山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

6型OLED搭載ハイエンドAndroidスマホ「HUAWEI Mate 10 Pro」

HUAWEI Mate 10 Pro

 華為技術日本株式会社(ファーウェイ・ジャパン)の「Mate 10 Pro」は、6型のハイエンドAndroidスマートフォンだ。

 OLEDディスプレイ、AI対応のプロセッサ、6GBメモリ、USB 3.1対応のUSB Type-Cポート、Leicaダブルレンズカメラ、デュアル構成のSIMカードスロット、防水対応などなど、まさに全部入りと言って良いフラッグシップモデルだ。

 かつてiPhone 6 Plusが登場した時は、5.5型という画面の大きさが新鮮だったが、それから3年後の現在、5.5型というサイズはすっかり見慣れた存在になってしまい、それ以上の画面サイズを持つ製品も、目新しい存在ではなくなった。

 今回紹介する「Mate 10 Pro」は、スマートフォンとしては最大級の、6型という画面サイズを備えることが特徴だ。最近発売されたスマートフォンでは、Samsung「Galaxy Note8」が本製品を上回る6.3型だが、こちらがキャリアからの販売であるのに対し、本製品はSIMロックフリーのため、回線契約の縛りなしの運用も容易だ。

 実売は8万円台と高価で、電子書籍ユースのためだけに本製品を購入する人はまず皆無だろうが、これだけのハイエンドモデルとあって、電子書籍の閲覧に使用した場合に、どのような利点があるのか、興味を持つ人は少なくないだろう。

 今回はメーカーから借用した機材をもとに、電子書籍端末としての使い勝手をチェックしていく。なお通常の製品レビューは西川氏のコラムに詳しいので、そちらを参照されたい。

iPhone Xに対抗するフラッグシップモデル

 まずは本製品がどのような製品なのか、他製品とスペックを見比べながら把握していこう。比較対象としては、iPhone Xのほか、さきほども触れたサムスン「Galaxy Note8」も加えて比較する。

製品Mate 10 ProiPhone XGalaxy Note8
製造元HuaweiAppleSamsung
発売年月2017年12月2017年11月
サイズ(幅×奥行き×高さ)約154.2×74.5×7.9mm約143.6×70.9×7.7mm約163x75x8.6mm
重量約178g約174g約190g
OSAndroid. 8.0iOS 11Android 7.1.1
CPUKirin 970 オクタコアCPU (A73 2.36GHz Quad+A53 1.8GHz Quad)64bitアーキテクチャ搭載A11 Bionicチップ、ニューラルエンジン、組み込み型M11モーションコプロセッサ64bitオクタコア10nmプロセッサ(2.35GHz Quad+1.9GHz Quad)
RAM6GB3GB6GB
ストレージ128GB64GB/256GB64GB
画面サイズ/解像度6型/1,080×2,160ドット(402ppi)5.8型/1,125×2,436ドット(458ppi)6.3型/1,440 x 2,960ドット(521ppi)通信方式IEEE 802.11ac
防水防塵IP67IP68

 各社のフラッグシップモデルだけを並べているため、感覚が麻痺しがちだが、ハードウェアの仕様については文句のつけようがない。Androidスマートフォンの場合、一般的には3GBあれば十分、4GBだと余裕と見られるメモリは、なんと6GBで、ディスプレイの解像度は402ppiと、異次元の域だ。

 OSはAndroid 8.0。インターフェイスはUSB Type-Cで、USB 3.1にも対応。SIMカードスロットはデュアル構成で、さらにIP67相当の防水防塵機能も備えている。全方位的に死角がない。

 また電子書籍ユースではあまり関係ないが、背面カメラは1,200万画素と2,000万画素のLeicaダブルレンズカメラで、前面カメラですら1,000万画素という、まさに怪物級のスペックだ。このほか、ディスプレイに画面を出力してパソコンのように使える、PCモードにも搭載している。

 唯一突っ込みどころがあるとすれば、メモリカードスロットを搭載していないことぐらいだろうか。またイヤフォンジャックを搭載していないのも、人によっては困る場合があるかもしれない。

本体外観は一般的。一般的なスマートフォンとの違いを探すならば、上下のベゼル幅が狭いことくらいだろう
左側面にはデュアルSIMカードスロットを備える。microSDには対応しない
右側面は音量ボタン、電源ボタンがある
上部にはIRレシーバを備えており、赤外線リモコン機能が使える
充電コネクタはUSB Type-C。他製品はUSB 2.0対応がほとんどだが、本製品はUSB 3.1に対応する
背面には指紋認証およびLeica製のデュアルカメラを備える。カメラの突起は皆無ではないが、iPhone Xなどの突起に比べるとほぼ気にならないレベル
標準で保護ケースがつくのは嬉しいところ

画面は6型も、本体サイズは5.2~5.5型クラス

 本製品を手にとっての最初の印象は「あれっ、意外と小さい」というものだ。6型と聞くと、従来のスマートフォンを圧倒する大きさを想像してしまうが、実際の横幅はそれほどでもない。

