笠原一輝のユビキタス情報局

COMPUTEXで見えてきたWindows Mixed Realityヘッドセットの今と今後

Microsoftブースで展示されていた5社のWindows Mixed Realityヘッドセット

 Microsoftは、5月30日~6月3日(現地時間)に渡って開催されたCOMPUTEX TAIPEIで講演を5月31日に行ない、その中でAlways Connected PC構想や、Snapdragon 835を搭載したARM版Windows 10のアップデートなどを公開した(Microsoft、国内/海外でも常時接続を実現するeSIMをWindowsに実装参照)。また、Microsoftは同社がWindows 10の次期大規模アップデートとなるWindows 10 Fall Creators Update(開発コードネーム:RS3)でサポートする予定のWindows Mixed Realityヘッドセットの製品版を公開した。

 Microsoftは、米国で行なわれたBuildにおいて、Windows Mixed Realityヘッドセットの開発者向けバージョンがAcerとHPから発売開始されることをすでに明らかにしていたが、今回はそれに加えてDell、ASUS、Lenovoの製品版のWindows Mixed Realityヘッドセットを公開した。

 本記事では、Windows Mixed Realityヘッドセットがどういったもので、どのようなことができるのかを紹介し、将来的にどのような可能性があるのかについてお伝えしていきたい。

Dell、ASUS、Lenovoの3社も一般消費者向け製品を公開、年末までに発売

 MicrosoftのWindows Mixed Realityヘッドセットは、5月10日(現地時間)から米国で行われてBuildにおいて、開発者向けバージョンがAcerとHPから販売されることが発表された。すでに北米で予約が開始されているほか、先日日本でも予約が開始された(その後予約が殺到したことにより予約受注は一時停止している(日本エイサー、大反響につきWindows Mixed Reality対応HMDの予約受付を5月31日に休止参照)。

Acerが299ドルで開発者向けに販売を開始しているWindows Mixed Realityヘッドセット
HPが299ドルで開発者向け販売を開始しているWindows Mixed Realityヘッドセット

 今回発表されたのは、Dell、ASUS、Lenovoの3社の製品。現在、開発者向けバージョンとして販売しているAcerとHPも、一般消費者向けの製品を販売する予定になっており、トップ5のグローバルWindows PCメーカーすべてからWindows Mixed Realityヘッドセットが出ることになる。

Windows Mixed Realityヘッドセットを販売するOEMメーカーはDell、ASUS、Lenovo、そして開発者版をすに販売しているAcerとHP。3DGlassはODMメーカーとなる。
Dellが今年末まで発売がを予定しているWindows Mixed Realityヘッドセット
ASUSが今年末までに発売を予定しているWindows Mixed Realityヘッドセット
Lenovoが今年末までに発売を予定しているWindows Mixed Realityヘッドセット

 どのメーカーの製品も基本的な仕様はほぼ同じになっている。1,440×1,440ドット/90Hzの液晶ディスプレイ×2が内蔵され、複眼のモノクロカメラから構成されているインサイドアウト・トラッキングセンサーが用意されており、外付けセンサーの必要ないのが特徴となっている。

左右にモノクロカメラが用意されており、それが周囲を検知することで動きを認識する

 PCとは、HDMI 2.0およびUSB 3.0のケーブルで接続される。

PC本体とはHDMIケーブルとUSBケーブルで接続する
ディスプレイ部分がチルトするようになっているので装着しやすいのも特徴

 このため、必要なPCのスペックは高く、開発者向けの製品では以下のようなスペックが必要とされている。

【表1】Windows Mixed Realityヘッドセット 開発版に必要なPC環境
プロセッサCore i7(デスクトップ、6コア以上)/AMD Ryzen 7 1700
GPUGeForce GTX 980、1060/AMD Radeon RX 480
メモリ16GB
ストレージ空き容量10GB以上
ディスプレイ接続端子HDMI1.4/DP1.2(60Hz時)、HDMI 2.0/DP1.2(90Hz時)
ディスプレイ解像度SVGA(800×600ドット)以上
ポートUSB 3.0(Type-A)/Bluetooth 4.0

 CPUがIntelのCore i7で6コア以上とは、Core i7 Xプロセッサのことで、GPUがNVIDIAのGeForce GTX 980以上など、デスクトップPCとしてかなりハイエンドな仕様が必要になる。ただし、これは開発者向けの仕様であって、コンシューマ向けに販売される製品では下がる可能性が高い。

