山田祥平のRe:config.sys

とにもかくにもType-C、Galaxy Note 10+が示す急速充電の方向性

 USB Type-Cは、各種デバイスの充電の汎用化に大きく貢献するコネクタの規格だ。PCもスマートフォンも、タブレットも、イヤフォンも、なんでも全部、同じACアダプタとケーブルで充電できる便利さ、そして、Power Deliveryによる急速充電も頼もしい。その浸透は、ややこしさもあって遅々としているが、着実に普及ははじまっている。そして、次の一歩も踏み出した。

PD + PPSで超安全超急速充電

 話題の新スマートフォンGalaxy Note 10+ は、ペンが使える6.8型AMOLEDディスプレイの魅力あふれる端末だ。196gという重さはさすがにズシリとくるが、あらゆることをスマートフォンだけで完結したいと考えるユーザーにとってはモバイルノートPCよりずっと軽いということで許容範囲だとも言える。

 このスマートフォン、じつに、4,300mAものバッテリが内蔵されている。今どきのスマートフォンでこの容量は驚くようなことではないかもしれないが、それが45W充電に対応しているというなら話は別だ。ただし、最高の性能での急速充電には別売りの45W Travel Adapterが必要となる。もっとも、ドコモやauから発売されているGalaxy Note 10+には、充電アダプタが同梱されていない。したがって、今の時点では純正アクセサリを別途購入するしかない。

 実際に、その実力を試してみた。

 Note 10+は、充電仕様としてGalaxyの充電規格 Super Fast Charging 2.0に対応している。このSuper Fast Charging 2.0は、同社サイトによれば、

「45Wトラベルアダプタ(PD 3.0規格)と5Aケーブルを備えたGalaxy Note 10+でのみ販売されています。Galaxy純正のバッテリ、充電器、お使いのデバイス用に特別に設計されたケーブルのみを使用してください。他社のアクセサリ製品は、破損したり、デバイスを損傷する可能性があります。カバーが剥がれるなど損傷したケーブルを使用したり、損傷した充電器やバッテリを使用しないでください」(注意書きへのリンク)。

と記載されている。

 ちょっとややこしいが、スペックなどを細かく追っていくと、Galaxyの充電仕様Super Fast Charging 2.0は、PD 3.0規格そのものだということがわかる。

 そして、調べていくと、そのPD 3.0のオプションであるPPS(Programmable Power Supply)と、その対応のための5Aケーブルの3要件がそろったときのみ45W充電が実現する。その要件を満たすためのアクセサリが別売りの45W Travel Adapterだというわけだ。そして、今のところ、Galaxy Note 10+のみが、このアダプタを使った45W充電に対応するデバイスだ。

 実際に、この組み合わせでGalaxy Note 10+の充電をすると、0%ですっからかんの4,300mAバッテリが、約1時間で充電完了すると表示されるし、実際に充電してみると、30分で50%を超え、本当に1時間以内に100%になった。

 3つの要件のうち、どの1つが欠けてもこの急速充電はできない。

 たとえば、PPSをサポートしない通常のPDアダプタでは45Wアダプタであっても1.5時間かかる。25W程度で頭打ちになっている模様だ。

 また、同梱のケーブルは5A対応ケーブルなので、PDの規格で5A対応を示すeMarkerが実装されている。このケーブルをeMarkerなしのもので試してみても、3Aが上限となり1.5時間かかってしまう。1.5時間でも十分に高速だが、1時間とはインパクトが違う。

 試しに、手元にあったベルキンの3.1 USB-C to USB-Cケーブル(100W)Thunderbolt 3 ケーブル(USB-C to USB-C)(100W)、2本の5A対応ケーブルで試したところ、アダプタ同梱のケーブルと同じ挙動を示した。つまり、標準的な作法にのっとった振る舞いだと言える。

 ちなみに充電器の対応デバイスは、

  • Max.45W : Galaxy Note 10+
  • Max.15W : Galaxy S10,S10+, Note9 S9, S9+, Note8, S8, S8+, Feel SC-04J, Feel SC-02L, A30, A20

となっている。また、その出力仕様を見ると、

  • (PDO) 5.0V/3.0A, 9.0V/3.0A, 15.0V/3.0A, 20.0V/2.25A
  • (PPS) 3.3-11.0V/4.05A, 3.3-16.0V/2.8A, 3.3-21.0V/ 2.1A

と記載されている。PPSによって、3.3~11Vの間で4.05Aに達することがあるために、5Aケーブルを要求していることがわかる。

PPSってなんだ

 PPSは、小さなステップで電圧と電流を変化させる。スマートフォン側で充電器から供給される電力を最適なものになるようにコントロールし、熱の発生などのかたちで捨てられるエネルギーを最小限に抑えることができる。

 PDでは電圧を固定し、電流を下げながらこの効果を得ていたが、PPSでは、さらに小刻みに電圧を含めてコントロールすることで、発熱や変換ロスを最小限に抑えることができる。PPSが使えない場合は、必要以上の電力を受け取り、入らない電力を捨てていた。これが変換ロスになり、熱になってしまう。

 ちなみに、このPPS対応充電器をPCに接続してみたところ、レッツノートQVシリーズは非対応(メーカー確認済み)で、45W充電器としては認識されなかった。その一方でFCCLのUHシリーズでは、45Wの標準的なPD充電器として機能するようだ。

 急速充電は結果としてはありがたい。バッテリがすっからかんであわてて立ち寄ったカフェや、朝起きたらスマートフォン充電を忘れていたことに気がついたときなどに心強い。30分もあれば、ほぼ安心レベルまでの充電ができるからだ。

 とはいえ、充電時にスマートフォン本体が熱くなりがちなのには閉口する。だが、Galaxy Note 10+を、この充電器に同梱ケーブルで接続し、1時間で0%から100%という驚異的な急速充電をしても、ほとんど熱くならないのはうれしい。

 Type-CとPD、そしてさらにPPSと、そのややこしさがまた深まった感があるが、Galaxy Note 10+を皮切りに、スマートフォンの充電規格が、こちらの方向にうまくシフトしていくきっかけになるかもしれない。

 PD関連のアクセサリ類の充実に熱心なベルキンに取材したところ、そうは言っても、Type-Cの普及はまだまだだとも言う。実際、量販店を観察しても、C-Cケーブルよりも、A-Cケーブルのほうが豊富に陳列されてもいる。

 世のなかの多くのデバイスがPDに対応していて、実際に、それらを所有しているユーザーは多いはずなのだが、それでもA-Cケーブルを使う旧来の充電器を購入していくパターンが少なくないとも言う。当然のことながら、せっかくの安全で便利な急速規格が活かされない。

 そんななかで、Galaxyが、独自規格ではなくPDとPPSという電力供給の標準規格にあわせてきたのもいいニュースだ。世界一のスマートフォンベンダーが方向性を示すというのは責任という点でも重要だし、消費者にとっても道しるべとなるはずだ。