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保守と革新が融合した着脱式レッツノート

~レッツノート XZ6 開発者インタビュー

XZ6に開発者それぞれの想いを込めて

 パナソニックから「レッツノート XZ6」が出荷された。12型以上のディスプレイを備え、TDP 15WのCore iプロセッサ搭載着脱式ノートPCにおいてという、かなり限定的な条件ではあるが、世界最軽量を誇るレッツノートだ(2017年1月12日現在同社調べ)。

 出荷式も盛大に開催されパナソニックの自信が伝わってくる。その開発にあたった西本泰昌氏(モバイル開発部ハード設計1課 プロジェクトリーダー)、鈴木毅充氏(モバイル開発部機構設計1課 機構担当)、深山一弥氏(モバイル開発部ハード設計1課 電気、基板担当)、用正博紀氏(先行開発部開発2課 放熱担当)らに話を聞いてきた。


――これまで頑なにクラムシェル、そして、2in1でもヨガスタイル、つまり液晶ディスプレイを裏側に折り返せるコンバーチブルタイプのフォームファクタにこだわってきたレッツノートの中では、今回の着脱式は異端児という印象があります。その取り組みに至ったいきさつを教えてください。

西本泰昌氏(モバイル開発部ハード設計1課 プロジェクトリーダー)

西本 ご存じのように12型クラスの2in1としてはMXシリーズがありました。レッツノートとしては、この製品でヨガスタイルを推奨してきたのですが、そのMXに対する不満点を、いろいろなお客さまに聞いてきました。製薬会社を中心に回ったのですが、MXしかなかった状況では、もっと軽量を追求して欲しいという声がたくさんあったのです。

 もちろんレッツノートにクラムシェルの使い方を求めるのは当然のことと考えられています。それに加えて、クラムシェルとしての使い勝手を一切損なわないでタブレットとしても使えるようにするにはどうすればいいかを考えた時に、コンバーチブルにこだわっていては軽量化には限界があるという結論に達しました。

 また、お客さまにヒアリングしていたところ、Surfaceなどは、タブレットとしてもやはり重いという声が多かったのです。いずれにしても、MXのままでは750gは絶対に切れないという結論にいたり、割り切ろうということになったわけです。

――Surface Pro 4は12.3型で786gです。純正のタイプカバーが310gありますから、1,096gですね。それに対してMXは12.5型の2in1で、重量は1.198kgです。光学ドライブまで搭載してこの重量です。そのあたりをスタート地点に設定して開発が始まったということでしょうか。

鈴木毅充氏(モバイル開発部機構設計1課 機構担当)

鈴木 はい、MXの後継ということを想定し、まずは、1.1kgを目指しました。着脱式になるので重くなるはずなんですが、それよりは軽くしたいという狙いがありました。

西本 世界最小、最軽量といった歴代レッツノートが持つ数々のプレッシャーはすごくありました。だから1kgを切るところから始めたいとは思っていたのですが、さすがにチャレンジャブルで目標としても高いですよね。

――12型クラムシェルのSZが929gですね。光学ドライブなしのモデルならさらに軽くて849gです。個人的には900gを切るあたりに目標が設定されてきたのかと思っていました。

鈴木 数値のインパクトは1kgを切る方が圧倒的ですね。

西本 でも、ドッキング部分やバッテリを本体部とキーボード部分の双方に配置するとなると、なかなか厳しいんです。

鈴木 筐体設計でも薄型化をしているので最初からハードルは高かったです。

――SZの液晶をタッチセンサー内蔵にして表面をガラスでなくフィルムにするというのではダメだったのでしょうか。

西本  はい、フィルムタイプのタッチパネルも考えました。でも、フィルムではパナソニックの評価試験をパスできないんです。やはりレッツノートですから堅牢性は外せません。確実に軽くはなりますが、そこはやりませんでした。

 それにXZは2,160×1,440ドットで、これまでのレッツノートよりも高解像度です。そこで、今まではAGフィルムを使っていましたが、今回は反射を防ぐと同時に、光を拡散させないようにする効果が高く、また、ペンを使った時の書き心地を確保するためにARフィルムを使っています。重量的なインパクトはAGとARではあまり変わりません。

――タブレット単体での550gは、Core i7のUプロセッサ搭載なのにすごいと感じました。iPad Proが12.9型で723gですからはるかに下回っています。LAVIE Hybrid ZEROは11.6型で410gですが、Yプロセッサですから。

鈴木 タブレット部分の設計については、今までよりも軽くするために、均一に0.4mmのマグネシウムを使うようにしました。これまではいくつかの肉厚が混在していたんです。でも、0.4mmのマグネシウムというのは製造が難しいんです。ベンダーさんに立ち会いにいって、最初は金型全部、破れた紙のようなものばかりが出てきて途方に暮れました。

西本 最初は10%しか良品が取れなかったんですよ。ちょっとずつ肉盛りなどを経てうまくいくようになりました。本当は90%くらいを取るのが理想です。

鈴木 全体のバランスを考えた時に550gというところに落ち着きました。合体して開いた時に倒れてしまわないようにしなければなりませんし、ボリュームモックというのですが、構造試作をいくつか作ってみた結果です。

用正博紀氏(先行開発部開発2課 放熱担当)

