レビュー

期待のアッパーミドル「Radeon RX 480」をテスト

Radeon RX 480のリファレンスボード

 AMDは6月29日、Polarisアーキテクチャを採用する新世代アッパーミドルGPU「Radeon RX 480」を発売した。今回は、AMDの新たなアッパーミドルGPUの性能をベンチマークテストでチェックする。

14nm FinFETプロセス採用のアッパーミドル

 Radeon RX 480は、第4世代Graphics Core Next(GCN)アーキテクチャ「Polaris」に基づき、14nmプロセスで製造されたGPUコア「POLARIS 10」を採用するアッパーミドルGPU。

 Radeon RX 480に採用されたPolaris 10コアは、同コアが持つ36基のCompute Unitsを全て有効化したフルスペック版で、2,304基のストリームプロセッサを備えている。GPUクロックはベースクロック1,120MHz、ブーストクロック1,266MHz。

 メモリには8Gbps以上で動作する4GBまたは8GBのGDDR5メモリを採用。256bitのメモリインターフェイスでGPUと接続することで、224GB/sec以上のメモリ帯域幅を確保した。消費電力の目安であるBoard Powerは150W。

【表1】Radeon RX 480の基本的なスペック
Radeon RX 480Radeon R9 380XRadeon R9 390
アーキテクチャPolarisGCNGCN
製造プロセス14nm28nm28nm
ベースクロック1,120MHz
ブーストクロック1,266MHz970MHz1,000MHz
Stream Processor2,304基2,048基2,560基
メモリ容量4GB/8GB GDDR54GB GDDR58GB GDDR5
メモリ速度8.0Gbps5.7Gbps6.0Gbps
メモリインターフェイス256bit256bit512bit
消費電力150W190W275W
Radeon RX 480のGPU-Z結果

 今回テストするRadeon RX 480は、8GBのメモリを搭載したAMDのリファレンスボードだ。2スロット占有の外排気型GPUクーラーを搭載しており、カード長はブラケット部を除いて約240mm。

ボード裏面。基板の長さは約177mmで、GPUクーラーの方が基板より長い
補助電源コネクタは6ピン1系統。PCI Expressスロットからの給電と合わせて150Wを供給できる
ディスプレイ出力端子は、HDMI×1、DisplayPort×3

 ディスプレイ出力端子はHDMIとDisplayPortのみとなっており、DVIポートやアナログ出力は省略されている。動作に必要な補助電源コネクタは6ピン1系統。

テスト環境

 Radeon RX 480の性能をチェックするにあたり、比較用のGPUとして前世代のアッパーミドルGPUであるRadeon R9 380Xを搭載する「Sapphire NITRO R9 380X 4G GDDR5 PCI-E」と、NVIDIAのGeForce GTX 970を搭載する「ASUS STRIX-GTX970-DC2OC-4GD5」を用意した。どちらもオーバークロック仕様のビデオカードであるため、テスト時は各GPUのリファレンスモデル相当までダウンクロックしている。

 そのほか、テストに使用した機材は以下の表に記載した。

【表2】テスト機材
GPURX 480R9 380XGTX 970
CPUCore i7-6700K
マザーボードASUS Z170-A
メモリDDR4-2133 8GB×2(15-15-15-35、1.20V)
ストレージ256GB SSD(CFD CSSD-S6T256NHG6Q)
電源玄人志向 KRPW-TI700W/94+(700W 80PLUS TITANIUM)
グラフィックスドライバRadeon Software Crimson Edition 16.6.2Radeon Software Crimson Edition 16.6.1 HotfixGeForce 368.39 Driver
OSWindows 10 Pro 64bit
Radeon R9 380X搭載のSapphire NITRO R9 380X 4G GDDR5 PCI-E
GeForce GTX 970搭載のASUS STRIX-GTX970-DC2OC-4GD5
Sapphire NITRO R9 380X 4G GDDR5 PCI-EのGPU-Z結果
ASUS STRIX-GTX970-DC2OC-4GD5のGPU-Z結果

ベンチマーク結果

 それでは、ベンチマークテストの結果を確認する。実行したテストは、3DMark(グラフ1、2、3、4、5)、Ashes of the Singularity(グラフ6)、アサシンクリード シンジケート(グラフ7)、Witcher 3(グラフ8)、ダークソウルIII(グラフ9)、ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク(グラフ10)、MHFベンチマーク【大討伐】(グラフ11)。

 3DMarkのFire Strikeでは、Radeon RX 480が3つのプリセット全てでトップスコアを記録。Radeon R9 380Xには30~35%、GeForce GTX 970には10%前後の差をそれぞれ付けている。

 描画負荷の軽いSky DiverとCloud Gateではスコア差が縮まっているものの、Radeon RX 480が比較製品中トップのスコアを記録している。

【グラフ1】3DMark - Fire Strike (1,920×1,080ドット)
【グラフ2】3DMark - Fire Strike Extreme (2,560×1,440ドット)
【グラフ3】3DMark - Fire Strike Ultra (3,840×2,160ドット)
【グラフ4】3DMark - Sky Diver
【グラフ5】3DMark - Cloud Gate

