笠原一輝のユビキタス情報局

7WのSDPを実現するIntel「Yプロセッサ」の正体

4月に発表された第3世代Coreプロセッサ。2013年第1四半期に新しいラインナップ「Yプロセッサ」が追加される

 Intelは2013年年頭に行われる2013 International CESにおいて、新しいモバイル向けのプロセッサをお披露目する。Intel社内では「Yプロセッサ」と呼ばれる製品群がそれで、現行製品のIvy Bridgeをベースに、従来のUプロセッサの17Wよりもさらに低い13WのTDP(熱設計消費電力)を実現。また、新たに「SDP」(Scenario Design Power)と呼ばれる指標が導入。7Wという電力枠を実現しており、従来はAtomプロセッサでなければカバーできなかったファンレスPCやタブレットも可能になるのが最大の特徴となる。

 Intelは、現行製品となる第3世代Coreプロセッサにおいて、プロセッサー・ナンバーの末尾にMがつくTDP 35/45/55Wの製品と、UがつくTDP 17Wの製品という2ラインのモバイル向けプロセッサを用意しているが、2013年に導入を予定している「Haswell」(ハスウェル)世代においては、これにH、Yの2シリーズが加わり、H、M、U、Yという4つのシリーズで展開していくことになる。

cTDPの下限方向を利用することで10Wのシステム設計を実現するYプロセッサ

 Intelが年明けにお披露目し、第1四半期中に正式な発表を予定しているのがYプロセッサ。Yプロセッサとは、プロセッサー・ナンバーの末尾にYがつく製品群の通称で、具体的には以下の製品が用意される見通しだという。

【表1】Yプロセッサの構成(筆者予想)
コア/スレッドベースクロックターボ(シングル/クアッド)キャッシュグラフィックスvPROTDPcTDPSDP
Core i7-3689Y2/41.5GHz2.6GHz/2.4GHz4MBIntel HD Graphics 400013W10W7W
Core i5-3439Y2/41.5GHz2.3GHz/2.1GHz3MBIntel HD Graphics 400013W10W7W
Core i5-3339Y2/41.5GHz2GHz/1.8GHz3MBIntel HD Graphics 4000-13W10W7W
Core i3-3229Y2/41.4GHz-3MBIntel HD Graphics 4000-13W10W7W
Pentium-2129Y2/21.1GHz2MBIntel HD Graphics-10W-7W

 Yプロセッサは、22nmプロセスルールで製造されるIvy Bridgeをベースにした製品となる。従来製品との違いは、クロック周波数がUプロセッサ(Core i7-xxxxUなど末尾にUのつく製品群)の熱設計消費電力(PCメーカーが筐体設計時などに参照するピーク時の消費電力の仕様、以下TDP)が17Wから、13Wに下げられた点。

 Ivy Bridge製品の一部はcTDPを利用できる。cTDPとは、CPU上にあるレジスタファイルの設定により、OEMメーカーが意図的にTDPを高い方向ないしは低い方向に設定できるようにする機能だ。これを利用することで、例えば高い方向にセットすると、CPUはより高いクロック周波数で動作することが可能になるし、逆に低い方向にセットすることで、性能は下がるものの発熱量を抑えることができる。

 Yプロセッサは、このcTDPの下方向(cTDP Down)の機能を利用できる(Pentiumブランドの製品ではcTDPがサポートされず、最初から10W固定になる)。cTDPを利用すると、13Wよりさらに低い10WというTDPで動作可能で、より薄型のノートPCを設計することができるようになる。

Yプロセッサに導入されるSDPという新しい指標

 OEMメーカー筋の情報によれば、IntelはこのYプロセッサにおいて、新しい熱設計の指標を導入するという。それがSDPだ。

 非常にややこしい話なのだが、同じ熱設計でも、TDPとSDPは全く違った意味合いを持っている。TDPというのは、いってみればワーストケースであり、プロセッサに常に負荷がかかっているような状況において発生する消費電力のことを意味している。OEMメーカーはTDPで規定さている電力をプロセッサが消費している時に発生する熱量に対応できるようにシステムを設計する必要がある。

