山田祥平のRe:config.sys

これがスマートだなんて誰が言った

 バーコードやQRコードでの入場システムがあちこちで機能しはじめている。だが、現場は混乱していて、その便利さがちっとも活かされていない。これからいったいどんな方向に進んでいくのだろうか。

渡航先のアクティビティチケットを日本で先に手配する

 年初のCES取材に先立って、米国の東海岸にちょっと立ち寄ることにした。ワシントンDCに日本からの直行便で向かい、電車で3時間ほどかけてニューヨークに移動、数泊で多少の観光と観劇をしてからラスベガスに向かうというスケジュールだ。

 米国に着いてちょっと驚いたのは、ずっとキープしているVerizonのプリペイドSIMを日本版のPixel 3 XLに装着して、問題なくLTEで接続して通信ができたことだ。以前は、ダメだった。

 Verizonは日本のauと同様に、CDMA2000を使っているキャリアだ。auはLTEへの移行を段階的に進めていて、新しい端末はCDMA2000をサポートしていなくてもネットワークにつなぐことができる。Verizonではそれができなかった。

 今回、それができるようになっていたのは、きっと、CDMA2000の停波に備えて着々と準備を進めているからに違いない。米国内で使う端末としてCDMA2000をサポートしている端末は、手元のiPhoneだけだったので、これはちょっとうれしい出来事ではあった。

 さて本題だ。渡米にさいしては、日本にいるうちにいくつかの交通手段やコンサートなどの予約を入れてきた。とくに、コンサートチケットなどは、より早の予約したほうがいいし、乗り物は予約ができず満員になっては困る。

 これら多くのチケットはバーコードでの発行で、インターネットサイトでの予約後、PDFがメールで送られてくる。

 最初に使ったバーコードは、ワシントンDCからニューヨークへのアムトラック鉄道のチケットだ。これは、日本で予約して発行されたeチケットをプリントアウトして持参した。

 ワシントンDCのユニオンステーションでプリントアウトのチケットを見せたところ、そのまま電車に乗ればいいという。席は自由席なのでどこに座ってもいいらしい。そこで、車両のつなぎ目のスーツケース置き場のそばに席を確保した。電車が発車してしばらくすると、車掌が検札にやってきた。プリントアウトを見せると、バーコードをスキャンし、座席の背もたれにタグを貼りつけていった。それだけでいいらしい。日本の新幹線もこのくらい簡単だといいと思う。ただ、なぜ座席指定をしないのかは不思議だ。

購入済み者と未購入者を同じ列に並ばせる博物館の愚

 ニューヨークに到着して最初の夜を過ごし、翌朝11時頃到着を目標に自然史博物館に向かう。ホテルの最寄りの駅から地下鉄で数駅のロケーションだ。

 ニューヨークの地下鉄はメトロカードが何種類か提供されているが、1週間の乗り放題券を33ドルで購入した。宿泊は4泊だが、地下鉄一回の乗車は3ドルなので、約10回分。一回券をいちいち購入する手間を考えれば1週間券がトクと判断した。発行されたカードは磁気コードチケットで、改札機にあるスリットに磁気コードをスライドさせる必要がある。これがなかなか難しく、今のところ一回でちゃんと認識されたことがない。

 さて、自然史博物館最寄りの駅に到着、改札を出ると博物館の入り口に直結しているのだが、そこに長蛇の列があった。どうやらチケットの購入のための行列らしい。仕方がないのでそのまま列の最後尾について、少しずつ列が進むのを待っていると、QRコードの立て札があって、それをスキャンしてチケットを購入しろと書いてある。

 手元のスマートフォンでQRコードをスキャン、購入するチケットの種類、枚数を指定、クレジットカードを読み取らせて購入を完了すると、バーコードつきのメールが送られてきた。

 ところが、そのあたりにいるどの係の人に聞いても、そのまま列に並んでいればいいという。メールにはそのバーコードで入場できると書いてあるので、とにかく係員が通りかかるたびに聞くのだが、並んでいろという。しかし最後に聞いた係員は、そのまま入場できるという。言ってることがまるで違うのだ。

 えーい、ままよと、列を離れ、恐竜フロアを目指した。驚いたことに、この博物館、チケットをチェックするというシステムがないらしい。購入したチケットを一度もチェックすることなく博物館内を探索することができた。

 本当によくわからないし、係の人の間でも、システムのあらましが共有できていないのは確かだ。おそらくこのゴタゴタで30分間以上は無駄になった。ひどい話だと思う。

スマホ画面はNGの紙バーコード

 夜は夜で東京で予約してきたMetopolitan Operaを観劇に行くわけだが、こちらもバーコードつきのチケットをプリントアウトして持参した。このチケットが送られてきたメールには次のような記述があった。

Please print your attached E-Ticket(s) and bring them with you. At this time we are unable to scan your E-Ticket(s) on your mobile device.

 つまり、必ず印刷して紙のチケットとして提示しなければならないらしい。スマートフォンの画面ではだめなのだ。あやうく路頭に迷うところだった。

 これはこれで事前にチェックができたので、ワシントンDCのホテルで、ロビーのプリンタを使って印刷した。並んでいる端末に、USBメモリに入れたPDFを読み込ませると、その場ですぐに印刷ができた。

 会場に着いてからスマホ表示でだめなことが判明したらどうなっていたことか。それよりもPCが手元になくて、自分のメールにアクセスできない場合はどうすればよかったのか……。

 さらに、翌日もコンサートを予約しているのだが、これもチケットには、丸ごと印刷して持参しろと書いてある。しかも、折り曲げるなと注意書きがある。A4サイズの用紙に印刷したチケットを折り曲げずに持ち歩くのは至難の業だ。スマホ表示ではだめともいいとも書いてない。かなりいいかげんだ。

他国での混乱を今なら回避できるはず

 日本では来年(2019年)東京オリンピックが開催される。各国からたくさんの訪日客を迎えることになるだろう。ご存じのとおり、日本でも決済、交通、チケッティングで、さまざまなシステムが乱立している。1つ1つのシステムは確かにスマートかもしれないが、複数のアクティビティを楽しもうということになると、この混在があまりにも非スマートだ。

 米国内の鉄道チケットがインターネットでこれだけ簡単に確保できるというのは評価できる。その入手したチケットで乗るのも簡単だった。客の多くは紙ではなく、スマートフォンでチケットを表示していたようだった。

 だが、観劇や入場などそのほかのシステムはいただけない。チケット利用の規則がまちまちで、最終的に有効なのは紙のチケットだけだからだ。スマートチケットの便利さが活かされていないのは問題だ。

 オリンピックは、新しいスマートシステムを有効で便利なものにするためのいい機会でもある。とくに、海外からの訪日客に便利なシステムは、日常的にそれを使う日本人にとっても便利なものであるはずだ。

 キャッシュレス社会のより早期の到来を願うのであれば、まずは、きわめて基本的なところから考えなければなるまい。そうでなくてはオリンピック時に、いろいろな場面が破綻してしまうように思う。