山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

Onyx International「BOOX NOTE」(後編)

~10.3型E Inkによるコミックの見開き表示は専用端末を超えるのか?

「BOOX NOTE」。画面をローテーションさせるアプリをインストールすることで、このように電子書籍の見開き表示が可能になる

 10.3型のE Ink電子ペーパーを搭載したAndroidタブレット「BOOX NOTE」、レビューの前編では、製品の特徴および初期設定手順と基本的な使い方を紹介した。

 後編となる今回は、実際に電子書籍アプリをインストールし、コミックの見開き表示をはじめとした使い勝手をチェックしていく。

見開き表示のためには、画面回転アプリが実質必須

 今回は実際に、本製品に電子書籍アプリをインストールして使ってみよう。

 といっても、E Inkであるというだけで、いわばAndroidデバイスにAndroidアプリを入れるだけなので、作業自体は特筆すべきことはない。ホーム画面下段の「Application」のなかにある「Playストア」というアイコンをタップすればストアに接続できるので、アプリを検索してインストールを行なう。

 インストールが終わると、同じ「Application」内にアイコンが表示されるので、それをタップすれば電子書籍アプリが起動する。

 ちなみに、このアイコンを長押しして「Add to Home Screen」を選ぶと、アイコンをホーム画面に追加できるが、前回紹介したように最大1つまでとなっており、2つ目を追加しようとすると1つ目が上書きされてしまう。

セットアップ完了直後、アプリ未インストールの時点でのストレージ容量。32GBのほとんどが空の状態だ
まずはホーム画面下段の「Application」を開いたなかにある「Playストア」アイコンをタップし、ストアを表示して必要な電子書籍アプリを探す
アプリが見つかったら「インストール」をタップしてインストールを実行。このあたりは通常のAndroidデバイスと同じフローだ
起動してAmazonに登録済みのアカウントを使ってログインすれば、あとは普通に使える

 さて、本製品の国内代理店であるSKTは、ホームページにインストールが確認できたアプリの情報を掲載しており、電子書籍関連は「Kindle」、「Kobo」、「BookLive!Reader」、「BookWalker」などが対応アプリとして挙げられている。

 それ以外では、dマガジンが有料状態でログインできない問題があるそうだが、名前が挙げられていないアプリが一切使えないわけではないようだ。

 ただし、使い勝手という観点も踏まえて見ていくと、本製品に向くアプリ、向かないアプリがハッキリと見えてくる。また、利用にあたり、ユーザー側で事前設定が必要な場合もある。順に見ていこう。

 まず1つは、見開き表示への対応だ。本製品は画面を横向きにして使う機能が(表向きには)無効化されており、設定画面を探しても見つからない。また、ジャイロセンサー自体が搭載されていないので、本体を傾けても画面が回転しない。

本製品は画面回転にまつわるメニューはオフになっている。ジャイロセンサーもないので、傾けても画面が回転しない

 そのため、縦向き(=単ページ)表示であれば、どんなアプリも支障ないのだが、横向き(=見開き)表示ができるのは、手動で横向き表示に固定できるアプリに限定される。

 ストア系なら楽天Kobo、自炊系ならPerfect Viewerがこれに該当するが、そのほかはほぼ全滅だ。本製品でコミックを読む場合、これはかなり致命的だ。

楽天Koboは、コミックを開いた状態で「横表示に固定」を選べば見開き表示になる
自炊ビューアであるPerfect Viewerも、画面の向きなどを指定できるので本製品では重宝する

 ただし、これには解決策があり、画面の向きを制御するアプリを別途インストールし、強制的に画面の向きを変更してやることで、見開き表示が可能になる。

 そのようなアプリは数多く存在するが、SKTが推奨している「ローテーションコントロールPro」を使うのが良いだろう。

 このアプリは、単に画面を回転させるだけでなく、特定のアプリごとに回転方向を指定できるので、電子書籍アプリを起動したときだけ画面を自動的に横向きにできる。これさえあれば、電子書籍アプリの側に回転機能がなくとも、アプリを開くたびに画面が自動的に横向きになり、見開きでの読書を快適に楽しめる。

Androidアプリ「ローテーションコントロールPro」を入れることで画面の向きを制御できる。300円の有料アプリだが、動作確認に使える日数限定の無料版も用意されている
アプリごとに向きを指定する機能があるので、電子書籍アプリが起動したら自動的に横向きにする、といった設定が行なえる
これにより、アプリ自体に画面回転機能がなくとも、横向きの画面で見開き表示が可能になる

