山田祥平のRe:config.sys

脱コロナに備えたディスプレイ考

 コロナ後の世界では、ハイブリッドワークスペースが当たり前になる。在宅やオフィスではリッチな環境を確保しつつ、ホテル、カフェといったテレワークスペースのためにモビリティも確保する。両方を求める新しい当たり前には、何がなんでも大画面というわけにはいかない事情がある。

シンプルを極めたデルのモバイルディスプレイがデビュー

 ついにデルがモバイルディスプレイを発売した。「C1422H」は、同社のラインナップの中ではコラボレーションシリーズに分類された製品で14型フルHD解像度の小型軽量ディスプレイだ。

 表面処理は非光沢、制御部がスタンドとなって本体のみで自立し、制御部の左右両側にUSB Type-Cポートを装備する。また左側には輝度調節のシーソーボタン、ブルーライトを低減するComfortViewボタンが、右側には電源ボタンが配置されている。コントラスト調整は非対応だ。

 ポートやボタンはすべて制御部にあり、パネルには突起や端子はない。PCとの接続はUSB Type-Cのみで、HDMIなどでの接続はできない。スタンドはパネルとのヒンジで80度まで開く。つまりパネルをまっすぐに直立はさせられない。視野角は垂直方向、水平方向に178度で問題ない。色域は72%NTSCだ。

 付属のケーブルは1mの両端USB Type-Cのもので、製品ページの表現では「柔らかくてしなやかなワイヤ」と表現されているのだが、あまりそういう印象は受けなかった。ケーブルにははっきりと「Type-C Gen1 5A PD3」と印字されている。5Gbps、USB PD対応の5Aケーブルだということが一目で分かる。

 すべてのUSBケーブルがこうあってほしい。ただ、ケーブルチェッカーで確認してみたところ、eMarkerは実装されていたがAlt Modeには対応していなかった。つまり、映像は、DisplayPort Alt Modeではなく、DisplayPortトンネリングで伝送されるはずだが、マニュアルにはAlt Modeと記載されている。

 念のためにeMarkerなしの無印仕様不明ケーブルで試したが表示に問題はなかった。なお、ポートにマウスやスピーカーマイクなどほかのUSB Type-Cデバイスを接続しても機能しない。

 ディスプレイの両側にType-Cポートがあるというのは使い勝手がいい。Type-Cポートの位置はPCによって異なるので、すっきりした配線の自由度を考えると、左右どちら側でも接続できるのは便利だ。

 片方から映像を入力し、もう片方にはUSB PDで電力を供給すれば、ディスプレイは自分が使う分を差し引いて反対側のType-CポートにパススルーしてUSB PDの電力をPCに供給する。

 ただし、パススルーされるのは最大65Wまでに制限されている。供給が90W以上で65W、65Wで45W、30W未満で7.5Wパススルーが仕様だ。

 ディスプレイは7.5Wあれば十分に稼働するので、PC側のポートが空いているならそちらに電源を供給した方がオトクだが、自宅等にディスプレイを置きっぱなしで使う場合は、外出から戻って持ち帰ったPCに1本ケーブルを接続すれば済むパススルー利用が便利だ。

 モバイルディスプレイとしては、最後発に近い存在の製品だが、特段の付加価値があるわけでもない。極めてオーソドックスでシンプルな仕上がりになっている。ビジネスに余分な機能はいらないと言わんばかりだ。

 スピーカーも内蔵していないのでサウンドについては接続するPCに委ねることになる。このビジネス一辺倒とも言えるストイックな方針は日本HPやレノボのモバイルディスプレイ製品全般に共通している。デルもまたそれに倣った形だ。

 スペックとしての重量は590g(評価機での実測では603gと少し重かった)と軽量だ。厚みも実測でディスプレイ部は4mm、スタンドを兼ねた制御部は8mmで持ち運びには何の不便もない。気軽にノートPCと重ねて携行できる。

