【短期集中連載】Amazon「Kindle」徹底試用レポート(前編)
~基本仕様と使い勝手をチェック


 去る10月下旬より、日本を含む100カ国以上に対して、Amazon.comの電子ブックリーダ「Kindle(キンドル)」の出荷が開始された。今回日本から購入できるようになったモデルは「Kindle International」という名称で、2009年2月に発売された第2世代モデル「Kindle2」の同等品。画面サイズは6型、E Ink製の電子インクディスプレイを採用した。

 あらためて説明するまでもないが、Kindleは電子書籍のハードウェアとしてトップのシェア(2009年10月現在)を誇る製品である。今回の「Kindle International」は日本語表示にこそ対応していないものの、本体に内蔵された3G通信モジュールにより電子書籍販売サイト「Kindle Store」にアクセスし、30万冊以上のラインナップの中からコンテンツをダウンロード購入することができる。もちろん日本にいながらにしてだ。本製品は2GB(ユーザ領域は約1.4GB)の記憶容量を持っており、約1,500冊の電子書籍を本体内に保存可能であるとしている。

 今回は、編集部で入手した本製品について約3週間にわたって試用したので、その詳細をお伝えする。本体の購入時価格は$279。同時購入した革製カバーが$29.99であわせて$308.99、送料と海外配送費を足して$357.32。日本円にするとおよそ3万円台前半ということになる。

 今回から3回にわたり、このKindleをレポートする。

Kindle本体Kindle本体、説明書、ケーブル一式を並べたところ蛇腹状の説明書。表記は英語だが、図が多く理解しやすい

●そっけない箱を開封すると

 到着してさっそく開封してみる。パッケージはAmazon.comの箱のデザインそのままだ。中身がずっしりと詰まっていて期待が高まるが、いかんせん見た目が段ボールなので、iPodのような外装まで豪華なガジェットを手に入れた時に比べると、ワクワク感はやや控えめといったところだ。

パッケージ。意匠はアマゾンの箱そのままだ同時購入した革製カバーのパッケージ(右)と並べたところミシン線に沿って横に引いて開封する

 開封すると、梱包材にスキ間なく納められたKindleが姿を現す。筆者は過去モデルも含めてKindleに触れるのは初めてだが、デザイン家電のような高い質感と、左右対称に作られた筺体の美しさには少しばかり感動した。そっけないパッケージからは想像もできない高級感がある。写真で見た初代モデルのゴツゴツした印象はまったくなく、そのスタイリッシュさに驚かされた。

開封したところ。パッケージは上方に開く中央のトレイにKindleが鎮座する。手前の紙製タグを引っ張ると取り出すことができる取り出したところ。透明なフィルムがかかっている

 さらに際立つのが、約9.1mmという本体の薄さだ。詳しくは写真をご覧いただきたいが、iPhoneよりも薄く、専用の革製カバーを付けてようやくiPhoneより厚くなる程だ。2009年のベストセラー書籍である「1Q84」の厚みが約3cmなので、およそ1/3の厚さということだ。ちなみに表面サイズは約203.2×134.6mmと、A5サイズ(210×148mm)とほぼ等しい。重量は約289gと軽い。

厚みは約9.1mmと非常に薄い。ポインティングデバイスを除いては突起物もない「1Q84」と面積はほぼ同じ。ただし厚みは1/3以下
iPhoneとの比較iPhoneよりも薄い

 背面はゴールドとシルバーの中間といった色合いで、ヘアライン加工が施されている。オフホワイトの表面とは異なる印象だ。初代のKindleでは背面は電池蓋兼用のグレー色の滑り止め素材だったようだが、今回のモデルは金属パーツの一体成型で、滑り止めのギミックはない。専用カバーを使えば背面に直接触れることはまずないので、本体の設計自体がそれを前提にしているのだろう。

本体背面。初代モデルにあったSDカードスロットは廃止されている本体背面上部にはamazonkindleロゴ本体背面下部にはステレオスピーカーを装備

 パッケージから出した時点で、オモテ面には透明なフィルムがかけられており、ちょうど画面にあたる部分にはケーブルの接続方法、および電源の入れ方の図がプリントされている。手順をざっと確認したのちフィルムをパリパリとはがすと……図がはがれない。実は、フィルムに印刷されているのではなく、Kindleの画面に表示されていたのだ。Kindleに採用されているE Ink製の電子ペーパーの視認性の高さを実感する瞬間である。

充電方法および電源の入れ方が書かれている。実はこれ、フィルムに印刷されているのではなく、Kindleの画面に表示されている表面のフィルムをはがしたところ。充電方法および電源の入れ方がKindleの画面に直接表示されていることがここで初めて明らかになり、ちょっとしたカルチャーショックを受ける

●インターフェイスをチェックする

 電源を投入する前に、インターフェイスについてみておこう。

 画面サイズは6型、解像度は600×800ドット。タッチ操作などには対応せず、両サイドのボタン、および下部のキーボードを用いて操作する。日本未発売の上位モデル「Kindle DX」はタテヨコの方向切替機能を備えるが、本モデルはタテ向きにのみ対応する。

