武蔵野電波のプロトタイパーズ

IKEAへ行ってスピーカーを作ろう

 梅雨入りする直前の休日、我々は愉快な1日を過ごすことができたので、そのレポートです。

 埼玉県の八潮市と三郷市という隣接する2つの市に、とても楽しいお店が1つずつあります。秋月電子通商の八潮店とIKEAの新三郷店。6kmほど離れているその2店をハシゴするのは半日仕事ですが、極めて充実したショッピング体験が得られます。八潮秋月の様子については、過去のプロトタイパーズの記事を参照してください。

秋月電子の八潮店とIKEAの新三郷店の位置関係はこんな感じ。2店間の距離は約6km。歩いて移動するのは大変ですけど、2店で半日過ごすつもりならちょうどいいショッピングルート。秋月電子八潮店の営業日は金土日の週3日のみ。IKEAは年中無休です
はじめに向かったのは八潮秋月。久しぶりに訪れた店内はやっぱり楽園。1個10円のボタン電池(CR-2032)やワゴンセールのコンデンサなどを買い漁ってしまいました。でも、メインの目的は安いスピーカーユニット。これをIKEAの「エンクロージャ」に入れてスピーカーを作るのが、この日のテーマ

 秋月が扱っている小口径のフルレンジスピーカーユニットは格安。気軽に試せます。それをIKEAの「エンクロージャ」に入れたらどうなるか検証することにしました。なにかテーマがあると、ショップ巡りがより楽しくなります。

 エンクロージャと書きましたが、もちろんIKEAがスピーカー用の筐体を売っているわけではありません(もしかしたら世界のどこかのIKEAにはあるかもしれませんが)。膨大な種類がある「丸い口の開いた容器」からぴったり合いそうなものを探し出し、スピーカーユニットを装着して音を聴いてみよう、という試みです。

IKEAについたら、まずレストランで休憩。その時に目に入ったのが、ドリンクバー用のカップです。ピッタリ合いそう!
あつらえたようにピッタリ。スピーカーユニットの自重により、乗せただけで安定します。幸先いいスタート。ちなみにこのカップ、何個か余分に欲しかったのですが、1個180円で買うとドリンクバーが使えるというシステムになっていて、カップだけ貰うわけにはいかず、2個買って1個は使わずに持ち帰りました
買い物終了後、お店の前で荷物を整理していたら「どうしても今すぐ試したい」という気分になってしまったので、ラジオにミノムシクリップを繋いで「音出し」してみました
内蔵スピーカーとは明らかに違う音が出てきてちょっと感動。可能性を感じつつ帰路につき、落ち着いて試作することにしました

 スピーカーユニットを選ぶ際、最初にチェックするパラメータは直径でしょう。8cmや12cmといった標準的なサイズがあって、それに合う口径のエンクロージャと組み合わせることで、音が出るスピーカーが出来上がります。組み立てやすいユニットとエンクロージャの場合、ユニットの枠をエンクロージャのパネルにネジで留めるだけできちんと固定できます。しかし、IKEAの「丸い口の開いた容器」にユニットを填め込むときは、そううまくいきません。見た目の直径は一致していても、エッジの形状が合わなくて浮いてしまったり、マグネットや端子が当たって収まらないこともあります。

 店頭で現物合わせを徹底するわけにもいきません。良さそうな容器を見つけたらサッと直径を確認し、おおむね大丈夫そうなら買い物カゴに入れて、帰ってから細かく吟味することになります。その結果スピーカーとしては使えないものも買うことになるのですが、その商品本来の目的では使えるので良しとしましょう。

秋月で購入したスピーカーユニット。ただし、右後ろの15cmウーファー(AuraSound NS6-255-8A)は秋葉原のコイズミ無線で入手したものです
IKEAで購入したエンクロージャ候補。右のワイングラスと後ろの花瓶は形状が合わずボツにしました

 それでは、IKEAのエンクロージャ候補にスピーカーを実装し、試聴した結果を紹介しましょう。実装といっても、まずカポッと填めただけの状態で鳴らしてみて、良さそうなら弱い粘着剤で仮留めするという作業です。面白い音が出そうな組み合わせを見つけるのが今回の目的で、本格的な加工と試聴はまた別の機会にする予定です。