見開き表示はサイズは十分、表現力は専用端末には及ばない

 続いて、画質まわりを見ていこう。本製品を見開き表示にした場合、1ページあたりのサイズは、7型の「Kindle Oasis(第9世代)」よりは大きく、7.8型の「Kobo Aura ONE」よりは小さい。実質7.5型といったところだろうか。サイズとしては十分である。

見開き表示にした本製品(左)と、7型のKindle Oasis(第9世代、右)の比較。本製品のほうが、わずかにページサイズが大きい
見開き表示にした本製品(左)と、7.8型のKobo Aura ONE(右)の比較。こちらは逆に、本製品のほうがわずかにページサイズが小さい

 解像度については、本製品が227ppi、KindleとKoboが300ppiということで、多少なりともシャープさに欠ける印象はあるのだが、これはまだ許容できる。

 どちらかというと気になるのが、グラデーションが滑らかではなく、明確な段差ができてしまっていることだ。モノクロ16階調というE Inkの仕様は変わらないはずだが、これはちょっといただけない。

表示品質の比較。上段左が本製品(見開き状態)、上段右がKindle Oasis(第9世代)、下段左がKobo Aura ONE、下段右が10.5インチiPad Pro(見開き状態)。アプリはKindleを使用しているが、グラデーションが滑らかでないのが目立つ

 残像についても、「6ページに1回画面を更新する」などといったE Ink専用のギミックを、各電子書籍アプリが搭載しているわけではないので、専用端末に比べると残像が目立つ。とくにハーフトーンが多いページ、たとえばコミックによくある、巻頭カラーをモノクロで収録したページなどは、残像が残りやすい。

 その反面、背景をあまり書き込んでいないコミックや、技術書のように文字が主体のコンテンツは比較的読みやすい。つまり、白い部分が広いページが適度な間隔ではさまることで、リフレッシュに近い効果が得られ、残像が消えて読みやすくなるわけだ。

これは画面を2値化する「A2モード」をオンにした状態。グラデーションは滑らかになるが、1つ前の見開きの残像が残っている。また2値化されているため画面が粒子状になる
BOOK☆WALKERや紀伊國屋書店Kinoppyが採用している、本棚を模した木目調のライブラリも、視認性が悪く、残像も残りやすいため、本製品との相性はイマイチだ

 ちなみに、電源ボタンを押して一時的にスリープモードに移行させた後、すぐ復帰させることで、強制的にE Inkをリフレッシュさせるというワザもある。普段は残像アリの状態で読んでいて、このページだけはどうしても美しく表示したいという場合、試してみると良いかもしれない。

 また本製品は、専用端末のKindleやKoboと比べると、スワイプの感度がやや低いようで、左右スワイプでページをめくろうとすると失敗する(=画面が点滅したようになるが、ページはめくられずそのままになる)場合がある。そのため、ページめくりにはタップを使ったほうが、快適な読書が楽しめる。

Kindleでのページめくりの速度の比較。左がKindleを表示した本製品(A2モードオフ)、右がKindle Oasis。本製品のほうがワンテンポ遅いが、どちらかというとKindle Oasisが高速すぎるだけで、ページめくりのレスポンスとしては十分に速い
Koboでのページめくりの速度の比較。左がKoboを表示した本製品(A2モードオフ)、右がKobo Aura ONE。専用端末であるKobo Aura ONEよりもなぜか本製品のほうが高速で、かつタップの取りこぼしもないなど優秀だ。なおこの動画のみ、比較サンプルは「大東京トイボックス 10巻」を使用している(Kobo Aura ONE側の表示不具合によるもの)

「アニメーション効果をオフ」は快適利用の必須条件

 といったわけで、ストアやコンテンツによって見え方はさまざまなのだが、実際に使うにあたって変更しておきたい設定や、運用方法を工夫したほうが良いポイントを紹介しよう。

 以下の検証はコミックコンテンツを対象に、うめ氏の「大東京トイボックス 1巻」をサンプルに行なっている。あらゆるコンテンツに該当するわけではない点は、ご容赦いただきたい。

 まず1つは、アニメーション効果をオフにすることだ。E Inkの利用経験がある人はよくご存知だろうが、E Inkはスクロールのように連続して画面が書き換わる動作が苦手で、残像が残ることに加えて、動作自体も緩慢になる。そのため、電子書籍アプリに含まれるアニメーション効果は、設定でオフにしておくことが望ましい。

