■笠原一輝のユビキタス情報局■
ソニーのハイブリッドPC「VAIO Duo 11」 |
ソニーの「VAIO® Duo 11」は、第3世代Coreプロセッサー・ファミリー UシリーズとフルHDのタッチ対応11型液晶を搭載しながら1.305kgと比較的軽量を実現し、独自のSurf Slider構造によりタブレットにも、クラムシェルにも利用することができるというユニークなデザインを採用している。
今回、筆者はVAIO Duo 11を開発した開発陣にインタビューする機会を得たので、スペックからは見えてこない部分について触れていきたい。一見すれば単なるスライダー型のハイブリッドPCかもしれないが、そのスライダー機構は、「Surf Slider機構」と名付けるだけあってユニークな機構になっており、それを実現するために内部構造も大きな工夫が施されている。
また、第3世代Coreから導入されたcTDPの機能を活用しており、標準の17Wだけでなく、設定によってはTDPを25Wまで引き上げて使うことも可能と、ノートPCにも性能を求める欲張りなユーザーにも応える作りになっている。
VAIO Duo 11の最大の特徴は、Surf Slider構造と呼ばれる特徴的なスライド機構を採用していること。スライドして液晶部分を引き出したときにはクラムシェル型のノートPCと同じように、液晶部分を倒した時にはタブレットと同じような感覚で利用することができる。いわゆるハイブリッドPCや、コンバーチブルPCなどと総称されることが多い、複数の使い方ができるPCとなる。
ただ、こうしたハイブリッドPCやコンバーチブルPCといった製品は、これまでも存在しており、特に珍しいモノではないのも事実だ。
ソニー株式会社 VAIO&Mobile事業本部 企画1部 HW企画1課 金森伽野氏 |
ではなぜ今なのか? ソニー株式会社 VAIO&Mobile事業本部 企画1部 HW企画1課 金森伽野氏は「Windows 8はスタート画面などタッチ操作に適したOS。しかし、依然としてデスクトップアプリケーションの重要性も変わっておらず、両方で快適に利用できることが大事だと考えた」と、Windows 8の登場が後押しになったと説明する。
Windows 8は、従来Metro UIと呼ばれていたWindows 8 UIという、新しいタッチ重視のスタートメニューが用意されており、すべての操作はこのWindows 8 UIから行なうことは読者もご存じだろう。しかし、Windows 7までユーザーが慣れ親しんできたWindowsデスクトップのUIも依然として残されており、Windows 8 UIから呼び出せる。Windowsデスクトップでは、従来のアプリケーション(以下デスクトップアプリケーション)をそのまま実行できる。つまり、Windows 8というのはタッチ向けのWindows 8 UIと、キーボードやマウスで操作するWindowsデスクトップという2つのUIが併存しているOSだ。
金森氏が言っているのは、2つのUIが併存するWindows 8だからこそ、モバイルPCもその2つのUIで使えるように進化するべきだ、と考えたということだ。金森氏は「液晶を開けた状態のキーボードモードの時にはキーボード入力とタッチ操作を同時に、タブレット形状にした際にはタッチ操作に専念して快適に使っていただける。Windows 8時代にはこれがモバイルPCのベストのフォームファクタであると判断した」と、そうした2つのUIに適したフォームファクタがVAIO Duo 11の基本コンセプトだとした。
Windows 8に向けてはソニーに限らず、複数のベンダーがハイブリッドPCに取り組んでいる。実のところ、ハイブリッドのデザイン候補は1つではない。大きく分けると次のような4つの候補があると考えられる。
(1)セパレート型(ASUSTeK ComputerのTransformerシリーズなど)
(2)360度回転型(パナソニックのLet's note AX、LenovoのYogaなど)
(3)液晶部分回転型(Dell XPS Duo 11、ThinkPad X230tなど)
(4)スライダー型(VAIO Duo 11など)
実際、8月末にドイツで行なわれたIFAでは、上記の4つのフォームファクターのハイブリッドPCが展示されており、各PCメーカーの対応が別れる結果となっている。筆者個人としては、各PCメーカーの対応が別れたということは、それぞれにメリットデメリットがあり、各メーカーとも試行錯誤しているということの裏返しでもあり、消費者としては自分のニーズに合わせて選択できることを歓迎したい。
