山田祥平のRe:config.sys

WindowsのようでWindowsではないものってなーんだ




 夏前からスレートPC発売の噂がたえなかったが、オンキヨーの製品を皮切りに、これから続々と新製品が登場しそうだ。そして、そのほとんどがWindowsをオペレーティングシステムとして使うようだ。果たして、本当にそれでいいんだろうか。

●タッチGUIとタッチUIは違う

 「iPad」を使うようになってずいぶん時間が経過した。個人的にずっと、タブレットならピュアタブレットがいいと思ってきた。でも、世の中のトレンドは、コンバーチブルタブレットで、いくつか発売されたピュアタブレットも、そのまま立ち消えになってしまっていった。そんなところに登場したのがiPadだ。コンバーチブルタブレットは、キーボードを持たないピュアタブレットに比べれば、大きく重くなるのは当たり前で、はっきりいって、潔くない。とても中途半端な印象を受ける。タブレットならピュアタブレットに限ると信じていた。

 iPadは、広く受け入れられたようで、今なお、入手が容易ではないようだ。だが、実際に電車の中やコーヒーショップなどで使っている場面に遭遇するのはまれで、あまり持ち出して使われていないようにも見える。やはり、気楽に持ち歩いて使うには、まだ大きく、重すぎたのかもしれない。でも、iPadでWebを見ると、Flashコンテンツが再生できないといった点には目をつぶるとして、Webを手でさわっているような位置関係を感じることができる。これは、Windowsをマウスで操作していては味わえない感覚だ。

 もちろん、Windowsにもタッチのインターフェイスはある。だから、タッチ操作でWebは楽しめるのだが、やはり、遠い感じがする。その違いはどこにあるのだろうかと、ずっと考えてきたのだが、それが、WindowsのGUIであることに気がついた。Windowsは、どこまでいってもWindowsであり続けなければならない宿命があるため、Windowsであることを捨てることができない。だから、タッチのインターフェイスで使っていても、マウス操作用のコントロールがGUIのそこかしこに目につく。スクロールバーなどが、その代表的なものだ。だから、つい、マウスを手が探してしまう。つまり、Windowsのタッチインターフェイスは、指をマウス代わりに使うためのものにすぎないということだ。

 一方、iPadのタッチインターフェイスには、マウス用のコントロールが見当たらない。それどころか、ハードウェアそのものが、マウスの接続を拒む。たとえ、マウスが接続できたとしても、かえって使いにくいんじゃないだろうか。マウス用のコントロールオブジェクトがないのだから当たり前だ。結局のところ、iPadはタッチ用のGUIを持っているが、タブレットPCやタッチPCは、タッチ用GUIではなく、タッチUIしか持っていないということなんだろう。

●ストレスをどうやって回避するか

 ピュアタブレットは、いつのまにか、スレートPCと呼称されるようになったようで、オンキヨーの製品なども同様だ。スペックだけを見ていると、iPadなどよりは、ずっと高性能で、周辺機器用のインターフェイスも充実している。そこでは、何に主眼が置かれているかというと、間違いなく、Windows用の豊富なアプリケーションのすべてが動くということだ。

 Wordで書けて、Excelで計け、PowerPointで魅せる。ファイルを表示できるだけではなく、いつものPCと同じことが、そのパフォーマンスの違いはともかく、すべてできる。Webにしても、Flashが再生できないとか、あのプラグインが動かないといったこともない。まったく同じだ。

 まったく同じものを、処理能力の低いプロセッサで使えば、そこにストレスを感じるのは当たり前だ。個人的には、過大な期待を寄せられてしまったネットブックのような運命をたどるんじゃないかと、ちょっとした危惧を持っている。

 iPadやiPod touchには、キーボードがなく、あってもキーアサインを自由にできず、超高速打鍵ができるわけではない。だから、Windowsで使い慣れて、もはや手放すことができない存在となっている秀丸エディタやATOKを欲しいとは、あまり思わなかった。でも、先日から、ATOK Pad for iPhoneを使い始めて、やっぱり賢い日本語入力システムはいいなと感じている。でも、統合環境として、ワードがちゃんと動いて、いつもどおりに文書作成ができたらいいなとは、あまり感じない。

 たぶん、自分では、タブレットを仕事には使っていないからなのだろう。もし、仕事に使うとしたら、メールはOutlookでなくてはつらいだろうし、オフラインでも大量のドキュメントを参照できないと話にならない。だから、ぼくがiPadを持ち出すのは仕事に関係のない用事のときばかりだ。

●スレートPCに目指してほしいもの

 スレートPCが、素のままのWindowsをオペレーティングシステムとして使うことで、ユーザーは、いくつかのしがらみとつきあい続けなければならなくなる。

 マウス用のコントロールオブジェクトもその1つだが、もう1つがファイルとファイルシステムだ。起動ドライブのルートを起点とする階層構造は、多くのオペレーティングシステムにおいて、エンドユーザーから見えない存在になりつつある。以前にも書いたが、古くからPCに慣れ親しんできたユーザーには、それがまどろっこしく感じられるようだが、それも時代の流れというものだ。Windowsもユーザー用の個人用フォルダを起点に、各種の用途別フォルダを置いたり、システムフォルダを隠しフォルダにすることで、ファイルシステムの複雑さを隠蔽することに成功しているが、ファイルオブジェクトをユーザーが意識しなければならない点では以前と同様だ。

 これらのしがらみから逃れるためには、いくつかの方法がある。

 1つは、新たにシェルを作ることだ。ただ、シェルを作ってアプリを起動しやすくなったとしても、アプリが開いたとたんに旧態依然としたGUIになってしまうのだったら意味がないともいえる。それに、スタートボタンと新タスクバーのGUIは、タッチ操作でも、そんなに使いにくいわけではない。

 他の方法としては、ローカルネイティブアプリの存在をいったん忘れ、HTML5やSilverlight、Adobe Airのような環境でのアプリ展開を積極的に進めることだ。オフライン時の利用をどのように演出するかに課題が残るが、これはけっこう現実的な解となるだろう。あとは、まったく別の仮想マシンで別のOSを動かすか……。

 どうしても必要なときには、ネイティブWindowsアプリケーションが動くけれど、それは保険であって、実際の利用は、別の環境という、もう1つの当たり前は作れないものか。

 iPnoneにしてもiPadにしても、Appleの本流であるMac OSの作法を捨てたわけで、それには、相当の勇気が必要だっただろう。今、もっとも興味のあるのが、この秋に予定されているiPadのOSのアップデートだ。アップデートによって変わるGUIが、iPhoneと微妙に異なるのか、それとも、できるだけ似たものになるように努力されているのかで、Appleが考える今後のタブレットのあり方が見えてくるだろう。そして、その方向性は、Windowsを使ったスレートPCにも、少なからず影響を与えるはずだ。

 スレートPCには、多くの試練が待ち受けている。でも、それは知恵と工夫でクリアしてほしい。古くからのWindowsユーザーとしては、WindowsのようでWindowsでないものはいらないけれど、Windowsではないように見えて実はWindowsだったというものなら、ちょっと興味がそそられる。