山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

楽天「Kobo Nia」はコミック表示にも耐え得る6型サイズ

「Kobo Nia」。実売価格は税込10,978円。カラーはブラックのみ

 「Kobo Nia」は、楽天が販売するE Ink電子ペーパー採用の電子書籍端末だ。6型という標準的な画面サイズで、解像度は212ppi、実売価格1万円ちょっとという、エントリークラスに分類される製品だ。

 現行モデルがすべて300ppiという高解像度であるなか、かつての「Kobo Aura Edition 2」と同じ、低解像度ながら価格重視のモデルを、ここにきてあえてラインナップに復活させた格好だ。市販品を購入したので、レビューをお届けする。

もっともローエンドにあたる212ppiのエントリーモデル

 まずはKoboシリーズ内での比較から。

【表1】Koboシリーズのスペック
Kobo NiaKobo Clara HDKobo Libra H2OKobo Forma
発売月2020年7月2018年6月2019年9月2018年10月
サイズ(幅×奥行き×高さ)159.3×112.4×9.2mm157.0×111.0×8.3mm159.0×144.0×5.0~7.8 mm177.7×160.0×4.2~8.5mm
重量172g166g192g197g
画面サイズ/解像度6型/1,024×758ドット(212ppi)6型/1,448×1,072ドット(300ppi)7型/1,680×1,264ドット(300ppi)8型/1,440×1,920ドット(300ppi)
ディスプレイモノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta)モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta)モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta)モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta)
通信方式IEEE 802.11b/g/nIEEE 802.11b/g/nIEEE 802.11b/g/nIEEE 802.11b/g/n
内蔵ストレージ約8GB約8GB約8GB約32GB
フロントライトComfortLight (フロントライト内蔵)ComfortLight PRO (フロントライト内蔵、ナチュラルライト機能)ComfortLight PRO (フロントライト内蔵、ナチュラルライト機能)ComfortLight PRO (フロントライト内蔵、ナチュラルライト機能)
ページめくりタップ、スワイプタップ、スワイプタップ、スワイプ、ボタンタップ、スワイプ、ボタン
見開き表示--
防水・防塵機能--あり(IPX8規格準拠)あり(IPX8規格準拠)
バッテリ持続時間の目安数週間数週間数週間数週間
発売時価格(7月現在)10,978円15,180円25,080円34,980円

 本製品の発売以前まで、Koboシリーズは6型の「Kobo Clara HD」にはじまり、7型の「Kobo Libra H2O」、8型の「Kobo Forma」と、3種類のモデルがラインナップされていた。解像度はいずれも300ppiで、つまり(実際にはボタンの有無など相違点は多いが)画面サイズで製品の違いを説明できる状態だった。

 今回の「Kobo Nia」は、「Kobo Clara HD」と同じく6型だが、解像度が212ppiとワンランク低いスペックになる。一方で実売価格は1万円弱と、現行のラインナップでもっともローエンドに位置づけられる。Kindleで言うところの無印「Kindle」に相当する、エントリーモデルというわけだ。

 メモリ容量は8GBと一般的で、またフロントライトを搭載するなど、エントリーモデルとは言え抑えるべきところは抑えている。一方で上位モデルでは搭載されている防水機能やページめくりボタンはなく、フロントライトも暖色系のナチュラルライトには非対応だ。

左が本製品、右が同じ6型で300ppiの「Kobo Clara HD」。見た目はそっくりだがサイズも異なっており、金型は別のようだ
背面。現行のKoboシリーズに共通する、無数の穴が空いたデザインを踏襲している
左が本製品、右がKindleのエントリーモデルであるKindle(第10世代)。こちらもよく似た外観だ
背面。両者ともにやや安っぽい素材だが、本製品は無数のパンチ穴が空いているためか安っぽさをあまり感じない
厚みの比較。左が本製品、右上段が「Kobo Clara HD」、右下段が「Kindle(第10世代)」。薄型というわけではないが、廉価なモデルとしては健闘している部類だろう
エントリーモデルながらフロントライトも搭載する。暖色系のナチュラルライトには非対応
画面下のKoboロゴも、シルク印刷されていた「Kobo Clara HD」(上)とは異なり、モールド加工に改められている