用正 Core iのUプロセッサの放熱は薄型化で発想の転換が必要でした。従来のレッツノートと比べてタブレット部分だけだと4割薄くなっているので、薄型と放熱の両立が難しかったですね。

 ノートPCのファンというのは一般的に上下で吸って脇に出すという方式です。今回はデュアルアウトレット方式を採用しました。2方向に風を排出します。風量の改善のために薄型のファンを開発するにあたってメーカーや内部と泥臭く調整をしたのですが、とにかく最初はひどかったですね。メーカーの設計、製造とやり合いました。オーソドックスにはファンを2つ載せるのせるなどの方法もあったんですが、そうすると基板面積も大きくなってしまうので却下です。

鈴木 トータルの重量について19gはみ出したのは、今回の頑張り不足かもしれませんね。

西本 いや、実際には1kgを切るところまではいったんですよ。でも、それを量産するというは無理なので断念しました。さすがの神戸工場でも無理なんです。装置を構成する各ユニットの重量のバラツキを考えるとまず不可能と判断しました。

鈴木 それでも、発表会の時に説明員として立ち会ったのですが、「うわ、軽っ」とか驚いてもらえて、設計の醍醐味を感じました。トータル重量は550gのタブレットから逆算して、クラムシェルとして使った時のバランスで決まった感が強いです。

――キーボードはSZとまったく同じと聞いています。十分に打ちやすいキーボードです。やはり文字のタイピングを重視されたのでしょうか。

西本 Surfaceは意識していましたから、キーボードにはこだわる必要がありました。本体側も、各種I/O端子を装備して今までのノートPCと同じように使えるようにしなければなりません。そこで、SZの丸型パッドを使ったりしているのですが、パッドとバッテリが二階建て構造になるので、パッドそのものの改良で薄型化を果たしています。

 画面のアスペクト比はSurfaceと同じ3:2で、これまでのレッツノートにはなかったものです。これはタブレットとして使った時に、紙の代わりとして使うなら3:2だろうということで、お客さまの要望もかなりあったのです。もし、16:10にしたらもう少し軽く、そしてフットプリントも小さくできたかもしれませんが、より良い使い勝手を考えて、3:2を選びました。

――重量などの目に見える部分ではなく、使い勝手が先行して、それに重量がついてくるというイメージでしょうか。ずいぶんたくさんのヒアリングをされたようですね。これまでのレッツノートはあらゆる現場で戦力になる汎用が最重視されていたように思うのですが、XZはどこか狙ったターゲットがあったのでしょうか。

西本 お客さまの声はとにかくよく聴きました。MXの後継として、なぜ、MXは不満に感じられていたのか、それを徹底的に調べたんです。

 そのためにMXが入り切れなかった現場にヒアリングを重ねた結果、製薬会社のMRなどがそうだったんです。だから、そこを徹底的に狙いました。

――MRの方たちはタブレット単体でプレゼンすることを望んでいるということなんでしょうか。この分野は今、iPadの独擅場だそうですね。それでコンバーチブルでは勝負にならないということになったわけですね。電気的な面で、着脱式の難しさはどうだったのでしょう。

深山一弥氏(モバイル開発部ハード設計1課 電気、基板担当)

深山 今までレッツノートの基板設計をいろいろやってきましたが、常にメイン基板は本体側にありました。でも、今回はデタッチャブル(着脱式)です。しかもIO関連の端子はキーボード側にも必要なので高速で両者を接続するバスが必要になります。従来と違うこれをどう構成していくかで悩みました。

 ドッキング部に細長い基板を使い、電源、USB、DisplayPort、有線LANなどの信号を流しています。そんな中で配線の通し方を工夫してみたんですが、設計については高速信号が通るかどうかがポイントでした。

 意外と最初はうまくいったんですが、2回目以降はだめになりました。インピーダンス制御で壁につきあたったんです。フレキシブル基板を使っているのですが、そこからベース側の基板と信号をやり取りする際の信号品質を保証するためには、ケーブルのインピーダンスのばらつきは鬼門です。ものづくりをやっていく中で、どうばらつくのかをメーカーと相談しながら合わせこんでいきました。当然、信号そのもののスペックとしても厳しいものがあります。

西本 3.5mmの新しい電源プラグを採用するという苦しい判断もありました。これまでのレッツノートとアダプタとの互換がなくなります。でも、9.5mmのタブレットに従来の端子は無理でした。もちろん、USB Type-C PDを使うことも考えました。これは、今後の課題でもあります。現時点では、ACアダプタの安全性などを考えると時期尚早と判断しました。

 市場に流通している各社のPD対応製品などを見てみると、まだまだこなれてきていません。アダプタプラグのこじり試験などをやってみると、Type-Cケーブル、プラグそのものもまだ耐久性の点で不安があります。もう少し時間が必要なのではないでしょうか。

深山 電源だけではなく、世の中には公称しているスペックを満たしていないデバイスがたくさんあります。エンドユーザーが公称スペックを信じて手に入れたデバイスやケーブルを使った時に、何らかのトラブルに陥るようなことがあってはなりません。レッツノートを使っている限り、トラブルとは無縁でいて欲しいですから。

――レッツノートの保守的と革新が融合したのがXZというわけですね。ありがとうございました。

本体部とタブレット部を接続する機構。ここにさまざまな苦労と重量が凝縮されている