笠原一輝のユビキタス情報局

見えてきたIntelの次世代CPU「Ivy Bridge」の姿
~2012年の3月頃に市場投入へ



 Intelは2012年の前半に、第2世代Coreプロセッサー・ファミリーの後継製品となるIvy Bridge(開発コードネーム)を投入することをすでに明らかにしている。現在マザーボードベンダーやノートブックPCベンダーなどは、すでにプロセッサのIvy Bridgeと、そのチップセットになるPanther PointのA0シリコンを入手し、着々と開発を続けている。

 IntelはCOMPUTEX TAIPEIにおいて22nmプロセスルールで製造されるIvy Bridgeのアウトラインを公開したが、その特徴はDirectX 11(Direct3D 11)に対応した内蔵GPU、PCI Express Gen3への対応、チップセットのUSB 3.0対応などの機能拡張が含まれており、微細化に加えて機能拡張版という位置付けの製品になる。

 そうしたIvy Bridgeに関する最新情報を、筆者が台北でOEMメーカーの関係者などから得た情報などを元にお伝えしていきたい。

●Ivy Bridgeを搭載した製品の出荷ターゲットは2012年の3月に

 良いニュースと悪いニュースがあるときには、まずは悪いニュースから聞いたり、伝えたりするのが基本なので、先に悪いニュースからお伝えしていこう。

 Intelの新製品は1月にラスベガスで行なわれるInternational CESで発表し、すぐに製品の出荷も開始されるというのが、ここ数年の恒例になっている。2011年の例で言えば、1月のCESで第2世代Coreプロセッサー・ファミリー(開発コードネーム:Sandy Bridge)が発表された。それに続いて、1月の半ばにクアッドコア版の市場投入、2月にデュアルコア版の市場投入というスケジュールで製品が投入された。チップセットのエッラタが発生し回収騒ぎというアクシデントがあったものの、プロセッサの方は例年と同じようなタイミングで出荷できていた。もっとも、プロセッサだけあってもチップセットがなければPCとしては利用できないから“順調に”という言葉は使えないだろう。

 2012年はこのスケジュールが2011年よりも若干後ろ倒しになる。OEMメーカー筋の情報によれば、IntelはOEMメーカーに対してプロセッサの供給が可能になるのは、3月に出荷できるPC製品を製造するタイミングになると通知してきたという。当初は、2011年と同じようなタイミングが予定されていたとOEMメーカーの関係者は証言するので、第1四半期という公約は守れるものの、若干の遅れが発生すると言うことになる。

 現時点では、その若干の遅れが何に起因するのかという情報は入ってきていないが、言うまでもなくIvy Bridgeは、新しいプロセスルールである22nmで製造される。かつ、22nmプロセスルールでは世界で初めて量産品にトライゲートトランジスタを採用するなど、挑戦的な試みも行なわれており、Intelがより保守的なアプローチ(つまり、時間的な余裕を取る)に出ても不思議ではない。

 なお、現時点ではIntelがCESでIvy Bridgeを発表するというスケジュールを変更する情報は入ってきていないので、おそらく発表のスケジュールには変更がないと考えられる(ここ数年、ほとんど例外なくCESでの発表が行なわれている)。例年に比べると発表から出荷まで時間はかかるものの、大まかなスケジュールには変更がないと考えるのが正しいだろう。

●目玉はDX11への対応だが、OpenCLにも対応し、演算ユニットは16へと増加

 Intelは、COMPUTEX TAIPEIにおいてIvy Bridgeの大まかなアウトラインを明らかにしたことは、別記事で触れた通りだ。Intel 副社長 兼 PC クライアント事業本部 事業本部長 ムーリー・イーデン氏は日本の報道関係者に対して「Ivy Bridgeは単なる微細化版ではない。複数の機能向上が含まれており、以前の微細化版のプロセッサに比べると大きな変化がある製品だ」と説明する。

 COMPUTEX TAIPEIで明らかにされた内容、および筆者が独自に取材した内容を含めてSandy BridgeとIvy Bridgeの違いをまとめてみると、以下のようになる。

