山田祥平のRe:config.sys

Androidはみんな違うから世界は楽しいと言うけれど、違いすぎるのも困る

 Androidスマートフォン。十把一絡げにされがちだが、実際には、機種ごとに使い勝手は大きく異なる。オープンなプラットフォームとして知られるAndoroid OSの自由度は、実は、ユーザーを困らせることに繋がっていないか。

ここが違うiOSとAndroid

 特に日本においてはiPhoneがスマートフォンのデファクトスタンダードになってしまったといっていいだろう。ざっくり言って使われているスマートフォンの半分以上がiPhoneで残りがAndroid、その合計と同じくらいのユーザーがガラケーを使い続けている。電車の中で乗客を観察して見てもそうだということを実感できる。

 iPhoneのiOSは、OSのバージョンもAppleのコントロール下に置かれ、そのフラグメンテーション(ばらつき)はわずかだ。ハードウェアもAppleからのみ供給されるので問題も起こりにくい。だから、iPhoneユーザーが困った時には、iPhoneユーザーに聞けば、すぐに答えが返ってくるだろう。尋ねた相手も困っているかもしれないが、その解決策を知っている可能性が高い。

 一方、Androidは、メーカーが独自の改変を加えて製品化することができる。それはもう千差万別で、場合によってはベンダーごとにまるで違う製品になる。個別にユーザーがインストールするアプリはともかく、プラットフォーム的に同じなのは、アプリの入手先であるPlayストアくらいのものだ。だから誰かに操作方法を聞かれても、どのメーカーのどの機種かを聞くことから始めなければならないし、聞いたところで一度も使ったことがない端末かもしれない。その場合はお手上げだ。

 Windows PCはその試練を何とか乗り切った過去を持つ。ベンダーごとに千差万別だったWindows PCも、今ではどのベンダーのどのPCを購入してもOSとしての使い勝手はほとんど同じだ。差異化は付加価値として提供されたり、ハードウェアとしての魅力であり、プラットフォームの改変によるものではなくなっている。だからこそ、ユーザーは安心してハードウェアのバリエーションを楽しみながら購入するPCを決めることができる。

 今後、ガラケーユーザーが大挙してスマートフォンの世界にやってくる時に、その移行先としてiOSを選ぶか、Androidを選ぶかという局面に立たされることになるのは明らかだ。だが、無難に選ぶならどうしたってiPhoneなのだ。周りにはiPhoneユーザーがとにかくたくさんいるだろうからだ。

 現状では、もしここでAndroidを選んでしまったらかなりの苦労を背負いこむことになりかねない。こうしたユーザーのためにも、キャリアショップは駆け込み寺であるべきで、ワンストップでさまざまな問題を解決できる存在でなくてはならない。そのためにコストが割高になってしまうのは、ある程度仕方がないことだと言える。

随分違うHuaweiのAndroid

 MVNOについてはどうか。昨今のMVNOは端末とセットでサービスを販売し、大手キャリアに近いビジネスを作り出しているようにも見える。そして、そこに用意されている端末のほとんどはAndroidスマートフォンだ。

 例えば、Huaweiは多くのMVNOに対して端末を供給しているのに加え、自社のダイレクト販売サイトを楽天市場に持つなど、SIMフリー端末の普及に熱心なベンダーだ。最新製品では、P8liteなどは本当によくできていると思う。約3万円という価格もリーズナブルだ。評価のためにしばらく試用させてもらったが、質感もよく、所有感もある。性能的にも問題ない。コストダウンのためか、5GHz帯のWi-Fiをサポートしていないのは残念だが、ハードウェアとしては実に完成度の高い製品だ。

 ただ、ほんの少しこの端末を使い込んでいくと、いろいろと困ったことに遭遇する。

 ぼくは、Andoroidスマートフォンを評価する際に、手元で常用している端末とできるだけ同じ環境に近付けて使い勝手にどのくらいの違いがあるかを1つの基準としている。Playストアからメールアプリやメッセンジャーアプリなどをインストールして、いつもの端末と同じように常用してみるのだ。それによって1泊2日程度の短い期間でも、ある程度のことが分かる。

 この端末のAndroidには「アプリの保護」という概念がある。これは画面がオフになっているときにアプリの実行を維持するかどうかを決めるもので、保護されたアプリのみが実行を維持される。いわゆるバックグラウンド実行をするかどうかだ。新たにインストールしたアプリは全てこれがオフになっていた。もちろん省電力のためで、この機能によってスリープ中の電力消費を抑制することができているわけだ。効果は絶大だ。バッテリ駆動時間に大きく貢献できている。問題は新規にインストールしたアプリについて、これがデフォルトでオフになっているところにある。常用メールアプリにメールが届かないので不思議に思って調べてみた結果だ。

 Android Lollipopの通知のメカニズムに対して、深く手が入っている気配も窺える。そのせいでAndroid Wearが使えない。Android Wearは個々のアプリの通知を横取りして、最適化した上で時計に送ることで成立している。例えばNexusシリーズのAndroidは、「音と通知」の設定項目の中に「通知へのアクセス」という項目があって、どのアプリに他のアプリの通知を横取りすることを許可するかを設定しておくことができる。

 p8liteにはこの項目がない。ところが、完全に機能を殺し切れていないようで、Android Wearはことあるたびに許可を求めてきて、隠したはずのこの設定画面に遷移する。だが、そこで正しく設定してもすぐに元の状態に戻ってしまうのだ。

 ホームアプリ関連でも困ったことがある。アプリが新着メッセージなどを受け取ると、ホーム画面のアイコンにメッセージ数などを表示するバッジが限定的にしか機能しないのだ。バッジはホームアプリがその表示を司っているが、既定のホームアプリ「Huaweiホーム」でバッジを表示するように設定できるのはプリインストールのシステムアプリだけだ。だから、ホーム画面を表示しただけではFacebook Messenger、Twitter、Skypeなどに新着メッセージがあってもバッジ表示が行なわれない。ホームアプリをGoogle Nowランチャーなどに変更しても同様の結果となり、さらにはバッジの表示設定もできなくなる。

 P8liteのAndroidは、iOSのバックグラウンド通信や通知のメカニズムを強く意識して構築されているように感じる。ライバルをきちんと研究している点は評価したいが、だからこそ、一般的なAndroidのノウハウが通用しないのだ。これについては賛否両論だとは思うが、これらについての問い合わせがあった時に、サポートはうまく対応できるのかどうかがちょっと心配ではある。

Androidを束にするには

 ここではたまたま直近で評価したHuawei機を例に挙げたが、Samsung機の物理ホームボタン実装やナビゲーションキーの位置関係だって同じような問題をはらんでいる。ちなみにHuawei機では、世界的シェアの高いSamsung機と同様の並びにできるように、ナビゲーションバーのキーの並び順を変えられるようにもなっている。こうした部分では至れり尽くせり感があるのだが、そのほかの部分の違いによって起こるであろう問題は悩ましい。

 乱暴なようだが、個人的にはAndroidは、全てのAndroidが同じであった方が、ライバルとしてのiOSとうまく競争できていくんじゃないかと思う。これからスマートフォンの世界に入ってくる残り半分の人々は、アーリアダプターとはほど遠い位置にいる。その人たちに、Androidを選んで失敗したと思わせないためにも、今のうちになんらかの手立てが必要なのではないか。他ベンダー機との差異化や差別化をかなえる要素はほかにもたくさんあるんじゃないだろうか。

(山田 祥平)