 両サイドにレイアウトされた「Next」、「Prev」、「Home」などのボタンは、外側を押しても反応せず、内側を押すことで反応するという機構が採用されている。慣れるまではやや戸惑うが、誤操作対策としては正しいアプローチだろう。押下感については、マウスのマイクロスイッチなどと比べるとかなり硬めだ。

 対象なデザインの例外となっている本体右下の四角い突起物は、「5-way controller」という名称で呼ばれるポインティングデバイスだ。上下左右のカーソル移動に加え、クリックにも対応する。上下左右キーと決定キーが一体化したインターフェイスである。本稿では「四角ボタン」と呼称する。

本体右側上部のキー。HOMEおよびNEXT PAGEキーが並ぶ。NEXTキーは本体左側にもある本体右側下部のキー。MENUキー、BACKキーに挟まれてポインティングデバイス(5-way controller)がレイアウトされている本体左側のキー。PREV PAGEキーとNEXT PAGEキーが並ぶ。NEXTキーは本体右側にもある
本体右側面上部にはボリュームのUP/DOWNキーを備える。利用頻度はそれほど高くない本体左側面には、専用の革製カバーのフックに取り付けるためのホールが2カ所にある

 キーボードについては、画面下段にQWERTYキー配列で用意されている。間隔が開いていることから打鍵ミスは起こりにくいものの、プチプチと押す独特の打鍵感で、長文の入力は厳しい。いまのところKindleでキーボードを使う機会といえばKindle Storeにおける検索時くらいなので大きな支障はないが、将来的に日本語化して読書メモ機能が利用できるようになれば、使い勝手が問題になってくるかもしれない。

 電源はUSBによる給電で、AC-USB変換コネクタが同梱されている。バッテリは交換や取り外しはできない。使用時間については通信がオフの状態で2週間、通信オンの状態でも4日は持つとされている。

本体下部のフルキーボード。主に検索などで使用する。本体下部にはmicroUSBポートを装備付属のUSBケーブルを接続
充電中はオレンジ色に、充電完了後は緑色に点灯する付属のUSBケーブルおよびAC変換コネクタ。シンプルで可搬性にも優れるAC変換コネクタを用いることでAC電源からの充電も可能

●いよいよ電源を入れてみる~基本操作

 さて、それでは電源を投入してみよう。電源ボタンは本体上端にある。スライドスイッチなので、不意に電源が入ってしまうことはまずなさそうだ。

本体上部の電源スイッチ。スライドタイプなので誤操作の可能性は低い。隣には3.5mmステレオオーディオジャックを搭載するHOME画面。左側がコンテンツのタイトル、右側が著者名。なお、これはコンテンツをいくつか追加したあとの状態で、初期状態で表示されるコンテンツ数はこれよりも少ないコンテンツの並び順は、利用順、タイトル順、著者順の3通りから選べる

 電源を入れると、最初に表示されているケーブルの接続方法の図解が消え、HOME画面が表示される。タテ長の6型、16階調モノクロ画面には、上部にタイトルおよび電池残量や電波状況といった基本的な情報、下部に検索ボックスがレイアウトされる。

 視野角については、液晶に比べると異常に広い。というよりも、パッと見た状態では表面に印刷されているようにしか見えない。

視野角について、下方から見たところ視野角について、左から見たところ

視野角を上下左右からチェック。液晶の視野角とは全く異なる

 画面はノングレアで、蛍光灯の反射もほとんどない。そこそこ日差しがきつい屋外でも問題なく読むことができる。ただしバックライトはないので、暗い部屋で読むのは難しい。

 ページめくりには、本体両側の「Next」ボタンを用いる。前のページに戻るには、本体左側の「Prev」ボタンを用いる。進むためのボタンは両側にあるのに、戻るためのボタンは左側だけという、やや変則的なレイアウトだ。ユーザビリティ的には、本を読む時には左手で操作し、カーソル移動やメニュー表示といった細かい操作は右手に持ち替えて行なう、という想定ではないかと思われる。

 HOME画面やKindle Storeでは、さまざまな文字列にリンクが設定されている。リンク箇所はアンダーライン(点線)で表され、フォーカスが当たるとアンダーラインが太い実線に変化するので、分かりやすい。PCのブラウザの利用経験があれば迷うことはないだろう。

 また、前述の四角ボタンを操作してカーソルを動かし、英単語の最初の位置にカーソルを置くと、その英単語の意味が(もちろん英語で)下段に表示される。これは本製品に搭載されている英英辞典「The New Oxford American Dictionary」と連動した機能だ。

英単語の先頭にカーソルを置くと、ページ下段に英単語の意味が表示されるさらに詳細な単語の意味を表示することも可能

 ページめくりの速度は、もっさり感があるが、十分に許容できるスピードだ。このあたりは何と比較するかにもよって評価が変わってくるが、筆者がかつて試用した「Words Gear」や「FLEPia」といった国内の読書端末/電子ペーパー端末と比較すると、じゅうぶんに実用的なスピードである。