【表1】Sandy BridgeとIvy Bridgeの違い(筆者予想)
開発コードネームIvy BridgeSandy Bridge
プラットフォーム名ノートブックChief RiverHuron River
デスクトップMaho BaySugar Bay
チップセットPanther PointCougar Point
プロセッサコアコアアーキテクチャSandy Bridge改Sandy Bridge
コア数2コア/4コア2コア/4コア
HTテクノロジ対応対応
L1キャッシュ32KB(命令)
32KB(データ)
32KB(命令)
32KB(データ)
L2キャッシュ各コア256KB各コア256KB
L3キャッシュ最大8MB最大8MB
メモリコントローラ種類DDR3/DDR3LDDR3
チャネル数2チャネル2チャネル
最大クロック1,600MHz1,333MHz
内蔵GPU演算ユニット1612
対応APIDX11、OpenGL、OpenCLDX10.1、OpenGL
対応ディスプレイ最大3最大2
PCI Express x16Gen3(16GB/sec)Gen2(8GB/sec)
製造プロセスルール22nm32nm
対応ソケット(デスクトップ)LGA1155LGA1155

 OEMメーカー筋の情報によれば、Ivy BridgeのCPUコアは、基本的にはSandy Bridge世代の改良版となり、若干の内部構造の最適化が図られる程度で、大きな改良はない見通しだという。コアのバリエーションもデュアルコアとクアッドコア版が用意され、キャッシュ構成もSandy Bridge世代と同じく、L1キャッシュが各コアあたり64KB(命令/データ各32KB)、L2キャッシュが各コアあたり256KB、L3キャッシュが最大で8MBという構成となる。この意味では、Ivy BridgeはSandy Bridgeの微細化版といっても過言ではない。

 大きく手が入るのは内蔵GPUだ。その目玉はDirectX 11(Direct3D 11)への対応だが、それだけでなくOpenCLによるGPUコンピューティングもこの世代で対応することになる。拡張されるのは新しいAPIへの対応だけでなく、内蔵の演算ユニットも拡張される。Sandy Bridge世代の内蔵GPUは、12個の演算ユニットが内蔵しており、上位SKU(GT2)では12個すべてが有効に、下位SKU(GT1)では6個だけが有効になる構成になっていた。Ivy Bridgeでは演算ユニットそのものが16個へと拡張される。ただし、Sandy Bridge世代と同じようにすべてSKUですべての演算ユニットが有効になるわけではなく、上位SKU(GT2)は16個、下位SKU(GT1)は6個という構成になる。

 また、Ivy Bridge世代ではディスプレイコントローラが最大3つまで同時に利用可能になる。ただし、これは構成に制限があり、プロセッサ側に内蔵されているDisplayPortが1つとPCH(チップセット)側の出力2つ、ないしはPCH側のDisplayPort 2つとその他が1つという構成になる。これにより、例えば内蔵ディスプレイにプロセッサ側のDisplayPortを割り当て、外付けディスプレイにPCH側から出力すれば3つのディスプレイに同時出力が可能になる。

 なお、メモリコントローラはSandy Bridge世代と同じデュアルチャネルのDDR3になる。デスクトップPCはDDR3-1333/1600のみに対応し、ノートブックPCでは最高でDDR3-1600に対応するほか、1.35Vの低電圧DDR3-1333に対応する。

Intel 副社長 兼 PC クライアント事業本部 事業本部長 ムーリー・イーデン氏が手に持つのがIvy BridgeのウェハCOMPUTEX TAIPEIで公開されたIvy Bridgeのデモ。3DゲームのSTARCRAFT 2が楽々と動作していたIvy Bridgeが搭載されたノートブックPCの試作機

●パッケージ・ソケットや熱設計はSandy Bridgeのそれを継続して利用できる

 年末に予定されているIntel X79 Express + Sandy Bridge-Eで対応する予定のPCI Express Gen3に、メインストリーム向けプロセッサで対応することもIvy Bridgeの特徴の1つと言える。PCI Express Gen3は、第3世代のPCI Expressの仕様で、レーンあたりの帯域が現行Gen2(500MB/sec)の倍となる1GB/secを実現している。これにより、ビデオカード用のx16で16GB/secを実現することになる。2011年末から2012年にかけてGPUベンダーはGen3に対応したGPUを計画しており、それらと組み合わせることで、GPUコンピューティングなど、より帯域を必要とするGPUのニーズに応えられるようになる。