やや扱いづらい電源ボタン。セットアップ手順は変わらず

 では開封してみよう。パッケージは従来のような厚みのある箱ではなく、縦長のボックスタイプという、Kindleに似た仕様に改められている。本体が黒いプチプチマットに入った状態で梱包されているのもめずらしい。

パッケージはKindleと同じ縦型。エントリーモデルらしい廉価な紙箱だ
同梱品。ケーブルのほかスタートガイド一式が付属する。本体を直にプチプチマットで覆う梱包はめずらしい

 筐体は前述のように、従来モデルのデザインを基本に、なるべく原価を下げるという方針が見て取れる。ベゼルは段差があるタイプだが、これは「Kobo Clara HD」などの6型モデルと共通。ちなみにフロントライトのLEDは、画面を上から覗き込むかぎり5個あるようで、「Kobo Clara HD」の13個(寒色7個+暖色6個)から削減されている。

 個人的に気になったのが、底面の電源ボタンがややへこんでおり、爪先で押さないと押せないことだ。ほぼ同一形状のボタンを搭載する「Kobo Clara HD」が指の腹で押せるのとは対照的で、年配のユーザーなどには扱いづらそうだ。誤操作対策で押しにくくしたとは考えづらく、不思議な仕様だ。

ベゼルは段差があるタイプ。ライトLEDは5個で、これはかつての「Kobo Aura Edition 2」と同じだ
底面の電源ボタンはわずかにへこんでおり、強く押さないと指の腹では届かない
「Kobo Clara HD」(下)も電源ボタンはほぼ同じ形状だが、本製品のようにへこんでおらず押しやすい

 インストールの手順は従来と同様で、とくに変わったところもない。途中で行なわれるソフトウェアアップデートが「1分以内に完了」と言いつつ、実際には数分待たされるのも相変わらずだ。

 またインストールが完了すると、最大5冊のコンテンツが自動ダウンロードする仕様もそのままだ。一見すると親切な仕様にも見えるが、ステータスが「読了」のコンテンツまでかまわずダウンロードするのは、お節介以外の何物でもない。ステータスまで判別してダウンロードするのであれば、コンテンツの消費を促すことができて有益だろう。

セットアップ開始。まずは言語を選択する
セットアップ方法を選択。まずはWi-Fiに接続する
SSIDを指定してパスワードを入力。続いてタイムゾーンを設定する
ソフトウェアの更新および再起動が行なわれる。「1分以内」とあるが実際には数分かかる
楽天IDとパスワードを入力してログインする
ホーム画面が表示されると同時に、コンテンツ5つが自動的にダウンロードされる。セットアップは以上で完了
「読了」扱いのコンテンツまで自動的にダウンロードするのはいただけない

コミックの表示にも耐え得る画質。レスポンスは従来並み

 電子書籍端末としての使い勝手を見ていこう。表示サンプルは、テキストは太宰治著「グッド・バイ」、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」を使用している。

 操作方法はごく普通で、ページめくりはタップ、スワイプのいずれかで行なう。172gと軽量なので、長時間の片手持ちにも支障はない。Koboシリーズならではの、画面左端のベゼルに沿って上下になぞると明るさを変更できるギミックも変わらず搭載している。

 解像度は前述のとおり212ppi。現行のE Ink電子ペーパー端末の多くは、300ppiあればコミックなど画像タイプのコンテンツでも不満のない品質で表示できるというのが、半ば(画面サイズにもよるが)常識となっている。本製品はこれら300ppiの端末に比べ、細部の表現力はやや劣ることになる。

 もっとも、目視で見るかぎりそこまで極端な差はなく、コミックの細い線もしっかり出ている。「仕様上は212ppiということになっていますが、じつはもうちょっと高解像度でした」と打ち明けられてもおかしくない品質だ。

 ちなみにKindleのエントリーモデルである「Kindle(第10世代)」だと、167ppiという低解像度ゆえ、細い線がかすれたり太くなったりするため、コミックの表示にはかなりきついが、本製品はコミックもほぼ支障なく読める。コントラストもしっかりしており、コミック・テキストの制約なく利用できるのは好印象だ。

