山田祥平のRe:config.sys

拡張が「ない」を「ある」に変える

ないならないで外付けすればあるに変わる

 先日、都心の100円ショップCan★Doで興味深い商品ディスプレイを見かけた。なんと、USBでPCに接続するテンキーボードが大量に並べられて売っていたのだ。さすがに110円とはいかず、330円の値札がついていたが、こういう売り方がされる状況なのかと、コロナ禍が改めて怖くなった。

 価格的には驚くことはないのかもしれない。ちょっと検索すれば1,000円以内で購入できるキーボードはたくさん見つかる。それでも、この陳列の仕方にはちょっと驚いた。他のCan★Doではこんな売り方をしているのを見かけないので、店舗独自の判断なのだろう。その店舗の売り場責任者のセンスには脱帽だ。ごく普通の人にとって、マウスはともかく、PCにテンキーを外付けできることは決して常識ではないし、ましてそれが100均で手に入るとも思わない。そのギャップがすごい。この価格なら買って試してみようという気にもなる。大きな発見になるはずだし、拡張体験としてもわかりやすい。

 背景はなんとなくわかる。在宅勤務の日数が多くなり、会社から貸与されたノートPCでExcelなどを使った事務計算で数値入力をする機会が増え、テンキーのないノートPCでは効率が悪いと感じ始めたユーザーが多いということなのだろう。DXが正しく浸透していれば、生のデータをスプレッドシートに数値入力する機会はそれほど多くはないと思うのだが、どうやらそうでもなさそうだ。大量の伝票のデータを手入力して集計するといった手作業が必要な現場もあるにちがいない。

 PCのいいところは、「そのPCにはないもの」をその拡張によって「そのPCにはないものがない」に変えられることだ。テンキーもその1つにすぎない。

 電卓の達人は、電卓を左側において左手で打ち込むことが少なくないという。ペンと紙の事務作業時代の名残で、右手で伝票や書類を繰りながらペンで書き込みつつ、左手で電卓を操作するわけだ。ノートPCにしても、デスクトップPCにしてもテンキーは文字キーの右側にあるので、テンキーを左に置きたいというニーズは意外に多いのかもしれない。外付けテンキーならそれがカンタンにできる。

 ちなみに、この330円テンキーは、「0」の右側に「000」というキーがある。Excelなどで単位千の数値を入れるときにワンストロークで済むが、電卓クラスターの人たちにとっては0が2つの「00」の方がいいのだそうだ。DXは進んでも、いろんなこだわりが残っているのはおもしろい。

モバイルディスプレイ、その9つの要件

 PCの拡張という点では、前回紹介したようなポータブルディスプレイの追加が効率の向上をかなえる。この1年でずいぶんたくさんの製品が市場に出回り、より付加価値の高い製品も出てきている。

 ポータブルディスプレイは、そのサイズについては好みや環境に依存するにしても、

1. スタンド一体型で自立すると使いやすいし片付けもラク
2. レイアウトの自由度とケーブルの取り回しのために左右両側面に入力用の端子があるといい

という2点を満たしていてほしい。

 さらに、

3. マルチタッチ操作に対応しているといい
4. フルHDよりも4K解像度が目が疲れない
5. できるだけ広い色域と広い視野角がほしい。

といった点もかなえてほしい。

 そして理想的には、

6. USB Hubとして高速バスで各種の周辺機器をつなげられるといい。
7. ディジーチェーンで複数台のディスプレイをじゅずつなぎできるとなおいい。
8. 16:9以外のアスペクト比のものもほしい。
9. 縦置きのことを考慮してほしい。

といったこともある。

 たとえば入力端子は左右側面のどちらかにあることが多いのだが、その位置については工夫次第で縦に置いたときの見栄えの不都合を解消できる。みっともなくケーブルが上方向に生えたりしないし、下部に生えて立てかけるときに邪魔になったりしないはずだ。スタンドの機構にも工夫が必要だが、ぜひ、縦横両用で、どちらも傾きが自由になるスタンドを実現してほしい。

 そろそろこのあたりの使い勝手を考慮し、成熟した製品が出てきてもいいんじゃないかと思っているのだが、もう少し時間はかかりそうだ。

モバイルディスプレイはPCのライフサイクル2世代以上を支える

 評価したさまざまなモバイルディスプレイ製品の中では、GMK TECの「KD-2」がいい。この製品は15.6型4K解像度のもので、表面処理は光沢だ。先に挙げた1から9の条件の多く、100% Adobe RGB対応の色域、400cd/平方mという明るさ、10点マルチタッチ対応、スピーカー内蔵といった基本的な付加価値を満たしている。もちろんスタンド一体型で自立する。

