山田祥平のRe:config.sys

薄軽ディスプレイで仕事も軽々

 モバイラーはいろんなことを犠牲にしながらも、少しでも生産性を上げようと努力している。効率的な作業のために24型ディスプレイをスーツケースに忍ばせて移動することも厭わない。でも、たまにはラクをしたいと思うこともあるわけで……。

レノボのモバイルディスプレイ ThinkVision M14を試す

 世のなかにはいろんな人がいる。たとえば知り合いのライターは自宅でもモバイルノートPC 1台で仕事をするという。外部ディスプレイをつないだりすることもないそうだ。理由をきくと、リッチな環境での仕事に慣れると、外出先でモバイルノートPC 1台で仕事をせざるをえないときの効率が落ちてしまうからだという。確かに一理ある。

 取材時に立ち会ったレノボ広報氏にその話をすると、「高級レストランで食事をすると、普段の食事をおいしいと感じなくなるので行かないようなものですかね」と言われて、こちらもうまいことをいうなと思った。

 ぼく自身は、自分が居合わせる環境は、とにかくできるかぎり贅沢なものにしたいと考える派だ。とはいえ自宅の環境をそのまま持ち出すのは不可能だ。でも、なんとかその相似形の環境を持ち運ぼうと工夫するし、努力もする。出張に24型ディスプレイを携行するのは、その一端だ。最初にやったのは2013年のCES取材のときなので、すでにディスプレイを携行するようになってから6年以上が経過している(最強のモバイルルーター“iPad mini”とHPの24型スリムディスプレイが支える米国出張参照)。

 当時は電源アダプタを含めて5kg近かったが、現在はデルのP2419HC(約3万円、Type-Cケーブル1本でPCへの65W給電も可能なデル製23.8型液晶参照)で、こちらはUSB Power Delivery(PD)電源内蔵で3kgちょうどくらい。ずいぶん軽くなったものだ。もっともメーカーとしては据え置きが前提の商品で、携行を保証してくれるわけではない。それに、普段の取材に持ち歩くというにはつらい。重量はもちろん、電源の確保も難しそうだ。

 だが、素っ頓狂だと言われながらもモバイルディスプレイの魅力を主張してきた甲斐あってか、ここ数年は各社から手頃なサイズ感のモバイル前提の製品が続々登場しているのはうれしいかぎりだ。

 今回評価したレノボの「ThinkVision M14」も、そんな製品の1つだ。本体重量仕様は570gと圧倒的な軽さがうれしい(ただし手元の評価機は612gで、誤差どころではない差異があった)。

 本体には制御部を兼ねたキックスタンドが装備され、自由なチルトを得ることができる。付属のケースも109gと軽く秀逸だ。この軽さは本体がバッテリを内蔵していないことにも起因している。バッテリ非搭載は本体の陳腐化抑制にも貢献する。PC本体より長いライフサイクルが想定されるので消耗品的要素は少ないことが望ましい。

 いずれにしても、バッテリがないので、なんらかの方法で電力を供給してやる必要がある。

 本体にはスタンド部分の両脇にUSB Type-C端子が1つずつ装備されている。ノートPCのType-C端子と本体をType-Cケーブルで接続すれば、PCから電力とDisplayPortの信号が供給され、PCのセカンドディスプレイとして機能する。

 電力供給はもちろんUSB Power Deliveryだ。映像出力は高速データ通信となるため、ケーブルはUSB 3.1 Gen2超に対応したe-Markerつきのケーブルが必要になる。当然、多少は太くなり、かさばる上に重量もかさみ取り回しにくい。気になるようなら、他メーカーの製品との代替を考えたほうがよさそうだ。いくぶん細いものや、短いものが各社から発売されている。

2カ所の端子でお気に入りのレイアウトセッティング

 両脇にType-C端子が装備され、どちらにケーブルを接続してもかまわない。ノートPCとの組み合わせを想定したとき、2台目のディスプレイを右に置くか左に置くかによって使い分けることができる。また、ノートPC本体のType-C端子が左右どちらについているのかによっても取り回しを調整できるのは便利だ。

 ノートPCとケーブル1本で接続した場合、本体はノートPCから電力の供給を受ける。通常はPDだが、実際には5V/3Aのデフォルトバスパワーでも大丈夫なようだ。PD非対応だがDisplayPortはOKという端子でも利用は可能だが、それにしたって、ノートPCのバッテリを消費する。Type-C端子が1つしかないノートPCではここで詰む。

 だが、空いているもう1つの端子にPD電源を供給することで、電力の供給方向が逆になる。つまり、M14がPDのソースとなってノートPCに電力を供給するわけだ。同社ではパワーパススルーと呼んでいる。PDパススルー、チャージパススルーなどと呼ばれ、各社のType-C Hubではよく見かける仕組みだ。

 調べてみるといろいろと興味深いことがわかった。

 M14は得られたPDのPDP(Power Delivery Power)から15W分を確保する。そして、それを元のPDPから差し引いた残りのPDPを改めて、別の機器に伝える。たとえば、60WのPDチャージャーを接続すると、60-15=45WのPDソースとして機能するし、45WのPDチャージャーを接続した場合は30Wのソースになる。15Wというのは意外に大きな電力で馬鹿にならない。ちなみにレノボはディスプレイとしての消費電力は7.5W程度だとしている。

