山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

Kindle誕生10周年、そして日本上陸5周年、端末はいかに進化したか

~実機でレスポンスと画面書き換えを比較

過去に発売されたKindle端末の数々

 Amazonの運営する電子書籍ストア、Kindleストアが日本に上陸して、2017年11月でちょうど5周年を迎えた。また2007年暮れにKindleというサービス自体がスタートしてから、ちょうど10周年ということになる。文字通りの節目のタイミングである。

 この間、スマートフォンやタブレットが世界的に普及したこともあり、読書専用の端末は次第に姿を消し、当時から継続して読書用端末を販売しているのは、いまやKindleと楽天Koboだけというのが現状だ。もっとも、タブレットなどに比べて目に優しく、バッテリが数週間単位で持つといった特徴は依然健在で、根強いファンも多い。

 今回は、Kindleおよび10周年(および日本上陸5周年)の歩みを振り返るというテーマで、過去のKindle端末の変遷を見つつ、この間に端末の反応速度がどのくらい向上したのかをチェックしていきたい。

Kindleの端末はいかに進化したか

 「初期のKindleはWi-Fiすら搭載していなかった」と聞くと驚く人もいるのではないだろうか。通信回線を内蔵し、PCレスでコンテンツを購入できることを掲げて登場したKindleだが、本体に搭載しているのはHSDPA回線のみで、Wi-Fiは搭載していなかった。

 このモデル、つまり初代「Kindle」が海外で登場したのは2007年11月だが、当初は爆発的に売れたわけでもなく、また日本国内から入手する方法がなかったこともあり、日本から見ると対岸で何か起こっているという程度でしかなかった。どちらかというとAmazonが自前でハードウェアを投入してきたことのほうが、当時は話題になっていた記憶がある。

初代のKindle。このモデルのみ技適を取得しておらず、国内では通信回線をオンにできない。これは後年になって筆者がAmazon.comのマーケットプレイス経由で入手した個体
下方向から見たところ。本製品の特殊な形状がよくわかる
上方向から見たところ。個性的な形状の評判はあまりよくなかったようで、後継モデルからはシンプルな形状に改められている
電源スイッチに通信スイッチと、やたらと物理キー/スイッチを備えるのが特徴。アルファベットがモールドされた背面カバーも独特の意匠だ
「Kindleはメモリカードに対応しない」と言われるが、じつは初代モデルはSDカードスロットを搭載している。バッテリーが交換式なのも面白い
画面右下に搭載されているホイールを回すと、銀色のマークが上下に移動し、ホイールを押し込むことによってその左側にある項目が選択される仕組み。1世代限りで廃止された、あまりにも独特すぎる仕様だ
最新モデルであるKindle Oasis(第9世代)との比較。ここまで面影がないのも珍しい
【動画】初代の「Kindle」(左)と、最新の「Kindle Oasis(第9世代モデル)」(右)でページめくりを同時に行なった様子。反応速度の差は一目瞭然だ

 Kindleが日本でも本格的に話題になり始めたのは、翌年発売された第2世代のモデルからだ。まだ日本語の表示はできなかったものの技適を取得しており、日本からも直接注文することができた。また、ほぼ同じタイミングで大画面モデルであるKindle DXが登場し、こちらも注目を集めた。

 当時はまだiPadのブームよりも前で、E Ink電子ペーパーを採用し、PDFの表示も可能なデバイス自体が珍しかったこともあり、多くのユーザーがAmazon.comから直接購入するに至った。筆者が初めてKindleに触れたのもこのタイミングで、本誌に全3回にわたってレビューを書いている

 その翌年には、のちにKindle Keyboardと改名される「Kindle 3」、さらにその翌年には「Kindle 4」に加えて、初のタッチスクリーン搭載モデル「Kindle Touch」が登場した。今ではKindle=タッチスクリーンというのは当たり前だが、この「Kindle Touch」以前は、ページめくりはボタン、項目選択はハードウェアキーで行なう仕様だったのだ。これも今の姿からは想像しづらい。

Kindle 2(左)、Kindle DX(中)、Kindle 3(右)。Kindle 3はその後Kindle Keyboardと名前を変えて第4世代モデルの登場後もしばらく併売された。またKindle DXも後継機こそ出なかったもののロングセラーとなった
Kindle 4(左)、Kindle Touch(中)。いずれも第4世代モデルで、Kindle Touchは初めてタッチスクリーンを搭載したモデルとなる。右端はその翌年に発売された第5世代モデルのKindle Paperwhite

