笠原一輝のユビキタス情報局

Intelイーデン副社長が語る2013年のノートPCの姿
~Ultrabook向けHaswellはSoCに



 COMPUTEX TAIPEIは、近年でこそPC以外のベンダーも増加傾向にあるが、基本的にはPC関連のベンダー(PC本体やPCコンポーネント)が中心になっているイベントで、Intelにとっては自社イベントであるIDF(Intel Developer Forum)に次ぐ第2のホームイベントと言ってもよいイベントだ。今回、Intelは2つの軸を押し出してきている。1つは、前回の記事で説明した、タブレットやスマートフォン市場でのてこ入れだ。

 そしてもう1つ、かつIntelが今回最も強調している話題が、“Ultrabook”と呼ばれる、ノートブックPCを再定義してより魅力的な製品にしていく構想だ。その背景には、iPadなどのタブレット端末が注目を浴びることで、一部ではノートブックPCがタブレットに置き換えられていくのではないかという見方があるからだ。そうした見方を打ち消し、ノートPCがモバイル環境においても魅力的なデバイスでいてもらうために、Intelは“Ultrabook”という言葉を旗印に、より薄く、軽く、長時間駆動が可能で、高いセキュリティを実現するようなノートブックPCをOEMメーカーに設計することを促していくことになる。

 そうしたUltrabook構想を実現するための武器は、今後2年間にIntelが投入していく新しいプロセッサ群だ。Intel 副社長 兼 PC クライアント事業本部 事業本部長 ムーリー・イーデン氏は「2012年に投入するIvy Bridgeは、プロセスルールのシュリンク版に相当する製品だが、それだけでなく機能の強化を行なう。2013年に投入する予定のHaswellに関してはメガチェンジ(かなり大幅な変更が加えられること)版となる」と述べたほか、Haswell世代ではUltrabook向けにTDP 15Wの新しい熱設計消費電力枠が追加されることを明らかにした。また、イーデン氏はUltrabook向けHaswellは、プロセッサとチップセットが1チップに統合されたSoC(System On a Chip)になることも明らかにした。

●22nm製造のIvy Bridgeは、より消費電力が下がり、DX11に対応

 Intelのイーデン氏は、同社の主席副社長 ショーン・マローニ氏の基調講演に引き続いて行なわれた記者会見において、同社が来年前半にリリースを予定している次世代PC向けプロセッサとなるIvy Bridge(アイビーブリッジ、開発コードネーム)の詳細を、初めて公式に公開した。

Intelのイーデン副社長が公開したIvy Bridgeの詳細

 イーデン氏によればIvy Bridgeは22nmプロセスルールで製造され、平均消費電力がSandy Bridgeに比べて低下することになるので、バッテリ駆動時間が延びる。さらに、すでにIDF Beijingで明らかにされた通りチップセットにはUSB 3.0コントローラが内蔵され、ノートブックPCメーカーは追加コストなくUSB 3.0ポートを実装することが可能になる。

 グラフィックス周りが強化されるのもIvy Bridgeの特徴で、Sandy BridgeではDirectX 10.1(Direct3D 10.1)までしか対応していなかった内蔵GPUは、DirectX 11(Direct3D 11)に対応し、3Dエンジンの演算機能そのものも強化される。また、内蔵されているトランスコードエンジンの機能の強化され、HDからHDへのトランスコードが可能になる。ほかにも、セキュリティ関連が強化されるなどの特徴を備えている。

 通常、IntelはTICK-TOCK(チック=タック)モデルという製品投入の方式を採用している。TICKというのはマイクロアーキテクチャは前の世代とほぼ同じだが、新しいプロセスルールにより微細化されることで、性能向上や消費電力の低下を実現するモデル。これに対してTOCKというのはすでに確立されたプロセスルールを利用して製造されるが、新しいマイクロアーキテクチャを採用した製品になる。Ivy BridgeはマイクロアーキテクチャはSandy Bridge世代を継承することになるが、新しい22nmプロセスルールを利用して製造されるので、TICKに相当する。