 ここで注意したいのは、ノートPC側が充電可能なPDPが比較的大きい場合に、規定の電力に足りず、充電が途切れ途切れになったり、極端な場合は充電ができないことも起こりうる。たとえば、富士通(FCCL)のLIFEBOOK UH-Xは、PD充電にさいして45W超を要求するため、45WのPDチャージャーをM14に接続した場合には30Wしか供給されず充電が拒まれる。

 もっと興味深かったのはAnker PowerPort Atom III 60W(PD対応 60W USB Type-C 急速充電器)を接続した場合だ。

 このチャージャーのPDO(Power DATA Object)は、5V/2.4A、9V/3A、15V/3A、20V/3Aとなっている。5Vが2.4Aという奇妙な仕様だ。おそらくiPhone独自の急速充電対応のためと思われるが、真相はよくわからない。ところがこのチャージャーからM14に電力を供給した上で、もう片側の端子から告知されるPDOを調べてみると、5V/3Aとなっていた。いずれにしても、ノートPCとディスプレイとしてのM14の合計消費電力を考えてチャージャーを選ぶ必要がある。

 15Wはかなり大きな電力で、理想的にはその半分くらいで稼働してほしいところだ。しかも、USB Hubとしては機能しない。ノートPCから電力を供給しているさいには、もう片側の端子は空いているのだが、そこにUSBストレージやハブなどを装着してもなにも起こらない。

 ノートPCによってはDisplayPort出力とPD対応のType-C端子が1つしかないことも少なくないので、どうせならM14本体にもう1つType-C端子を用意し、ハブとして機能させたりすることができればよかった。となるとHDMIも欲しいよねとか、いろいろ欲が出てきて本体重量に影響してくるので、このあたりでの妥協が必要なのだろう。

モバイルディスプレイならモバイルしてもいい

 春にスペイン・バルセロナで発表されていよいよ発売が開始されたThinkVision M14だが、大勢の評価は軽さに対するものがダントツに多いという。当然、レノボとしてはモバイルディスプレイの位置づけで企画した商品であり、外づけスタンドなしでノートPCといっしょに持ち運べる十二分な軽さということが高い評価につながっていると分析している。

 14型というサイズは、広く普及している13.3型モバイルノートPCよりちょっと大きい。昨今の狭額縁化による影響でフットプリントそのままで14型画面を実装する製品が増えているが、まだ数は少ない。13.3型と14型の画面を並べると、同じスケーリングでは文字サイズ等の差異が気になってくる。Windowsの推奨は13.3型時に150%スケーリングで、スケーリングが25%ステップなので125%に落として使うのだが、このあたりはちょっと違和感があるかもしれない。

 レノボによれば14型は大きいという話はきこえてこないそうだ。ただし、もっと大きくてもいいという声はあって、15.6型はありかなと考えているそうだ。個人的には17型、いや、24型があってもいいと思う。24型で2kgを切れば夢のようだ。

 B2Bでの法人営業部隊での商談で顧客に見てもらうと、ThinkPadの商談はほとんど進まず、ThinkVisionに話題が集中するとも。とくに、監査法人などのコンサルテーションなどでのプレゼン用途でのユースケースに興味が集中しているということだ。

 じつは、この手の製品、レノボが出したのははじめてではない。旧製品は日本でだけ売れてそのまま製造終了になってしまったという経緯がある。

 レノボとしては、本当はテレワークの先で使ってほしいし、在宅勤務でPCを自宅に持って帰る人が、オフィスでマルチディスプレイしているのに、在宅で2画面にできないということが多いため、在宅勤務先でも快適に作業をしてほしいという願いがある。働き方改革にとてもマッチする使い方だ。

 その一方で、カフェでマルチディスプレイは確かにかっこいいかもしれないが、情報漏洩のことなどを考慮し、あまりそのシナリオは考えていないそうだ。商談に訪れた客先で応接室が確保されず、パーティションで仕切られたブースなどでのプレゼンになったときに、相手に見せるような使い方、つまり、自分のためではなく他人のために持ち歩くセカンドディスプレイという位置づけも想定されている。

 いずれにしても、レノボとしては、今、周辺機器をもっと顧客に使ってもらいたいと考えているという。それがどのような効果をもららすかは、口で説明するよりビデオを見せるのが手っ取り早いということで、周辺機器活用のシナリオを描写したビデオを見せるような場合にはうってつけだと考えているそうだ。

 また、シェアオフィスなどでは、貸し出し用のディスプレイがあるようだが、24型などのサイズでは大きすぎて手軽に使えない。そうした現場でも重宝するはずだと考えているとのことだ。

 今回のM14は、じつは日本でしか売れないカテゴリの商品で、企画を通すのはたいへんだったという。それでも企画を通して継続的にこのカテゴリの製品を出すことが大事で、それが通ったのは大きいそうだ。そのくらいほかの国では需要がなく、日本側からの企画は毎年却下されていたらしい。

 フリーアドレスでの執務が一般的になりつつあるが、そのテーブルはせまい。そこに理想的には大きなディスプレイを置いてほしいところだが、とてもそんなスペースはない。だったら14型でいいんじゃないかというわけで、ワールドワイドでも日本が一番早い発売国として決定し、ThinkPadの新製品発表にあわせ、前倒しての出荷となったそうだ。

 このカテゴリの製品のなかではもっとも軽量で携行用途にはもってこいの製品だ。冒頭の写真は新幹線の3人席でのもので、隣がたまたま空席だったので試してみたところだ。モバイルディスプレイ愛好者としては24型ディスプレイに加わる3台目のディスプレイとしても食指が動く。こうして荷物がまた増えていくのであった……。