山田祥平のRe:config.sys

「a」の下剋上と、それを選ぶスマートリテラシー

 ほぼ倍近い価格差があるスマホがラインナップにあり、できることはほとんど同じ。パフォーマンスも変わらない。それがPixelシリーズだ。何しろ同じ最新のAI対応SoC「Google Tensor G3」を搭載した同じブランドの製品が松竹梅と並ぶ。上位機種、下位機種といった階層の概念が、ここではちょっと異なっている。秒進分歩の進化の中での電子機器の世界ではよくある話だが、Pixelのaシリーズはどうなのか。

しょせんaか、うまいaか

 例年通り、Googleが同社スマホのPixel aシリーズを刷新、「Google Pixel 8a」を発売した。

 Pixel 8 ProとPixel 8が発売されたのが昨秋で、そのほぼ半年後が今というタイミングだ。1年に2度のタイミングは歓迎すべき予定調和だ。これは褒めている。

 最初のaシリーズは2019年のPixel 3aだった。以来、コロナ禍下での4aや5a、6a、5G通信に対応した追加機種の4a(5G)などが少し後ろにずれこんだものの、ほぼほぼ秋にProと無印、春にaというパターンが踏襲されてきた。

 廉価版というと聞こえは悪いが、買う側にとってはProと無印で紹介された目新しい機能が半年後にサイフにやさしい価格で手に入るというのはうれしい。

 そのアドバンテージを最大限に生かすには、aシリーズは発売直後に購入するのがいい。旬の機能が先行するProや無印の発売から半年という短い我慢で自分のものになり、そして、次のProや無印の発売まで、たっぷり半年あるからだ。

 PixelのPro、無印、aの価格は、14万円、11万円、7万円といったところだろうか。実際には、キャンペーンや下取りなどを利用してもっと安くで手に入る。Proと無印の違いは画面サイズとその輝度や画像品位、望遠レンズの有無とメモリ容量、そしてミリ波対応などで、3万円の価格差だとすれば、それなりに豪華な付加価値詰め合わせになっている。

 一方、無印とaでは、4万円の価格差があるのにその違いがほとんどない、というか、極めて上手に付加価値の有無が隠蔽されている。

 たとえば今回の8aは6.1インチのスクリーンの四隅のRが大きくなり、さらにはベゼルも広額だ。たぶんかかるコストは抑えられている。でも、それをかわいいイメージだととらえればそれが正義に感じるから不思議だ。

 これを「しょせんa」ととるのか、「うまいa」ととるのかはユーザー次第ではあるが、この巧みさは高く評価すべきだろう。しかも、この円安の時代にこの価格で手に入るスマホが、上位とされる先行機種に匹敵する機能を全搭載というのはすごい。

 そこには同じSoCを同じOSで動かす以上、特定のハードウェアに依存する要素以外は同じであるべきだという強い意志が感じられる。Googleが実際にそう言っているわけではないが、世の中の有象無象のAndroidスマホが、共存共栄できている1つの理由として、そういうことが反映されているからかもしれない。

すべての人にAIのすべてを

 それはさておき、今年は、例年の開発者向けイベント「Google I/O」がAI一色だったことで、目新しいエンドユーザー向けスマートデバイスの発表がなかった。そのせいか、Google 8a発売の告知も地味だったようだが、今回のカンファレンスで発表された数々の新しいAI施策の恩恵を、Pixel Proでも無印でも、そしてaでもほぼ対等に得られるようにするというのは、Androidコミュニティを牽引する企業の姿勢として、高く評価したいし応援したいと思う。

 得られるものが同じであったとしても、それはそれ、スマホはすでに毎年買い替えるものではなくなり、壊れてから買い換えの機種を物色するといった流れになりつつある。

 だが、電話の発着信ができて、メールやメッセージの読み書きができて、地図が見られて、多少のゲームができるといった程度のことなら、どんな価格帯のスマホでもなんとかなる。でも、それをよしとしてしまっていいのかどうか。

 スマートリテラシーというか、めまぐるしく変わる便利さの恩恵を、少しでも多くの人々が得られるようにするためには、やはり、エンドユーザーである個人一人一人がそれなりのスキルを身につけ、デジタルに慣れ親しむことが必要だ。

 世の中には、何も分からない人にも使えるようにするべきだという議論もあるが、それはそれで進めつつ、努力をした人はそれなりの恩恵を得られるようになるべきだと個人的には考えている。

 いわゆるデジタルデバイドをなくし、決して誰一人取り残さないという方向性だけを第一義にしてしまうと、スマートリテラシーの水準をかなり低いところに置かなければならなくなるからだ。逆に、あらゆる利便をあらゆる製品で使えるようにすることで、手の届かないテクノロジがなくなる。

 Pixelのaシリーズは、そういう役割も担っているのだろう。Geminiに代表されるGoogle AIがもたらすバリエーションに富んだ近い将来のスマートライフが、Pixelユーザーのすべてに行き渡らないことには話にならない。

 生成AIによる新たな検索体験、写真を検索する以上のスマートなタスクを提供するAsk Photosなどの目玉機能は、より多くの人々に試してもらったほうがいいに決まっている。

 なにしろ、Googleが今掲げているミッションは、AIをすべての人に役立つものにするということで、それが最終目標となっている。すでにGeminiは新しいAIアシスタントとして実装することができるようになっている。

 7万円ではAIのもたらす未来はカスミがかかって見えないけれど、15万円出せば全部見せるといったことはしない。すべての人にAIすべてを見せる、それがGoogleの姿勢だ。

スマホの買い方が変われば売り方も変わる

 今、立ち位置としてスマホは踊り場にいるといってもいい。懸命にアプリを探し、あれができるようになった、これができるようになったと大騒ぎしていた時代も今は昔。たかだか10年ほどで、シンプルな平たい板でできることはやりつくしたくらいに思っているだろう。

 だからスマホの買い換えは壊れた時というパターンも増えている。そういう存在になりつつあるのだ。これは冷蔵庫やTVと同じだ。

 新しいスマホの選択時に、aしか買えないという層もいるし、aで十分と判断する層もいる。こうしてaを支える層はぐっと厚みを増していく。どちらの層の期待も裏切っては大変なことになる。だからこそaの存在は重要だ。

 今、スマホの真価が問われている。そこに強く貢献できるのがAIだ。手のひらに乗るコンピュータの夢がかなったら、その次は、手のひらに乗る有用なアシスタントが求められる。もちろん優れたオンデバイスAIも必要だ。

 GoogleがPixelシリーズを出し続けるのはそれを動かす先端的なハードウェアを、あらゆる層の人々に提供しなければならないからだし、aシリーズは、それを受け入れる層の拡大に大きく貢献する。先行機から半年後というスケジュール感が遵守され続けていることこそ、着実に次に進んだことの証でもある。