山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

Google Playが使える13.3型のE Inkタブレット「BOOX Max Lumi2」。実質A4サイズの大画面、スペック強化で動作サクサク

「BOOX Max Lumi2」。実売価格は109,800円

 ONYX Internationalの「BOOX Max Lumi2」は、E Ink電子ペーパーを採用した13.3型タブレットだ。Android 11を搭載し、Google Playストアからさまざまなアプリをインストールして利用できる。

 E Ink電子ペーパーを採用したAndroidタブレット「BOOX」シリーズの中で「Max」と名前がつくモデルは、シリーズ中最大の、13.3型という画面サイズを備えている。実質A4サイズのこの製品は、雑誌のページをほぼ等倍で表示できるほか、コミックを見開きで原寸以上の大きさで表示できるなど、大画面を求めるユーザーには最適な製品だ。

 今回の「BOOX Max Lumi2」はその名前が示すように、従来の「BOOX Max Lumi」の後継にあたり、Snapdragon 662を採用するなどパフォーマンスの強化が図られているほか、ソフトウェアの刷新によって操作性にも変更が見られる。国内代理店であるSKTから借用した機材を用い、電子書籍ユースにおける使い勝手を中心にチェックする。

順当なスペックアップ。外部ディスプレイ機能は廃止

まずは従来モデルとの比較から。一部不揃いな項目もあるが、明らかな誤字や全角半角の表記ルールを修正した以外は、原則として公式の表記に準じている。

BOOX Max Lumi2BOOX MAX Lumi
パネル13.3インチMobius Einkスクリーンフラット13.3インチEinkフレキシブルスクリーン
解像度2,200×1,650 Carta 1250(207dpi)2,200×1,650 (207dpi)
タッチ静電容量方式タッチ+4,096段階(筆圧検知ワコムペン静電容量式タッチ+4,096段階筆圧検知ワコムペン
CPUSnapdragon662(8コア)8コア(Cortex-A72+Cortex-A55)
メモリ6GB LPDDR4X4GB LPDDR4Xメモリ
ROM128GB UFS2.164GB (UFS2.1)
ネットワークWiFi (802.11b/g/n/ac) BT 5.0Wi-Fi(2.4GHz + 5GHz)+ BT 5.0
ライトフロントライト(暖色及び寒色)フロントライト(寒色及び暖色)
OSAndroid 11.0Android 10
ボタン電源、バック(指紋認証)電源、バック(指紋認証付き)
インターフェイスUSB Type-CType-C(OTGサポート)
ディスプレイ接続-Micro HDMI
電池容量4,300mAh4,300mAh Polymer Li-on
電池持続時間記載なし最大6週間(スタンバイモード)
寸法310×228×7.9mm310×228×7.9mm
重量570g570g

 この表からもわかるように、Snapdragon 662を採用するほか、メモリが4→6GB、ストレージが64→128GBへと増量されるなど、順当にスペックアップしている。また電子ペーパーパネルはE Ink Carta 1250を採用するなど、現行のモノクロE Ink端末としては最先端にあたる仕様だ。スペック面では文句のつけようがない。

 大きな変更点としては、PCと接続して外部ディスプレイとして使える機能が廃止され、それによってHDMIポートが省かれたことが挙げられる。13.3型の画面をそのままPCのサブディスプレイとして使えるこの機能は、付加価値としてはユニークだったが、パフォーマンス的に実用性は高くなかったため、省かれたことに違和感はない。

 もっともこのことで軽量化ないしは低価格化といった影響が見られないのは、従来モデルとの比較においてやや納得がいかないところだ。570gという重量は、12.9インチiPad Pro(682g)に比べると軽量とはいえ、同じ13.3型のBOOX MAX3では490gだったことを考えると、インパクトはそれほどない。

 またソフトウェアについては、設定画面などが大幅に刷新されている(後述)ほか、Wi-Fi経由でPCとデータをやり取りするアプリが追加されたり、さらに画面の上下分割に対応するなどの進化が見られる。このほか付属のスタイラスについても、書き味を向上させたMagnetic BOOX Pen Plusが同梱されている。

 ちなみに公式スペックでは従来あった駆動時間の項目が省かれているが、バッテリ容量は従来と変わらず4,300mAh、また「1回の充電で1~2週間」使えるとの記載があるので、これが目安になるだろう。従来モデルは「スタンバイモードで6週間」という、実利用を考慮していない表記だったので、むしろこちらのほうがピンと来る。