 モバイルディスプレイ、しかも15.6型のサイズで4K解像度は必要かという議論もあるだろう。だが、画素密度が282ppiという15.6型4K解像度は、400ppiを軽く超えるスマホの画面には及ばないものの、Windowsを100%表示できる23型の96ppiよりは圧倒的に見やすく目の疲れが少ない。PC画面を見つめる時間が長くなりがちな在宅勤務ではありがたい存在になるはずだ。

 USB Type-C端子は左側に2ポート、右側に1ポートある。2台のPCを使い、左側の2つのポート両方に別の映像を入力した場合は、タッチ対応のオンスクリーンメニューで切り替えることができる。

 また、右側にもUSB Type-Cポートがあるがこちらからの映像入力はできない。そこが惜しい。このポートはマウスやキーボードなどのUSB 2.0デバイスだけを受け付ける。このあたりの仕様がややこしいのだが挙動を理解してしまえば便利に使える。

 もっともType-Cプラグを持つUSB 2.0デバイスは限られている。多くの場合、変換ケーブルやアダプタを介しての接続となるので、マウスとキーボードの無線レシーバーを装着するくらいしか使い道を思いつかないが、それでもケーブル1本を接続するだけで外付けのポインティングデバイスとキーボードが使えるようになるのはいい。Type-CプラグとType-A Std レセプタクルの変換ケーブルは同梱されているし、それを使って冒頭で紹介したテンキーも使えた。USB PDのパワーパススルーはすでに常識だ。どのポートにUSB PDパワーを供給しても、左側のType-Cポートにパススルーされ、PCに給電できる。

 10点マルチタッチの対応については賛否両論あるかもしれない。指紋が気になるからタッチは不要という意見もよく聞く。15.6型という画面サイズでのタッチ対応ということで、重量は実測で983グラムと、けっこうズシリとくる。タッチ対応のために100gのインパクトといったところだろうか。

 だが、ノートPCの脇において使うときには、ちょっと表示が小さいと感じたときにピンチアウトしてズームしたり、スルッと横方向にスクロールさせるなどタッチ操作ができるのは便利だ。映像を出力するノートPC本体がタッチに対応しているなら、拡張するモバイルディスプレイもタッチ対応してほしいと思う。ケーブル1本でつながるという便利は同じで、より多くの付加価値が得られる。

 PC本体よりもずっと長く使えるモバイルディスプレイだ。今はなくていいと思う装備も、きっとそのうち欲しくなる。長く使うためにも陳腐化の要因となるバッテリは内蔵していないほうがいい。KD-2はいろいろな面で現時点でのモバイルディスプレイの付加価値を集約している製品だ。ここを起点に正当に進化していってほしい。

1本の線で点を支える拡張

 こうしてみるとこれからのハイブリッドな働き方には、モバイルの点と線の中で、個々の点の環境多様性に対応するための装備が必要だということに気がつく。モビリティの確保のために持ち運ぶ機材は最小限にし、作業をする拠点ごとに、たった1本のケーブルを接続するといった最小限のトリガーで、あらゆるものがつながり快適な環境ができあがるのが望ましい。

 持ち運ぶことを前提としたノートPCの装備は携行の負担を削減するために最低限にしておき、自宅を含む作業拠点ごとに設置された外付けディスプレイをハブとして機能させるか、そうでなければ、複数の汎用ポートを備えた単体のハブを据え置きにし、周辺機器が接続されたままで待機、人間が線を移動して点に落ち着いたところで、線ならぬケーブル1本ですべての拡張が完了するというのが理想だ。

 PCはオールインワンの道を歩み続けてきて、すべての装備を内包するのが当たり前になりつつあったが、そのことが大きく重いノートPCをカバンに入れて携行することまで当たり前にしてしまった。すべてを1台に集約したいからだし、多くのエンドユーザーはそれを望んだ。管理する側との利害が一致したということか。

 ところが薄軽モバイルノートPCが浸透した。そのことが移動の苦痛を和らげたかもしれないが、狭い画面は作業の苦痛を増幅したかもしれない。だからこその拡張だ。

 ないものねだりは悪かもしれないが、新しい当たり前では、それが善となる。何をどう欲張るかが新しい当たり前としての創意工夫だといえる。