テキストコンテンツを表示した状態。解像度についても十分だ
コミックを表示した状態。212ppiという解像度は細い線の表現は苦手でもおかしくないがかなり健闘している部類だ
画質の比較。上段左が本製品(212ppi)、右がKobo Clara HD(300ppi)、下段左が第10世代Kindle(167ppi)。その右は参考としてiPhone 11 Pro Max(458ppi)を並べている。おもに髪の線の太さなどに違いが出がちだが、300ppiと比べても健闘していることがわかる

 レスポンスについては、上位モデルの「Kobo Clara HD」と変わらず、エントリーモデルだからと言って目に見えて性能が低いことはない。ただし従来モデルと同様、Kindleに比べるとページめくりなどのレスポンスが圧倒的に遅いため(後述)、実利用ではかなりのストレスを感じる。タップを取りこぼすこともしばしばだ。

 読書回りのおもしろい機能としては、従来モデルで搭載された、画面下の進捗バーが挙げられる。コンテンツ下段に細い進捗バーを表示し、既読の割合を把握しやすくする機能で、視覚的にわかりやすく重宝する。ただしコミックでは、コマに重ねて表示される場合があるので、気になるようならオフにするとよいだろう。

画面下端に細長いバーが表示され、読書の進行状況を表示できる。ただしコミックではコマに重なることもしばしばだ。オフにすると下の画像のように通常の状態に戻る
オフにするには「読書設定」の「読書の進行状況の表示」のチェックを外すとよい
「ComfortLight」と呼ばれるフロントライト機能は薄暗い場所での読書に有効。ただし「Kobo Clara HD(右)」のように暖色系のナチュラルライトには対応しない
フロントライトの設定画面。ナチュラルライトにまつわる項目が本製品(左)にはない

Kindleのエントリーモデルとはどこが違う?

 さて、一般的に「エントリーモデル」は、サービスの利用経験がない初心者が購入するケースも多い。つまり電子書籍ストアのしがらみなしに、端末の出来によって選ばれ、それが利用をはじめるきっかけになる場合もあるわけだ。

 ここではそうした観点で、電子書籍ストアがラインナップするE Ink電子ペーパー端末のエントリーモデルとして競合に当たるAmazonの「Kindle(第10世代)」と比較してみよう。

E Ink端末のエントリーモデルである本製品(左)と、Amazonの「Kindle(第10世代)」を比較する

 おもなスペックの違いは以下のとおり。

【表2】Kobo NiaとKindleの比較
Kobo NiaKindle(第10世代)
発売月2020年7月2019年4月
サイズ(幅×奥行き×高さ)159.3×112.4×9.2mm160×113×8.7mm
重量172g174g
画面サイズ/解像度6型/1,024×758ドット(212ppi)6型/800×600ドット(167ppi)
ディスプレイモノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta)モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta)
通信方式IEEE 802.11b/g/nIEEE 802.11b/g/n
内蔵ストレージ約8GB約8GB
フロントライトComfortLight (フロントライト内蔵)フロントライト(LED 4個)
ページめくりタップ、スワイプタップ、スワイプ
防水・防塵機能--
バッテリ持続時間の目安数週間数週間
発売時価格(7月現在)10,978円8,980円(広告つき)
10,980円(広告なし)

 こうして見ると、両者の仕様は酷似していることがわかる。画面サイズはともに6型で、アスペクト比は4:3。筐体サイズもほぼ等しく、底面にMicro USBポートと電源ボタンが並ぶ配置もそっくりだ。ストレージ容量も同じ8GBである。

 両者ともにフロントライト機能を搭載するが、暖色系のライトにはともに非対応。ページめくりボタンや防水機能を搭載しないのも同様だ。重量も誤差レベルでしかなく、手に持った時も違いはまったくと言っていいほどわからない。

上が本製品、下が第10世代Kindle。ともに底面に電源ボタンとMicro USBポートを配置する
両製品ともフロントライトを搭載する。いずれもこの青白いライトのみで、色温度の変更はできない

