山田祥平のRe:config.sys

スキャナじゃないよ、ライトだよ

 PFUが「SnapLite」を発表した。ちょっと珍しいカテゴリの製品で、もしかしたら誤解されてしまうかもしれない要素もある。とはいえ、これからのスマートフォンアクセサリの世界を拡げていくかもしれないチャレンジだ。

アプリで操作できる照明器具

 あのScanSnapでお馴染みのPFUの新製品だ。てっきりイメージスキャナなのだと思って記者会見にでかけたが、そこで発表されたのはSnapLiteという、その名もズバリ「ライト」だった。つまり、照明器具なのだ。

 正確に言えば、iPhoneのカメラ機能に最適化されたワイヤレスシャッター&ライト付き自立型一脚だ。

 本体は照明スタンドそのもので、脚部にはタッチスイッチが2つ。1つは電源スイッチ、もう1つはリスのマークのシャッターボタンだ。電源スイッチを押すと、LEDが光り、下方を照らす。首の角度は変えられないが、とりあえず、これで照明スタンドとしてベッドサイドなどで使うこともできる。脚部には電源供給用のUSB端子も装備されていて、ここからケーブルを出してデバイスの充電にも使える。

 LED部はちょっと角度がつけられていて、上部にiPhoneを載せることができるようになっている。iPhoneとSnapLiteは、Bluetoothでペアリングされ、アプリを起動して上部にセットすると自動的に撮影モードに入るようになっていて、電源スイッチを手動でオンにすることなく照明が点く。このとき、iPhone本体の角度とその状態での静止がiPhone装備のジャイロセンサーで検知されるのがトリガーになるという凝りようだ。

 そして、LEDからの光は少し角度がつけられて下部を照らす。これで、下方に置かれた被写体は斜光となり、トップ光のように光源が直接被写体に映り込んでしまうことを抑止する。

 アプリを起動しておき台に載せるだけで取り込みの準備はOKだ。脚部のリスボタンをタッチすると、あらかじめ指定した時間後にiPhoneがシャッターを切る。デフォルトは0.5秒だが、これはもっと長めにセットできる。いわばセルフタイマー的にも使えるようになっている。

 LEDで照らされるとともに、レーザー光で、フレーム内に映り込む目安位置をガイドしてくれる。だから、iPhoneのスクリーンを見なくても、レーザーガイド内に被写体を置き、SnapLiteのリスをタッチすればいいわけだ。タッチしてからの秒数をうまく設定すれば、両手を写し込んでの撮影もできるだろう。

 撮影されたイメージは、iPhoneのカメラで撮影した写真そのもので、ごく普通にカメラロールに記録され、ほかのアプリで共有することができる。

 光の色は2色用意され、アプリからもSnapLiteの電源ボタンからも変更することができる。いわゆる白色と電灯色だ。好みと被写体によって使い分ければいい。色変更や明るさ変更もアプリでできる。

 名刺やレシートであれば複数枚を一度に撮影しても自動的に別のイメージとして取り込める。傾き補正も当然のごとくできる。また、フレームに入りきらない大きな被写体でも、2度に分けて撮影し、そのイメージを合成して1枚の写真にするなど、ScanSnapで培った便利機能がサポートされている。

 使い方はユーザー次第だが、料理の撮影や小物撮影などに便利そうだ。オークションに出品するブツ撮りにも役立つだろう。A4程度の書類や、文庫本の自炊くらいはできそうな感じだ。

 一脚であるということからシャッターを押したタイミングでブレることがない。また、LEDで斜め上方から照らされ、画角も斜めからとなる。だから立体物はより立体的に映る。手でiPhoneを持って撮影するよりも、よりシャープな写真ができあがる。それだけで、写真の印象はずいぶん変わるだろう。まさに写真の教科書に載っているような注意を全部守れるからだ。

楽しい道具でスキャンを楽しく

 iPhoneに限らず、スマートフォンのカメラに使われている撮像素子は極小だ。また、レンズの口径も小さい。したがって、被写界深度は比較的深い。ボケの欲しい写真は撮りにくいかもしれないが、記録のための写真にはもってこいだ。しかも環境光に加えて適切なライティングがあり、手ブレもないとすれば、ブツ撮り写真としては一流だ。加工が必要なら、そこから別のアプリで手を加えればいい。元がよければ加工後もクオリティは保たれるだろう。