 実際、昨年のWinHECで日本の報道関係者のインタビューに応じたWindows Mixed Realityの責任者であるMicrosoft HoloLens発明者・技術フェロー アレックス・キップマン氏は「Windows Holographic(筆者注:当時、Windows Mixed Realityはこのコードネームで呼ばれていた)は当初はdGPUが必要になる。しかし、来年末の段階ではIntelのKaby LakeのiGPUで動作するようにする計画だ」と説明していた。

 かつ、その第7世代CoreプロセッサのiGPUは、GT3eやGT4eといった演算器(EU)が48や72装備されているようなハイエンド向けのモデルだけでなく、一般的な第7世代Coreプロセッサで採用されているGT2のiGPUでも動くようにすると説明した。ただし、それが90Hzのフル性能を発揮できることを意味するのかは別問題で、GT2などのiGPUの場合は60Hzに制限される可能性はある。

ARに近いHoloLensと、VRに近いWindows Mixed Reality

 同じMR(Mixed Reality)を名乗っているため、多くの人が混乱していると思うのだが、HoloLensのようなホログラフィックデバイスと、Windows Mixed Realityヘッドセットのようなイマーシブデバイスでは、体験できる種類は違う。2つのハードウェアの違いを表にすると以下ようになっている。

【表2】HoloLensとWindows Mixed Realityヘッドセットの違い
HoloLensWindows Mixed Reality ヘッドセット
種類ホログラフィックデバイスイマーシブデバイス
CPU内蔵別途PCが必要(USBとHDMIで接続)
ケーブルワイヤレスワイヤード
ディスプレイ透過型(外が見える)非透過型(外は見えない)
移動6DoF(回転/平行移動)6DoF(回転/平行移動)
価格2,999ドル(開発キット)299ドル(開発キット)

 最大の違いは2つある。1つはHoloLensはCPUまでを内蔵してそれ自体がコンピューティングデバイスとして動作する一体型であるのに対して、Windows Mixed RealityヘッドセットはPCに接続して利用する周辺機器という扱いであることだ。そしてもう1つがHoloLensは透過型のレンズを持っておりそこに照射して網膜に画面を見せる形になっているのに対して、Windows Mixed Realityヘッドセットは液晶を覗く形の、一般的なVR HMDにかなり近い構造になっていることだ。

 CPUまで一体になっていることのメリットはフルワイヤレスで利用することができることだ。言ってみれば、HoloLensがスマートフォンやPCそのものであるわけで、スマートフォンやPCを被っているのと何も変わらない。ただし、タッチやキーボード、マウスといった入力デバイスは持っていないため、ジェスチャーなどを利用して操作する。

 これに対して、Windows Mixed Realityヘッドセットは、HDMIケーブルとUSB 3.0ケーブルでPCに接続する形になる。HDMIケーブルはPCのHDMI出力に接続してGPUからのディスプレイ出力を受け取る。USB 3.0のケーブルは、ヘッドセットのインサイドアウト・トラッキング・センサーからの位置情報などをPCに送っている。この形のデメリットはもちろん有線であるためケーブルが邪魔になるが、その反面PCに繋がっている入力デバイスは何でも利用できるため、例えばキーボードやマウスを使って操作したり、ゲームパッドを使ってコントロールしたりが容易になる。

 なお、Microsoftは、Windows Mixed Realityヘッドセット用のコントローラとして“Motion Control for Windows Mixed Reality”を用意しており、99ドルで今年の年末商戦までにリリースする計画であることをBuildで明らかにしているが、このMotion Control for Windows Mixed Realityは、各OEMメーカー共通になり、どこのメーカーも同じ製品を販売することになる。

左側のコントローラがMotion Control for Windows Mixed Reality

 HoloLensが透過型、Windows Mixed Realityヘッドセットが非透過型となっていることの違いは、HoloLensの方がよりAR(拡張現実)に近いMR、Windows Mixed Realityヘッドセットの方がVR(仮想現実)に近いMRということになる。HoloLensでは、Pokemon Goのように現実世界の上にモンスターを重ねて楽しむといった使い方ができるが、Windows Mixed Realityヘッドセットは完全な液晶で、外部を捉えるRGBカメラは(ヘッドセット側には)ないので、限りなくOculus RiftやHTC VIVEに近い(外部センサーの有無は違うが)。