 大きな違いは解像度だ。Kindleは800×600ドット/167ppiと低いのに対し、Koboは1,024×758ドット/212ppiと、200ppiの大台に乗っている。ほんのわずかの差に見えるが、前述の画像比較を見てもらえればわかるように、表現力にはかなりの差がある。コミックでは差がつきやすいだろう。

 では本製品はコミック向きかと言われると、かならずしもそうでないのが難しい。というのも本製品はコミック表示では、途端に動作のもっさり感が増すからだ。本製品以外のKoboシリーズにも言えるが、一度Kindleを使ってしまうと、Koboの遅さは耐え難くなる。またテキストコンテンツでは、行間・余白の調整ができないのもネックだ。

本製品(左)と第10世代Kindle(右)のページめくり速度の比較。スワイプを行なってから反応するまでの速度が、右のKindleのほうが圧倒的に速いことがわかる。また連続したページめくりでは、Koboは空振りすることもしばしばだ
本製品(左)をはじめKoboシリーズでは、テキストコンテンツの行間・余白の調整がグレーアウトして無効になっている。Kindle(右)は各3段階での調整が可能

 一方で、Koboはコンテンツを読み終えると読了マークがつき、次に開いたときはコンテンツの先頭から表示されるのに対して、Kindleは読了時もその位置のまま保存され、次に開いた時も最終ページが開くなど、あまりユーザーフレンドリーではない。これはデバイスでなくストア側の問題なのだが、Kindleはこうした管理機能や分類機能が極めて貧弱で、Koboをはじめ他ストアとの差が出やすい部分だ。

 ただしコンテンツの購入については、Kindleはジャンルがしっかり分けられていて探しやすく、検索性も高いのに対し、Koboは分類がわかりづらく、検索でも的外れなコンテンツがヒットしがちだ。動作もページめくり以上にもっさりしており、結果的にデバイスからではなくPCで購入し、それをダウンロードする格好になりがちだ。

ストアトップの比較。Kobo(左)は余白も多く、コンテンツのシズル感もない
ジャンルの比較。見た目のわかりやすさ、コンテンツ数のわかりやすさの差は一目瞭然だ
筆者環境では購入時に楽天スーパーポイントが適用できずエラーが出る。PCでの購入ではこの症状は発生しない

 最後に価格だが、広告なしモデルにかぎればKindleが10,980円、本製品が10,978円と横並びだが、Kindleは広告なしモデル(実売8,980円)という選択肢があるほか、セールによって割引になることも多く、実際の差はかなりある。ホワイトモデルという選択肢がある点も含めて、Kindleのほうが有利だろう。

 以上の点を把握しておけば、いざE Ink電子ペーパー端末のエントリーモデルとして、Kindleを選ぶか、それともKoboを選ぶかという二者択一になったときに、判断もしやすいだろう。

数年前の製品からの買い替え+安価にE Ink端末を試してみたい人向け

 以上ざっと見てきたが、本製品はエントリーモデルのスペックということで、現行のKoboシリーズを所有しているユーザーにとっては買い替えのターゲットにならない。また旧モデルについても、2017年発売の「Kobo Aura Edition 2」は、ストレージ容量を除けば本製品とスペックはほぼ同一、動作速度も変わらず、買い替える必要性に乏しい。

2017年発売の「Kobo Aura Edition 2」(右)との比較。ストレージが4GBと本製品の半分であることを除けば違いはほぼない

 よって旧モデルから買い替えるのであればそれ以前、たとえば2013年発売の「Kobo Aura」など、数年前の製品からの乗り換えにかぎられる。総合的に考えると、やはり前述の初心者を含め、まったく新規にE Ink端末を手に取るユーザーがメインターゲットということになるだろう。

 10,978円という価格は税別にすると9,980円で、「1万円以下」をアピールしたかったにもかかわらず税込で大台を超えてしまった格好だが、リーズナブルな価格で入手できることに違いはない。端末としての完成度は高く、なるべく安価にE Ink端末を試してみたい人にとっては、よい選択肢と言えるだろう。