 しかし、イーデン氏によればIvy BridgeはTICKであっても、「機能拡張が加えられるTICK、つまりTICK+なのだ」と強調し、一般的な微細化版に比べると機能強化がやや多い世代という位置づけになると説明した。

Intel 副社長 兼 PC クライアント事業本部 事業本部長 ムーリー・イーデン氏イーデン氏が手に持つのがIvy Bridgeのウェハ
Ivy BridgeはTICK-TOCKモデルではTICKに相当するが、単なる微細化版ではなく、プラスの機能拡張が加えられているIvy Bridgeを搭載した試作ノートブックPC。左のシステムでは3DゲームのStarCraft IIが内蔵GPUで動作し、右のシステムでは12個のHD動画が同時に再生できている

●Ivy BridgeではConfigurable TDPに対応、より柔軟なデザインに対応

 イーデン氏はこのほかにも、Ivy BridgeがConfigurable TDPと呼ばれる機能を備えていることを明らかにした。Configurable TDPとは、言ってみればTurbo Boost Technologyを反対に利用するような機能で、その機能をクロックを上げる方向ではなく、下げる方向に利用する仕組みのことを指している。

 Configurable TDPでは、TDPの数値を高い数値と低い数値の2つを設ける。例えば、ドッキングステーションに合体している時には、ドッキングステーション側に追加の冷却機能を持たせることで、高いTDPの数値でプロセッサは動作する。これにより、デスクトップPC並みの高いクロック周波数でノートブックPCを利用できる。

 これに対してドッキングステーションから外したときには、TDPを低い方に設定することで、プロセッサからの発熱を抑え、ノートブックPCの冷却機構を簡易に、例えばファンレス設計にすることができる。これにより、ノートブックPCを単体で使うときには薄型に、ドッキングステーションに接続して使うときにはデスクトップPC並みの性能を実現ということが可能になるのだ。

 さらに、すでにAppleのMacBook Proの一部モデルに採用されている新しいI/O技術であるThunderBoltを活用することで、ドッキングステーション側にPCI Expressで単体型GPUを接続するという設計も十分に可能になる(このデザインは今でも可能である)。そうした技術を組み合わせることで、自宅や会社にいるときには単体型GPUと組み合わせてハイパフォーマンスのデスクトップPCとして利用し、外出時にはドッキングステーションから外して持って行くことで、薄型のノートブックPCとして利用するという使い方が可能になるのだ。

Configurable TDPはTurbo Boostの機能を逆にTDPを下げる方向に利用する技術高い方と低い方という2つのTDPを設定する
ドッキングステーションに接続された状況では追加の冷却システムで高い方のTDPに設定でき外に持ち出したときには、ファンレス設計などにより、薄型のノートPCとして利用する

●Ultrabookはより薄く、軽く、高性能、長時間駆動のノートブックPC

 イーデン氏も、基調講演でのマローニ氏に引き続いて、“Ultrabook”という言葉を多用し、Intelの新しいイニチアシブを強調していた。そもそもUltrabookとは何なのだろうか? わざわざTM(トレードマーク)まで取得する熱の入れようだが、IntelがUltrabookという製品を将来的に出荷するわけではない。Ultrabookというのは、言ってみれば“Netbook”のようなカテゴリを指す言葉だと理解しておいていいだろう(個人的にはそれならTM取る必要はないと思うのだが、競合他社に使わせたくないということなのだろう)。

 イーデン氏によればこのUltrabookは、2003年にIntelがBanias(Pentium Mプロセッサ)で実現したような、ノートPCの再定義なのだという。イーデン氏は「UltrabookでノートブックPCは大きく生まれ変わる。より薄く、より軽く、より長時間電池駆動が可能で、かつ性能や応答性、セキュリティなど、従来製品よりも高いレベルにある製品となる」と説明する。このため、イーデン氏はプロセッサとしては、Coreプロセッサ・ファミリーの延長線上にある製品、つまりはSandy BridgeやIvy Bridge、そしてその後継となるHaswellなどがUltrabookのプロセッサになるという。イーデン氏は「Ultrabookは薄さや軽さだけでなく、処理能力も重要になる。Atomではそれは十分であるとは言えないと思う」と述べ、UltrabookのプロセッサにAtomが採用される可能性を明確に否定した。

