山田祥平のRe:config.sys

そのインスタ映えは高画質?、それとも好画質?

 平成の時代が終わろうとしている。来月からは令和だ。30年間という歳月は長いようで短く、短いようで長かった。個人的には、コンピュータでなにかをするというよりも、コンピュータをどこかにつないできた30年間だった。そしていま、カメラ専用機がコンピュータにつながったときの役割分担はどうなのか。

画像電送の変遷

 ニコンが1983年に共同通信と共同開発したNT-1000という電送装置がある。現在は、東京・品川のニコンミュージアムに展示されている。かつては伝書鳩にフィルムを託し、のちには、プリントした写真を電話回線で送信するといったことが行なわれてきたが、この装置の登場によって、プリントのプロセスを経ずに、フィルムをスキャンして電送できるようになったため、要する時間のスピードアップに貢献、当時は「日本の新聞報道の革命」といわれたそうだ。

 この電送機は、1984年のサラエボオリンピックで活躍したそうだが、かつてニコン社長、会長を歴任した木村真琴氏の日本光学工業(現ニコン)入社10年目の仕事だったという。

 TV放送は身近なものとして普通にあって、海外からの衛星生中継も普通に行なわれていたのに、新聞の一面を飾るような写真1枚を電送するのがそんなにたいへんなことだったのかと、ちょっと意外な感じもするのだが、それが歴史というものだ。

 今、手元のスマートフォンで撮影した写真は、撮影したとたんにストレージに収まり、設定次第でクラウドストレージに即座にアップロードされる。カメラ専用機そのものもWi-FiやBluetoothなどの通信機能を実装し、コンピュータとしてのスマートフォンと接続して、同様のことができるようになっている。

 また、SNSが浸透し、撮った写真にコメントをつけて投稿するのも当たり前になった。一眼レフやコンパクトカメラで撮影しても、すぐにそれを投稿するのは難しい。だからSNS投稿のためにスマートフォンで別に写真を撮り、それを添えて投稿するわけだ。カメラとスマートフォンがつながっていなかった時代には、そうするのがもっとも手っ取り早かったのだ。

SnapBridge誕生

「カメラとスマートフォンの両方で撮る、この作業が疑問だった」と、ニコンカメラ用のスマートフォンアプリ「SnapBridge」を担当する高橋功氏(株式会社ニコン映像事業部マーケティング統括部UX企画部)は昔を懐かしむように話し出した。

 だから高橋氏はスマートフォンとカメラをつなごうとした。どうやってつなぐか、とにかくスマートフォンがしゃべれるプロトコルをカメラ側に実装する必要がある。高橋氏らは、まず、ワイヤレスモバイルアダプター WU-1aを企画開発、Wi-Fiでスマートデバイスに画像転送ができるようにした。2012年当時としては最先端の実装技術を利用し、わずか3gの重量で、カメラとはUSBで直結する仕様だ。

 カメラにWi-Fiを実装することは、開発陣に猛反対された結果の苦肉の策ではある。そのときのユーティリティが、Wireless Mobile Utilityで、これが現在の「SnapBridge」の原型だ。2012年にデジタル一眼レフカメラのD3200とともに発売されている。Wi-Fi通信機能がカメラ本体内にそっくり入った最初の製品がデジタル一眼レフD5300(2013年発売)だ。

 そのWi-Fiに加えてBluetoothの通信機能がカメラ本体内にそっくり入った最初の製品がデジタル一眼レフD500だ。そして、このときに同時にリリースされたのが「SnapBridge」だ。以来、このユーティリティは18回のバージョンアップを重ね現在はVer. 2.5.4がiOS、Android用に提供されている。

 カメラとスマートフォンをBluetoothでペアリングしておき、スマートフォン側でSnapBridgeを常駐させておくと、カメラ側で撮影した写真がすべてスマートフォンに転送される。自動転送時には200万画素サイズになるが、Wi-Fiを使えばオリジナルサイズも転送できる。

 転送の通信手段としてはBluetoothが使われる。転送された画像にはスマートフォンの位置情報も付加される。撮った写真のすべてに位置情報がつくのはうれしい。また、カメラの時計はスマートフォンの時計と同期するため、タイムゾーンの異なる地域に移動して撮影した場合も、時計の変更を忘れて撮影時刻がおかしくなるような失敗も防げる。

 さらに、Wi-Fi接続もできるはずなのだが、スマートフォンはアクセスポイントとしてのカメラに接続するため、そこを経由してインターネットに接続しようとする。だが、カメラの先にはインターネットがない。つまり、カメラから画像を転送中のスマートフォンはインターネットを使えないのだ。SNSに投稿するにはインターネット接続が必要なのに本末転倒的である。そもそも取扱説明書の記述が不十分で、Wi-Fiでの運用がきちんと設定できないのは致命的だ。

 だから遅いのをがまんしてBluetoothを使う。ここは1つ、カメラとスマートフォンをピア・ツー・ピアでつなぐWi-Fi Directなどを使っての転送ができるようになってほしいところだ。

 もっともプレスイベントなどの会場では、電波が飛び交っているからか、Wi-Fiの接続性が著しく悪い。カメラがWi-Fi 4(IEEE 802.11n)までしかサポートしていないこともあり、逃げ場がない。

高画質より好画質

 カメラとスマートフォンを接続して画像を転送するというチャレンジは、専用カメラのほうがいい写真が撮れるということを前提にした発想によるものだ。ところが、最近、スマートフォンで撮影した写真のほうがインスタ映えするという声もよく聞こえてくると高橋氏は言う。

 ニコンのカメラにはピクチャーコントロールという機能があって、スタンダード、ニュートラル、ビビッド、モノクローム、ポートレート、風景、フラットなど撮影シーンや好みに合わせて設定することで、よりイメージに近い撮影を楽しむことができる。ただ、インスタ映えという点では、もっとも派手であると思われるビビッドにしても、今のスマートフォンのモリモリ画像にはかなわない。

 たぶん、撮って出しでインスタ映えするのはスマートフォンの撮影画像だろう。SnapBridge誕生のきっかけとなったSNSにカメラ専用機で撮影した美しい画像を投稿したいという発想は、「カメラ専用機のほうがスマートフォンのカメラよりいい画が撮れる」という前提によるものだが、インスタ映えの画像が好まれるようになったことで、この前提にちょっとした変化が起こりつつあるように思う。すなわち、大衆は「高画質」より「好画質」をワンストップで得ることを望んでいるということでもある。

 カメラとスマートフォンが、その通信を意識することなくシームレスにつながる時代は、ついに平成の時代にはかなわなかった。それでもSnapBridgeのチャレンジは続いている。

 もし、カメラメーカーとして、スマートフォンより、カメラ専用機の優位性を信じているのなら、転送後の画像をスマートフォン側の処理系を使って最高にインスタ映えするようにレタッチを施すなどの方法論も考えてよさそうだ。単に画像を転送するだけではなく、転送後の利用形態も視野に入れたブリッジとなるのも、SnapBridgeがめざすべき方向ではないだろうか。