山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

楽天「Kobo Clara HD」

~解像度が300ppiに向上した業界最軽量クラスの6型エントリーモデル

Kobo Clara HD。価格は14,904円(税込)

 「Kobo Clara HD」は、楽天Koboが販売するE Ink電子ペーパー採用の電子書籍端末だ。6型というベーシックな画面サイズで、300ppiという解像度の高さと、6型モデルとしては最軽量クラスとなる、166gという重量が特徴だ。

 複数のE Ink電子ペーパー端末をラインナップするKoboだが、防水機能を備えた上位の2モデルは、それぞれ6.8型、7.8型と画面サイズが大きく、ベーシックな6型サイズのモデルは、2017年5月に発売された「Kobo Aura Edition 2」1モデルのみの展開だった。

 もっとも、この「Kobo Aura Edition 2」は解像度が212ppiとあまり高くなく、6型で300ppiクラスという、ボリュームゾーンの製品が、ラインナップからすっぽり抜け落ちる形になっていた。

 今回の「Kobo Clara HD」は、その穴を埋める製品であり、今後の主力モデルとなることが期待される。今回は、6月6日に発売されたばかりの市販品を用いたレビューをお届けする。

「Kindle Paperwhite」に相当するエントリーモデル

 まずは他のE Ink電子書籍端末との比較から。

モデルKobo Clara HDKobo Aura Edition 2Kobo Aura H2O Edition 2Kobo Aura ONE
発売月2018年6月2017年5月2017年5月2016年9月
サイズ(幅×奥行き×高さ)157.0×111.0×8.3mm155.3×111×9mm172×129×8.8mm195.1×138.5×6.9mm
重量166g180g207g230g
画面サイズ/解像度6型/1,072×1,448ドット(300ppi)6型/768×1,024ドット(212ppi)6.8型/1,080×1,440ドット(265ppi)7.8型/1,404×1,872ドット(300ppi)
ディスプレイモノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta)モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta)モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta)モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta)
通信方式IEEE 802.11b/g/nIEEE 802.11b/g/nIEEE 802.11b/g/nIEEE 802.11b/g/n
内蔵ストレージ約8GB約4GB約8GB約8GB
メモリカード非搭載
フロントライト内蔵内蔵内蔵内蔵(自動調光)
防水・防塵機能非対応あり(IPX8規格準拠)あり(IPX8規格準拠)
バッテリ持続時間の目安数週間数週間数週間数週間
発売時価格(税込)14,904円13,824円19,980円24,624円

 冒頭でも述べたように、本製品は「6型で300ppi」という、E Ink電子ペーパー端末としてはベーシックな仕様の製品である。Kindleシリーズでいえば、もっとも売れ筋である「Kindle Paperwhite」に相当する存在で、何故いままでこのラインナップがKoboシリーズに存在しなかったのか、不思議なほどだ。

 ちなみに本製品の発表と並行して、212ppiのエントリーモデル「Kobo Aura Edition 2」は完売となり、6型のラインナップは本製品のみとなった。

 今後何らかのモデルが追加されるのか、当面このままなのかは不明だが、現時点では本製品はエントリーモデルかつ、もっとも売れ筋となっていくであろう製品である。

 そんな本製品の特徴は、ずばり軽さだ。166gという重量は、従来の「Kobo Aura Edition 2」はもちろん、他社の6型モデルと比較しても軽い。

 現行モデルで唯一本製品よりも軽量なのは無印のKindle(161g)
だが、こちらは解像度が167ppiと低く、300ppiでこの軽さというのは大きな強みだ。

 この軽さでありながらフロントライトも搭載するほか、メモリは上位2モデルと同じ8GBと、4GBが基本であるKindleに比べてアドバンテージがある。防水・防塵機能のような個性的な特徴こそないが、スペックの部分ではとくに目立った欠点は見当たらない。

左が本製品、右が従来モデルの「Kobo Aura Edition 2」。本体サイズはほぼ同じだが解像度が向上している
背面。シリーズ共通の意匠だった左上の電源ボタンは底面へと移動し、背面から姿を消した
左から、本製品(6型)、Kobo Aura H2O Edition 2(6.8型)、Kobo Aura ONE(7.8型)。画面サイズは異なるがホーム画面のデザインは共通だ
背面。左上に電源ボタンのある従来の背面デザインと異なっている
こちらは同じ6型、かつ同じ解像度(300ppi)であるKindle Paperwhite(右)との比較。本製品のほうがサイズは一回りコンパクトだ
各端末との厚みの比較。左がいずれも本製品で、右は上から順に、Kobo Aura Edition 2、Kobo Aura H2O Edition 2、Kobo Aura ONE、Kindle Paperwhite。ベゼルに段差のないKobo Aura ONEがやや薄いことを除けば、厚みはどれもほぼ同様だ

