笠原一輝のユビキタス情報局

8型WindowsタブレットにOfficeレスモデルがない理由

~Office Personal 2013が事実上無償バンドル扱いに

 IFAやIDFなどで続々と発表された8型ディスプレイ搭載のWindowsタブレットが、ここ1カ月で日本向けにも続々と発表されている。11月26日にレノボ・ジャパンが「Miix 2 8」を発表したことで、各社の製品が一通り出揃ったことになる。本レポートではそうした8型ディスプレイ搭載Windowsタブレットの傾向と、その価格モデルについて考えていきたい。

発表された4社の8型WindowsタブレットはいずれもOfficeバンドル版のみ提供

 11月になって発表された8型ディスプレイを搭載したWindowsタブレットは、日本エイサーの「Iconia W4」、デルの「Venue 8 Pro」、レノボ・ジャパン「Miix 2 8」、東芝の「dynabook Tab VT484」の4製品だ。いずれの製品も、Intelが9月に発表したBay TrailことAtom Z3740(1.33GHz)を搭載し、2GBのメモリ、32GBまたは64GBの内部ストレージ、8型のタッチ液晶を搭載している点でほぼ同じスペックになっている。

【表1】8型Windowsタブレットの価格構成
メーカー日本エイサーデルレノボ・ジャパン東芝
ストレージ容量Officeの種類Iconia W4Venue 8 ProMiix 2 8dynabook Tab VT484
32GBOffice Personal 2013--42,800円前後50,000円台前半
32GBOffice Home and Business 2013---60,000円前後
64GBOffice Personal 201343,000円前後39,980円--
64GBOffice Home and Business 201347,800円前後41,980円47,800円前後60,000円台半ば

 こうして整理してみると分かることが2つある。1つは東芝を除く、デル、レノボ・ジャパン、日本エイサーの価格がほぼ同じレンジになっているという事実だ。「同じ64GB+Office Home and Business 2013の組み合わせでVenue 8 Proが42,000円弱と安いじゃないか」という意見が返ってきそうだが、注意したいのはデルの価格はダイレクト価格ということだ。それに対して日本エイサーやレノボ・ジャパンの価格は店頭での予想価格であり、実際にはこれから10%程度のポイント還元が付いてくることが多い。仮に10%のポイント還元があるとすれば、実質的に43,000円程度ということになるので、価格差は1,000円だ。従って、東芝を除く3社はほぼ横並びの価格だと考えていいだろう。

 そしてもう1つ気が付くことは、Officeをバンドルしていない製品が1つもないことだ。なお、デルのVenue 8 Proは、発表時にはOfficeがバンドルされていないモデルが39,980円であるとアナウンスされていた。しかしその後、この39,980円のモデルにもOffice Personal 2013がバンドルされることが追加でアナウンスされており、全ての8型WindowsタブレットはOfficeがバンドルされる格好となっているのだ。それはなぜなのだろうか。

レノボ・ジャパンのMiix 2 8。Atom Z3740(Bay Trail、1.33GHz)、2GBメモリ、32/64GB eMMC、8型タッチ液晶を搭載したWindowsタブレット
レノボ・ジャパンの発表会で示されたMiix 2 8の市場想定価格。店頭向けの市場想定価格なので、ここにポイント分などを検討すると、64GB+Office Home and Business 2013モデルの価格はだいたい43,000円に

Officeバンドルが標準の理由は「Smaller Screen Program」

 その秘密は、MicrosoftがOEMメーカーに対して提供している、「Smaller Screen Program」という特別な価格体系にある。このSmaller Screen Programは10型以下のタッチディスプレイを持つデバイス向けに適用される価格体系で、Microsoftが6月のCOMPUTEX TAIPEIでその存在を明らかにした、低価格なライセンスモデルになる。

 Microsoftは公式にはSmaller Screen Programがどのような価格体系であるのかを明らかにしていないが、OEMメーカーに近い情報筋によれば、Windows 8.1+Officeで30ドルという価格になっており、実質的にWindows 8.1にOfficeが無料でバンドルされる価格体系が提供されている。このあたりの事情に関しては別記事で詳しく解説しているのでそちらをご参照頂きたい。

 今回OEMメーカーが発表した8型ディスプレイを搭載するWindowsタブレットは、このSmaller Screen Programの対象となる。仮にOEMメーカーが、Smaller Screen Programを選択せず、Officeをバンドルしない通常のWindows 8.1の価格体系を選択しても価格差は限りなくゼロに近いという。つまり、OEMメーカーにすれば、Officeのバンドルを選んだ方がユーザーに対してアピールできるポイントが増えるため、各社のラインナップにOfficeがバンドルされていないモデルがないのだ。

 ただ、日本市場が、欧米市場と大きく違う点が2つある。1つは、Smaller Screen Programを利用して8型WindowsタブレットにバンドルされているOfficeは、欧米市場ではOffice Home and Student 2013であるのに対して、日本ではOffice Personal 2013である点。もう1つは、欧米市場では、Office Home and Student 2013の上位SKUであるOffice Home and Business 2013はオプションとして提供されていないのに、日本では若干の価格差でOffice Home and Business 2013を選択できる点だ。

日本だけ特別ルールになっているOffice 2013のライセンス

 このことを理解するには、日本とそれ以外の市場で、Officeのライセンス形態が異なっている事を知っておく必要がある。

 MicrosoftはOffice 2013からライセンスモデルを大きく変更している。変更のポイントは2つあり、1つは年単位でのサブスクリプションモデルであるOffice 365を導入したこと、もう1つは従来の買い切りのライセンスでインストールできるデバイスの台数が2台から1台へと減らされたことだ。つまり、MicrosoftとしてはOfficeのライセンスを従来のバージョン毎に支払う形からサブスクリプションモデルへと移行を促したい意図があり、こうしたライセンスモデルの変更を行なったと考えることができるだろう。