 ここは概念としてはひじょうに難しいのだが、Microsoftが言うMR(Mixed Reality)というのは、ARとVRの総称であって、ARもVRも含むのがMRだと理解するとよい。現時点ではそのスタート段階に過ぎないので、ARに近いHoloLens、VRに近いWindows Mixed Realityヘッドセットがあるというのが現状だ。将来的にはその間を埋めるデバイスというのが登場するかもしれないが、現状ではまだそこまでたどり着いていない。

Windows Mixed Realityヘッドセットのユーザー体験はVR HMDに違いが、センサーの違いによる自由度は魅力

 今回Acerは、同社ブースでWindows Mixed Realityヘッドセットの体験会を行なっていた。実際筆者も参加してみた。ただし、その体験会は撮影禁止だったので、写真などはない、その点はご了承頂きたい。

 ユーザーの体験としては、率直に言えばWindows Mixed RealityヘッドセットはVR HMDと大きな違いはない。テストでは、ペルーのマチュピチュで気球に乗っている映像を360度で楽しむことができるデモと、ゲームの映像を360度で楽しむことができるデモを試せた。

 従来のVR HMDとの最大の違いは、外部センサーが必要ないので、VR世界での境界限界が広いことだ。例えば、HTC VIVEの場合、ユーザーの動きは外部に設置する赤外線レーザーを利用して検知している。この境界は赤外線レーザーが届く範囲で決まってくるのだが、Windows Mixed Realityヘッドセットの場合は複眼モノクロカメラで定位を行なっているので、部屋の大きさ一杯まで使うことができる(もちろんケーブルの長さの範囲内で、という制限はつくが)。

 また、赤外線レーザーは周波数などを変えて対応できないので、部屋など楽しむのは1人に限られる。これが現在のVR HMDの弱点の1つとなっている。Windows Mixed Realityヘッドセットでは、モノクロの複眼カメラを利用してユーザーがどう動いているのかを検知しているため、複数のユーザーが同時に楽しむことも可能だ。

 ただ、今回の試用では、狭い部屋で行なわれていたため、動き回ることができなかった。現状のVR HMDと動きの検出にどの程度の差があるのかはわからなかったことは付け加えておく。上下左右に動かした範囲内では特に遅延などは特に感じなかった。

 もう1つのVR HMD大きな違いは、HoloLensと同じような3Dメニューを使って操作できることだ。たとえば、WebVRのアプリを、Microsoft Edgeから呼び出して実行したできる。

少なくともVR HMDとしては使えるWindows Mixed Realityヘッドセット、299ドルは魅力

 こうした見ていくと、Windows Mixed Realityヘッドセットは、現状では赤外線レーザーセンサーから解放されたVR HMD、ハードウェアそのものを正しく評価するとそういうことになるだろう。少なくとも、現状でもVR HMDと同じようなユーザー体験を得ることができ、赤外線レーザーの制限からも解放されるというメリットがあり、VR HMDよりも安価な299ドル、コントローラを入れても398ドルという価格設定はユーザーにはかなり魅力であると言っていいだろう。

 今後Windows Mixed Realityの鍵となるのは、やはりそれに向けたアプリケーションが増えることにあるだろう。すでにHoloLens用のアプリケーションは多くの開発者が取り組んでおり、それをWindows Mixed Reality用とするのも(透過型のディスプレイが前提なものは別にして)そんなに難しいことではないはずだ。

 また、今後よりバラエティのある製品展開を行うことも大事だ。現状では、2,999ドルのHoloLensと、299ドルのWindows Mixed Realityヘッドセットという両極端の製品しかない。今後は、前面に複眼のRGBカメラをWindows Mixed Realityヘッドセットに装着し、ディスプレイ出力やデータはWiGigで飛ばすなどの製品が登場すれば、フルワイヤレスで、周囲の様子をディスプレイに表示しながらHoloLensと同じようなアプリケーションを使う、そうした展開だって十分可能だろう。

 そうした展開が容易に想像できるだけに、このWindows Mixed Realityヘッドセットの可能性はひじょうに大きく、現在見えている製品はMRへの旅の始まりにすぎない。