例えば、セパレート型のメリットはスレートを分離した時には、タブレットとして軽量に利用できることだろう。タブレットで使っている時間が長い場合にメリットとなる。しかし、どうしてもPCの要素をすべて液晶側に詰め込まないといけないため、液晶側が重くなってしまいクラムシェル時の安定度が損なわれ、安定性を出すためにはキーボード側に大きめのバッテリなどを入れるなどして重量を増やす必要があるため、システム全体の重さが増えてしまうのがデメリットとなる。
360度回転型のメリットは、液晶を回転する方式などに比べて回転部分の機構を薄く作ることができるため、システム全体の薄さを実現することができる。例に挙げたパナソニックのLet's note AX2にせよ、LenovoのYogaにせよ、その点はメリットとなる。デメリットとしては、タブレットモードにしたときにはキーボードが背面に来るため、キーボードが壊れたり傷ついたりということに気を遣う必要がある。
液晶部分回転型のメリットは既存のクラムシェル型ノートPCと全く同じ感覚で利用できることだろう。逆にデメリットは、安定して回転させるには、回転部分の機構にどうしても厚さが必要になることだ。実際、IntelのUltrabookの定義では、13型以下の液晶を搭載したUltrabookの厚さは18mmまでなのだが、ハイブリッドPCの場合には+2mmの追加が認められている。つまりは、最低でもそのぐらいは必要と考えられているということだ。
では、4つ目の選択肢、今回ソニーがVAIO Duo 11で選択したスライド方式を採用するメリットとデメリットは何だろうか。金森氏は「2つのモードをシームレスに使えるデザインにしたかった。液晶を回転したりするには数アクションが必要になるが、このスライダーデザインであれば、少ないアクションでタブレットとクラムシェルを行き来することができる。キーボードモードでは、キーボードで入力しながらタッチ操作も快適に行なえる」と説明する。
●+2mmの余裕は使わずともUltrabookの薄さを実現当然だがスライダー型にも弱点はある。具体的には液晶回転型と同じで安定してスライドさせるためには、しっかりとしたスライド機構が必要であり、当然厚さ方向へ影響が出てもおかしくないのだ。だからこそ、IntelはUltrabookの規定に、ハイブリッドPCには+2mmの余裕を入れている。
しかしながら、今回のVAIO Duo 11は、この+2mmの猶予を利用せず17.85mmと、元々のUltrabookの規定を満たしている。ソニー株式会社 VAIO&Mobile 事業本部 PC事業部 1部1課 統括課長 鈴木一也氏は「我々も2mmを使うべきかは検討した。しかし、元々薄いUltrabookでの+2mmは数値以上に厚いという印象を与えることがわかり、なんとか18mm以内に収めることを目指して設計した」という。文章にすると、たかが2mmと感じるかもしれないが、ノートPCの設計において2mmというのは非常に大きい。18+2mm厚にとって2mmというのは1割に達するため、それを取るか取らないかは設計に大きな影響を与える。
このため、スライド機構の設計は非常に難航を極めたのだという。ソニー株式会社 VAIO & Mobile事業本部 VAIO 第1事業部 設計1部2課 メカニカルプロジェクトリーダー 冨田隆広氏は「今回の構造に行き着くまでに、コンバーチブルや2軸タイプのスライダーなどさまざまな形状を検討してきた。しかし、いずれも液晶デバイスとヒンジを上下に重ねてしまうとトータルの厚さがでてしまうという課題があった」とする。
開発陣としても色々と検討してきたが、従来の方式だと厚さがでてしまうという問題に行き着いた。解説すると、一般的なスライダー構造の場合、液晶ディスプレイとヒンジ部分は重なっている。これにより安定度は増すのだが、その替わり、液晶とヒンジが重なってしまうため、セットとしての高さは増え、前述のような18mmというターゲットを実現するのが難しくなるのだ。
ではVAIO Duo 11ではどうやってそれを避けながら、18mm以下を実現したのだろうか? 冨田氏によれば「VAIO Duo 11ではそれを防ぐため、ヒンジを液晶モジュールの左右に入れている。これにより、ヒンジと液晶が重なるのを防ぐことができ、薄さを実現している」という。現代のノートブックPCとしてはかなりユニークな液晶部分の設計と言ってよい。
