全店制覇! 秋月電子通商のすべて



 あの「プロトタイパーズ」が帰ってきました。月一連載です。ネタはもっと幅広く、もっとディープに展開します。ご期待ください。(編集部)


 秋月電子通商は秋葉原でもっとも有名な電子部品屋さんと言っていいでしょう。興味深いパーツが手頃な価格で手に入るお店です。業務で利用する人も多いようで、店頭は平日も賑わっています。

 もともとは秋葉原の1店舗だけで営業していた秋月電子ですが、現在は埼玉県・八潮の2号店とオンラインショップにも力を入れています。今回、我々はこれらの3店舗すべてを取材しました。秋葉原の店内からだけでは伺えない、ビジネスの様子を見ることができたと思います。

 ツアーのスタート地点は秋葉原。開店前の様子を拝見するため、10時前に集合しました。まだ周囲のお店も開いていません。静かな裏通りを歩いているのは職場に向かう人たちだけのようです。いつもの見慣れた風景とは違う秋葉原がありました。

秋月電子通商・秋葉原店。秋月通りとも言われる電子部品店が並ぶ裏通りにあります。このビルの1階が店舗。2階と6階は事務所と倉庫です
普段我々が目にすることのない「裏側」を重点的に見学しました。最初に覗いたのが2階の倉庫。早くもこの段階で物量に圧倒されはじめたのですが、実はまだほんの序の口でした
さっそく遭遇した新製品。NXP(フィリップスから分社した欧州第2位の半導体メーカー)のマイコンボード『mbed』。このボードはUSBでPCに接続し、Web上でプログラムを開発します。クラウドコンピューティング的なアプローチをマイコン開発に導入する新しい試みです。販売価格はまだ未定でしたが、海外の有力ショップに負けない値段を検討中とのこと
開店準備中の1階店舗です。天井に蛍光灯が隙間無く並んでいるのは社長さんの意向だそうです。そういえば、日本橋のシリコンハウスも徹底した明るさでした
反対側から見た店内。奥は在庫置き場です。店頭に目当てのものがないときは、店員さんに問い合わせると、奥から探し出してきてくれることがよくあります
1階店舗の最奥には、在庫商品や資材に囲まれた小さな作業スペースがありました
店員さんの視点で店頭の棚を見るとこんな感じ。足下まで商品がぎっちりです。なお、秋葉原店は年中無休ですが、月曜日と木曜日は「暫定営業」となり、この棚は使われません(購入できない部品があります)。暫定営業日は店員さんも少ないようです
まだ準備中の看板がぶら下がっている時点から、店先にはお客さんが集まってきました。1日の始まりです

 開店の時刻まで秋葉原店を見学してから、次の目的地である八潮へ向かいました。2号店にあたる八潮店は秋葉原店よりもゆったりしていて、手に取ることができる商品も多くなっています。同じ秋月電子なのですが、得られる買い物体験はだいぶ異なります。

つくばエクスプレスの八潮駅から徒歩7分のところにある八潮店。高速道路の出口から近く、駐車場も完備されているので、クルマでの買い物に便利です
入口の両脇には特売品のワゴン。この日は「宇宙開発仕様」の部品がたくさん並んでいました。我々は取材を忘れて、一袋100円〜200円のタンタルコンデンサやトランジスタを買い漁ってしまいました
八潮店の中の様子。ゆとりがあって、心なしかのどかな感じもします。このあと、子供連れのお客さんがやってきて、一緒に部品選びをしていました
在庫商品や販売単位が秋葉原店と一部異なります。たとえば、このLEDを1個単位で買えるのは八潮店だけ
このACアダプタ(200円)は八潮店限定。床に置かれた箱に掘り出し物が入っています
LEDが2,000個で2,000円とか、500個で1,000円とか。湯水のごとくLチカ(LEDチカチカの略)したい人にオススメです
秋月電子では工具をほとんど取り扱っていませんでした。しかし、近年、お客さんからの要望が多いため、基本的なものは部品と一緒に買えるようにしたとのことです
「線材」も従来は取り扱っていなかった商品
線材を使いやすい形態で安く提供するため、専用の機械を導入。社長さんが自らカットするそうです
社長さんの大事な仕事の1つがマニュアルの印刷。バックヤードに6台のリソグラフが並んでいました
秋月電子の商品についてくるマニュアル類は特徴的な配色で印刷されています。箱に貼られたシールは、色ごとの使用頻度を表しています(インクを開封するたびに、1枚ずつ増えていきます)。黄色の消費量が多そうでした
版下は紙ベースのカット&ペーストでした
印刷されたマニュアルの山。すごい量ですが、このくらいはいつの間にかなくなってしまい、気がつくと足りない、ということがよくあるそうです
秋月電子通商代表取締役の辻本昭夫さん。年商26億円の企業のトップです。片時も止まらないアイデアの人という印象でした。このとき、我々はブレッドボードを使った新商品のアイデアを授かってしまいました。実現に向けて研究開発を始めないといけません
取材の間も、社長さんにはひっきりなしに来客やスタッフからの問い合わせが入ります。そのたびに事務所内をスイスイと動き回って対応します。仕入れは海外からが多いそうですが、それもすべてこの事務所から電話とメールで行なっているとのこと。膨大な情報と商品が交差する八潮店のバックヤードです
たぶんここが社長席です。自席でじっとしていることはないのだな、ということがわかります。「商品開発のヒントはお客様からいただくことが多いですね」と言う社長さん。「おたくで○○を扱ってほしい」という要望どおりに商品を出すと、まず間違いなく売れるそうです