 ただ、こうしたライセンスモデルの変更はあくまで日本国外の地域だけで、日本は例外となっているのだ。日本だけは、パッケージ版と呼ばれる従来型の買い切り型ライセンスは2デバイスまでインストールが可能で、Office 2010と同じ扱いになっている。

 また、日本以外の地域では、ホームユースに限定したライセンスとしてOffice Home and Student 2013とOffice 365 Home Premium、さらにはOffice 2013 RT(Windows RTに初期導入されているOffice 2013)が用意されているのだが、“日本に居住しているか日本国内に居住している時にライセンスを入手した場合”にはこの制限が適用されないことになっている(このことはOffice 2013のライセンス条項に書かれている)。このため、日本国外では商用利用が認められていないOffice 2013 RTを商用に利用することもできる。

 ただし、日本ではOffice Home and Student 2013とOffice 365 Home Premiumは用意されず、Office Personal 2013(World/Excel/Outlook)、Office Home and Business 2013(World/Excel/Outlook/PowerPoint/OneNote)、Office Professional 2013(World/Excel/Outlook/PowerPoint/OneNote/Access/Publisher)が用意され、前述の通り、いずれのライセンスでも個人利用、商用利用、どちらも可能になっている。

【表2】日本でのOffice 2013ライセンス形態
パッケージ/プレインストールOffice 365
Office Personal 2013Office Home and Business 2013Office Professional 2013Office 365 Small Business PremiumOffice 365 Midsize BusinessOffice 365 Enterprise E3
個人利用---
商用利用
ライセンス形態買い切り買い切り買い切り月/年契約月/年契約月/年契約
インストール可能台数2(パッケージ)/1(バンドル)2(パッケージ)/1(バンドル)2555
Word
Excel
Outlook
Power Point-
OneNote-
Access--
Publisher--
Lync---
InfoPath----
【表3】日本国外でのOffice 2013ライセンス形態
パッケージ/プレインストールOffice 365
Office Home and Student 2013Office Home and Business 2013Office Professional 2013Office 365 Home PremiumOffice 365 Small Business PremiumOffice 365 Midsize BusinessOffice 365 Enterprise E3
個人利用---
商用利用--
ライセンス形態買い切り買い切り買い切り月/年契約月/年契約月/年契約月/年契約
インストール可能台数1115555
Word
Excel
Outlook-
Power Point
OneNote
Access--
Publisher--
Lync----
InfoPath-----

 なぜこうしたライセンス形態になっているのかについて、詳しくは三浦優子氏の記事を参照して頂きたいが、日本独自の事情に米Microsoft本社が配慮した結果としてこうなっているのだ。日本独自の事情とは、Officeのバンドル率がほかの地域より圧倒的に高いことである。三浦氏の記事でMicrosoftの関係者が語っている通りで、日本ではエンドユーザーが自分でアプリケーションソフトウェアを入れるという使い方よりは、入っているソフトウェアをそのまま使うという使い方が一般的であるため、バンドルが継続できるライセンスモデルが必要とされていたのだ。

 このため、日本だけはOffice 2010で採用されていたライセンスモデルを、ほぼそのままOffice 2013でも継続しており、Office PersonalとOffice Home and Business 2013にバンドルされていたPCだけで使えるバンドルライセンスが用意される形態になっているのだ。

日本ではビジネス利用可能なOffice Personal 2013が無償バンドル

 このように、日本だけ異なるライセンス形態をとっているため、日本でSmaller Screen Programを適用するときに、どのOfficeのライセンスをバンドルするかが課題になっていた。また、すでに述べた通り、Office 2013のライセンス条項で、ホームユース限定条項は日本のユーザーには適用されないことが明記されているため、その分のライセンス料を上乗せするのかどうかも議論の対象となっていた。

 OEMメーカー筋の情報によれば、結局日本ではWindows 8.1+Office Personal 2013が欧米と同じ30ドル、若干の追加コストでWindows 8.1+Office Home and Business 2013が提供されるという価格モデルで落ち着いたようだ(もちろん、OEMメーカーのライセンス価格はメーカーによって異なる。30ドルというのはいわゆる“リストプライス”だ)。デルのVenue 8 ProでOffice Personal 2013付きモデルとOffice Home and Business 2013付きモデルの価格差が3,000円であることは、その何よりの証拠だろう。なお、もちろんバンドルライセンスなので、添付されたWindowsタブレットでのみ利用可能な制限は従来通りで、いずれの製品も日本だけホームユース限定が付かないことは同じだ。

 日本のユーザーにとっては、この決定は結果的に非常にうれしいことと言っていいだろう。1番安価なデルのVenue 8 ProのOffice Personal 2013付きで39,980円という価格設定は、同じような7~8型タブレットであるGoogle/ASUSのNexus 7(2013)の32GBで33,800円という価格設定と比較して、プラス6,000円でOffice Personalと64GBの内部ストレージ、プラス9,000円でOffice Home and Business 2013と64GBが付いてくると考えれば、十分に価格競争力があると言えるだろう。

 もちろん、本格的に利用するのであればBluetooth接続のキーボードやマウスなどを追加する必要はあるが、それでも5万円以下でそれらが買えてしまうとなれば、タブレットを単にコンテンツ消費だけでなく、コンテンツクリエーションやビジネスにも使いたいというのであれば、8型Windowsタブレットは良い選択肢になると言えるのではないだろうか。

(笠原 一輝)