 この頃になると、そろそろKindleが近々日本に上陸するのではという、予測とも願望ともつかない噂が各方面からささやかれ始めた。ちょうどタイミングよく、タッチスクリーン搭載でソフトキーボードによる言語切替が容易な「Kindle Touch」が登場したことで、日本上陸の噂はますます信憑性を持って語られるようになった。

 しかし結局このKindle Touchは日本語対応を果たすことなく、その翌年に発売された「Kindle Paperwhite」が、ほぼ時を同じくしてオープンした日本版Kindleストアで利用できる、第1号のKindle端末となった。「Kindle Paperwhite」はその後ほぼ同じ筐体のままモデルチェンジを繰り返し、現在に至っている。

 そこから2017年10月発売の第9世代モデル「Kindle Oasis」まで、ほぼ年1回のペースで新製品の投入が行なわれており、ちょうどこの2017年の年末が、Kindle登場から10周年、日本上陸からは5周年を迎えることになる。ちなみに国内でこれまで販売されたKindle端末の見分け方については、こちらのページにまとめられている。

日本版Kindleストア向けの初の端末となったKindle Paperwhite(左)。これは第5世代モデルで、その後第6世代(中)、第7世代(右)とほぼ同じ形状のまま現在に至るまでロングセラーとなっている
第5世代モデルのみ、背面のモールドが「Amazon」ではなく「Kindle」となっている。敢えてボディデザインは変更せず、一部のモールドだけを変更するというのは、一般的なメーカーの感覚からすると珍しい
低価格モデルである「Kindle」。左が第7世代、右が第8世代
Kindle 4でいったん廃止されたページめくりボタンは、高級路線であるKindle Voyage(左)で復活。第8世代Kindle Oasis(中)および第9世代Kindle Oasis(右)は、上下対称のページめくりボタンを採用する
ページめくりボタンの形状の変遷。左から、初代Kindle、Kindle 2、Kindle 3、Kindle 4、Kindle Voyage、第9世代Kindle Oasis。初代を除いたほとんどの機種は、2つ並んだボタンの下が「進む」、上が「戻る」に割り当てられている

ページめくりのレスポンス、描画時間はこの数年間でどう変わった?

 以上がこれまでのKindle端末の歩みなのだが、本稿はこうした過去の端末を写真でプレイバックするだけのノスタルジックな企画というわけではない。Kindleが採用しているE Ink電子ペーパーの反応速度がこの間どのくらい進化したか、節目のタイミングにあたりチェックしてみようというのが、本稿のひとつの目的である。

 一般的に、電子ペーパー端末の反応速度というのは、以下の2つを足したものと言えるだろう。

・タップしてからページめくりが始まるまでの時間(レスポンス)
・ページめくりが始まってから終わるまでの画面書き換えの時間

 前者はよくレスポンスなどと表現される。新しいモデルは一般的にレスポンスが向上しているので、並べて操作するとその差がすぐにわかる。たとえば以下の動画では「Kindle Paperwhite(第5世代モデル)」と、最新の「Kindle Oasis(第9世代モデル)」でページめくりを同時に行なっているが、レスポンス、つまりタップしてからページめくりが開始されるまでの時間の差は一目瞭然だ。

【動画】「Kindle Paperwhite(第5世代モデル)」(左)と、最新の「Kindle Oasis(第9世代モデル)」(右)でページめくりを同時に行なった様子。右のほうが明らかにレスポンスが高速であることがわかる

 一方で、上記のように動画で比較を行なっても、意外にわかりにくいのが後者、画面書き換えに要する時間だ。E Ink電子ペーパーはその特性上、次のページが前のページに混ざるようにして出現し、徐々に前のページが消失して次のページが姿を現す。じつはこの画面書き換えの時間も、従来に比べると高速化しているのだが、レスポンスの進化に比べなかなか目立たないのが実情だ。

 また、画面書き換えの時間だけでなく、その描画方法も、新旧のモデルではじつは異なっている。Kindleのユーザーの中には、端末を使っているうちに白黒反転があまり気にならなくなったという人も多いはずだが、これは慣れではなく、端末側が進化したことで、目障りでなくなっただけという可能性が高い。

 今回はこれを高速撮影した上で、スロー再生で確認してみたい。これが本稿のもう1つの目的である。

 比較対象のモデルは、本来ならば初代モデルや第2世代モデルを使いたいところだが、日本のKindleストアと連携しないため、同一コンテンツで比較することが難しい。そこで今回は、日本での初代モデルにあたる「Kindle Paperwhite(第5世代モデル)」と、最新の「Kindle Oasis(第9世代モデル)」でコミックの挙動の比較を試してみたい。