セットアップ手順は従来と同様

 同梱品は従来と変わらず、USBケーブルのほかにクイックスタートガイドなどが付属する。取扱説明書は紙では提供されず、本体内のデータで閲覧する仕組みだ。

パッケージ。デザインは従来と同じ路線だ
同梱品一覧。ケーブルのほか、クイックスタートガイドや保証書が同梱される。とくに従来と違った点はない

 インストール手順も従来と同様で、言語を選んだのちWi-Fiの設定を行ない、楽天のIDでログインすることで、ホーム画面が表示されるというフローだ。

 これまでのKoboシリーズは、筆者が記憶している限りでは、すべてのモデルでセットアップ中にソフトウェアアップデートが実行され、使えるようになるまで10分近い時間を要していたが、本製品ではそうしたこともなく、短時間のうちにセットアップが完了した。

 もちろん今後、出荷のタイミングによっては最新ソフトがインストールされておらず、アップデートが必要になることもあるだろうが、これまでは最新ソフトが量産開始に間に合わず、直前まで突貫工事で用意している印象があったのに比べると(実際にどうなのかは不明だが)
、それだけソフトウェアの完成度が上がってきた証なのかもしれない。

パッケージから出した直後の画面。まずは案内に従って電源をオン
最初に言語を選択する
セットアップ方法を選択。前回の「Kobo Aura Edition 2」は、Wi-Fiでのセットアップを推奨する文言がなぜか省かれていたが、本製品でまた元の「まずはWi-Fiに接続してください」という文言が復活した
ネットワークの検索が実行されるので、SSIDを指定してパスワードを入力する。従来モデルに比べると文言のフォントサイズがやや大きくなり見やすくなった
楽天IDとパスワードを入力してログインする。この画面はなぜか従来よりも二回りほど小さく表示され、前の画面とは逆に見づらい。解像度の変更への対応が不完全なのだろうか
ホーム画面が表示されると同時に、読みかけのコンテンツ5つが自動的にダウンロードされる

 ちなみに相変わらずなのが、セットアップ完了後にライブラリ内の最新5冊を無条件にダウンロードすることだ。容量の大きいコミックが対象に含まれているとダウンロード完了までに時間がかかり、その間ほかの操作が大幅に制限されてしまう。

 せめて最新の1冊だけにするか、ダイアログでダウンロードの可否を問うようにしてほしいものだ。

セットアップ完了直後のデバイス情報。ユーザ利用可能領域はおおむね6.6GB程度のようだ

ボディデザインが変更に。ボタン類の配置も変更

 外観周りをもう少し見ていこう。本体は軽量であることが特徴だが、単体で手に持って「あ、軽い」とすぐ感じるほどではない。

 確かに従来モデルと本製品を両手で持ち比べれば、どちらが本製品なのか当てることは可能だが、それでもかなりの僅差だ。古いKoboシリーズからの買い替えならまだしも、1つ前のモデルからの買い替えであれば、あまり期待しすぎないほうがよいだろう。

 本体のサイズは従来モデルとほぼ同じだが、デザインは大きく変更されている。背面の処理は、細かな凹凸があった従来とは異なり、大小無数の穴が空いているデザインで、滑り止めの効果はやや低下した印象を受ける。

 コストダウンの結果とみられるが、目くじらを立てるほどではないだろう。

背面は無数の穴が空いた特徴的なデザイン。滑り止めの役割を果たすためのものとみられる

 大きく変化したのは電源ボタンの位置だ。従来は背面上部にあったのが、今回のモデルでは底面、これまでUSBポートがあった位置に移動した。

 以前までであれば、端末を握った状態で指を上方にスライドさせればすぐに電源ボタンを押せたのだが、今回のモデルでは若干ハンドリングが悪くなった印象がある。とはいえ、これも慣れの問題だろう。

 USBポートは、その電源ボタンに居場所を追われる格好で、やや右へと位置がずれている。さらに従来モデルでは画面右上にあったLEDは電源ボタンと一体化され、USBケーブルを挿して充電が始まると点灯するようになった。

 結果的に、これまで正面、背面、底面に分散していた電源ボタンとUSBポート、LEDの3つが、すべて底面に集約されたことになる。

背面上部にあった電源ボタンは底面中央へと移動した。ボタン左端の穴は充電時などに光るLED

 ベゼルは段差があるタイプゆえ、ベゼルなしモデルに比べて厚みは増すが、Koboシリーズの場合、この段差に沿って指を上下させることでフロントライトの光量を調整できるギミックがあるため、むしろ段差があったほうが使いやすい印象だ。

ベゼルと画面の間には約1mmほどの段差がある
段差に沿って指を上下させると、フロントライトの光量をコントロールできる。これは光量を上げた状態
これは光量を下げた状態。利用できるのは従来と同じく読書中の画面のみで、メニュー画面などでは使えない

 このほか本製品では、上位モデルにのみ搭載されていたナチュラルライト機能が新たに追加され、夜間などに目に優しい、黄色がかったフロントライトで本を読むことが可能になった。

