山田祥平のRe:config.sys

ヒト、モノ、コトをつなぐ24/365インターネット

 インターネットが画期的だったのは、通信を量や時間で計って課金するのではなく、そこにベストエフォートという概念を入れ込み、地球規模空間につながることそのものに価値を見いだしたことだ。そのことがレガシーな通信の世界を大きく変えた。

固定インターネットはざっくり5,000円/月

 世の中を変える、あるいは世の中が変わるためには大胆な発想の転換が必要だ。インターネットがこの世の中に浸透していく過程では、従来の通信ビジネスのモデルになんとかその形態を合わせこもうという試みがあった。最初は回線交換の電話に依存させた。つないだ時間だけ課金されるし、アクセスポイントに電話をかけるので、そこまでの距離が遠ければ長距離電話になり料金もかさむ。

 そのうち限られた時間だけは定額制にするテレホーダイがインターネット利用を促進した。従量制から定額制への移行の先駆けだ。そして、最終的には今の完全定額制、つまり、どんなに使っても、まるで使わなくても同じ料金というところに落ち着いた。固定回線におけるインターネットサービスは電気やガス、水道といったライフラインであるにもかかわらず、従量制ではなく固定料金の道を選んだようにみえる。

 ただ、これは、通信サービスとインターネット接続サービスを分けて考えると、ちょっと違ってくる。インターネットが壮大なワリカンだといわれるのは、少なくともエンドユーザーはすでにインターネットにつながっているどこかにつなげば、それで世界につながるからだ。

 日本の場合、物理的な接続については東西NTTなどの通信事業者やケーブルテレビ事業者が、インターネットへの接続についてはインターネット接続プロバイダー(ISP)が引き受けている。エンドユーザーは通信サービスとインターネットサービスの料金を支払えば、インターネットを24時間365日使い放題なのだ。通信サービスは帯域幅の違いで若干価格が異なるが、その差は微々たるもので、ほぼ固定と考えていい。

 たとえばNTT東日本のフレッツ光ネクストを戸建住宅で契約する場合、約1Gbpsのギガラインタイプが5,400円/月なのに対して、200Mbpsのハイスピードタイプは5,200円/月で200円安い。2年縛りに相当する「にねん割」のコースも用意されている。こちらは半額にこそならないが、700円/月が割り引かれる。

 一方、インターネット接続サービスは、たとえばIIJの場合、mio FiberAccess/NFで2,160円/月の定額だ。つまり固定光回線のコストは7,560円相当なのだが「にねん割」もあるし、回線とのセットならもっと安くなる。トータルでは約5,000円前後といったところが相場だ。それで使い放題だ。

モバイルインターネットも5,000円/月

 さて、移動体通信はどうか。こちらは通信サービスについては完全従量性が早々に崩れ、当初はパケホーダイ等の完全定額制が使われていた時期もあったが、そのうち段階従量定額制に移行し、定量のデータパックを買うという形態に落ち着いている。通信の量で料金が決まるが、インターネットとの接続については定額だ。ISP利用料として毎月課金されている300円がインターネット接続コスト、パケット使用量に応じたデータパックの価格が通信サービスコストとなる。

 つまり、固定インターネットが通信サービスもインターネット接続サービスも実質定額であるのに対して、移動体インターネットはインターネット接続サービスだけが定額で、通信サービスは通信の量に依存する。光固定回線であればその心配はないが、モバイルネットワークでは月末近くになると「ギガが足りない」といった現象に悩まされるわけだ。

 さらに、固定インターネットは家族でワリカン的な考え方ができるが、モバイルネットワークは個人ごとの支払いだ。ここでもまた、家族でワリカンに近いイメージにするために、シェアパックのような形態が生まれた。だが固定インターネットの通信量単価に対してモバイルインターネットの通信料単価が著しく高価であるのは否めない。

 ドコモの料金体系では1人で使うデータパックの価格は20GB/月のウルトラデータLパックで6,000円だ。これとは別に基本料金に相当する基本プランが必要となる。5分以内の通話が無料でできるカケホーダイライトプランで1,700円/月だ。合算すると20GBのインターネット通信には7,700円/月がかかる。ここから各種の割り引きを差し引くとサービスとしては固定インターネットとほぼ同額程度となる。

 つまり、ざっくり計算すると5,000円/月で固定インターネットなら制限がないのに、モバイルインターネットでは20GBとなる。確かに単価は高い。手元のスマートフォンで速度を測定すると、コンスタントに200Mbps程度のダウンロード速度が出るが、このスピードで20GBを消費すると15分程度で打ち止めだ。もっとも適当にYouTubeでも見続けるだけなら40時間はもつし、画質を落とせばもっと見続けられる。1日4時間をYouTubeを見て過ごしても10日分以上ある計算になる。

 この金額は本当に高いのか安いのか。そして節約しなければならないものなのか。

あわせて1万円で得られる幸せの量

 通信の量が増えれば、それを処理するためのコストもかかるというのは固定回線でもモバイルネットワークでも同様だ。なのになぜ、固定ネットワークと移動体ネットワークで料金体系に違いが出てしまったのか。それは、移動体ネットワークは固定ネットワークに依存しているからだ。移動体ネットワークには電波を使っている区間を維持するコストが余分にかかるのだ。

 管官房長官が日本の携帯料金が4割下げられると発言したことが話題になっているが、日本国内におけるきめ細かい基地局設置やその管理、キャリアショップや電話でのサポートコスト、次世代ネットワークの研究開発費、災害時の復旧コストなどを考えると、実は、家庭で使われる固定インターネットのほうに割高感を感じたりもする。

 エンドユーザーにとっての通信費は、通信サービス、インターネット接続サービス、端末代、各種割り引きのトータル金額だから、何にどのくらいの費用がかかっているのかわかりにくくなってしまっている。

 いっそのこと、キャリアが端末を売るのを禁止してしまえば、端末料金とそのサポートにかかる費用は完全に通信料金から切り離して考えられるのにと思ったりもするのだが、それでは10万円超のハイエンド端末はまったく売れなくなってしまうかもしれず、それでは日本の国力にも影響していくことになりかねない。せめてキャリアにおける端末販売部門とサービス部門を分社化してみかけの請求が別になればわかりやすくなるのだろうが、「端末とサービスをセットでなんぼ」のわかりやすさを捨てられない事情も理解できる。

 ただ、今後の5Gネットワークの時代には20GBを1分で使い果たすようになるだろう。そしてIoTの時代においては、身の回りのIoT機器は増える一方で、ほとんど意識しないところでデバイスが通信しているような状況がやってくる。そんななかで、時間や量で通信料金が決まるというビジネスモデルはふさわしくないようにも思う。

 インターネットは重要なインフラで、たとえば高齢化社会が進む中で、広い帯域を有効に活用した遠隔医療などでも重要な役割を果たすようになるだろう。それで病気を未然に防げれば医療費の負担も減る。壮大なワリカンの1つである社会保険料も安くなるかもしれない。働き方改革が進む中でテレワークなどによって高齢人材や子育てや介護に忙しい人材が活かせるだろう。日本の未来はインターネットに強く依存しているし、そうでなければ立ち行かない。

 これからは、自分がインターネットを使っているのがモバイルネットワークなのか、家庭の固定インターネットなのかを把握することさえ難しくなるかもしれない。そういう時代に、自分が消費するデータ量を把握して適切なプランを選べるのか、いや、果たして、自分に必要なデータ量を把握するようなことが求められるのが正しい社会なのかどうか。考えなければならないことは山のようにある。