 具体的には、ページをめくるとき、ページが横にスライドして次のページが現れたり、もしくは(最近はほぼ絶滅したが)、紙がカールして裏返るようなアニメーション効果は、快適な読書のさまたげになる。BookLive!やBOOK☆WALKERなどでは、初期設定ではページめくりのアニメーション効果が「スライド」になっているので、これをオフにしておく。

ページめくりで、タップしたときに瞬時に次のページに切り替わるのではなく、スライドして次のページが表示されるようなアニメーション効果がオンになっているアプリは、これをオフにしておく。これはBookLiveの設定画面
BookLiveで、スライド効果オンの状態でページをめくる様子(下段は比較用の10.5インチiPad Pro)。スライドがコマ送りのようにカクカクとした動きになっており、かなり見にくい
スライドをオフにした状態。かなり見やすくなった。またタップに反応してからページめくりが完了するまでの時間も、10.5インチiPad Proと比べて遜色ない
スライド効果オフのまま、後述するA2モードをオンにした状態。ややザラついた画質になるものの、瞬時に切り替わるようになる。10.5インチiPad Proよりもページめくり完了までの時間が短い

 逆に言うと、こうしたアニメーション効果を設定でオフにできない電子書籍アプリは、本製品での利用を積極的におすすめしにくい。

 具体的には、eBookJapan(ebiReader)とhontoがそれで、ページをめくるたびにアニメーションでページが移動するので、この上なくもっさり感があり、ストレスが溜まる。

eBookJapan(ebiReader)でページをめくる様子。スライドがオフにできず、かつ切り替わりが遅いため、長時間使っているとストレスになりやすい
hontoでページをめくる様子。hontoにおけるコミックの見開き表示は、見開き単位で左右につながった画像を横に移動させる特殊なギミックのせいか、こちらのもっさり感もかなりのものだ
Kindleでページをめくる様子。KindleはiOS版、Android版ともにスライドのアニメーション効果があるのだが、本製品にインストールしたAndroid版はスライドがオフになるためストレスは少ない。ただしタップしてから反応するまでの速度がやや緩慢だ

 ところがこのeBookJapanやhontoも、ホーム画面右上から切り替えられる「A2モード」をオンにすると、見違えるようにページめくりがスムーズになる。いかなるアプリもA2モードで快適化できるわけではなく、KindleのようにA2モードでは逆に動きが遅くなるケースもあるが、画質よりもページめくりの快適さを優先するならばメリットは大きい。

 こうしたことから、自分が使う電子書籍ストアアプリをインストールしたら、ページめくりのアニメーション効果をオフにするとともに、A2モードのオン・オフを切り替えて、どちらが自分に合うか確かめると良いだろう。

eBookJapan(ebiReader)をA2モードに設定した状態。スライドはオフにできないものの、スライド中にひっかかる動きが激減し、スムーズにページがめくれるようになる
hontoをA2モードに設定した状態。こちらも横移動中のひっかかりが少なくなり、まだ見られた状態になる。ただしeBookJapanよりはわずかに緩慢なようだ
KindleをA2モードに設定した状態。eBookJapanやhontoと異なり、こちらはタップしてから反応するまでの速度が逆に遅くなり、実用性は大幅に低下する

ストア機能はかなりのストレス。フロントライト機能がない点も注意

 本製品でもう1つ注意が必要なのは、電子書籍のストア機能だ。

 電子書籍ストアのAndroidアプリは、iOSアプリと違い、アプリ内でコンテンツを購入できるのが利点だが、本製品においては、あまり期待しないほうがよい。

 というのも、多くのストアは縦スクロールでコンテンツを探す仕様になっており、前述のページスライドのアニメーション効果と同じく、本製品では滑らかな動きが行なえないからだ。

 決してストア機能そのものが使えないわけではないので、たとえばコミックを読み終わったときに表示されるリンクをクリックし、次の巻をピンポイントで買うくらいなら問題ないが、ジャンル一覧やランキングを表示し、おもしろそうな本がないかスクロールしながらブラウジングするのは、もっさり感が強いだけに、かなりのストレスになる。

 これに加えて、多くの電子書籍ストアのトップページに採用されている、一定秒数ごとに横にスライドして切り替わるバナーも、本製品で表示するとかなりのストレスになる。そのため、本の購入については、PCなどなるべく別デバイスで行ない、本製品はあくまでそれらを閲覧するのにとどめたほうが快適に使えるだろう。

多くの電子書籍ストアでは動くバナーが組み込まれており、本製品で表示すると落ち着かない。このKoboのローテーションバナーのように面積が広く、画面のほとんどを埋め尽くすようであればなおさらだ