さらに、ヒンジ部分そのもの設計もユニークだ。「ヒンジが左右に分かれているので、それを連動させなければ片側だけ持ち上がってしまい、スムーズに開けなくなる。そこで、左右を確実に連動させるため、マグネシウムのプレートで左右のヒンジを接続している」(冨田氏)。VAIOのロゴが入ったプレートはデザイン上のアクセントに思われがちだが、実際には使い勝手に配慮された結果なのだ。
もう1つスライダーで特筆すべき事は、さほど力を入れなくても、すっと液晶が立ち上がることだ。「スライダー部分にはバネとカムユニットが入っている。そのカムユニットの形状に工夫がしてあり、勢いよく立ち上がる設定になっている」(冨田氏)とのことで、実際に何度も触ってみたが、システム側に手を触れないでも、ちょっと液晶を持ち上げるだけで液晶が立ち上がるので、実に快適な操作が可能だった。ソニーがそうしたユニークな構造が他とは違うんだとSurf Slider構造と新しい名前をつけたのも、頷ける話だ。
ただ、こうしたスライダー構造を取ることで、持ち運び時には液晶ディスプレイ部分が露出した状態になるので、その時の強度などに不安を感じるユーザーも少なくないだろう。ソニー株式会社 VAIO事業本部 第1事業部設計1部2課エンジニアリングリーダー 鈴木陽輔氏によれば「ガラスも相当強いものを採用しており、ペン先でガンガンやっても割れない強度を確保している」とのことで、もちろんどんな衝撃にも大丈夫ということではないが、十分な程度の強度は確保されているという。なお、それでも心配というユーザーのためには純正ケースも用意されているので、そちらを利用すればいいだろう。
ソニー株式会社 VAIO&Mobile 事業本部 PC事業部 1部1課 統括課長 鈴木一也氏 | ソニー株式会社 VAIO & Mobile事業本部 VAIO 第1事業部 設計1部2課 メカニカルプロジェクトリーダー 冨田隆広氏 | ソニー株式会社 VAIO事業本部 第1事業部設計1部2課エンジニアリングリーダー 鈴木陽輔氏 |
本体の背面に入っている左右のヒンジを接続しているプレート。マグネシウム製で、これにより左右のヒンジが連動して起き上がるようになっている | ヒンジ部分を左から見たところ。ヒンジがボディの内部に格納される形になっており、高さ方向を出さないような設計になっていることがわかる |
●ヒンジを避けるようにメインボードなどを配置、メモリはデュアルチャネル
ただし、このSurf Slider構造を取ることで、システム側には大きなしわ寄せが来ることになる。通常、システム側にはメインボード、バッテリなどが収納されており、ヒンジが占める部分は小さいのだが、本製品の場合にはヒンジがそれなりの面積を占めており、ヒンジの部分を避けながら、システムボードやバッテリを収納する必要があるのだ。
かつ現代のノートブックPCでは、言うまでもなくバッテリ駆動時間はユーザーが最も気にするスペックの1つ。従って、バッテリの容量を削ることは事実上できない。実際、本製品にも4セルで39Whのバッテリが内蔵されており、キーボードの下の部分はほとんどバッテリになっている。このため、ヒンジのフレームと重なる部分にメインボードや、ストレージ、そして冷却ファンなどがすべて詰め込まれる構造になっている。
さらに、マザーボードは1枚の基板ではなく、複数の部分に分割されている。鈴木陽輔氏によれば「コスト面を考えれば1枚の基板でやりたかったのだが、コネクタの高さを合わせたりなどの調整を考えると、どうしてもバラバラにせざるを得なかった」と説明する。デザインの要求を重視した結果、こうした内部構造になっているのだ。ソニーのPCがこうしたバラバラ基板を採用するのは、実は1つの伝統のようになっており、「VAIO P」や「VAIO X」などもこうしたサブ基板とメイン基板をフレキケーブルで接続する構造になっていた。そういう意味では、中身から見れば、VAIO Duo 11は、VAIO PやVAIO Xのエッセンスを受け継いでいる製品と言ってもいいのかもしれない。
もう1つユニークなのはメインメモリの実装方法だ。今回のVAIO Duo 11では、メモリはSO-DIMMの形式ではなくオンボード搭載になっており、ユーザーが増設することはできない。しかしながら、すべてオンボードなのかといえばそうではなく、メインボードに実装されている分と、小型の独自サブ基板に実装されている分の2つから構成されている。どうせユーザーがアクセスすることができないなら、どちらもオンボードにしてしまえばいいと思うところなのだが、実はそれにも理由がある。