 これでまたSNSなどで見かける写真に、いろいろと変化が訪れるのだろうなと思う。

 PFUのドキュメントスキャナは今、100カ国に展開し、シェアにして50%以上を誇るという。それでも同社としてはまだまだニッチな領域だと考えているらしい。広い層に情報をもっと活用してほしいと願うものの、一般のユーザーが日常的に使うには、スキャナという機器はまだまだハードルが高いとする。

 そこで、発想を180度転換し、日常的に使っているデバイスそのものを使って魔法のように便利な道具にすることはできないかという構想を持った。そしてできあがったのがSnapLiteであり、ScanSnapとはまったく異なるブランドとして、家庭における日常で自然に使えるデスクライト型製品として登場させることになった。普段はデスクライト、iPhoneをサッと置けばスキャナにというわけだ。

 この製品によって、今まで経験したことのない行為を身近な行為にしていきたいとPFUはいう。ちなみに、SnapLiteのロゴマークはリスなのだが、その尻尾は“S”をイメージしたものとなっている。スキャナは便利な道具ではなく楽しい道具にしたい。PFUではそんな風に考えている。

汎用規格を専用に使う

 この製品は、スキャナとしてはiPhoneがなければ成立しない。iPhoneを高性能スキャナにするための機器であって、この製品がスキャンの機能を持っているわけではない。冒頭に書いたようにiPhoneのカメラに最適化されたワイヤレスシャッター&ライト付き自立型一脚なのだ。

 試しに、手元のAndroidスマートフォンを同じように置いてみた。画角も悪くない。シャッター操作は本体側で行なう必要があるし、フレーミングもスクリーンを見なければならない。とりあえずは使える。

 でも、iPhoneなら、そういうことを考えなくて済む。

 世の中には汎用的な製品が少なくない。Bluetoothは標準規格であり、何にでも繋がることがその特徴でもある。そのためにいろんなプロファイルが用意されている。

 でも、SnapLiteをAndroidスマートフォンのBluetoothでスキャンしても見つかりさえしない。また、本体には、ペアリング待機用のボタンも用意されていない。iPhoneがなければ本当にただの電気スタンドなのだ。

 それでいい。専用アクセサリなのだからそれでいいと思う。アプリを起動すれば、勝手に繋がり、台に載せれば撮影モードに移行する。Bluetoothで繋ぐことさえ意識しなくていい。実際、iOSの設定画面を見てもBluetoothデバイスとしては存在しない。それでもBluetoothをオフにすると、オンにしろとメッセージを表示する。

 日本は特異な市場でiPhoneのシェアが高く、仮に、こうしたアクセサリを欲しいと思うユーザーが100人いたとして、そのうち60人以上はiPhoneユーザーだろう。残りの30人ちょっとを捨てることを覚悟でiPhone専用にしたのは大正解だと思う。ScanSnapは両OS用のアプリを用意したが、今回の製品は、そうしないでよかったようにも思う。iPadにもアプリはインストールできるし、正常に作動もするが、なんらかの方法で固定しないと台から落ちてしまう。iPad miniでも同様だ。だからiPad用に最適化もされていない。

 PFUでは、反応によってはAndroid用のアプリも提供したいとしているが、アプリだけで成立させられる世界観ではないものをPFUは作ってしまったのだと思う。そして、その世界観が、これまでとはちょっと違った市場を拓いていくかもしれない。

 SnapLiteアプリは無償配布だが、周辺機器としてのSnapLiteがなければ意味がない。まさに一心同体だ。有料アプリの市場は、利益の確保がなかなか大変だと聞くが、機器との組み合わせで提供すれば、開発にかかるコストは、それで相殺できるだろう。そのことによって、別の市場を見出せるのは、米国等のおもちゃ事情を見れば想像できるというものだ。大ヒット単体アプリの創出は難しくても、機器が売れればそこでアプリ開発費を回収できる可能性が高くなる。そして、利益も出るかもしれない。

 PFUが、そのあたりをどう考えているかは分からないが、これまでのScanSnapのビジネスによって、ハードがなければアプリの意味がなく、アプリがなければハードの意味がないことを深く理解しているはずで、今後の展開が楽しみではある。

(山田 祥平)