 これに対して、SDPはScenario Design Powerという言葉からもわかるように、特定のシナリオにおける消費電力となる。例えば、タブレットなどではプロセッサがフルに使われることはあまりないし、プロセッサがフルパワーで動く事へのニーズも多くない。SDPでは、最初からプロセッサの動作稼働保障温度(Tj max)をTDPに比べて下げ、クロック周波数などを控えめな設定で動かすことで、ピーク時の消費電力を抑え、OEMメーカーがさらに熱設計を簡素化できることを目的とする。つまり、動作稼働保障温度が異なるというのが、cTDPの下限との大きな違いとなる。

 ユニークなのは、Yプロセッサでは、TDPとSDPの2つの指標が同居していることだ。つまり、OEMメーカーはTDPの13Wを利用したフルパワーのシステムを設計することもできるし、cTDPの下限である10Wを利用したミディアムな設計もできるし、SDPを利用して7Wという従来はAtomプロセッサがカバーしていたようなレンジもカバーできるということだ。

 IntelはこのSDPをHaswell以降の製品に適用する。また、今後このSDPを下げていく計画であり、Broadwell世代では5W以下を実現する見通しだとIntelはOEMメーカーに対して説明している。

Coreベースのタブレットや新しい形状に向け

 こうしたYプロセッサを利用することで、OEMメーカーは新しい形状のPCを設計することが可能になる。すぐ思いつくところでは、SDPを利用したタブレットの設計だろう。SDPで7Wになるといっても、現行のIvy Bridgeはチップセット(PCH)の分の熱量も計算に入れなければならないため、いきなりARMやClover Trailベースのタブレットと同じような製品が作れるわけではないが、それでも現行のIvy Bridgeベースの製品よりは薄く、軽く、長時間駆動が実現可能なタブレットを製造できるようになる。

 同様に、クラムシェルも、より薄く、軽いUltrabookを製造可能になる。7WのSDPを利用すれば、例えばAtomを搭載するVAIO Xのような薄型機を、Ivy Bridgeベースで設計することも不可能では無くなるはずだ。

 このあたりは、OEMメーカーの工夫次第なはずで、例えば現行の17WのIvy Bridgeベースで875gを実現したNECの「LaVie Z」などもさらに薄型、軽量化を実現することが可能になるだろう。

SV、LV、ULVから、MUY、そしてHMUY、最終的にはHUYの3本立てに

 Intelにとって、このYプロセッサの第3世代Coreプロセッサは大本命というわけではない。同社Ultrabookマーケティング部長のカレン・レジス氏が、9月に行なわれたIDFにおいて「10WのIvy BridgeはOEMメーカーのニーズを受けて設定したものだ」と述べたとおり、どちらかと言えばHaswellのテストベッドとして用意される製品に近い。つまり、本命は2013年の半ば以降にリリースされる予定のHaswellやその後継となるBroadwellになるだろう。

 こうしたこともあり、Intelはマーケティング・プランにも変更を加え始めている。従来は標準電圧版(SV版、35/45/55W)、超低電圧版(ULV版、17W)と呼んでいた製品を、第3世代Coreプロセッサ世代からそれぞれMプロセッサ、Uプロセッサと呼び方を変えており、プロセッサー・ナンバーにそれぞれM、Uのアルファベットを追加している。そこに今回10WのYプロセッサが追加され、M、U、Yの3本立てになる。そしてOEMメーカー筋の情報によれば、Haswell世代では、MがMとHに分離する。MとHの違いは、パッケージの違いだけで、MがPGA、HがBGAとなる。

【表2】IntelのTDP枠を示すアルファベットの変遷(筆者予想)
Ivy Bridge世代Haswell世代Boradwell世代
35/45/55W PGAMプロセッサMプロセッサ-
35/45/55W BGAMプロセッサHプロセッサHプロセッサ
17~15WUプロセッサUプロセッサUプロセッサ
10W以下YプロセッサYプロセッサYプロセッサ

 すでに以前の記事で触れたとおり、IntelはBroadwellにおいてPGAのパッケージを廃止する方向でいるため、2014年にはMが無くなり、H、U、Yの3本立てになる。ただでさえ理解しにくいTDPのスペックであるため、プロセッサー・ナンバーの中にアルファベット1文字を入れることで、店頭などでユーザーに対して説明しやすくするというのがIntelの狙いだろう。

(笠原 一輝)