山田祥平のRe:config.sys

量より数のディスプレイ




 没頭型のインターフェイスは、フルスクリーンを使ってコンテンツを表示することで、そのアプリケーションの世界にユーザーを専念させる。これまでのWindowsがデスクトップに複数のウィンドウを表示し、ウィンドウ相互でデータをやりとりすることを前面に押し出して来たのとは対照的だ。AndoroidタブレットやiPadなどでも基本的に画面全体が、1つの世界に染められる。今後のコンピュータとの対話は、それが主流になっていくのだろうか。

●スクリーンをまたいで並列処理

 アップルがRetinaディスプレイ搭載の15インチMacBook Proを発売した。まだ実機を見ていないのでなんともいえないのだが、ちょっとうらやましいのは、Retinaディスプレイを採用したことで、2,880×1,800ドットをサポートすることだ。この超高解像度を、そのまま使っては画面に表示されるオブジェクトが小さすぎて実用的ではない。でも、OSがきちんと超高解像度をサポートしていれば、美しさという歓迎すべき代償つきで、これまで通りにコンピュータと対話できるわけで、その快適さは、新しいiPadなどで実証済みだ。

 それはいいとしても、ありあまるほどの処理能力のあるコンピュータなのだから、同時にいくつものアプリが動いてほしいという気持ちも強い。今日のミーティングは短時間で特にメモ程度のことができればいいと思い、タブレット1つででかけても、結局、資料のPDFを見たり、過去に書いた原稿を参照したり、そこに修正を入れて、打ち合わせ相手に送ったりするような並列処理をしようとすると、とたんに不便を感じる。やっぱりノートPCを持ってくればよかったと後悔するわけだ。

 だからといって没頭型のフルスクリーンインターフェイスを否定するわけではない。個人的には、大抵のアプリをフルスクリーンで使ってきたし、これからもそうだと思う。だからこそ、マルチディスプレイはきわめて安直だが、理にかなったソリューションだと感じている。

●モバイルディスプレイを試す

 最近になって立て続けに、ポータブルのディスプレイディスプレイを2台購入した。5月から7月にかけて出張が続くので、少しでも能率的に仕事ができるようにという魂胆だ。

 購入したのはGeChicというベンダーの「ON-LAP 1301」という13.3型の製品で、解像度は1,366×768ドットだ。865gという重量も悪くない。入力はHDMIとアナログRGBをサポートする。

 意外に調子がいいので、もう1台と思ったら、「ON-LAP 1302」という新製品が発売されていた。サイズや解像度は同じだが、重量は654gと200g以上軽くなっている。1301は裏側のボタンで画面に表示される各種設定(OSD)を操作する、その使い勝手が最悪だったのだが、1302はボタンがタッチセンサーになっていて、使いやすくなっていると思いきや、このセンサーの感度が最悪で、まともに操作ができない。画質的には双方ともに視野角が狭すぎる。また、縦置きで使いたいのだが、縦にすると、ますます視野角的につらくなる。それに16:9で、横方向が768ドットでは縦に使うと、ちょっと幅が足りない。全般にあまりほめられたものではないのだが、この重量でこの便利さが手に入るというのは、それらの不自由をすべて打ち消しにしてくれるといってもいい。

 1台のPCに外部ディスプレイを2台繋ぎ、本体の液晶ディスプレイもそのまま使うには、ちょっとした工夫が必要になる場合もある。以前のCore iプロセッサは、内蔵グラフィックスが2台までのディスプレイしかサポートしないため、3画面表示ができないからだ。

 手元の環境では、仕方がないので、手元にあったUSB接続のDisplayLinkアダプタを併用している。さすがに3台のディスプレイを並べると、13.3型とはいえ添付のケーブルを引き回せる距離はギリギリだ。HDMIを延長してみたのだが、うまく同期しないようで、画面にチラツキが発生するので、延長ケーブルの利用はあきらめた。

 これが便利なので、さらに、もう1台と、Androidタブレットを置いてネットワーク経由のディスプレイ増設を試してみた。こちらはまだ試行錯誤中で、iDisplayやAirDisplayなど、いくつかのアプリを試しているのだが、4台目のディスプレイというのがなかなか安定しない。本体液晶+本体のHDMI端子+USBアダプタ経由のHDMI+ネットワーク経由の拡張ディスプレイという4台体制を作ってみたいのだが、安定させるまではもうちょっと時間がかかりそうだ。接続形態がバラバラなだけに、問題の切り分けが難しい。

 4台のディスプレイがあると、1つはブラウザ、1つはエディタやワープロでの入力、もう1つはメールクライアントやフォルダなどの作業用になどと、ディスプレイを使い分けることができる。ブラウザは、F11を押すとフルスクリーンになるので、そうして表示させることで、縦方向の解像度をかせいでいる。自宅での作業では3台のディスプレイだが、3台とも1,920×1,200ドットと、解像度が高いのであまり不自由がないが、今回購入したモバイルディスプレイでは、ちょっと足りない。だから、もう1台タブレットなどを用意してTwitterクライアントなどを表示させられれば便利だと思ったのだ。

●理想的なマルチディスプレイ環境までまだ道遙か

 PCのデスクトップの使い方は人それぞれで、人によっては高解像度のデスクトップを、几帳面にウィンドウサイズを調整して美しく配置するような使い方がいいという人もいる。ぼく自身はドットの量よりもディスプレイの数を優先したいと思う。デスクトップの中で視線をただよわせるよりも、ワンクリックで最大化し、フルスクリーンでアプリを表示したディスプレイ間で視線を動かした方がラクに作業ができるように思う。

 今回のMacBook Proで、ああ、また先を行かれてしまったなと思ったのは、物理的な解像度と論理的な解像度の切り分けをうまくできている点だ。まさに、Windowsがかなわない部分でうらやましい。ただ、これをマルチディスプレイ環境にしたときにはどうなるんだろうという疑問も残る。ディスプレイごとに解像度とサイズが異なる場合、それぞれのディスプレイで個々にスケーリングを設定できる方が便利なのは当たり前だ。実際、ディスプレイのカラーマッチングに関しては、ディスプレイごとにできるのにと思うと欲が出てくる。

 まあ、Metroスタイルが主流になるころには、Metroアプリをマルチディスプレイで使いたいというニーズも高まるだろうし、そのころにはWindowsも少しはこうした環境について考慮してくれるにちがいない。気長に待つことにしよう。