 方法としては、ページをめくる様子を60fpsで撮影、それを1フレームごと静止画として切り出した上で、フレーム数がわかりやすいように番号を記入、その後スロー再生に見えるように動画に再変換している。サンプルはうめ著「大東京トイボックス 1巻」を拝借している。

 まずKindle Paperwhite(第5世代モデル)だが、ページの再描画が完了するまでに37フレームを要している。このモデルは1ページごとに白黒反転が発生する仕様で、それゆえいったんは全域が真っ黒になる。それゆえ画面書き換えの時間も余計にかかっている格好だ。

【動画】Kindle Paperwhite(第5世代モデル)で、ページの書き換えが始まってから完了するまでの様子。ページが白黒反転しながら切り替わるので、いちどは全域がほぼ真っ黒になり、かなり目障りだ

 では最新モデル、Kindle Oasis(第9世代モデル)はどうだろうか。こちらは白黒反転は6ページごとに1回に抑えられていることもあり、ページの再描画は22フレームで完了する。さきほどは37フレームを要していたので、画面書き換えの時間は、5年間でほぼ半分になった計算だ。

【動画】Kindle Oasis(第9世代モデル)で、ページの書き換えが始まってから完了するまでの様子。前後のページが交じるように切り替わるのは同様だが、白黒反転がないのでそれほど目障りではない
【動画】上記の動画を左右に並べて比較してみた。よく見ると、右のKindle Oasis(第9世代モデル)は、前後のページがともに白のエリアは書き換えをしていないことがわかる

 もっとも、この両者の比較だけであれば、白黒反転がなくなったぶんの時間が減少しただけのようにも見える。そこで世代がもう1つ新しい、Kindle Paperwhite(第6世代モデル)とも比較してみよう。Kindle Paperwhiteとしては初めて、コミックで毎ページの白黒反転が不要になったモデルであり、白黒反転にかかる時間を省いた、描画に要する純粋な時間を比較するのに向いている。

【動画】左がKindle Paperwhite(第6世代モデル)、右がKindle Oasis(第9世代モデル)。左は28フレーム、右は22フレームということで、やはり新しいモデルが高速化されていることがわかる

 結果としては、白黒反転を省いた純粋な画面書き換えについても、Kindle Paperwhite(第6世代モデル)が28フレーム、右がKindle Oasis(第9世代モデル)が22フレームということで、新しいモデルが高速化されていることがわかるわけだが、よく見るとなかなか興味深い違いがある。それはグレー部分の描画方法だ。

 左のKindle Paperwhite(第6世代モデル)は、書き換え中はグレー部分に色がついておらず、描画が終わる頃になって徐々にグレー部分に色がついていくが、右のKindle Oasis(第9世代モデル)はグレー部分が濃い状態で、描画が終わる頃に徐々に色が薄くなるという、真逆の順序になっている。おそらくこのあたりのチューニングの違いが、トータルでの高速化に結びついているのだろう。

 いずれにしても言えるのは、日本上陸直後のモデルと最近のモデルとでは、ページの書き換えが始まるまでのレスポンスも、またページの再描画に要する時間も、どちらも高速化されているということだ。過去にKindleを使った際、E Inkはページの切り替わりが目障りという理由で使うのを止めてしまった人は、新しいモデルを使うと、また違った印象を持つかもしれない。

読書体験をさらに向上させてくれるサプライズの登場にも期待

 以上、Kindle10周年、および日本上陸5周年ということで、この機会にしかできないであろう新旧端末の比較実験をお届けした。数年もの間隔があると、ページめくりひとつとってもここまで違うというのは、新鮮な驚きだ。

 今回使用した端末はすべて筆者の私物で、今後も引き続き所有することからも、また数年後に今回のような実験をあらためて行なってみたい……と言いたいところだが、数年後ともなると、カラー電子ペーパーのような大きな技術革新があり、今回のような切り口でのレビューは不要になっているかもしれない。こればかりは、その時になってみないと分からない。

 言い換えれば、E Ink電子ペーパーを採用したKindleという端末のここ10年間の進化は、今回見てきたような画面描画のアルゴリズムのほか、解像度、本体のサイズや重量など、おおよそ想像できる範囲内の進化だったと言えなくもない。それは決して悪いことではないのだが、これから5年(もしくは10年)、読書体験をさらに向上させてくれる、サプライズの登場にも期待したいと個人的には思う。

現在は「Fire」というブランド名でKindleを上回る存在感を見せているAmazonのタブレットは、当初「Kindle Fire」という名前でリリースされていた。これは日本で初めて投入された第2世代のKindle Fire