山田祥平のRe:config.sys

画龍10睛

~龍を画いて睛(ひとみ)を点ず

 Windows 10の一般公開が始まった。サービスとしてのWindows OSに向けた第一歩とも言えるこのバージョン、メジャーバージョンアップとしてはこれが最後とも言われている。これに乗れるかどうかは次の10年、20年への踏み絵かもしれない。躊躇せずに踏んでしまおう。

ニアファイナル疑惑

 Windows 10の一般公開が開始されるとされていた7月29日の午前0時を過ぎたところで、手元でInsider Previewを試用していた2台のPCは、片方はいくつかの更新があっただけで特に何ごともなく最終ビルドの10240のまま。もう片方は比較のために1つ古いビルドのままにしてあったが、Windows UpdateでTH1 Professional 10240に更新された。どうやら、これでファイナルということらしい。ニアファイナル疑惑もあるようだが、なんだかあっけない。

 7月29日は夜に東京都内のイベントホールでWindows 10のファンイベントが開催された。イベントが終わったところで、持参していたアップグレード予約済みのSurface 3をチェックしてみると、アップグレードが可能になった旨の通知、さすがにその場で敢行するのはためらわれたので、急いで帰宅してアップグレード処理を始めた。

 アップグレードの様子を見ながら、他のPCの状態をチェックしてみたところ、Surface 3 ProとHPのSpectre x360 にもアップデート準備完了の通知を確認、躊躇せず同時にアップグレードをスタートさせた。結局、あとからアップグレードを始めたSurface Pro 3が最初に処理を完了して無事にWindows 10となり、続いてSurface 3が追いついた。

 HPのSpectre x360は途中でまさかのブルースクリーンが発生、それでも元の8.1に何ごともなかったかのようにロールバックした。この環境は英語版のWindowsを言語パックで日本語化していたもので、普段使いでもブルースクリーンが頻繁に出ていたので、いったんリカバリしてやり直してみようと思う。(と言いつつ、この原稿を書きながら、もう一度チャレンジしてみたら無事にアップグレードが完了した)。

 2台のSurfaceについては、OneDriveのストレージ容量の関係で一部のフォルダのみを同期させていたが、アップグレード時に全部のファイルとフォルダを同期しようとしてしまう。これらはあとでいったんOneDriveのリンクを解除し、もう一度設定し直すことで解決できた。OneDriveの仕様が変わったことの副作用だと思う。

 ちなみにこの原稿は日常的に使っている自作デスクトップ機で書いているが、この環境はWindows 8.1のままだ。かれこれ四半世紀に渡ってWindowsと付き合っているが、正式に新しいWindowsが出たというのに、それを使わないで新Windowsの原稿を書くのは初めてだ。

 Windows 10のInsider PreviewがTechnical Previewとして公開されたのは2014年10月1日だったが、当初は日本語版もなく、また、仕様なのかバグなのかが分からないような不具合も散見されるまま更新が繰り返されてきた。これまでのWindowsは、プレビューはともかく、ベータ2あたりからだんだん安定に向かい、RC(製品候補版)を経てRTM(製品版)に至っていたのを考えるとプロセスが大きく異なる。テスト環境であるとはいえ実用に耐えない状態が続いていたから日常的に使うPCには入れる事がためらわれた。

 今にして思えば、プレビュー段階から、常に変わり続けるWindowsがテストされていたということなのだろう。Microsoftは2015年1月21日の説明会において、Windowsが単なるOSではなく、サービスになるということを表明しているが、まさに、それを地で行く恰好だ。

今、パラダイムが変わる

 この原稿をWindows 8.1環境で書いているのは、このCore i7-4770K搭載の古いデスクトップPCにまだアップグレード通知が来ないからだ。手元のPCをいくつか調べてみると、東芝、富士通、NECパーソナルコンピュータ、パナソニックなどの国内ベンダーのPCで予約済みのものにもまだ通知は来ていない。だが、更新準備が完了次第、すぐにアップデートするつもりだ。正式公開された以上、古い環境に留まることは考えられず、それを受け入れざるを得ないからだ。更新通知を待たずに、強制的にアップグレードするツールも公開されているようだが、メーカー製のPCについてはMicrosoftとOEMとの間の緻密な連携による段階的アップグレードの様子を体験したいので、おとなしく通知を待つことにする。

 一般的には、新しいOSについてはしばらくは様子見、状況が落ち着いたところで損益分岐点を見極め、入れるか入れないかを判断するというのがセオリーだとされている。

 ただ、Windows 10以降はちょっと考え方を変えなければならないだろう。状況が落ち着くころには次のWindowsになっているからだ。乱暴な言い方かもしれないが、その変化についていけないアプリケーションや周辺デバイス類は使うのをやめて、別のソリューションを探した方がいいと思う。

 現時点で、銀行のオンラインバンキングの一部が、Windows 10への移行を控えるようにアナウンスしているようだが、これはEdgeブラウザとの互換性が理由だ。せめて、Windows 10で利用する場合はIE11を使うことを推奨しておき、ファイナル版でのテスト完了次第、新ブラウザのEdgeでの利用に移行するくらいのことはできなかったのかと思う。例えば三菱東京UFJ銀行みずほ銀行三井住友銀行などのメガバンクのうち、みずほ銀行のみがWindows 10へのアップグレードは控えろとしている。ほかの2バンクは、推奨環境としてはWindows 10は含まれておらず、テスト中であるとし、完了次第報告するとしている。ぼくが当事者なら、これらを見て、融資などでよほどの付き合いがない限り、みずほ銀行との取引は考えてしまうだろう。ある時点での環境に留まることを強制するサービスは専用機でも配布していればいい。

 ともあれ、Windowsは、今後、生き物のように変わり続ける。様子見しているうちに次のWindowsが出てしまうのだ。どんどん変わることにコンシューマーが慣れることをMicrosoftは狙っているのだろう。

 Microsoftは、ワークスタイルの変革が起こりつつあるとも言っている。会社にいる時間だけが仕事の時間ということではないということだ。特に日本マイクロソフトは、いつでもどこでも仕事ができるテレワーク的なアプローチの実現に熱心だ。自由と工夫が排除された会社のPCでなくても仕事ができるということで、今後の社会に求められる育児や介護などの事情に左右されない就業環境だ。

 BYODの世界も手の届きそうなところに来ている。あらゆるパラダイムが変わろうとしている中で、エンタープライズのみがミッションクリティカルを言い訳に環境の踊場をエンドユーザーに押し付ける。コンピューティングに対する創意と工夫を抑制することが彼らの仕事だ。けれども、そのエンタープライズに入ってきて企業の未来を担う新人は、変わる環境に慣れきったデジタルネイティブな若者たちだ。

 MicrosoftはWindows 10でWindowsをサービスにしようとしているが、そのために、まずはコンシューマライゼーションを起こすことを一義としたのではないか。ファンイベントで日本マイクロソフト 代表執行役社長平野拓也氏に聞いてみたが、今後、明らかにMicrosoftとエンドユーザーの距離感は縮まるだろうし、OEMと良い関係を保ちながら、Microsoft自身も、コンシューマーの声により積極的に耳を傾けていきたいというコメントをもらった。

 変わるのはWindowsだけではない。躊躇せずに10に昇ろう。いや決して昇天という意味ではなく……。

(山田 祥平)