山田祥平のRe:config.sys

覚えない時代の忘れにくさ




 日本マイクロソフトの検索サイトBingがリニューアルされた。目玉機能はテレビ番組検索とソーシャル検索だ。検索結果の一覧も整理され、ずいぶん印象も変わっている。これらの新機能を使ってみながら、検索とテレビのあり方を考えてみることにしよう。

●検索サイトとテレビの関係

 そういえば「お気に入り」というものをほとんど使わなくなってしまっていることに気がつく。すでに10年も使っているので、フォルダ構造も古ければ、リンク切れになっているページも少なくない。いつか整理しようと思いながら、そのままになっている。それでもあまり不便に感じないのは、GoogleやYahoo!、Bingのような検索サイトでキーワードを入れれば、たいていの用が足りてしまうからだ。

 キーワードを入力して検索するだけで、めぼしいサイトはすぐにリストアップされるし、よく見るサイトなら一覧の中から瞬時に特定できる。これならお気に入りの深いフォルダ構造をたどるよりも手っ取り早いというものだ。だからとにかく頻繁に検索サイトを使う。

 余談だが、Internet Explorer 9(IE9)では検索ボックスがなくなり、アドレスバーに登録されたのだが、複数の検索キーワードを入れると最初にサイトを探すため、検索結果が出るのに時間がかかる。これには、ちょっとしたイライラを感じるので、製品版になるときには、ぜひとも改善してほしい。実際、Google Chromeでは、そんな不具合はないのだから、必ずできるはずだ。

 さて、新しいBingでは、テレビ番組の検索機能が強化されている。例えば、現在放送中のドラマのタイトルを入れると、検索結果の一覧のトップに、そのリンクが表示される。サムネールにポインタを重ねるだけで、公式の予告編が再生されるというオマケもある。

 さらに、検索結果一覧の「テレビ番組情報タブ」をクリックすると、その番組の概要と、すでに放送された回のあらすじが表示される。確かにこれは便利だ。コピーライトを見ると、これらの情報は日刊編集センターによるもののようだ。ちなみに、現在放送中のNHK連続テレビ小説「てっぱん」を検索して、テレビ番組情報を調べたら、2010年9月27日の初回からあらすじをたどることができた。これはちょっとすごいことだと思う。ここは1つ、ドラマのみならず、すべてのテレビ番組について、同様のことをやってほしいものだ。

 とにかくインターネットとテレビ局は仲がいいのか悪いのか、昨夜の8時に放送されていた番組は何なのかを知るのが極端に難しい。その情報提供がお金をとれるビジネスになるくらいだから、よほどのことなのだろう。でも、検索サイトが少しずつ、こうした不便を解消していってくれるのは歓迎したいと思う。

 ただ、このテレビ番組情報、終了した番組がどうなるかが気になるところだ。例えば「ゲゲゲの女房」を検索しても「テレビ番組情報タブ」は表示されない。現在放映中のドラマも、最終回を迎えた翌日には、もうあらすじなどを見ることができなくなってしまうのだろうか。そのあたりがとても気になる。

●覚えなくても検索すればわかる

 恥ずかしいことだが、ぼく自身は、暗記がとても苦手だ。とにかく覚えられない。中学生の頃から、調べればすぐにわかることを、なぜ、暗記しなければならないのだろうと思っていた。その傾向は今も顕著で、インターネットに情報があるとわかれば、詳細を頭にたたき込むのを自分自身で放棄してしまう。つまり、情報へのポインタの存在さえわかれば、いつでも情報にたどり着けるのなら、情報そのものを自分で把握する必要はないというわけだ。すごく強引で乱暴な論理だが、それでけっこうやってこれている。特に、インターネットを常用するようになり、いつでもどこでも検索ができるようになってからは、余計にその傾向が強くなったようにも思う。

 でも、検索サイトではできない検索もある。例えば、検索サイトは現時点よりも過去の情報しか持ち得ない。従って過去の検索はできても、未来の検索はできない。新しいBingでは、ソーシャル検索がクローズアップされている。まだBetaだが、TwitterやFacebook上のデータをほぼリアルタイムで表示する。ただ、この使い方がややこしい。

 まず、Bingのトップページを開き、カテゴリから「その他」をクリックし、サービスの1つである「ソーシャル」をクリックすると、「速報」をキーワードにしたソーシャル検索にたどりつく。あるいは、普通にBingでキーワード検索をして、結果一覧のページで「その他」をクリック、そこから「ソーシャル」に飛んでもいい。まだBetaだから露出は控えめということなのだろう。

 Googleにも似た機能はある。検索結果の一覧で「最新」をクリックすれば、最新の情報がどんどんスクロールしながら追加されていく。Googleのものは、TwitterやFacebookに限定されていないのが特徴だが、どうしてもサイトに偏りがある。それは当然で、開かれやすく更新されやすいサイトを重点的にインデクシングしているからだ。Bingのソーシャル検索は、対象をソーシャルサイトに限定することで、結果に混在するノイズが軽減されているようにも思う。Google検索との違いは、ポリシーの違いといったところだろうか。

●欠落する過去

 GoogleにしてもBingにしても、検索結果がどんどんスクロールしていくというのは、今このときが検索の対象になっているということを意味する。なにしろ数十秒前のつぶやきが出てくるのだ。厳密に言えば過去ではあるが、これはもう現在といってもいいだろう。

 メディアでいえば、新聞や雑誌などの紙媒体はずっと過去を伝えてきた。だが、ラジオやテレビは今を伝える。そして、インターネットの検索サイトは過去と今の両方を探せるようになったということだ。

 でも、インターネットの検索サイトは、インターネットにある情報しか検索の対象にはならない。そういう意味で、放映されたテレビ番組の情報は、インターネットにあるわけではないので、あらすじを参照できるだけありがたいと思えということなんだろうか。

 Yahoo! テレビのサービス「番組お役立ち情報」は、ちょっと新鮮だ。ここでは、放送された番組で紹介された商品やスポットをチェックすることができるのだ。ただ、さかのぼれるのはどうやらその日だけらしい。「昨夜の晩にタクシーの中で見たあの番組で紹介されていたあの商品」というわけにはいかないのがもどかしい。

 テレビと検索サイトの関係が、今後どうなっていくのだろう。その関係のちょっとしたもつれは、誰もテレビを見なくなるような顛末にもつながりかねないのだから、テレビの業界も慎重にならざるを得ないのだろう。

 今、インターネットでもっとも不便なのがテレビ番組に関する情報であるというのが、この時代を象徴しているように思う。圧倒的な影響力を持つメディアにしては、検索できる情報が少なすぎるのではないだろうか。理想を言えば、せっかくテレビがデジタル化したのだ。放送波に乗って送られてくる番組のメタデータ、字幕データなどを解析してインデクシング、そのすべてを検索対象にしてほしい。台詞をキーワードとして入力すれば、いつ、どの局で放送された何というドラマで誰がしゃべったフレーズなのかがたちどころにわかるようになったら便利だ。ぜひ、BingやGoogleにはチャレンジしてほしい。