山田祥平のRe:config.sys

おサイフケータイ、NFCへの道、遙か

 日本が誇る“おサイフケータイ”と、普及に向けて周辺が騒がしいNFC。その両方のメリットを享受したいと考えるのは日本人として当たり前だ。だが、不安要素はたくさんある。6年後、東京オリンピックにやってきた外国人はNFCで日本を堪能できるのか。また、日本人も外貨をまったく持たずに海外旅行ができるようになるのか。今回は、その周辺事情を考えてみる。

主催者のGSMAは今年もNFCに注力

 昨年(2013年)に続き、スペイン・バルセロナで開催されているMobile World Congressの取材にやってきている。

 昨年からNFCに注力しているMWCだが、今年(2014年)もiPhone用に専用のNFCケースを用意して無償で配布するなどかなり積極的だ。

 MWCは会期として4日間あり、その入場時にはゲートで入場資格があるかどうかを確認してもらう必要がある。一般的なカンファレンスやコンベンションと同様に、出席者は首からバッジをぶら下げているし、そのバッジにはNFCも埋め込まれているのだが、セキュリティ上の理由からか、入場チェックは厳しく、バッジの所持に加えて顔写真入りの証明書、例えば、パスポートなどの提示による本人確認が求められる。

 だが、NFCに対応したスマートフォンを持っていれば、あらかじめ自分の写真を登録しておき、NFC専用ゲートを抜けることができる。その様子は昨年も紹介したが、

1. ポケットからスマートフォンを取り出す。
2. スリープを解除する。
3. ロックを解除する。
4. MWC専用アプリを起動する。
5. NFCバッジ機能を起動する。
6. スマートフォンをゲートのセンサーにタッチして認識されるのを待つ。
7. 画面をタッチしてデータをビーム送信する。
8. ゲートの画面に自分の写真が表示されるのを係員が目視して本人確認する。
9. OKの言葉でゲートを通る。

と、こういう手順になる。

 こうやって文字にするとかなり面倒に感じられるかもしれないが、日常的にスマートフォンを使っているのなら、1~6までは数秒といったところだろう。ゲートが見えてきたところでおもむろに歩きながら作業すればいい。MWCのゲートの数m手前には何人かの係員がいて、ゲートを通ろうとしている出席者のスマートフォンに、バッジ機能の画面が表示されているかを目視で確認している。そうしないと、ゲートのところでモタモタしてしまい、後続の出席者に迷惑をかけてしまうからだ。

 7~8は、日本の電車改札口をスマートフォンをかざして抜けているのに慣れていると面倒に感じる。でも、写真を目視し、本人であるかどうかを係員が確認しなければならない以上、これは仕方がないのだろう。

お約束の現地SIM入手

 MWC取材は2013年に引き続き2度目となる。昨年、現地で入手したYoigoという通信事業者のSIMがまだ使えるようなので、出発前にインターネット経由でチャージをしておいたところ、現地に到着して飛行機のドアが開くと同時に接続できた。やっぱりこれでなくっちゃと思う。

 インターネットでのチャージなどができるようにするには登録が必要で、認証のための暗証番号をSMSで受け取るといった手間が必要なので、現地にいる間に、登録作業を済ませておかなければならないが、現地に到着して、ショップを探して、プランを選びSIMを購入といったことは、できればやりたくない。時間の無駄だと考える人も多いはずだ。プリペイドのSIMは使い捨てと考えるのではなく、将来の再訪問時に使えるかどうかもポイントだと思っている。

 今年は、そのSIMとは別に、スペインVodafoneのSIMを入手した。これもSMSで暗証番号を受け取って登録すれば、インターネット経由でチャージや残高確認、消費データ量などを確認できるようになる。今回入手したSIMは20ユーロで1.5GB/月のプランがセットされたものでSIM代は無料だった。

 「SMART 16」というプランで、実際には19.36ユーロなので、店頭で20ユーロ払って、現在、残高は0.64ユーロある。残高がそれだけしかなくても、100分間の通話と無制限のSMSができるので問題ない。

 キャリアショップではSIMは無料だったが、デパートの電気製品売り場ではSIM代として10ユーロを要求されたので話はややこしい。

 ちなみにこのSIMの有効期限は最後のチャージから9カ月とWebサイトに明記されている。だから、来年(2015年)もバルセロナにやってくるなら、11月頃までに1ユーロくらいをチャージしておけばいいという理屈になるが、こればかりはやってみないと分からない。