 デフォルトでは色味がかなり濃いので、気になるようなら設定画面で「自動」のチェックを外して、スライダを調整してやるとよい。

本製品(左)では従来モデル(右)にはなかったナチュラルライトが搭載されている。設定画面の項目もこれに合わせて変化している
節電/プライバシーの設定画面では、「アプリ改善のため利用機能情報を自動送信」という項目が新たに設けられ、デフォルトでオンになっている
読書設定の画面。本製品(左)は、従来モデル(右)にあった、画面下部の「読書アクティビティを記録する」の項目がなくなっている。読書アクティビティの機能自体は存在しており、単にオフにできなくなっただけのようだ
画面左上のメニュー。解像度の向上に伴ってサイズをチューニングしていないためか、同じメニューながら表示サイズが異なっている。実害はないのだが、このような箇所はほかにもいくつか見られる
ストアのトップページはレイアウトが大きく様変わりしている。端末に依存するのか、従来モデルを最新版にアップデートしても、本製品(左)と同じレイアウトにならないのが面白い

解像度向上でコミックの表示品質が大きく改善

 本製品のもう1つの特徴が、画質の向上だ。従来の6型モデルである「Kobo Aura Edition 2」は212ppiと、コミックを読むにはやや解像度が不足していたが、本製品は300ppiと、現行のE Ink端末としてはもっとも高いレベルに解像度が引き上げられている。

 実際に比較してみよう。コミックについては、細部の表現力が明らかに向上しており、これまで線が潰れて薄く塗られたようになっていたのが、きちんと線として表示される。シャープさが増し、一方でざらつきが減った印象だ。

 またモアレの発生頻度も減っており、解像度が低いモデルを使っているのであれば、本製品に買い換える価値は高そうだ。

コミック(うめ著「大東京トイボックス 10巻」)の品質を比較した画像。左が本製品、右が従来モデル。顎の下から肩にかけての影の部分に顕著だが、従来はつぶれてしまっていたナナメ方向の線が、しっかりした線として描写されるようになっている。

 一方で、テキストについては、全体的にシャープさは増しているのだが、これまで読み取れなかったのが読み取れるようになったのは、せいぜいルビ(ふりがな)の部分くらいで、コミックに比べるとそれほど高解像度化の恩恵を受けていない。

 そのため、フォントサイズを意図的に極小にして読んでいる人ならまだしも、文庫本程度の標準的なフォントサイズでテキストコンテンツを読んでいる人は、高画質化のためだけにわざわざ本製品に買い換えるメリットは薄いだろう。

テキストコンテンツ(太宰治著「グッド・バイ」)を比較した画像。左が本製品、右が従来モデル。こうしてアップにするとシャープさが増しているのは明らかだが、遠目に見ると、ルビなど細い線の表現力は向上しているくらいで、あまり違いは感じないのが実情だ

 ちなみに、ページめくりの速度については、テキストについてはKindle Paperwhiteと同等、コミックについてはワンテンポ遅れるという、従来モデルおよび上位の2モデルと同じ傾向がある。

 エントリーモデルということもあってか、このあたりはとくに改善が図られているわけではないようだ。個人的にはコミックについては、タップ直後のレスポンスをもう少し向上させてほしい。

旧Koboシリーズからの買い替えに最適

 以上、ざっと使ってみたが、突出した特徴こそないものの、大きな欠点のない製品という評価になる。

 上位の2モデルは、画面サイズが大きかったり、防水防塵機能であるIPX8に対応していたりと、かなり尖ったモデルだったが、本製品はそれとはまったく逆に、手堅くまとめてきた印象だ。

 そうした意味で、本製品のターゲットとなるのは、新規ユーザはさることながら、これまで発売された過去の6型モデルをいまも使い続けているユーザーだろう。前述のようにコミックのページめくりの速度こそKindleに遅れを取っているものの、初期のKoboシリーズと比較すると、レスポンスは別物と言って良いレベルまで向上している。

 とくに本製品は、基本機能の部分で何かが抜けているといった問題がなく、また従来モデルの欠点だった解像度も向上しているので、過去の端末をいまも使用しているユーザーが乗り換える候補としてはぴったりだ。初期のモデルでは対応していた外部メモリカードが使えないのが、唯一のネックだろうか。

 気になる点があるとすれば価格だ。税込14,904円という価格は、競合に当たるKindle Paperwhite(15,280円)
とほぼ横並びであるとはいえ、Kindle Paperwhiteがセールでたびたび半値近くで販売されていることを考えると、価格面ではもう一押し欲しい。

 購入を考えているのであれば、こちらもやはりセールやポイントなどを活用して、うまく安価に手に入れたいところだ。

従来モデル(上)および上位2モデルでは、丸囲みのRの文字がついたKoboロゴが本体左下に配置されるデザインルールだったのが、本製品(下)では丸囲みのRはなく、Koboロゴを中央寄せで配置するという新しいルールが用いられている。今後はこちらで統一されるのだろうか