 もう1つ、本製品を使う上で大きなネックになるのが、フロントライト機能を搭載していないことだ。現行のE Ink電子書籍端末は、そのほとんどがフロントライトを搭載しており、就寝前など照明を落とした状態でも読書を楽しめる。

 しかし、本製品はフロントライトがないため、こうした使い方ができず、結果としてかなり利用シーンが限られる。解決策があるとすれば、せいぜい外部ライトを組み合わせるくらいだろう。

 ほかの機能がどれだけ優れていても、こうした点がわずらわしく、次第に使わなくなるのは良くある話なので、購入前に自分の利用スタイルをチェックしておいたほうが良いだろう。

本製品(左)は、KindleやKoboと違ってフロントライトを搭載しないため、薄暗い環境での読書には向かない。意外とネックになりがちなので、注意したいポイントだ。余談だが、同じBOOXシリーズの6.8型モデル「T76ML」はフロントライトを搭載している

 以上を踏まえ、本製品でコミックや固定レイアウトのコンテンツを読むにあたって、おすすめの電子書籍ストアを挙げるならば、動作が高速で背景色が白ベースのBookLive、あるいは、ライブラリはやや見にくいものの、やはり動きが速いBOOK☆WALKERあたりだろうか。今回試したなかで、この2社は突出して使いやすい印象だ。

 楽天Koboは、専用端末よりもページめくりのレスポンスが高速なので(これは違った意味で問題がある気もするが)、その点でもおすすめできる。Kindleは、致命的な問題こそないものの、ページめくりのレスポンスがあまり速くなく、可もなく不可もなくといったところだ。

筆者の見落としでなければ、マニュアルには記載がないと思うが、Backボタンを長押しすることで、ホーム画面へとダイレクトに戻れる。これも本製品を快適に使うワザの1つと言えそうだ

E Inkならではの挙動が受け入れられるならば買い

 以上のように、「E Ink×汎用Android端末」という組み合わせは魅力的だが、それゆえ癖の強さはかなりのもので、特性をよく把握しないまま購入すると、途中で投げ出してしまいがちだ。

 とくに、Kindleシリーズのような、E Ink向けにきちんとチューニングされた専用端末ですら受け入れられなかった人は、間違っても手を出すべきではないだろう。もともとカラーのアプリを白黒で表示しているがゆえのわかりにくい表示は、純正アプリ以外のさまざまなアプリで見られるからだ。

本稿はコミックを中心にレビューしているが、もちろんテキストコンテンツも表示できる。ただしE Inkの特性上、線が細いフォントは掠れてしまいがちなので、フォントサイズを大きめにする、あるいは明朝ではなくゴシックにするなどの対処が必要になる
モノクロ表示に最適化されていないがゆえの、わかりにくい表示は少なくない。たとえばこの表示は、チェックボックスは実際にはオンになっているのだが、グレーアウトしていると誤解しがちだ
これはKindleのライブラリでの表示。「すべて」「ダウンロード済み」のどちらが選択されているか、モノクロでの判別は極めて困難だ(カラーだと一方が青字で表示されているため、すぐ判別できる)

 しかし、E Inkならではの挙動が受け入れられるならば、目の疲れにくさや屋外での視認性の高さ、同等サイズの液晶タブレットと比較した場合の本体の軽さ、バッテリの持ちの良さなどメリットは多く、導入を積極的に検討する価値はある。なかでも電子書籍に関しては、E Inkでの見開き表示という、これまでできなかった使い方が可能になるのは大きい。

 あとは価格面だろう。69,800円という価格は、10.5インチiPad Proとほぼ同じでありながら、できることはiPad Proよりも制限されている。スタイラスが標準付属であること、国内代理店のSKTから購入すると、保護ケースやフィルムなど一式がついてくるためお得感は増すが、額が額だけに、相応の覚悟は必要だ。人によって評価は大きく異なる部分だろう。

Amazonでは国内代理店を経由しない製品も流通しているが、それらは国内代理店のSKTから購入した場合に付属する保護ケースやフィルムが含まれないため、購入はSKT経由で行なうことをおすすめする

 なお本製品に関しては、国内代理店であるSKTが、製品とユーザーのミスマッチを防ぐため、詳細なFAQをWeb上で公開している。本製品に不向きな使い方など、通常はあまり表に出ない情報もまとめられているため、本製品の購入を検討するにあたっては、それらFAQに書かれている内容を参考にすることをおすすめする。