「企画からはメモリはデュアルチャネルにしてほしいという要求があった。しかし、それをメイン基板上に乗せるのは配線設計上不可能だと言うことがわかり、オンボードとサブ基板の合わせ技になった」(冨田氏)とのこと。このため、メインボードには、2GB、4GBの2種類の基板があり、サブ基板にも2GB、4GBの2つの基板があり、2GBのモデルはメインボードのみ、4GBのモデルなら2+2、6GBのモデルなら2+4、8GBのモデルなら4+4という組み合わせで実現しているという(日本では提供されない組み合わせもある)。Ultrabookには、シングルチャネルのみという製品が少なくない中で、デュアルチャネル構成で提供されるというのは性能重視のユーザーには嬉しい設計と言えるだろう。
ストレージに関してはすべてのSKUでSSDのみとなる。これはストレージがmSATAになっているため。だが、SSDのみ絞ったことで、「Windows 8ではUEFIブート、つまりGPTパーティションからのブートになっていること、必要な部分だけを残してブートする機能などがあるため、非常に高速な起動・終了ができる」(ソニー株式会社 VAIO&Mobile 事業本部 PC事業部 1部1課 ソフトウェアプロジェクトリーダー 河田太氏)とメリットを説明する。実際筆者も確認させてもらったが、あっという間に起動し、終了も本当に瞬間だった。
VAIO Duo 11には、PCI Express Mini Cardスロットがフル1つ、ハーフ1つと合計2つ用意されており、1つは前述の通りmSATAに利用されており、もう1つが通信カードに利用されることになる。mSATAはフルカードであるのに対して、通信カードに用意されているスペースはハーフカードのスペースで、ここにWi-Fi/WiMAXのコンボカードである「Intel Centrino Advanced-N+WiMAX 6150」やWi-Fi/Bluetooth 4.0のコンボカードである「Centrino Advanced-N 6235」などを入れて提供することになる。
ユーザーがCTOでWiMAXを選んだ場合には、このスロットには6150が入ることになり、Bluetoothが無くなってしまう。このため、その場合には、別途サブ基板でBluetoothモジュールが実装されて提供される。WiMAXのSKUを無くしてしまえば、Wi-Fi+Bluetoothの6235だけですむところなのだが、日本ではWiMAXがそれなりに普及しているので、こうした設計になっていると推測できる。この点は日本の事情に配慮してくれている部分と言え、ユーザーとしては嬉しいところだ。
●ヘッドフォンを接続した場合にはS-Master認定を受けた音を実現
そして目に見えないこだわりという意味では、スピーカーも当てはまる。Ultrabookを設計する上で最も重要なことは、システムの厚さを抑えることにあるのだが、そうするとしわ寄せが来やすい部分がスピーカーだ。良い音を出そうとすると、スピーカーの振動板だけでなく、エンクロージャーと呼ばれる箱の容積も必要になるのだが、高さ方向に制限があるUltrabookではその容積を十分に確保するのが難しい。かつ、音の良さということは、残念ながらスペック表には現れない部分であり、現状PCを購入するときにはユーザーのほとんどが気にしていない現実がある。従って、設計者にとっては、どうしてもそこを削りたい欲求に駆られるのも無理はない。
しかし、今回の製品では“Ultrabookの中では”という但し書きはつくが、比較的頑張ったスピーカーを搭載している。写真で見ても分かるように、エンクロージャーの容積は割と大きく取られており「システムに残された隙間を上手く活用してスピーカーボックスの容積を取っている、Ultrabookとしては十分な音量が確保できている」(金森氏)と、VAIO Duo 11のために特注したエンクロージャーで容積を確保したのだという。確かにVAIO Duo 11のねじ穴に合わせてボックスにねじ穴が切ってあったり、できるだけ容積を増やそうとしている努力が見て取れる。
また、ヘッドフォンを接続した場合には、ソニーのアンプ技術である「S-Master」の認定を受けて高音質を実現している(ノイズキャンセルヘッドフォン選択時)。ソニーのS-Masterの名称は、ソニーの製品だから勝手に名乗れるというものではなく、事業部からは独立しているソニー社内にあるS-Masterの認定委員会の認定を取る必要があるのだが、今回の製品でもそれをもちろん取得しており、それを実現するために専用のコイルを回路に組み込んであるという。「実際、ヘッドフォンをつないだときの音は、市販のポータブルプレーヤーよりも、空間表現力や音のキレ、解像感が良くなっている」(ソニー株式会社 VAIO&Mobile 事業本部 第1事業部設計1部2課 エレクトリカルプロジェクトリーダー 小野塚克之氏)と、巷のポータブルプレーヤーには負けないどころか、それを上回る高音質を実現したと自信を見せる。