 例えば、当時としては飛び抜けて大画面だった、かつてのSony「Xperia Z Ultra (6.4型)」は、アスペクト比を変えずに大きな画面サイズを採用していたため、横幅は92mmと広く、片手で鷲掴みするのはかなり無理があった。近いコンセプトを持つ、ASUS「ZenFone 3 Ultra(6.8型)」も横幅は93.9mmと広く、片手持ちには適していなかった。

 その点、本製品は画面を縦方向に伸ばして、画面サイズを大きくするという、iPhone Xと同じアプローチを採用しているため、横幅は従来の5.2~5.5型クラスのスマートフォンと大差ない、74.5mmに抑えられている。

 さらに上下のベゼルを薄くすることで、天地サイズへの影響も最小限になるよう配慮されており、筆者が使用している5.2型の「ZenFone 3 Max」と比べても、ボディサイズはほとんど変わらない。こうした「ボディサイズを極力変えずに大画面化」というアプローチは、iPhone Xにも通じるものを感じる。

 また、本体が薄く感じられるのも特徴だ。

 本製品とほぼ同サイズの製品として、筆者は過去に「Nexus 6P (5.7型)」を使っていたことがあるが、カメラ部が段差を持っていたため、厚みを感じやすかったNexus 6Pに対し、本製品はカメラ部の突起は最小限に抑えられているため、全体的に薄い印象だ。実寸でも7.9mmしかない。

左が本製品、右が5.2型のZenFone 3 Max。画面サイズはかなりの差があるが、ボディサイズの差はほんのわずかだ
上端を揃えると、上部ベゼルのスリムさがよく分かる
同じ「6型」である、Kindle Voyage(右)との比較。比率が違うため、同じ6型でもこれだけ違う。大判サイズを想像していると面食らうだろう
縦に長いため、Webのような縦スクロールでは1画面に表示できる情報量が多い。このあたりはiPhone Xにも通ずるものがある

OLEDによる画面の美しさは出色

 セットアップ手順およびプリインストールアプリについては、西川氏のレビューに詳しいので割愛するが、セットアップ直後に気になるのは、高級感を演出するためか、アプリのアイコンがゴールド調になっており、色でアイコンの種類を判別するのが、極めて困難なことだ。これは「テーマ」というアプリを使って変更できる。

 プリインストールアプリには、電子書籍アプリは含まれておらず、Androidデバイスにプリインストールされていることの多い、「Google Playブックス」すらもない。これについては、特に可もなく不可もなくといったところだ。

 インストール後に行なっておきたいのが、各種通知をオフに変更することだ。とくにGoogleアプリや、Googleマップアプリでは、自分の行動に合わせて通知するオプションが軒並み有効になっているので、そのままにしておくと、かなり高い頻度で何かしらの通知が表示される。必要なものはさておき、不要なものはすべてオフにしておくと使いやすくなる。

セットアップ後のホーム画面。高級感を出すためか、アイコンの多くがブロンズ調なのだが、色分けされていないため、見分けがつきにくい
「テーマ」というアプリを使うことで、背景ともどもアイコンの配色を変更できる
アプリは、ホーム画面に並べるスタイルと、ドロワーにまとめるスタイルを選択できる。個人的には、これがカスタマイズできるのはありがたい
通知が既定でオンになっているアプリは多く、普通に使っていても意図しない通知が飛んで来ることが多い。必要なものを除いてオフにしておこう
こちらはGoogleアプリの設定。こちらも訪問場所の投稿をうながす通知など、ユーザによっては気になるであろう項目が既定でオンになっている。同様にオフにするとよい
Androidのバージョンは8.0だ

 さて、使い始めてすぐに気づくのが、OLEDによる画面の美しさだ。

 白黒のページが多い電子書籍では、OLEDの恩恵はあまりないように思えるが、黒が引き締まって見えること、さらに(これはOLEDというよりコーティングの恩恵だろうが)画面の反射が少ないのは利点だ。

 もともと筆者は画面の反射が大の苦手で、私物のスマートフォンやタブレットは、ほぼ例外なく反射防止シートを貼っているだけに、非常に嬉しいポイントだ。

電子書籍ユースにおける縦長画面のメリットは?