 なお、イーデン氏によれば、すでにUltrabookの開発は各OEMメーカーで進んでおり、2011年後半に多数の製品が市場に投入される予定であるという見通しを明らかにした。

2003年のCentrino Mobile TechnologyのリリースによりノートブックPCは大幅に変わったUltrabookの取り組みはそのCMTに次ぐような大きな変革になるという複数のノートブックPCベンダーが、Ultrabook構想に準拠したノートブックPCを2011年後半に投入する。もちろん現行の第2世代Coreプロセッサ・ファミリーベースの製品となる
Ultrabookの例として展示されたSamsungのSeries 9Ultrabookの例として展示されたLenovo IdeaPad U300sUltrabookの例として展示されたCompalの薄型ノートPC
Ultrabookの例として展示されたP223Ultrabookの例として展示されたASUSのUX21

●見えてきたHaswellの姿、Ultrabook向けのTDP 15W以下のSKUはSoCに

 2012年にIvy Bridgeがリリースされたあと、その次にTOCKとして2013年にリリースされることになるのが、Haswellだ。今回IntelはHaswellに関してあまり多くを語っていない。マローニ氏の講演でも、抽象的なことが書かれたスライドが1枚公開されただけで、具体的なマイクロアーキテクチャなどについて語っていない。イーデン氏も同様で、どのようにマイクロアーキテクチャが拡張されるなどの詳細に関しては「お話する時期ではない」(イーデン氏)とコメントを拒否したが、わずかながら垣間見せるヒントは語ってくれた。

 イーデン氏は「Haswellはメガチェンジ(非常に大きな変更がある)の製品となる。マイクロアーキテクチャ、回路設計、電源周り、ほぼすべてが変わると考えてもらっていい」との見通しを明らかにした。

 また、5月に行なわれたアナリスト向け説明会において、ダディ・パルムッター副社長が公開した15W以下の新しい熱設計デザイン枠については「Haswell以降の世代でサポートされる」と話し、どのタイミングで開始されるのか明確でなかった15Wのデザイン枠については、Haswell世代以降でサポートされると説明した。

Ivy Bridgeの後継として2013年に投入されるのがHaswellHaswell世代でTDP15W以下の枠が設定される

 この15W以下の新しいTDPの設定に関しては、マローニ氏も講演の中で15W以下の枠がメインストリームになると述べており、ハイエンドの価格帯ではなくメインストリーム向け製品の価格帯に持ってくる可能性が高いと言える。そうした意味で、ノートブックPCベンダーは、現在よりも低コストで薄型ノートPCを製造することが可能になり、コンシューマ向けノートブックPC市場でUltrabookが大多数になるというIntelの目標も達成可能になるだろう。なお、イーデン氏は「デスクトップPCや企業向けのノートブックPCなどではこれまで通りのTDP枠もサポートされる」とも述べた。

 さらにイーデン氏は、Haswell世代では、Sandy BridgeやIvy Bridgeのような2チップソリューション(CPU+チップセット)だけでなく、それらが1つのパッケージに統合された1チップソリューション、つまりはSoCバージョンが用意されることを明らかにした。「Haswellでは1チップソリューションが用意される。Ultrabookの実現にそれは必要だからだ。しかし、デスクトップPCや企業向けのノートブックPC向けなどには依然として2チップもあり得る」と述べ、Haswell世代のUltrabook向けにはSoCを用意することを明らかにした。

 これはより薄く、小型のノートブックPCを製造したい日本のPCメーカーにとっては良いニュースといえ、2013年に登場するノートブックPCは、このUltrabook向けHaswellを利用しての魅力的な製品が実現しそうであり、ユーザーとしては期待したいところだ。

Intelが試作した2013年のノートPCのコンセプトモデルとなるNIKISKI(ニキシキ、開発コードネーム)。閉じた状態だとディスプレイをタッチパネルのタブレットのように利用でき、開けるとクラムシェル型のノートPCとして利用できる

バックナンバー

(2011年 6月 1日)

[Text by 笠原 一輝]