スピーカー部分、ねじ山を避けるためにユニークな特徴の特注品となっている。スピーカーの右に見えるのがオーディオサブボード。S-Masterの認定を受けるために特別なコイルが実装されている | ソニー株式会社 VAIO&Mobile 事業本部 第1事業部設計1部2課 エレクトリカルプロジェクトリーダー 小野塚克之氏 |
●メインボードの設計は高密度実装から、薄く広くの設計へ
VAIO Duo 11ではメインボードそのもののデザインや熱設計も、従来の製品に比べるとユニークな構造になっている。
内部の写真を見て気がついた人も多いと思うが、VAIO Duo 11の基板設計は、薄く広くという設計になっている。VAIO PやVAIO Xなどでは、メインボードに多くの部品が所狭しと実装されていたのに対して、VAIO Duo 11ではそこまで高密度実装というわけではない。小野塚氏によれば「今回はとにかく薄く、そしてSurf Sliderを実現するためのヒンジスペースを確保し、残ったスペースの中で適正な配置の設計になっている」という。
実際、Ultrabookへトレンドが移り変わっていく中、フットプリント(底面積)に関してはあまり注目が集まらず、薄さ方向への注目が高まりつつある現状がある。実際、筆者もノートPCの記事を書く時に、見出しに「薄さ~mm」ということは書いても、「底面積~平方mm」ということを最近書いた記憶はほとんど無い。つまり、ユーザーのニーズが小型化は小型化でも、液晶のサイズは変えずに薄型化という方向性に向かっているということだ。底面積を削減するためには、高密度実装は大きな意味があるのだが、Ultrabookのように薄型化を目指す製品の場合には、むしろ薄く広く部品を実装していく方が、基板の高さを抑えられ、現在の基板デザインではそちらがトレンドになりつつあるのだ。
熱設計に関しても、優先されるのは薄型化であり、今回の製品では、基板に大きな穴を空け、そこにファンの軸受けを収納するという形で高さ方向を出さない設計になっている。ファンもできるだけ薄くしなければならなかったため「風量が稼げないのでその分回転数を上げなければならなかった。このため3相のモーターを利用して振動を抑え、セットに最適になるようファンの羽根の形状をチューニングして、ノイズの増加を抑えている」(冨田氏)といった工夫がなされている。
なお、VAIO Duo 11ではタブレット状態での見栄えを考慮し、底面側に吸気専用の口は用意されていない。排気口の左右にある小さな穴がメイン吸気口で、不足する分をボディに空いたコネクタの隙間などから吸気し、排気は本体の背面のヒートシンクを通して行なう仕組みになっている。「排気口が背面にあるのはタブレットにしたときには主に液晶を両手で持つことになるので、手にあたらないように配慮した結果。また、微妙に中央からはオフセットしているので、仮に片手で持つ場合でもちょっとずらして持ってもらうことで排気が手に当たらないように配慮している」(小野塚氏)とする。何気なくついている排気口も、実は狙って設置されている。
VAIO Duo 11のシステムボード、左に見える大きな穴はファンを回すための穴。中央に見える小亀基板がメモリの2枚目のチャネル用専用モジュール | 中央の金色のヒートシンクの奥側に見えるのが冷却用のファン。若干回転数は上がっているが、ノイズは増えていないという | 今となっては見慣れた光景ではあるが、USBコネクタは基板中央に設置されている |
●cTDPを利用することで、クラムシェルモード時には17W超が可能に
パフォーマンスが気になるユーザーにとって良いニュースは、このVAIO Duo 11では、Ivy BridgeからサポートされているcTDP(Configurable TDP)の仕組みをサポートしていることがあげられる。鈴木一也氏によれば「VAIO Duo 11では、cTDPの下方向(TDPを下げる方向)だけでなく、上方向(TDPをあげる方向)もサポートしている」と説明する。