 電子書籍を読む場合にポイントとなる画面周りについて、さらに掘り下げてみていこう。

 解像度は402ppiという、250~300ppi前後が多い読書端末よりも、はるか上を行く数値である。細部のディティールが潰れて見えないことはまずないし、それ以前に、ここまで解像度が高くなると、肉眼で見ても写真で見ても、300ppiクラスの製品との違いが分からないほどだ。

 本製品のアスペクト比は18:9(2,160×1,080ドット)という、16:9をさらに縦長にしたサイズなのだが、実際に持った限りでは「縦長過ぎる」、「細い」といった印象はまるでない。これは前述のように、本体上下のベゼルをスリム化することで、従来のスマートフォンとほとんど縦横比が変わらないよう仕上げられているためだ。

 また前述のように、6型という大画面であっても、本体の横幅はそれほど広くはないので、Androidスマートフォンで電子書籍を読む利点の1つである、音量調整ボタンによるページめくり操作にも支障はない。左手で本体を握る場合は人差し指で、右手で本体を握る場合は親指で、無理なく音量キーを押すことができる。

画面サイズこそ6型だが、それほど縦に長い印象はない。本体のサイズ的には5.2~5.5型クラスのスマートフォンと変わらない
左手で握った場合。音量キーは人差し指で押す配置になる
右手で握った場合。音量キーは親指で押す配置になる

 もっとも、電子書籍においては、画面が縦方向に長くなるメリットはあまりない。

 というのもテキストの場合、1行の文字が多くなるため、視線の移動距離が長くなり、目が疲れやすくなるからだ。またコミックも上下の余白の面積が増えるだけで、ページサイズはほぼ変わらず、せっかくの画面の大きさを活かせない。

 本製品はスペック的には最強で、マイナス要素を見つけるのに苦労するほどなのだが(せいぜいメモリカードに対応していないことにツッコミを入れるくらいだろう)、こと電子書籍においては、フルHD解像度の5.2~5.5型モデルに比べて、そう利点があるわけではない。

 利点があるとすれば、縦スクロールコミックを読む場合。表示面積が広くなるのでこれは当然だ。また電子書籍ストアで表紙サムネイルを一覧表示した時、スクロールしなくとも多くのサムネイルを一度に表示できるのも利点だが、強いて挙げればそのくらいだ。

 つまり「普通に快適に読書を楽しめるが、ほかと比べて大きな利点があるわけではなく、積極的に選ぶ理由はない」という結論になる。本製品以外にiPhone X、さらにGalaxy Note8など、本体の横幅を維持しつつ、縦に画面を伸ばすアプローチの各社フラッグシップモデルは、軒並みこうした評価になる。

コミックの表示を、5.2型のZenFone 3 Max(右)と比較したところ。ページの表示サイズの差は、よく見るとほんの一回り程度しかない
両製品のスマートフォンの上端を揃えたところ。偶然だがコマの上端も揃った状態になっており、上のベゼルはスリムなものの余白で相殺されていることが分かる
電子書籍ストアで表紙サムネイルを表示した時に情報量が多いのは利点だ

 ちなみに本製品は、画面表示周りのオプションが豊富なことに加え、省電力設定も細かく行なえるので、電子書籍ユースでは有効に活用したいところ。以下、スクリーンショットで紹介する。

非対応アプリを全画面表示にする機能を備える。画面下のホームアイコン列を非表示にして、ページの表示エリアを拡大したい場合に有効だ
解像度をあえて下げる設定もあるが、こちらは見やすさではなく省電力にまつわる機能だ
色温度の調整機能も用意される。プリセットされた暖色寒色を切り替えることも可能。このほかカラーモードを切り替える機能も備える
ブルーライトをカットする視力保護モードも用意されている。時間帯ごとの適用も可能だ

電子書籍ユースでは「並」だが製品は優秀

 以上のように、性能および機能はまったく文句のつけようがない。

 iPhone Xの場合、それらと引き換えに独自の操作性や、特徴的な画面の切り欠きに慣れる必要があったが、本製品はあくまで従来の形状の延長線上にあることから、ユーザの側が製品に合わせる必要もない。また動作もきびきびしておりストレスはまったくない。

 ただし、本製品ならではの電子書籍ユースにおける利点というのはあまりなく、前述のようにコミックなどの表示サイズは5.2~5.5型クラスのスマートフォンと変わらない。それらから買い換えると、逆に拍子抜けするだろう。

 電子書籍ユースでは、「6型」という数値に惑わされないほうがよさそうだ。

 ネックがあるとすれば、本稿冒頭でも触れているが、メモリカードスロットを搭載していないことだろう。128GBというストレージ容量は十分な量だが、電子書籍ユースにおいては、自炊した本を読む場合に、メモリカードスロットがあるとデータコピーなどの取り回しが容易になるからだ。ただし、これは使い方によるだろう。

 あとはやはり価格で、8万円台というのはなかなか勇気のいる価格だ。

 今回使ってみた限り、十分にそれだけの価値がある製品と感じるが、予算オーバーで、本製品になるべく近い画面サイズで探すならば、本製品の兄弟モデルで、スペックはやや劣るが、価格がおよそ半額で入手できる5.9型モデル「HUAWEI Mate 10 lite」も、候補に入れて検討するとよいだろう。

ニーズとしてはあまりないだろうが、本製品を横向きにして見開き表示にするとこの通りで、かなりアンバランスかつ、画面が小さすぎて見にくくなる
本製品の画面回転オプションは「自動回転」もしくは「縦向き」のみなので、見開き表示などでどうしても横向きを維持したければ、「Rotation Control」などのアプリで強制的に固定するとよい