山田祥平のRe:config.sys

個人向けPCのサブスクリプションってありか?

 個人が個人のPCを、まさに自分のものとして所有するって本当に必要なことなのだろうか。住宅に賃貸があるようにPCも旬の製品を月額固定料金で借りるほうがいいのではないか。まるでアパートに住むようにPCを使うスタイル。それがモノからコトへのトランスフォーメーションかもしれない。

DaaSを個人に

 企業向けPCの運用形態として知られるDaaS(Desktop as a Service)。かつてはクラウドを活用した仮想デスクトップ環境提供サービスを指したが、最近では、デバイスそのものを所有から利用へとシフトさせるサービスも含まれるようになってきている。デバイスの利用のみならず、キッティングから設置、故障修理、保守までをすべてサービスに依存することで、システム管理者の負担を軽減する企業も増えているそうだ。とくに専任のシステム管理者を置くのが難しい中小企業では歓迎されているサービスとなっているらしい。

 はたしてこうしたサービスは個人が使うPCにも広がっていく可能性はあるのだろうか。先日の富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の発表会後、齋藤邦彰氏(代表取締役社長 執行役員社長)に話を訊く機会があったので尋ねてみたところ、おおいに興味があり、需要さえあればすぐにでもはじめたいということだったが、本当にニーズはあると思うかと逆に問われてしまった。

 実際、急速にPCとの価格差が縮まりつつあるスマートフォンの世界では、3年の分割で代金を支払い、2年目の時点でデバイスを返却するか、もう1年使うかを選択できるドコモの「スマホおかえしプログラム」的なソリューションが提供されているし、他社も似たようなプログラムを展開中だ。

 また、業界は別だが、クルマの場合も、いわゆる残価設定型ローンというかたちで3年後、5年後の下取り価格を残価として設定し、それを差し引いて分割するような買い方がある。さらには、リースという考え方もある。こちらは、あくまでも利用する権利だけを分割支払いするものだ。ただクルマのリースが車検費用などや税金なども料金に含まれるのに対して、PCのリースは故障や修理は自己負担になるケースが多いようだ。

月に5,000円で最新のPCを使う提案

 仮に18万円のPCを手に入れたいと考えたとする。低価格化が進んでいるPCとしては、そこそこの高額商品だ。これを3年間の分割で支払うと1カ月あたり5,000円だ。24回12万円分を支払った時点で、それを返却して新しい契約で新しいPCを手に入れるか、残りの6万円分をローンを継続して支払って自分のものにしてしまうかを決めることができたらどうだろう。

 今、個人用PCのライフサイクルは5年とも6年ともいわれている。5年前のPCというと、2014年頃で、ちょうどVAIOがVAIO株式会社としてスタートした年だ。その記念すべき第1号モデルがVAIO Pro 11/13だったし、MicrosoftがSurface Pro 3を発表したのもこの年だ。大まかなスペックとしてはIntelの第4世代Coreで、4~8GBのメインメモリ、128~256GBのSSDといったところだろうか。

 おそらく、このコラムを読んでくださっている方は、5年前のPCなんて使いものにならないと思っているかもしれない。だが、一般の家庭では、これより低スペックのPCが普通に現役に使われている可能性が高い。いや、あるけれどホコリをかぶっているかもしれない。普通の人々にとって、PCは壊れて使えない状態になってから買い換えを考えるものであって、処理性能に不満が出てきたから次を考える対象ではないからだ。

 クルマと違ってPCに制限速度はない。処理性能が高ければ高いほど快適に作業をこなせる。パワーユーザーはそれをわかっているし、わかっていても、そう頻繁に買えない場合には、せめてメモリ等にはコストをかけて長いライフサイクルを耐えられるような想定をしておく。

 もし、使用中のPCを2年ごとに見直して次への機種変更をする機会が明確にあれば、今、5~6年のPCのライフサイクルが3~4年程度に縮まるかもしれない。それに、PCはよほどの趣味人でもないかぎり古い製品に価値を見出せるものではない。

 さらに、今後、働き方改革が進むなかで、個人が私物のPCを会社の業務に流用することも増えるだろうし、学生は学生で、持ち歩きが容易なモバイルPCを当たり前のように使うことになるはずだ。そうならなければ日本の国力は落ちる一方だろう。

 だからこそ、常に最新に近いスペックのPCを駆使する環境をリーズナブルなコスト負担で手に入れられるようにしなければならない。本当は、高額でも平気なくらいに国力があればいいのだが、今の日本を考えると、そうも言ってはいられない。

スマホ化するPC

 そして、持ち運ばれるPCは、危機に遭遇する確率は高くなる。落とすかもしれない。満員電車のなかでカバンの中の筐体が押されて液晶がおかしくなるかもしれない。それでも毎日の持ち歩きに薄軽は正義だ。いわゆる割れスマホのような状態で使い続けられる可能性もある。そのまま5年間というのはつらいが、稼働に大きな問題がないのなら、2年後の見直しタイミングまでまと半年とかならなんとかがまんもできるかもしれない。

 とまあ、今のスマートフォンが抱える状況と同じような状態にあるのが個人用のPCだ。クラウドの浸透で、機種変更、つまり、古いPCから新しいPCへの引っ越しにも手間がかからなくなっている。かつては、大量のメールや写真類、書きためた文書類をどうやって引っ越すかがめんどうで、そんなめんどうなことをするなら、壊れでもしないかぎりは、長期間使ったほうがいいと考えられがちだった。もう、そういう時代ではない。

 日本におけるPCは、まだまだ、量販店に依存している面が多い。だったら量販店がPCのサブスクリプションサービスを開始したほうがいいのか。それとも、暗中模索のなかで、ダイレクト販売サイトでのサービスとしてメーカー自身がスタートするべきなのか。これは、各社のマーケティングが考えることだが、少なくとも、コモディティとしてのPCが壊れるまで買い換えられないという悪循環を断ち切るためにも一考してほしいと思う。

 それにはWindows 7のサポート終了はいい口実になるだろうし、企業向けPCのWindows 10移行が一段落したころに、急速に落ち込むといわれているPCの需要にも影響を与えることができるかもしれない。

 本当の問題は、5年前のPCでは太刀打ちできないようなスペックを要求するが、きわめて魅力的なアプリが存在しないことにあるのだが、そこには、とりあえず、目をつぶっておこう。