cTDPに関しては若干の説明が必要だろう。Intelの第3世代CoreプロセッサのUシリーズは、標準スペック上では17WのTDPが設定されている。しかし、cTDPを利用すると、そのTDPを一時的に上げたり下げたりできる。具体的にはCore i7の場合、上方向には25Wに、下方向には14Wまで下げられる。BIOSなどのファームウェアから特定のレジスタをセットすることで、通常であれば17WのTDPであるプロセッサに対して、25WのTDPの枠として動作して良いと指令を出すことが可能なのだ。25Wに設定している場合には、IntelのTurbo Boostの機能を利用して、クロックを規定値よりも上げる幅や上げていられる時間がより大きくなるため、結果的に全体的な性能が上昇する。
もちろん、システムの側の熱設計が17Wまでしか耐えられない設計になっている場合には、例え25Wに設定しても、放熱が追いつかなくなり温度が上昇。その結果、プロセッサは自律的にクロック周波数を低下するサーマルスロットリングを行ない、性能は低下することになる。
しかしながら、VAIO Duo 11のようなハイブリッドPCの場合には、液晶を閉じているタブレットモードと、液晶を開いているクラムシェルモードでは、熱設計の許容度が異なっている。クラムシェルモードでは、空気に触れる面積が増えるため、タブレッドモード時に比べると放熱に対する許容度が高くなる。このため、cTDPの25Wの設定が利用可能になる場合があり、例えばクラムシェル時には25Wの設定でクロック周波数などを引き上げるフルパワーモードで利用し、タブレット時には手で持つことに配慮して、通常のTDP(17W)や、低いTDP(14W)などで利用するという使い方になる。
「設定にはcTDPとは書いていないものの、VAIOの設定を利用すれば、放熱優先か、性能優先かを選べるようになっている」(鈴木一也氏)という使い方が可能になっている。
ただし、この25Wの設定を利用できるのはCore i7のみ。なので、このcTDPの機能を利用したい場合にはCTOでCore i7を選ぶ必要があるので注意したい。
●カタログには無いが、1時間で80%の急速充電が可能に今回のVAIO Duo 11では、バッテリは着脱式ではなく、本体内部に固定式になっている。鈴木一也氏によれば「バッテリを完全に内部に収めて、外せない構造にしたのはVAIOとしては初めて。このため、万が一内部でバッテリの液が漏れ出すなどのことが発生しても、基板側に液が来てしまった場合でも発煙に至らないよう設計している」とのことで、VAIO Zのように半固定の形はあったが、完全に固定となるのは今回のVAIO Duo 11が初めてとなる。
通常のノートPCであれば、バッテリはケースの中に入ってシステムからは分離されているため、仮にバッテリケースの中でバッテリの液漏れが発生しても、メインボードなどに液が浸食することはほぼ考えられない。だが、Ultrabookではほとんどの製品でこうした固定型のバッテリを採用しているため、その可能性も否定はできないとのことだが、そうした場合にも発煙や発火などに至らないような試験も繰り返し行なっているという。
また「バッテリがユーザーレベルでは取り外せないため、バッテリが劣化した場合にはサービスでの交換となる。そのためサービスへ連絡方法の明示や、設定でいたわり充電の項目を設けて、できるだけ劣化しないように配慮をしている」(鈴木陽輔氏)と固定式ゆえに起こる課題も、できるだけユーザーに面倒をかけないようにしているとのことだった。
VAIO Duo 11にはオプションで本体の下部に取り付けるシートバッテリが用意されている。シートバッテリの容量は、本体のバッテリ容量(39Wh)とほぼ同等。MobileMark 2007の結果は5時間(JEITA測定法では約7時間)なので、シートバッテリを利用した場合には約10時間のバッテリ駆動が可能になる。
今回VAIO Duo 11に添付されているACアダプタは、10.5V/4.3A=約45Wの容量を供給できるACアダプタとなっている。VAIOシリーズで10.5Vは、VAIO PやVAIO Xと同じ電圧で、今回VAIO Duo 11に添付されているACアダプタは、VAIO Xに採用されていたものの電流アップ版となる。大きさそのものはVAIO Xに添付されていたものと面積はほぼ同じだが、実際には長さと幅が若干大きくなっているので、容積はわずかに増えている。VAIO XのACアダプタは10.5V/2.9A=約30Wだったので、15W増えている(約1.5倍)ことを考えればすごいと言える。
なお、このACアダプタを利用すると「カタログには謳っていませんが、1時間で80%まで急速充電できるようになっている」(小野塚氏)とのことで、移動前などに1時間充電しておくだけで4時間は使えることになるので、使い勝手は悪くない。ただし、急速充電には条件があり、シャットダウンやスリープ、休止状態で利用できる。