 DirectX 12対応タイトルであるAshes of the Singularityのベンチマークモードを使った比較。ベンチマークテストは1,920×1,080ドットのフルHD解像度で実行し、テスト全体の平均フレームレートである「All batches」の結果をまとめた。

 Radeon RX 480は、描画設定Standard時にGeForce GTX 970を約2fps下回ったが、そのほかの条件では比較製品中最高のフレームレートを記録した。また、Radeon RX 480ではAPIをDirectX 12にすることでフレームレートが向上しており、APIの違いでフレームレートに大きな変化がみられないGeForce GTX 970を21~25%上回った。

【グラフ6】 Ashes of the Singularity: Benchmark (1,920×1,080ドット)

 アサシンクリード シンジケートでは、Radeon RX 480は全ての設定で比較製品の中で最高のフレームレートを記録している。ただし、画面解像度2,560×1,440ドットの描画設定「非常に高い」以下の設定では、GeForce GTX 970もRadeon RX 480と同じフレームレートを記録している。

 GeForce GTX 970は2,560×1,440ドットの描画設定「最高」以上では大きくフレームレートが低下し、結果としてRadeon RX 480のフレームレートが突出している。これは、VRAMの使用量が4GBを大きく超えているためであり、8GBのVRAMを持つRadeon RX 480の優位性が示された結果だ。

 もっとも、4GBのVRAMが不足する条件では、Radeon RX 480のフレームレートも30fpsを大きく割り込んでおり、Radeon RX 480でも単体で満足にゲームプレイできる条件ではない。

【グラフ7】 アサシンクリード シンジケート

 Witcher 3では、Radeon RX 480がGeForce GTX 970を約15%上回るフレームレートを記録した。Radeon R9 380Xには30~40%の差を付けている。各GPUの性能差は、ここまでのテストの中では3DMark Fire Strikeの結果と近い傾向にあるようだ。

【グラフ8】 Witcher 3

 描画設定を「最高」にしたダークソウルIIIで、Radeon RX 480がフレームレートの上限である60fpsに届いたのは1,920×1,080ドットまで。2,560×1,440ドットでは47fps、3,840×2,160ドットでは24fpsをそれぞれ記録。このフレームレートはGeForce GTX 970の結果と拮抗している。

【グラフ9】 ダークソウルIII

 ファイナルファンタジーXIVでは、Radeon RX 480はGeForce GTX 970に比べ、DirectX 9時のスコアに対してDirectX 11時のスコアの落ち込みが大きいという傾向がみられ、DirectX 11でのベンチマークでは、1,920×1,080ドットと2,560×1,440ドットでGeForce GTX 970を下回っている。

 一方、Radeon RX 480はGeForce GTX 970に比べ、画面解像度が上がった際のスコア低下が少ないという傾向もあり、3,840×2,160ドット時にはDirectX 11でもGeForce GTX 970を逆転している。

 この画面解像度の向上に対してスコアの低下が少ないという傾向はMHFベンチマークでも同様で、1,920×1,080ドット時に約6%の差でリードを許していたGeForce GTX 970に対し、2,560×1,440ドット時にはほぼ同程度のスコアに追いつき、3,840×2,160ドット時には約5%の差を付けて逆転している。

【グラフ10】 ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク
【グラフ11】 MHFベンチマーク【大討伐】

 最後は消費電力の測定結果だ。消費電力の測定はサンワサプライのワットチェッカーで行った。

 Radeon RX 480のアイドル時消費電力は41Wで、この数字は比較した3製品の中では最も高い数値となっている。

 Radeon RX 480のベンチマーク実行中の最大消費電力はおおよそ190~210W程度で、200W前後のGeForce GTX 970とかなり近い数値となっている。GeForce GTX 970はアサシンクリードシンジケートの2,560×1,440ドット時の電力が149Wと低いが、これはVRAM不足でGPUが十分に性能を発揮できていないためだ。

 前世代のアッパーミドルGPUであるRadeon R9 380Xの消費電力はおおよそ200~230Wであり、ほとんどのテストでRadeon RX 480と同等か高い数値となっている。Radeon RX 480が3割以上高いスコアを記録していることを考えれば、電力対性能比が大きく向上していることが分かる。

【グラフ12】 システム全体の消費電力

性能と電力効率の向上を同時に達成した新世代アッパーミドルGPU

 Radeon RX 480の性能と電力効率は、従来のアッパーミドルGPUであるRadeon R9 380Xから大きく向上した。200ドル前後のアッパーミドルGPUでありながら、その実力はMaxwellアーキテクチャを採用するハイエンドGPUであるGeForce GTX 970に勝るとも劣らない。今後普及が期待されるDirectX 12での性能が良好なのも魅力的だ。

 現在、Pascalアーキテクチャを採用するGeForce GTX 1080/1070の登場により、旧世代となったGeForce GTX 970を搭載するビデオカードは、35,000~40,000円程度で購入可能となっている。Radeon RX 480がライバルに対して費用対効果の面でどこまで対抗できるのかに注目したい。