 キーボード下部にある「Aa」と書かれたボタンを押すと、文字サイズや1行あたりの単語数を変更できるダイアログが表示される。文字サイズは6段階、1行あたりの単語数は3段階で可変する。変更した文字サイズは他のコンテンツにも引き継がれる。なお、HOME画面は文字サイズが変更できず、固定となっている。

キーボード下段のAaと書かれたキーを押すと、文字サイズおよび1行あたりの単語数を設定できる画面が表示される文字サイズは6段階で可変する。これは最小サイズと最大サイズ
1行あたりの単語数は3段階で可変する

 

ページを一定間隔でめくった後、文字サイズを変更した。電子ペーパーの特性か、めくる瞬間に一瞬白黒反転する

 操作せずに10分間(実測値)放置しておくと、電源が自動的にオフになる。面白いのは、画面が暗くなるのではなく、さまざまな絵柄が表示されることだ。画面を表示したままでも電力の消費がない電子ペーパーならではのギミックだ。余談だが、Kindleの利用にあたっては、従来の「画面に何か表示されているとバッテリは減るものである」という思い込みを頭の中から追放する必要がある。

スリープ時に表示される絵柄の例。バリエーションは豊富だ

 なお、本体の発熱は、まったくと言っていいほどない。本体背面が金属製なのは放熱のためかと勘繰ったが、どうやら違ったようだ。

●ワイヤレスネットワークに接続してみる
アンテナと電池残量は画面右上に表示される

 Kindleは3Gの通信モジュールを内蔵しており、届いたその日からネットワークに接続してKindle Storeを閲覧し、コンテンツを直接ダウンロード購入することができる。機能としてはiPhoneとiTunes Storeの関係に近い。

 このネットワークへの接続については、なんの設定作業も必要とせず、箱から出して電源を入れるだけでつながってしまうので、少々面食らう。ネット上のレビューを見ていても「どこにつながっているのか分からず気持ち悪い」という書き込みが見られるが、まったくもってその通りである。何も設定した覚えはないのに、コンテンツはダウンロードできてしまうのである。AT&Tの国際ローミングを利用しているとのことだが、シームレスさもここまで来ると(もちろんいい意味でだが)戸惑う。

 具体的な通信可能エリアのマップは、Amazon.comのKindleの製品ページに掲載されている。山間部などを除き、日本全国をくまなくカバーしているようだ。都内のあちこちに持ち運んで利用してみたが、地下など電波状況の悪いエリアを除き、接続できないことはまずない。走行中の電車からも問題なく接続できる。

Kindleの製品ページに掲載されている、3Gネットワークのエリア。山間部を除き、ほぼ日本全国をカバーしている

 驚くのは、このネットワーク接続の通信費用について、ユーザ側での負担がまったくないということだ。もちろん本体費用やコンテンツ購入代金など、何らかの形で上乗せされているのだとは思うが、通信料金を気にせずにKindle Storeに接続できるのは大きい。

 また、この料金体系はKindle Storeへの接続のみならず、実験機能として搭載されている他のWebページへの接続にも適用される。現状では日本語のWebページは表示できないうえ、モノクロということもあって表示できる内容には限界があるが、それでも料金がまったくかからないというのは驚異である。

 電波状況については、携帯電話と同じデザインの5本のアンテナが、画面右上に表示されるので分かりやすい。また、コンテンツのダウンロード中は、画面左上の円状のアイコンが回転する。もっと中央に大きなサイズで表示されたほうが分かりやすいだろうが、電子ペーパーは書き換えの際に電力を消費するほか、応答速度もそれほど速くないことから、表示サイズを小さくすることで解決を図っているものだと思われる。

 なお、この3Gネットワークへの接続は、MENUボタンを押すことで表示される「Turn Wireless Off」によってオフにすることができる。

ワイヤレスネットワークはOFFにすることも可能コンテンツのダウンロードなど、ネットワークへのアクセス中は、画面左上の円状のアイコンが回転する

●次回はKindel Storeで実際にコンテンツを買う

 以上、開封から基本操作、ワイヤレスネットワーク接続までのプロセスを紹介した。ここまでで、ハードウェアを中心としたKindleのアウトラインがおぼろげながら見えてきたと思う。基本的な仕様および使い勝手の部分では大きな減点はなく、個人的には好印象だ。

 次回は、実際にKindle Storeでさまざまなコンテンツを購入することにより、Kindleのより具体的な使い勝手を見ていくことにしたい。

同時販売されている革製カバーについても紹介しておこう。本体は黒一色だ取り付け方を記したクリアシートが挟まれているKindleを取り付けた状態。本体左側面にあった2箇所のホールに、カバー内側のフックを差しこむ方式。取り外しも自在
カバーを取り付けた状態。この状態での厚みは約2cm別アングルより。一般的な手帳のように見えるamazonkindleのロゴ入り

(2009年 11月 18日)

[Reported by 山口 真弘]