●デジタイザーペンはPCだからこそ使って欲しい
Surf Slider機構と共に本製品のもう1つの特徴と言えるのが、デジタイザーペンの採用だ。Windows 8はタッチに最適化されたWindows 8 UIが採用されており、タッチを実装するというのは理にかなっている。だが、デジタイザーペンまで実装する必要があるのかと言われれば、正直最初は筆者も「なぜ?」と思ったのは事実だ。
企画の金森氏によれば「弊社ではこれまで長年に渡りデジタイザーペンを研究してきて、その成果を今こそ見せたいと考えていた。確かにコンテンツを消費するデバイスだと考えれば、デジタイザーペンの機能は必要ない。しかし、我々としてはこの製品をお客様の発想、創作の可能性を最大限引き出すデバイスにしたいと考えており、そのためにデジタイザーペンが必要だと考えた」とのこと。
デジタイザーペンは、Windows 8の標準機能でも利用できる。チャームを呼び出して検索する際も、通常のタブレットではソフトウェアキーボードを呼び出して文字を入力するところだが、VAIO Duo 11であればその代わりにデジタイザーペンを利用して手書き入力して文字入力ができるし、店頭モデルに付属のOneNote 2010を利用すれば、手書きでメモを取ったりなども十分実用になる。デジタイザーペンを利用している時には、手のひらなどがディスプレイに接触しても、それを自動認識してタッチ機能は無効になる。これにより、ポインタがユーザー意思とは無関係の場所に行ったりすることを防止できるのだ。
さらに、今回のVAIO Duo 11には、「Note Anytime for VAIO」と呼ばれるソフトウェアが用意される(正確には発売日以降にWindowsストアからダウンロード可能になる)。Note Anytimeは、MetaMoJiが提供する手書きノートブックのデジタル版というソフトウェアなのだが、すでにiOS向けが先行して提供されているが、間もなくWindowsストアアプリ(旧Metro style Apps)の形でも提供される予定だ。ソニー株式会社 VAIO事業本部 第1事業部 設計1部1課 ソフトウェアプロジェクトリーダー 藤井康隆氏によれば「for VAIO版はMetaMoJiと協業して開発し、ペンは書くもの、指は台紙を操作するものとして動作を割り当てた。これにより、紙にペンで書くのと似た感覚で使えるようになっている。また、通常版では有償となっているインクや手書き文字認識などが無償で利用できる」とのことで、VAIO Duo 11ユーザーはNote Anytimeの機能をさらに活用できるように配慮されている。
このように、実に多くの機能がてんこ盛りだが、「手書きやタッチの機能はタブレットPCの時代にあまりよい印象をもたれていないのは事実。弊社としてはWindows 8の登場でそれは変わっていくと考えているし、むしろ積極的に変えていきたいという気概で臨んでいる」(鈴木一也氏)としており、その力の入れようも伝わってくる。
付属のデジタイザペンを利用すると文字入力とかがよりやりやすくなる | Note Anytime for VAIOを利用すると,ノートPCをメモ帳側に利用することができる | ソニー株式会社 VAIO事業本部 第1事業部 設計1部1課 ソフトウェアプロジェクトリーダー 藤井康隆氏 |
●Windows 8のためのハイブリッドデザインではないVAIO Duo 11
冒頭でも述べたとおり、Windows 8の最大の特徴がWindows 8 UIであることを考えれば、快適に利用するにはタッチパネルが必須というのは、おそらくPCメーカーの共通認識になっている。その中で、どのようなスタイル(セパレート型なのか、スライダー型か、回転型なのか)をとるのかが別れてきたのは興味深いが、スライダー型を採用したVAIO Duo 11は、1回の操作でタブレットからクラムシェルへと変形できるという特徴を備えており、その点が他社製品に比べてのアドバンテージとなるだろう。
さらに、(i7モデルだけだが)cTDP対応、デュアルチャネルメモリ、SSD、フルHD液晶など、PCとしてのスペックも、モバイル向けのPCとしては思えないほどの高いスペックになっている。モバイルでもやっぱりハイスペックなPCは必要だと考えているユーザーにとっては、この点はVAIO Duo 11を選ぶ大きな理由になるのでは無いだろうか。
(2012年 10月 12日)