山田祥平のRe:config.sys

スマートフォン、そのオープンマーケットとキャリアマーケット

 通信機は通信事業者から購入するものという常識は、オープンマーケットの登場によって少しずつ崩壊すると思っていた。デバイスの代金とサービス料金を明確に分離することは大事なことだし、当たり前のことでもある。ところが、その背後には、いろいろな思惑があってなかなか定着しないというジレンマがある。

オープンマーケットのジレンマ

 HuaweiのハイエンドスマートフォンP20 Proが、ドコモの2018年夏のキャリアモデルとして発売されることになった。今回は、ドコモ独占で、ほかのキャリアからの発売はない。

 SIMロックフリー機の浸透に大きな貢献をはたしてきたHuaweiだが、やはりキャリアショップによる販売網の魅力は大きかったのだろう。なにを言われようがとにかく前に進むという姿勢が見て取れる。同社の日本・韓国リージョンプレジデントの呉波氏がいつも言っているように生き残れなければ意味がないからだ。

 Huaweiに対してGalaxyは今回も日本のオープンマーケットへの参入はない。キャリアモデルだけだが、少なくとも現時点ではドコモとauの2社のニューモデルにS9、S9+がラインナップされる。両社のビジネスのやり方は、このようにちょっと異なっている。

 これまでHuaweiのやり方を気に入って支援してきたコアなユーザーにしてみれば、噂のハイエンド端末がほしいのに、事業者と契約することなく端末だけを買うのが難しいという点で、ちょっと寂しい思いをしているかもしれない。

 価格のことだけを考えると、キャリアから購入する端末はかなりの安上がりだ。いわゆる「実質×円」だ。Huawei P20 Pro HW-01Kの場合、月々サポートとして機種変更では46,656円、MNPでは81,000円が2年間かけて戻ってくる。

 もしこれがなければ103,680円を工面しなければならない。つまり2年間のシバリに納得ができれば、機種変更なら実質57,024円、MNPなら22,680円で手に入る。しかも下取りプログラムなども充実しているから実質入手価格はもっと安いはずだ。

 どんなに優れた製品であったとしても10万円を超える価格でスマートフォンをオープンマーケットに投入しても、それを黙って買ってくれる熱心なHuaweiファンはほとんどいないだろうというのがHuaweiの考えなのだろう。

 ユーザーにとってはツケが回ってきたというイメージだ。それに、そうしてくれるほど本当に熱心なファンは、技適などを気にすることなく、グローバルモデルをすでに入手済に違いないという考えもあるかもしれない。

価格と引き換えに失われるもの得られるもの

 今、手元には発売前のドコモP20と、グローバル版P20がある。ドコモ版のハードウェアは、SIMスロットが1つでDSDSなどの機能が使えないことをのぞけば、グローバル版より魅力的だ。たとえばおサイフケータイに対応している。

 また、ドコモのネットワークに最適化されているにもかかわらず、それは追加仕様であって、グローバル版の対応バンドが無効化されているわけではないという。世界中どこの国でも安心して使えるという点で、バンド1/3/5/7/8/20/41のすべてに対応しているスマートフォンは日本国内で発売されているものはiPhoneくらいだ。P20はようやくAndroidでそれをかなえるキャリアモデルとなった。

 ソフトウェアに目を向けると、細かい部分がいろいろと違っている。ホームアプリのイメージはまるで別物だし、たとえば、電池について、設定メニューのなかに「電池」という項目があり、「内蔵電池の充電能力は良好です(80%以上)」なんてことを確認できたりもする。

 ドコモ端末ではおなじみの伝言メモがあったり、エリアメール対応していたりする一方で、Bluetoothテザリングがない、ツインアプリがない、Private Spaceがない、Huawei Cloudがないなど細かいところに差分がある。もちろん、新しく登場したデジタルアシスタントのmy daizもプリインストールされている。

 さらに、Huaweiのホーム画面も、そのスタイルをドロワー方式に設定することができず、すべてのアプリをホーム画面上に並べなければならない。これだからキャリアモデルはいやなんだという声が聞こえてきそうだ。

 それでも半額、MNPならさらにその半額以下で、この魅力的な端末が手に入るのだから、目をつぶるしかないということになるのだろう。キャリア側としては、ベンダーが異なってもドコモ製端末として売る以上は、できるだけ共通化をはかりたいという思惑もあるに違いない。

あちらとこちらの両方を

 グローバルモデルが技適認証されていない以上、それを日本国内で使い続けるのは難しい。だから、国内で利用したいP20を入手するには、ドコモから購入するしかない。これはHuawei端末を愛する熱烈なファンに突きつけられたどうすることもできない事実だ。

 今、ドコモのような大手キャリアだけではなく、MVNO各社も、端末を売ることについては熱心で、Huaweiもその恩恵にあずかっている。そこが稼ぎ頭になっているということもできそうだ。つまり、完全なオープンマーケットで、通信事業者との契約とはいっさい関係なく、好きな端末を好きな店で購入できる世のなかにはなっていない。

 この状況は、今後、まだまだ続くだろう。携帯電話の直近20年間が残した悪しき慣習ではあるが、それがなければ、今の日本の経済情勢のなかで、ここまで移動体通信が浸透することはなかったかもしれない。

 Huaweiとしては、ミドルレンジはオープンマーケットを含むMVNO経由などで幅広い層に訴求し、価格の張るハイエンド製品は、キャリアを通じて実質価格を下げて訴求するという作戦だ。キャリアでハイエンドモデルを売るというのは同社にとっても悲願だったはずで、それが実現したことで、今後、同社に対する世間の目は、これまでとは異なるものになっていくだろう。もちろんいい方向にだ。

 熱烈なファンにとっては残念に感じられるかもしれない今回の施策だが、将来のスマートフォンマーケットをより健全で自由なものにするための布石としては、一理あるようにも感じる。

 そもそも今は、スマートフォンの買い替え時期としてはとても微妙だ。5G時代の到来を目前に、通信のことを考えての端末選びは難しい時期にある。この時期を、従来型端末入手の最後のタイミングにするのか、それとも5G端末の登場をじっと待つのか。

 今、スマートフォンはカメラ機能の向上に熱心だが、現時点でこれだけの機能を持った端末を入手するには、10万円程度の出費は仕方がないという認識を新しい当たり前にするには、こうした荒療治もいたしかたがないということだ。そういう意味では微妙な時期というのが功を奏する可能性もある。

 Huaweiのオープンマーケット、キャリアマーケット両立の戦いははじまったばかりだ。その行方を固唾をのんで見守りたい。