筐体は樹脂製。縦向きでの利用を想定したデザイン。画面サイズは13.3型
背面は、下部にスピーカー2基を備えるほかは全体的にすっきりとしている
電源ボタンは本体右上にある。ちなみに両側面にはなにもない
画面下にある指紋センサー内蔵のボタンはデフォルトでは「戻る」が割り当てられている
底面にあるUSB Type-Cポートは中央からやや左にずれた位置にある。ボタンと干渉させないためだろうか
ベゼル幅は左右および上ともに13mm。やや手の脂がつきやすいのが気になる
重量は従来モデルの実測581gに対して実測561gと20g軽くなっているのだが、手に持った時に劇的に「軽い!」という感動はない
フロントライトを搭載する。これは寒色のみを最大にした状態
こちらは暖色のみを最大にした状態。実際は寒色・暖色を同時に調整する
本体のほかケーブル、新開発のスタイラス「Magnetic BOOX Pen Plus」が同梱される
Magnetic BOOX Pen Plus。磁力で吸着するのが売りだが、本製品は樹脂筐体なのでボディには吸着しない。ややちぐはぐだが、他モデルと共通のオプションなので致し方ない
12.9インチiPad Pro(右)とのサイズの比較。画面サイズはほんのわずかに本製品のほうが大きい
12.9インチiPad Pro(右)との厚みの比較。本製品のほうがやや厚い

設定画面がリニューアル、しかし逆にわかりにくく?

 セットアップは、Googleアカウントにログインせずに基本設定を完了させたのち、Wi-Fiなどを設定し、その上で必要に応じGoogleアカウントの設定を行なうという、BOOX独自のフローだ。かなりクセはあるが、BOOXではおなじみなので、経験者はそれほど戸惑わないだろう。

 ただし本製品は、Android 11ベースの新ソフトウェア(バージョン3.2)が採用されたせいか、一部メニューの構成が変わり、従来の経験則が通じにくくなっている。

 中でも戸惑うのはGoogleアカウントの設定で、アプリページの右上にある三本線のアイコンをタップして「アプリ」を選ぶことで設定画面が表示されるという、以前よりもわかりにくい方法に改められている。従来モデルでは、Googleアカウントは「設定」→「アプリ」から設定できたので、事実上、下の階層に追いやられた形になっている。

 なるべくGoogle Playを使わせたくないのか、それ以外の理由があるのかは不明だが、BOOX製品の経験者ほど混乱するだろう。逆に利用経験がない人は「そういうものか」と、それほど気にならないはずだ。

Google Playを設定するには、アプリの右上にある三本線のメニューをタップして「アプリ」を選択。自力でたどり着くのはまず不可能なUIだ
「アプリ」画面でGoogle Playを有効化し、その後GSF IDなどの設定を行う。従来はこの画面自体が「設定」内に存在していたので、かなり分かりにくくなっている

 一方で、ホーム画面は、基本的な構成は変わらない。左ペインに「書庫」「ノート」「設定」などのカテゴリが並び、それぞれをタップして切り替える仕組みだ。Google Playストアを経由してインストールしたアプリは「アプリ」の中に表示される。

 気になるのは「設定」で、前述のように「アプリ」カテゴリがなくなったことに加えて、「パスワード」、「ジェスチャー設定」などが単独の項目として独立している。これでわかりやすくなったのなら何の問題もないのだが、「システムバー」「システム表示」のように紛らわしい項目も増えたほか、並び順も不明瞭だ。変更にあたっての明確な方針が見えず、まとまりがないように見える。

 また画面を上から下にドロップダウンすることで表示されるパネル(システムバー)は、従来はAndroidの通知領域に似たUIだったのが、テキストラベルを廃した独自色の強いデザインに改められた。パワポで作図したモックアップをそのまま組み込んだかのような無機質さで、なによりわかりづらい。最低限、下段のアイコンにテキストラベルを残しておくべきだっただろう。

ホーム画面。左ペインに並ぶカテゴリをタップすると右ペインにその内容が表示される。これは「書庫」で、PDFのほか、後述の「BOOX Drop」で転送したファイルが表示される
「保管庫」はエクスプローラに相当する。ストレージの使用割合を見るのにも便利だ
「アプリ」には標準アプリのほか、Google Play経由でインストールしたアプリも表示される。なお一部アイコンはカラーだが、画面上は言うまでもなくモノクロだ
「設定」画面は、カテゴリの改廃が行われた結果、逆に分かりにくくなった。大分類と中分類が混在している印象で、並び順もよくわからない
システムバーは、独自のアイコンを中心としたデザインに改められた。お世辞にもわかりやすいとは言えず、最低限テキストラベルは省略せずに残しておくべきだっただろう
「システムバー」の設定画面。余談だが、この画面ではシステムバーのイラストが従来のデザインのままになっており、現行デザインと比較できる
こちらも新しく独立した「ジェスチャーマネージャー」。「戻る」のジェスチャーは向かって左ではなく右に配置されている。わざわざAndroidの標準と変えてくるあたり、何らかの意図があるように見える
画面右下に配置されるインターフェイス「ナビボール」。場所は自由に移動させられる
タップするとメニューが展開する。もっとも利用頻度が高いのは画面のリフレッシュだろうか

