製品のライバルになるのはエントリーモデルのiPadだが、画面サイズが10.2型と本製品より小さいため、同じコンテンツであっても一回り小さく表示される。アスペクト比は4:3と余白が出にくい比率のはずだが、もとの画面サイズが大きいことから、表示サイズ的には本製品のほうが有利だ。

コミックは単ページだと大きすぎるので、基本的に見開きでの利用になるだろう
紙のコミックよりもやや小さいが、極端な差はなく、また解像度も十分だ
こちらは単ページ表示で従来の第4世代モデル(右)と比べたところ。違いは見られない
見開き状態で比較したところ。こちらも違いはまったくない
エントリーモデルのiPad(右)との比較。本製品のほうが一回り大きく表示される
見開き表示にした場合も本製品が一回り大きい。アスペクト比の違いよりも画面サイズの差(本製品が10.9型、iPadが10.2型)が大きく影響している
12.9インチiPad Pro(下)との比較。こちらは逆に二回りほど本製品が小さい
10.1型のFire HD 10 Plus(下)との比較。本体幅がほぼ同じにもかかわらず、アスペクト比の関係で表示サイズは本製品が圧倒している

 また本製品は雑誌コンテンツの表示にも使える。12.9インチiPad Proのように原寸に近いサイズではなく、また天地に余白ができてしまいがちだが、解像度的には細かい注釈の文字まで十分に読める。

 見開き表示にするとさすがに注釈レベルの文字は苦しいため、基本的には単ページ表示で使うことになるが、予算的にも12.9インチiPad Proには手が出せないという場合、雑誌を閲覧するための選択肢としては現実的だ。少なくとも、画面がワイドサイズゆえページが圧迫されて小さく表示されるFire HD 10よりはよほどいい。

雑誌の表示。原寸大とまでは言えず、またアスペクト比の関係で天地に余白ができるが、実用レベルの表示サイズだ
単ページ表示であれば細かい文字も問題なく読める
見開き表示ともなると注釈サイズの細かい文字はやや苦しくなる
12.9インチiPad Pro(右)との比較。アスペクト比の関係もあり、本体のサイズ差以上に表示サイズには差がある
10.1型のFire HD 10 Plus(右)のように、さらにアスペクト比が細長いタブレットでは、本製品以上に上下に余白ができてしまい、本製品のほうが有利だ

 ところで本製品で気を付けたいのは、容量の選択肢が64GBと256GBの2種類しかないことだ。上位のiPad Proは128GBに始まり、最大2TBまで5種類の容量がラインナップされるなど選択肢は豊富で、必要な容量と予算に応じて選ぶことができる。

 しかし本製品は容量はわずか2択、またそのうち1つは64GBとかなり控えめだ。本を取っ替え引っ替えしながら使うならば問題ないが、1冊100MBを超えるコミックなどを大量にローカルに保存し、かつ動画をダウンロードして視聴したり、大量の写真を撮りためていたりすると、やや心もとないのは事実だ。

 ただしこれは本製品だけでなく、エントリーモデルのiPad、さらにはiPad miniについても、現行モデルは64GB/256GBという2ラインナップ編成なので、条件的には変わらない。このあたり、大容量が必要であればiPad Proに誘導するという方向性が見て取れ、製品を選ぶに当たっては意識しておきたいところだ。

「iPad Proの廉価版」でなくなりつつある価格帯がネック

 いま新たにiPadを買うにあたって、どの製品を選ぶかは、なかなか難しい問題だ。特にメインストリームである10~11型クラスは、本製品以外にエントリーモデルのiPad、さらに上位のiPad Proの3製品があって悩ましい。

 もっとも電子書籍ユースが中心ならば、ポジション的に中間に位置する本製品は選ばれやすいと言える。iPad Proは電子書籍にはオーバースペックで、価格も高額。一方でエントリーモデルのiPadは、電子書籍での利用には十分なスペックで、さらに価格も手頃だが、将来的な拡張性も考慮して、どうせなら1つ上のモデルを……と、消去法で選択肢から外れるケースは多いと考えられる。

 この「どうせならエントリーモデルより1つ上を」という考え方は、新製品が出るたびに買い替えるようなガジェッターにはあまりない視点だ。もちろん予算の上積みは必要になるし、また両手で持った時に指先が画面に干渉しにくい点などはエントリーiPadのほうが上なのだが、長く使い続けたい場合、どうしても古いフォームファクタには手を出しにくいもの。そうした場合に本製品がよい選択肢なのは間違いない。

本製品はスリムベゼルで見た目はスタイリッシュだが、指先が画面に干渉しがち
エントリーモデルのiPadは厚みのあるベゼルゆえ見た目は野暮ったいが、画面に指が干渉しない利点がある

 ただし価格については、従来の「iPad Proの廉価版」というポジショニングからはやや逸脱しつつある点は要注意だ。256GBモデルで比較した場合、エントリーモデルのiPadは5万7,800円、本製品は9万2,800円と、3万5千円もの差がある。一方でiPad Proは10万6,800円ということで、価格差は1万4千円。明らかにiPad Pro寄りだ。

 これは第4世代モデルから約1万2千円値上げされたのが原因だが、中間グレードゆえ価格も平均値と考えていると、思いがけず高額でギョッとすることになる。本製品が第4世代モデルから進化したのは主に性能の部分で、電子書籍ユースに限れば恩恵は少ないだけに、むしろ電子書籍以外に何に使うかで、最適解は変わってくると言えそうだ。