山田祥平のRe:config.sys
データ通信専用サービスはなくなるの?
2022年2月12日 06:36
通話、データ通信、SMSは、通信事業者が提供するサービスの3つの柱だ。これらがコミュニケーションを支える。通話サービスはそのうち消え去るのではないかと思っていた。データ通信で代替できるからだ。ところが、どうやら、そうは問屋が卸さないようだ。
通話サービスは必要とされていないという現実
ドコモのahamoでは、その基本料金に国内通話料金5分無料が含まれる。ところが、auは、povoのサービスイン時、同等サービスをトッピングと呼ばれるオプション提供とし、見かけの基本料金を下げた。最初のサービスイン時の2021年3月には、これによって見かけの基本料金がahamoより安く見えた。
2021年1月に開催されたauの説明会では、20代のauユーザーの6割以上が1カ月あたり10分間しか通話していないという事実が明らかにされた。だから「かけ放題」等のプランをサービスから切り離したという説明があった。
多くのユーザーがLINEやMessengerなどのSNS付帯の無料サービスを利用して通話をするため、通信事業者側が提供する通話サービスを必要としていないという判断をしたということだ。
これはとてもよく分かる。かけ放題どころか、通話ができなくてもあまり困らなかったりもする。データ通信専用のサービスで十分なのだ。ただ、SNS経由でのコミュニケーションができない相手と連絡しなければならない場合もあり、保険的な意味合いで、とりあえず、高額でも通話ができるサービスを契約しているケースがほとんどだろう。
リッチなコミュニケーションに音声は必須
デバイス的な観点からこのトレンドを考える。スマートフォンは携帯電話が出自であってそれに装着するSIMが音声通話をサポートしていることは自然に受け入れられる。
ところが、iPadなどのタブレット製品はどうか。また、LTE/5G対応PCはどうだろう。スマホなら音声通話ができて当たり前と思っていても、これらの端末で音声通話ができる必要性はあまり感じないということが多そうだ。
もっとも、これらの端末でも、TeamsやZoomといったオンラインコミュニケーションツールによって、通信事業者が提供する音声やビデオ通話のシステムよりも、さらに高度なコミュニケーションが行なわれている。
すなわち、これらの端末に音声がいらないというわけではない。いや、むしろ、以前よりずっと大事な要素になっていると考えてもいい。ただ、それを電話会社の音声通話サービスに頼らなくなっただけだ。このトレンドは、当面、続くことになるだろう。
データ通信専用に音声付きプランを使わせるキャリア
さて、その一方で、通信事業者が提供するサービスに、データ通信専用プランの選択肢がなくなりつつある。
例えば、ドコモは5G対応ノートPC「ThinkPad X1 Nano」を提供しているが、その対応プランとして、
- 5Gデータプラス
- 5Gギガホ プレミア
- 5Gギガライト
- ahamo
を挙げている。
これらは筆頭の「5Gデータプラス」を除き、音声付きのプランだ。データプラスは、「ドコモのギガプラン」を契約している回線をすでに持っているユーザーが「5G データプラス」の契約で、月額1,100円で利用できるデータ通信専用プランとなっている。
元のプランのうち30GBまでを共有できる。すなわち、ドコモの契約者以外がPC用にドコモのサービスを契約する場合には、音声付きのプランを選ぶしかない。ドコモに問い合わせたところ、同社としてもスマホのと同様の料金プランを案内、提供しているということだ。
一方、auはどうか。auはタブレット向けには専用のプランが用意されているが、これらはPCでは使えないとしている。KDDIに問い合わせたところ、PC用には法人向けを除き、データ通信専用プランの提供がなく、音声向けのプランを自己責任で利用してほしいとのことだ。以前はデータ専用プランがあったUQについても、現在は受付を終了している。
キャリアにとって通話機能は最後の砦?
つまり、現状では、LTE/5G対応PCでモバイルネットワーク通信をするためには、音声付きのプランを選ばざるを得ないという状況にある。使う、使わないは別にして、音声通話サービスを付帯しないサービスの契約はできなくなる傾向にあるからだ。
ちなみに、Windowsでは、装着された音声通話対応SIMを使って音声通話をする機能は提供されていない。ただし「Windowsオペレータメッセージ」という管理アプリが用意され、SMSを受信し、その内容を読み取ることはできる。とは言え、新規メッセージの送信や返信はできない。
まあ、それだけでも二段階認証などでSMSで何らかのコードが送られてくるような場合にも困らないようにはなっている。ただ、設定アプリから呼び出して開くようになっているので、発見は大変かもしれない。
SMSの到着時には通知がバルーンを表示するので、それを開けばたどり着ける。そこまでやるなら、どうせならSMS送信や音声通話などもサポートすればいいのにと思うのだが、そういうわけにはいかない大人の事情があるのだろう。
そういうこともあって、PCではオンラインでの新規回線契約をしようにも、eKYC(electronic Know Your Customer:電子本人確認)ができないというおかしな状況になっている。
キャリアが明言しているわけではないが、やはり、音声通話ができないサービスは、彼らは提供したくないと考えているように見える。契約時の本人確認のこともあるだろうし、契約時や解約時、サポート時のUI/UXなどを最終的にスマホに頼ることができる方が面倒がない。有象無象の環境が、状況の切り分けを難しくするPCでは問題が起こったときの解決も難しい。
でも、消費者側から見れば、いらない機能にカネを払わなければならないのかという気持ちにもなろうというものだ。とは言え、VoLTEなどによって回線交換以外の方法で音声通話が実現されているなら、そこにかかるコストはわずかだろう。機能の有無でサービスを分けるよりも一本化しておいた方が管理コストは減るかもしれない。
ネットワークの使われ方自体がシンプルになりつつあり、あらゆるコミュニケーションがデータ通信に収束していく一方で、キャリアは頑なに旧来の音声通話こそが通信の基本であるかのような姿勢を崩さない。
あっても邪魔にはならないかもしれないけど、着信にさえ気が付けないのなら、機能がないのと同義だ。でも通話機能を残しておく方が、何かにとって都合がいいのだろう。本当は、その理由を知りたい。