 もう1つ、実際に使ってみて気になったのは、指紋認証の精度だ。指紋センサーは画面下のボタンに組み込まれているのだが、認識率は低く、失敗した時の表示もわかりづらい。今回の評価中にしばらく試してみたが、実用レベルにないと判断し、無効化してしまった。

 さらに指紋を登録するにあたって必須となるパスワードの登録では、一旦設定したパスワードがリセットできない制限もある。従来モデルでは筆者はこの機能を試しておらず比較ができないのだが、本製品の挙動を見る限り、早急な改善が必要と言っていいだろう。

指紋認証のセンサーは画面下にあるボタンに埋め込まれている。指紋は複数登録できるが、認識率はお世辞にも高くない
指紋を登録するためにはパスワードを設定する必要がある。リセットがサポートされていないなど機能面ではやや難がある

解像度がややネックも、動作は高速でストレスなし

 では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の2021年冬号を使用している。ストアはKindleストアを基本に、ebookjapan、DMMブックスも試用している。

 本製品は13.3型というビッグサイズゆえ、コミックの見開きでは、原寸を上回るサイズでの表示が可能だ。ただし解像度は207ppiという、12.9インチiPad Pro(264ppi)よりもやや低い解像度のせいで、ジャギーが生じやすい。見開き表示ではこれが顕著だ。

 また雑誌の単ページ表示もほぼ原寸で行なえるが、こちらもやはり解像度が原因で、注釈サイズの細かい文字は読みにくさを感じる。さらに画面はモノクロになるので、カラフルな雑誌の表示には向かない。むしろ技術書だったり、あるいは取扱説明書やマニュアルを表示する用途のほうが適している。

コミックを単ページ表示したところ。雑誌よりも大きいサイズで迫力満点だ
画面を横にして見開き表示にしたところ。縦横の切り替えは手動で行う
紙のコミックと比べても本製品のほうが一回り大きい
12.9インチiPad Pro(下)との比較。ほぼイーブンといっていい大きさだ
画質の比較。上段が本製品、下段が12.9インチiPad Proで、左が単ページ表示、右が見開き表示。顎のラインや髪の先端に、本製品の解像度の低さが顕著に出ている。iPadは単ページ・見開きともに大きな差は感じない
雑誌を実物と比較したところ。サイズはほぼ同等だ
12.9インチiPad Pro(右)との比較。本製品のほうがほんのわずかに大きい
本文中でもっとも細かい文字の比較(単ページ表示)。上が本製品、下が12.9インチiPad Pro。読めないわけではないが文字のかすれが目立つ

 以上のように細い線や小さなフォントの表示では解像度がやや足を引っ張りがちだが、ページめくりの速度は十分に実用的だ。Snapdragon 662×6GBメモリの合わせ技か、タップやスワイプを行なってから実際に反応するまでのレスポンスも高速で、ストレスがたまらない。長く使う上で、これは大きな魅力だろう。

 また画面を横向きにした場合も、違和感なく利用できる。ジャイロセンサーは搭載しないため縦横の切り替えは手動になるが、かつてのBOOXシリーズのように外部のユーティリティを導入しなければ任意の向きに回転できないといったこともなく、スムーズに見開きへの変更が行なえる。本体がもう少し軽ければ……と感じなくもない。

 なお今回の新しいソフトウェアでは、濃度などの調整機能は、通知領域にある「E-ink中央」なる項目(E Inkセンターの誤訳。設定画面では正しく表示されている)にまとめられている。画面の濃淡やリフレッシュのモードなど、E Inkにまつわる調整を行いたければ、まずはここを開くことになる。わかりやすさという点で、一歩前進した印象だ。

 一方でアプリ単位の最適化は、従来と同じく「アプリ」で該当アプリのアイコンを長押しすることで設定画面が表示される。ネックなのは、この「最適化」が、前述のE Inkセンターの項目とどう影響し合うのか、どちらが優先されるのか、やってみなければ分からないことだ。実際に数値を変更しても、どこに反映されたのか確認できないことすらある。

 また「ページめくり時間でアニメーションをフィルタする」のように、具体的に何を指すのか分からない説明も見受けられる。パラメータが多いのは悪くないのだが、それはどこに作用するのかがきちんと説明されているのが大前提で、もう少し分かりやすくならないものかと思う。これらは従来よりむしろ悪化した印象すらある。