IKEA内レストランの紙コップに「F77G98-6」を装着。300円で買える直径77mmのフルレンジユニットです
やはりあつらえたようにピッタリ。音もしっかり出てきます。ただ、ユニットの能力に負けてしまうのか、音量を絞っても消えない“びびり”が気になります。紙コップには、スタバカップアンプの回で使った、薄いスピーカーがベストなのかもしれません
プラカップの「KALAS」は店内のあちこちで売られてますね。6色セットで199円。これもF77G98-6に合うサイズ
明らかに紙コップよりも音質が向上します。音量を絞ればびびりは気になりません。強く固定せず、ときどきカップの色を換えて使うと楽しそう
次はキャンドルホルダーの「NEGLINGE」を試してみます
ひっくり返して、底面の空間に60円のダイナミックスピーカー「FA200C」を填め込むと……。イケそうですが、ほんのわずかにスピーカーが大きいようです。ガラスという弾力性がまったくない素材のため、押し込んで落ち着かせるというわけにはいきません
そこで取り出したのが「プリット ひっつき虫」。軽いものの貼り付けや滑り止めに使え、用が済んだら簡単に取り除くことができるたいへん便利な粘着剤。パテのように使うこともできます
6ピースほどを細くのばして縁に貼り、ここにスピーカーユニットをギュッ押し込んだらできあがり。ケーブルもちょうどよくひっつき虫に埋もれて、ユニットが水平に安定します
横から見たNEGLINGEはスピーカーの回路図記号に似ています。トランスルーセント・デザインがちょっとステキじゃないですか? 音は、一応前に出てきますが、音量を稼ぐことができません。とはいえ、60円のスピーカーユニットと49円のエンクロージャの組み合わせから出てくる音と考えれば合格だと思います
BLANDA BLANK」はステンレス製のボウルで、直径は50mm。FA200Cが吸い付くようにピタッと填ります
こちらもひっつき虫で固定しましたが、スピーカーユニットのマグネットがステンレス容器を引っ張るため、ケーブルを通す溝か穴さえ確保すれば、填めるだけで安定しそうです
音はNEGLINGEよりも明瞭で、良く鳴ります。材料費はステレオで組んでも320円ほど。
15cm級スピーカーユニットがうまく入る容器はないかもしれない、と思いつつ探していたところ、この「PLACERA」が目に入りました。期待はせずに試したら、想定外のピッタリ度だったのです
自重だけでは音量を上げたときに震動してしまうので、ひっつき虫を薄く貼ってから押し込んでいます
机に上を向けて置くとビビリが気になるものの、手で持って浮かせば素直な音。ちゃんとウーファーとして機能してる気がします。置き方に工夫が必要ですね

 スピーカー試作のレポートは以上です。こんな工作でも、自分で作ったものからパッと音が出てくると楽しいですね。落ち着いて聴いているうちに、いろいろと欠点も見つかりますが、それを改良する方法を考えながら、あれこれ試していると時間がどんどん過ぎてしまいます。

 今回、テストに使ったアンプは「LM386」をベースにブレッドボード上で組んだごく簡単なものです。最後に本格的なプリメインアンプも試しましたが、スピーカーユニットとエンクロージャを取っ替え引っ替えしてる間は安全第一ということで、9V電池で動くLM386を酷使しました。

 本連載ではまだLM386アンプを紹介していなかったので、回路図と組み立て例を載せます。

テスト用のアンプと音源。電源は9V電池1本です。試聴に使った曲は女性ボーカルものがメイン。シンプルな曲はシンプルなハードウエアでも良く聞こえますね
メーカーのデータシートにある回路図のパラメータを少し変えて、いつものパーツ屋さんで入手しやすい部品だけで組めるようにしました
実際に組んだテスト用アンプでは、部品の持ち合わせがなかったためC2とR1を省略しています。このアンプでテストしてポテンシャルが感じられたスピーカーを高出力なアンプで鳴らしたところ、やはり印象はだいぶ変わりました
いま我々が作ってみたいと思っているのは、8cmフルレンジ2個と15cm程度のウーファー1個がセットになっているモバイル対応のパワードスピーカーシステムです。いつ完成するか分かりませんが、当面、ウーファーはIKEAエンクロージャでテストしようと思っています

(武蔵野電波)