 八潮店のなかをじっくり拝見していたら、我々の書籍とパーツセットが良い場所に置いてありました。

 このパーツセットはオーム社から刊行された書籍『武蔵野電波のブレッドボーダーズ』の作例に使う部品の一部を揃えたものです。ブレッドボード2個と十分な数のジャンプワイヤが含まれているので、最初の買い物をカンタンに済ませたい人にお勧めです。基本的にはバラでも購入可能な部品のセットですが、半固定抵抗器は今のところ単品売りされていないBournsの角形です。これはブレッドボードに挿しやすい形状ということで、新たに手配していただいたものです。それからカーボン抵抗器は100本単位ではなく、必要数+2本で揃えてあるので、いきなり抵抗の袋が山積みになってしまうこともありません。電池ボックスや使用頻度の低い部品は別途購入してください。

スペースに余裕がある八潮店では、いくつかのキットや測定器が動作する状態で展示されています。オシロスコープキットの横を見ると……我々の名前が入った書籍とキットがありました!
武蔵野電波のブレッドボーダーズ・スターターパーツセットは3,600円で発売中です

 八潮店を後にした我々は川口市内にある通販センターへ向かいました。インターネット経由で受けた注文はここに集められ、発送作業が行なわれます。

 現在、秋月電子の売り上げの8割が通販によるもの。働いているスタッフは2つの店舗を合わせた人数よりも多く、40名程度が在籍しているそうです。在庫のスケールも店舗を凌駕しています。

川口通販センターの外見。このくらいの大きさの建物がほかに3つあり、発送を待つ商品がみっちりと詰まっていました
この部屋で箱詰めされ、我々の手元へと発送されるわけですね。注文書に印刷される商品の順番が棚のレイアウトと一致していて、このフロアを時計回りに巡っていくことで、効率よくピックアップできます
袋詰めする人、箱を組み立てる人、箱詰めする人、そして発送する人。分業体制で多くのスタッフが働いています。通販センターに限らず、秋月電子のバックヤードは女性の姿が多かったです
一部のICはレール単位で購入可能です。同じ部品でも数によって扱いが変わるわけですね
ここにもムサデンパーツセットがありました。隣の『プリント基板で作るPIC応用装置』パーツセットも人気のようです
ホビーユーザーに人気があるキットを尋ねたところ、『ポータブルヘッドフォンアンプキット』を紹介していただきました。高品質なパーツを組み合わせ、クリアな音質を狙ったとのこと。頑丈な専用ケースに収めると、持ち運びにも便利です
箱詰め作業をする建物とは別の場所で、部品を袋詰めする作業が行なわれていました。こうして1袋1袋、商品になっていくわけですね
在庫期間が一定の長さに達した充電式電池は、出荷時に電圧をチェックされ、規定の値のものだけが発送されます
通販用の在庫は膨大で、部品ごとに巨大な塊を形成しています。カーボン抵抗器は外箱1つが100K、つまり10万個。別の倉庫はほとんどLEDで埋まっていました
なかにはこんな箱も(謎と1文字書いてありました)。廃棄物の一時保管のための倉庫も別の場所にあるとのこと
袋詰めされた商品の保管場所。通称、ジャングル。小さな袋が大きな袋のなかにびっしり詰まっていて、それがずらりと吊されています。数十坪はある倉庫の1階と2階がこんな様子でした。この保管方法は、もっと小規模ではありましたが、他の店舗でも見られました。秋月電子ならではのシステムかもしれません
フォークリフト秋月号(というのは我々が勝手につけた呼び方です)

 我々は秋月電子を頻繁に利用しますが、購入する数量はわずかです。店頭では1,000円以下の買い物になることがほとんどです。自分がそうした小口の利用ばかりしているものですから、秋月電子をこぢんまりした会社だと誤解していました。しかし、各事業所を回って感じたのは、在庫の膨大さと、それを処理することの複雑さです。

 秋月電子の特徴の1つは値段の安さ。この安さは大量の仕入れにより実現されます。つまり、安くしようとすれば大量の在庫を抱えることになり、それを管理するためのコストがかかるということです。このあたりのバランスのとりようはカンタンに想像できませんが、ジャングルのなかに佇みながら、量に圧倒されないタフさが必要だ、と感じました。

 次回のプロトタイパーズはアジレントテクノロジーのかっこいい計測器に触ってみる予定です。