E Inkセンターの呼び出しは、システムバー左列にある「E-Ink中央」をタップ
E Inkセンターは画面下段に表示される。濃淡およびカラーフィルタの調整のほか、4つのモードの切替が行なえる
「暗い色の色調」を変更した場合の見え方の違い。電子書籍サイトごとの濃淡の違いを調整できる
「ライトカラーフィルタ」を調整するとコントラストが大きく変化する。元がカラーのページで、色が濃くつぶれがちな場合に役立つ
アプリ単位で設定を変更する場合は従来と同じく、アプリアイコンを長押しし「最適化」を選択
左がDPI関連、右がカラー調整にまつわる設定項目。後者は前述のE Inkセンターと重複しており分かりにくい
左が画面リフレッシュ、右がその他の設定項目。従来からそうだったが、リフレッシュは効果が直接的に実感できない場合も多い
リフレッシュについてはさらに詳細な項目も用意されているが、上2つはいまいち効果が実感できないので困りものだ

手書き機能や画面分割機能が手堅く進化

 電子書籍とは直接関係しない特徴についても簡単に触れておきたい。

 新機能の中で利用頻度が高いと考えられるのは「BOOX Drop」。これはブラウザを使ってBOOX内のファイルへのアクセスを可能にする機能だ。iOSやAndroidでよくある、スマホをサーバ化してWi-Fi経由でデータフォルダにアクセスできるアプリが、標準で組み込まれていると考えてよい。

 この機能を使えば、PCからPDFを取り込んだり、あるいは本製品のスクリーンショットをPCからダウンロードしたりと、多彩な用途で使える。本稿で見てきたようなストアにひもづく電子書籍ではなく、PDFの電子書籍やマニュアル類を転送するのに重宝する。

 このほか5GBの無料ストレージも提供されるが、利用にはOnyxアカウントが必要になるなど、同アカウントが必要な範囲がじわじわと広がっている。前述の設定画面の階層変更も含め、Googleに頼らず自社でまかなうように路線修正が図られたように見えるが、実際にそのような意図があるのかは定かではない。

「BOOX Drop」。PCなど別デバイスのブラウザ上でこのURLを入力する(またはQRコードをスキャンする)と、本製品内のデータフォルダにアクセスし、ファイルのダウンロードやアップロードが可能になる
実際にPCからアクセスしたところ。BOOX本体内のファイルが表示されている
5GBの無料ストレージを利用するためにはOnyxアカウントが必要になる
保存先のサーバーは中国以外に米国、ベトナムが選択できる

 手書き機能については軽く試した程度なので本稿では深堀りしないが、本製品ではOneNoteやEvernoteなどサードパーティアプリでの書き心地が改善されている。試しにOneNoteを使ってみたが、線が確定するまでにわずかな間はあるものの、精度という意味では問題なく利用できた。本製品を購入するユーザーの多くは手書き機能を利用するはずで、そこが強化されているのは魅力的だろう。

 また画面分割機能を使い、画面の半分にPDF、残り半分にノートを表示して、PDFの内容に合わせて手書きでメモを取っていくこともできる。ノートを取りながら電子書籍をこっそり読むという「内職」にも使えてしまうのは、13.3型というサイズならではだ。

BOOXではおなじみのノート機能。専用端末ではないもののじゅうぶんに実用レベルだ
画面分割機能を使えば別の機能と併用できる。分割の方向(縦/横)も指定できる
下半分でノートを取りながら上半分でこっそりコミックを読むという、学校の授業や会議での内職にピッタリの使い方もできる。サイズ的にも十分対応できてしまうのが秀逸だ

ハードは文句なし、ソフトウェアまわりの改善が課題か

 以上のように、従来モデルからの大きな違いとしては、パフォーマンスの向上と、サブディスプレイ機能の廃止が大きなポイントということになる。サブディスプレイ機能は、これまでも実用レベルではなかったので、本筋の機能に注力するかたちで進化したのは悪いことではないと思う。

 価格はわずかに上がり、10万円をわずかに超えてしまっているが、スペックが向上していることを考えるとやむを得ない。本稿で比較した12.9インチiPad Proもそうだが、もともと13型前後のデバイスの多くは10万円を超えているので、割高というわけでは決してない。

 一方でソフトウェアまわりの刷新が必ずしもわかりやすさの改善につながっておらず、ローカライズも不十分だったりと、これまでのBOOXらしくない点はやや気になる。本製品が発売直後ならばまだ理解できるが、本稿執筆時点(1月上旬)の時点ですでに発売から2ヶ月が経過しているだけに、なおさらだ。

 本製品は製品発売日から3年間のファームウェアアップデートが保証されており、モデルチェンジが速いBOOXシリーズの購入を後押ししてくれるのだが、それはソフトウェアがある程度こなれていることが大前提だ。ハードは正常進化を遂げており文句のつけようがないだけに、そのあたりの見直しを図ってほしいところだ。