 また、以前の記事でもお伝えした通り、Ivy BridgeはSandy Bridgeとピン互換になっている。Ivy Bridge用のチップセットはPanther Pointとなるが、Sandy Bridge用のチップセットであるCouger Point(Intel 6シリーズ・チップセット)とも互換性があり、Cougar PointのマザーボードでもIvy Bridgeを利用できる。デスクトップPC、ノートブックPC向けのどちらもパッケージやソケットは物理的にも互換性がある。

 熱設計に関しても同様で、デスクトップPC向けは95W、65W、45W、35Wという枠が維持され、ノートブックPCに関しても、55W、45W、35W、25W、17Wという枠が維持される。この点でも、基本的にOEMメーカーは、Sandy Bridgeと同じ熱設計やケースを利用してIvy Bridge搭載PCの設計が可能になる。

 こうして見ていくと、Ivy Bridgeに関してはSandy Bridgeの後継で正常進化版であるものの、いくつかの重要な機能強化が果たされており、「単なる微細化版ではない」(イーデン氏)というIntelの主張にも頷けるものがある。

●Panther Pointの特徴はUSB 3.0コントローラの内蔵、Thunderboltの統合計画は今のところなし

 先述の通り、Ivy BridgeのチップセットはPanther Pointになる。プラットフォーム名はノートブックPC向けがChief River、デスクトップPC向けはMaho Bayとなる。

 Panther Pointの特徴は、USB 3.0のコントローラが内蔵されていることで、OEMメーカーは現在のように追加コスト(単体のUSB 3.0コントローラ)を払うことなくUSB 3.0をPCに実装することが可能になる。これにより、USB 3.0の普及は一気に進むことになるだろう。

 なお、イーデン氏はCougar Pointの特徴の1つとして「Thunderbolt」への対応を挙げたが、これはPanther Pointやその後継チップセットなどにThunderboltのコントローラを実装する計画があるわけではないと説明する。「チップセットへ統合することは確かにコスト削減になることは事実だ。その代わりダイサイズは大きくならざるを得ない。これは経済性の問題であって、そこまでする必要があると言えばそうではないと思う」(イーデン氏)とした。

 Intelがチップセットへの統合を考えていないということは、ThunderboltがUSBのようにPCにも標準で搭載されているようなインターフェイスになると考えていない、ということだ(IntelはUSBコントローラのチップセット統合を早くから明らかにしていた)。つまり、Thunderboltはしばらくの間、ハイエンドPCのプレミアム機能の1つとして扱われることになるだろう。

 もっともこれはIntelにとっても、OEMベンダーにとっても合理的な選択だ。というのも、OEMメーカー筋の情報によれば、Panther Pointの製造プロセスルールはCouger Pointと同じ65nmで据え置かれているという。ハイスピードなデータ通信を可能にするThunderboltのコントローラは多数のトランジスタを必要とするため、仮に65nmプロセスルールのPanther Pointに統合するとすれば、ダイサイズがチップセットとしては大きくなりすぎてコストも消費電力も上がってしまい、現実的な選択ではなくなってしまう。OEMメーカーにとっても、多くのメインストリームPCでは必要のないThunderboltのために、追加のコストや消費電力の上昇を求められるのは、望まない事態だろう。

 では、その次世代はどうなのだろうか? IntelはHaswell世代のチップセットとしてLynx Pointを計画しているが、この世代では45nmなどへと微細化する計画だ。それでも、おそらくThunderboltのコントローラを内蔵するには十分でないだろうし、OEMメーカーの関係者もIntelからそうしたプランは何も聞いていないという。

 具体的な製品計画については話してくれないとしても、長期的なビジョンについてはきちんと説明してくれるイーデン氏がチップセットへの統合に関して否定的な発言をしたということは、少なくともここ数年に関してはそうした計画がない可能性が高い。

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(2011年 6月 8日)

[Text by 笠原 一輝]