 もう、これ以上、そぎ落とすことはないというくらいにシンプルな製品で、2枚目のディスプレイとして誰でも迷うことなく使うことができそうだ。

省スペースのためにディスプレイを縦に並べる

 モバイルディスプレイがあればノートPCの画面を拡張することができる。画面の広さは作業効率をグンと高める。

 あるいは、対面でのミーティングなどで向き合った双方が、複製した同じ画面を見ながら話をするときなどに、相手に正面から自分の操作している画面を見せることができる。ソーシャルディスタンシングという点でも望ましい距離がとれるだろう。

 2画面の使い方としては、どうしても横に並べることを考えてしまいがちだが、縦に積むことにも試してみたい。

 例えば、ノートPCを使ってオンラインミーティングなどで相手と話をする際、ノートPCのカメラは多くの製品でディスプレイ上部中央付近にある。別の画面が横にあると視線がずれてしまって相手に与える印象がよくない。

 だが、ディスプレイを上に積めば顔の向きの不自然さを回避することができる。カフェのテーブルなどでノートPCの横に並べるスペースが確保できないような場合にもいい。アフターコロナの時代には、色々と今まで考えなかった要素に気を使わなければならなくなるのだ。

 ノートPCのディスプレイの上に、この製品を縦に置くには設置の高さを15cmほど嵩上げする必要があるが、この微妙な高さを確保するのはなかなか難しい。

 100均等で最適なボックスなどを探してみるといいだろう。冒頭の写真では折りたたみスツールの上に置いている。ここまで大仰なものでなくても、高さを確保できるなら背が高めのタンブラーのようなものの上にだって置ける。

 また、上下をひっくり返し、スタンド部分を使って棚にひっかけるような方法でもいいし、紐で吊すようなこともできる。もっとも、落下させたり、倒したりすることのないように注意してほしい。創意工夫で縦積みを実現してみよう。この薄さ、軽さであれば、色々な方法が考えられるはずだ。

作業効率が一気に2倍になるソリューション

 デルのサイトでのダイレクト価格は3万2,980円だ。特典キャンペーンでは少し安くなるようだが、それでもこの金額を出せば23.8型でUSB Type-C Hub付きの「P2422HE」のような製品に手が届きそうだ。設置スペースに困らないなら、より大きな画面の方がいいに決まっている。予算に余裕があればモバイルと据置両方を揃えるのが理想だ。

 ただ、誰もが大画面の据置ディスプレイを設置できるスペースを常時確保できるわけでもない。それにできなくはないが据置ディスプレイは持ち運びも不便だ。予算にも限りがある。

 現実的な作業の効率化と携行性を考慮すれば、モバイルディスプレイはハイブリッドワークの救世主と言ってもいい。在宅勤務で居宅内ノマドを強いられる立場だとすればこれしかないだろう。

 2019年頭のCESでデルのArun Singh氏(Director, Consumer Display)にインタビューしたとき、デルはモバイルディスプレイには当面興味はないと断言していたのを思い出す。

 当時の同社のディスプレイビジネスは、OLEDディスプレイの低廉化による次世代製品、ゲーム用ハイスピードディスプレイ、そして、4K、8Kへの注力が主眼だったが、今回は、究極的にシンプルなモバイルディスプレイを提案しているのが興味深い。

 この1年ほどの間で急速に市場を拡げたモバイルディスプレイも、その付加価値として、4K対応や大画面化、タッチ対応などが求められるトレンドもあり、実際、そういう製品も続々と登場していて目が離せない状況だ。

 ベンダーを選ばなければ価格もかなりこなれてきている。そんな中でのデルの参入は、ようやくという感が強く、ここまで出遅れたなら16:10アスペクト比やUSB Hub付きなどの付加価値があってもよかったんじゃないかとも思う。

 ともあれ、マルチディスプレイ環境など無理と最初からあきらめるのではなく、今よりも、少しでもいい環境を手に入れよう。モバイルディスプレイという選択肢は、そのためのもっとも即効力のあるソリューションだ。周辺機器の追加や本体の強化でも効率が一気に2倍になるソリューションはまずない。でも、モバイルディスプレイならそれが叶う。例え仮想であろうともやっぱり机は広い方がいい。