山田祥平のRe:config.sys
これもAI、あれもAI、たぶんAI、きっとAI、その定義を急がないと、きっと面倒くさいことになる
2024年2月3日 06:09
今のうちに、ちゃんと決めておかないと、あとあと面倒なことになるに違いない。AIの明確な定義だ。定義できるものなのかどうかも難しいが、定義がないから再定義も難しい。進化についても曖昧だ。なんとなく、猫も杓子もAI的な状況になっているが、このままでいいはずがない。
学ぶからこそのAI
AIは一般に人工知能と訳される。AIがArtificial Intelligenceの頭文字をとったものなので、その直訳だ。困ったことに、その定義は曖昧だ。
ちなみに文部科学省のサイトには子ども向けにキッズページがある。そのページの「見てみよう」というコーナーに「AIってなに?」という項目があった。そこには機械であるコンピューターが「学ぶ」ことができるにようになったマシンラーニングにより、「翻訳や自動運転、医療画像診断や囲碁といった人間の知的活動に、AIが大きな役割を果たしつつある」と書かれている。確かによく分からない…。
「命令を忠実にこなす」だけだったコンピューターが「学ぶ」ことができるようになったことが重要なポイントのようだ。命令に従ってメモリやストレージに記憶/記録するのではなく学ぶのだ。
その「学ぶ」にしたって学ぶように命令されたからだと言ってしまえば元も子もないが、そこはそこ、人間だって、親に言われていやいや机に向かうことから学習を始める。そしておもしろくなれば、親に言われなくても自律的に机に向かい、学習に夢中になったりもするわけだ。記憶と学習は次元が違うとも言える。
ちなみに手元で使っている電動歯ブラシはOclean X Pro Digitalという製品なのだが、アプリと連携させてAI判定による専門的なアドバイスを受けられたりもする。また、愛用のオープンイヤー型ワイヤレスイヤフォンAnker Soundcore AeroFitは、クリアな音声通話のためにAIノイズリダクション機能を搭載している。大きめ家電ではパナソニックのエアコンがエオリアAI搭載で、使うたびに部屋の環境を覚えて節電したりもする。まさに猫も杓子もAIだ。
「記憶」と「学習」は違うかも
コンピューターが学習して賢くなるというのを最初に実感したのは日本語入力の学習機能だった。もう半世紀近く前のことだが、「直近で確定した変換結果が次の同音変換時には優先されて第一候補になる」という学習は、ものすごくシンプルだが、ものすごく役に立って、最初に使ったときに感動したのを覚えているが、今にして思えば、それは機械学習(マシンラーニング)ではなく機械記憶にすぎなかったのかもしれない。
かな漢字変換に関しては、NECが1990年頃のPC-9800シリーズ用オペレーティングシステムMS-DOS3.3に、NEC AI変換という名称の日本語入力フロントエンドプロセッサ、今でいうところのIMEを提供していた。あれは本当にAIだったのだろうか。
2001年にはスピルバーグの映画「A.I.」も公開された。SFドラマであり、愛することを学習した少年ロボットの悲しい物語だった。
また、今なお多くのファンに愛される鉄腕アトムは個人的にも大好きなキャラクターだ。1952年からコミック、1963年からアニメシリーズとなった作品だが、この原子力エネルギーで動き、人間と同等の感情を持ったロボットは、人工知能ではなく電子頭脳を持っていた。
人工知能と電子頭脳の違いはよく分からないのだが、少なくとも作者の手塚治虫自身が60年代半ばに書いた「アトムと私」というコラムの中では、アトムが持っているのは電子頭脳で、人類が作った宇宙衛星は人工衛星と表現していた。
コンピューター的な電子回路の仕組みなしに知能や頭脳を実現するのが不可能なら、ニュアンス的にAIは本当は電子知能とするべきなのかもしれない。本当は電子と電気も区別しなくちゃとも思う。
コンテンツがわいてくる
AIだけでもややこしいのに、ほんの少し前に登場したと思いきや、一気に浸透したのが生成AIだ。ジェネレーティブAIとも呼ばれるこのAIは、コンテンツを作る能力を持っていることから生成AIと呼ばれる。
ということは、それまでのAIはコンテンツを作ることができなかったことになる。表面的にはちょっと人間に近づいたイメージがある。従来のAIは学習はできても、その処理結果はコンテンツというにはほど遠かったということだ。
AIは人間が学習するメカニズムを模倣してデータを処理をするそうだ。そのメカニズムをニューラルネットワークという。マシンラーニングの手法の1つだが、ヒトの脳内の神経細胞であるニューロンを数式的なモデルで表現したものだ。
その処理が得意なプロセッサがNPU、その名もニューラルネットワークプロセッシングユニットだ。CPU、GPUに続く3つ目のプロセッシングユニットで、ついに、IntelもCore Ultraプロセッサで統合し、40年に一度の革新を叶えた。NPUは、まさにニューラルネットワーク処理のためのユニットで、この新世代プロセッサを搭載したコンピューターがAI PCと呼ばれる。でも、AIの明確な定義はまだだ。
処理手法の点からAIを定義することはできそうだが、果たしてそれが分かりやすいかどうかは別問題だ。最終的に「コンピューター制御」とか「マイコン制御」といったものと同じになってしまっては意味がない。
ヘルスケアもNVIDIAの仕事
先日、NVIDIAが同社のヘルスケアビジネスにおける最新情報を紹介するブリーフィングを開催した。気軽な気持ちで参加したのだが、それはもう奥が深い内容で、浅学にして考えが追いつかなくて途方に暮れてしまった。
同社は、ヘルスケア業界ではコンピューティングの出現以来最も劇的な変革が起こっているという。そして、デジタル生物学と生成AI が、創薬、手術、医用画像、ウェアラブル デバイスの再発明に今、まさに貢献しているのだとも。
NVIDIA は、10年以上に渡ってこの瞬間に備え、NVIDIA Claraというヘルスケアに特化したコンピューティングプラットフォームを開発してきた。そして、パートナー各社とのエコシステムを拡大してきたのだが、創薬分野では、こうした取り組みが転換点を迎えているともいう。なぜなら薬の研究開発チームはコンピュータ内で薬を表現できるようになったからだ。
創薬のための生成AIモデルを開発し、それをカスタマイズ、展開するためのサービスを提供するプラットフォームであるNVIDIA BioNeMoは製薬会社、テックバイオ会社、ソフトウェア会社によって使用され、医薬品の研究開発のための新たな手法を提供する。つまり、科学者が生成 AI を統合することで実験を削減し、場合によっては完全に置き換えることもできるという。創薬はAIが薬を生成することを指すということか。
AIによって、これまで不可能だったことが可能になるとNVIDIA。通常のコンピューターでは解決できない問題を解決するための支援ができる。だが、それはたやすいことではない。フルスタックでのイノベーションが求められると同社は説明する。
医療技術業界は革命期に差し掛かっているのだそうだ。近い将来の医療デバイスはソフトウェアデファインドとAI対応が鍵となり、さまざまな医療機器がつながるようになる。
そして、あらゆる医療機器がロボティクスになっていく。いわゆるロボット手術なども当たり前の時代がやってくると同時に、コンピュータ支援の創薬手法はさらに進化する。
80年代頃からさまざまなコンピューティングのアプローチが生まれてきたが、今は、もう一度コンピューターで何ができるかの再発明をしているところだと同社は説明する。そして、AIはヘルスケアの領域をテクノロジ産業へと発展させる。だからこそ次世代の創薬エコシステムはものすごいスピードで成長しているし、NVIDIAはそれをさらに加速する。
これもAI、そして、きっとAIだ。