 最近の海外出張では、現地SIMを「Nexus 5」にセットし、Bluetoothテザリングをオンにした状態で持ち歩き、日本で使っているスマートフォンをそこに接続し、作業は日本のスマートフォンで行なうというスタイルにしている。これによって、画面がほとんどオンにならないNexus 5のバッテリは延命できるし、日本で使っている「Galaxy Note3」は予備のバッテリがあるので、あまり残容量を気にしなくて済んでいる。本当は全て日本で使っているGalaxy Note3で済ませられるといいのだが、対応バンドの少なさや、現地SIMを入れた状態ではテザリングができないことなどの点で、どうしても2台持ちになってしまっている。

NFCとFeliCa

 そしてNFCだ。

 MWC初日の朝、会場に到着し、ゲートの直前、先の1~6までを“歩きスマホ”で処理したのだが、本来画面に表示されるはずの自分の顔写真が表示されない。また、新たに登録することもできない。前日にはしっかり表示されたことは確認しているのにだ。

 何が起こっているのか分からないままに、そのまま7以降にチャレンジするも、やはり、写真が表示されないので、係員は先に進ませてくれない。仕方がないので、ヘルプデスクに行って相談すると、どうやら、同じ症状のユーザーが続出しているようだ。システムの不具合らしく、その時点ではどうにもならないということで、再びゲートに戻り、写真なしでの通過を許可された。セキュリティもなにもあったもんじゃない。

 1時間ほど経ってアプリを確認すると、さっきは表示されていなかった自分の写真が表示されている。システムは無事に復旧したようだ。

 会場内には、至るところにNFCチップが埋め込まれたサイネージや掲示板が設置されている。例えば、屋外テラスの休憩スペースには、飲み物やスナックを販売する屋台があるのだが、そのそばに、ビールの無料クーポンを発行するNFC埋め込みの看板が立ててある。

 NFC対応のスマートフォンをここにタッチすると、13時までは「まだビールには早い」と表示され、13時以降であれば「残念でした」か「おめでとうございます」のどちらかが表示される。例えはずれても15分経過すれば再チャレンジができるようになっている。そして「おめでとうございます」の表示を屋台で見せれば、小さなグラスのビールをゲットできるというわけだ。

 ところがこの仕組み、Nexus 5ではうまくいくのだが、手持ちのGalaxy Note3ではウンともスンともいわない。日本から来ているほかのジャーナリストの人たちにお願いして試してもらったところ、XperiaやAQUOS Phoneでもダメなようなのだ。つまり、おサイフケータイ機、FeliCaが入っているデバイスではうまくいかないということが推論できる。

 この不具合は入場システムでも同様だった。おサイフケータイ機ではゲートのセンサーに反応せず、6以降の手順をたどれない。

 会場には日本のフェリカネットワークスも出展していたので、ブースに行って尋ねてみたところ、いくつか想像できる要因はあるにせよ、その時点では公式な見解として回答することはできないということだった。

おサイフケータイは世界標準からはじかれるのか

 ゲートを通過できず、無料のビールももらえない。まあ、これは結構どうでもいいと言えばどうでもいいことだ。

 でも、何が原因であるにせよ、世界中のモバイル関係者が一同に介している場所、タイミングである重要なデモショーケースといってもいいのがMWCだ。そこで、こういうことが起こってしまうこと自体に将来の不安を感じてしまう。

 いろいろな企業が、NFCによるビジネスに食指を動かし、すでに行動を起こし始めている。多分、近い将来、冒頭に書いたように、NFC対応スマートフォンを携帯していれば、外貨をまったく持たずに海外旅行を楽しめるようになるのは間違いない。

 日本であれば今だって、自宅を出て駅に着いたときにサイフを忘れていることに気がついても、おサイフケータイがポケットに入っていればなんとかなってしまう。それと同じようなことが海外にいても可能になるはずだ。

 だが、その時に、今回のトラブルのようにおサイフケータイ、つまるところは、日本向けのスマートフォンだけが蚊帳の外ということが起こってしまわないだろうか。

 会場の全てのNFCシステムがNGというわけではないのだ。サイネージによっては正常に機能するものも多い。ぼくが試した中では入場システムとビールクーポンだけがダメだった。

 なんとなく、はるか昔、1文字は普通1byteであると決め打ちしたアプリに苦しめられた経験を思い出した。ちなみに日本語1文字は2byteだ。

 こうした仕組みをMWCのような大きなイベントで運用しようとするなら、前もって、さまざまなデバイスを使って相互運用性チェックが行なわれるはずだ。少なくとも、その中に日本のおサイフケータイは含まれていなかったということになる。原因がどこにあるにせよ、チェックが行なわれなかったこと自体が問題であり、発言力、政治力など、いろいろな面で将来のことが気になるのだ。この心配が杞憂に終わることを願いたい。

(山田 祥平)