山口真弘の電子辞書最前線
カシオ「XC-U40」
~電子辞書と連携して利用できるデジタル英単語帳
(2014/2/13 06:00)
カシオの「XC-U40」は、同社の電子辞書と連携し、電車の中などで英単語の暗記ができるデジタル単語帳だ。「EX-word with」という製品名からも分かるように、同社電子辞書「EX-word」(エクスワード)シリーズと組み合わせて使用することを前提に設計された、いわば電子辞書の周辺機器に相当する製品だ。
いまや高校生の学習に欠かせない電子辞書だが、平均して300g程度の重量があることから、手に持って画面を長時間見ながら暗記などを行なうのは難しい。電池込みでわずか65gと軽量な本製品があれば、通学時などのスキマ時間を使って、効果的に英単語の暗記が行なえるというわけだ。
本連載ではこれまで主にビジネス向け、あるいは英語学習用の電子辞書を取り上げているが、今回は電子辞書の新しいスタイルとも言えるこの製品を、同社の高校生向け電子辞書の新製品「XD-U4900」との組み合わせで紹介する。機材はメーカーから借用したサンプルを用いており、市販される製品とは若干相違があるかもしれないことを、あらかじめご了承いただきたい。
「英単語ターゲット1900」を搭載したデジタル単語帳
デジタルで使える単語帳としては、かつてコクヨから発売されていた「メモリボ」が有名だ。単語帳などさまざまなデータとのセット製品がラインナップされ、スキマ時間を使った暗記学習に役立てることができた。内蔵の単語帳データだけでなく、PC上で編集したデータを転送して利用することも可能だった。
本製品も同様に、本体内にあらかじめ「英単語ターゲット1900」を搭載しており、単体で英単語の暗記学習が行なえるほか、電子辞書のマーカー単語帳に登録した英単語や、ジーニアス英和辞典のヒストリーに登録された英単語を転送して暗記に役立てられる。自作データこそ使えないが、メモリボのデータ転送元であるPCが、本製品では電子辞書に置き換わったと考えれば分かりやすい。
また、発音機能を備えているのも特徴だ。本製品と組み合わせて使用するXD-U4900/4800は従来モデルに比べてスピーキング機能が強化され、自分の発音を録音してネイティブ音声と聴き比べる機能を搭載しているが、本製品を使えばまずはネイティブ音声だけを集中的に聴き、発音をマスターする下準備が行なえるというわけだ。
名刺サイズのコンパクトさ。キーの配置は疑問
基本的な機能と位置付けを理解したところで、実際の製品について見ていこう。製品は名刺サイズの大きさ(86.5×51.2mm、幅×奥行き)で、厚みは14mmと、スマートフォンなどと比較してもはるかに分厚い。ボタンは左側面に電源ボタンを兼ねるメニューボタン、上面に左右の移動キー、正面に上下の移動キーと選択キー、チェックキーを備える。
これらのキーは本体左側に集中的に配置されており、片手で操作できるという触れ込みなのだが、項目の上下選択に使用するキーが左右に並んでいたり、左右の移動に使用するキーが上下に並んでいたりと、お世辞にもユーザビリティを考慮しているとは言えず、かなり使いにくい。1週間ほど試用したが、最後まで慣れることができなかった。
本体のコンパクトさを優先した結果このようなキー配置になったのかもしれないが、かつてのメモリボですら上下左右/決定キーは伝統的な円形のキーが採用されているだけに、もう一工夫ほしかったところだ。実質的に「戻る」の役割を果たす左側面のメニューキーと、電源ボタンが兼用になっているのも直感的な操作を妨げており、使っていて戸惑いがちだ。
液晶画面はモノクロで4行のみ、文字サイズの変更はできないが、単語と意味の表示だけであれば特に不足はない。なお本製品にはスピーカーは搭載されていないので、必ず付属のイヤフォンを使う必要がある。通学中の利用であれば問題ないだろうが、就寝前に枕元などで使いたい場合、少なからず不便さを感じることもありそうだ。
ネイティブ音声による繰り返しの暗記学習が可能
まずは単体での使い方を見ていこう。電源を入れるとメニューが表示され、コンテンツを選ぶ画面になる。選択肢は「ミニ英和単語リスト」、「ミニ英和ヒストリー」、「英単語ターゲット1900」と「接続・設定」の4つだ。最初の2つは初期状態では空なので、まずは「英単語ターゲット1900」を選択する。
「英単語ターゲット1900」で暗記学習を行なうには、まず難易度を選択した後、再生方式を選択する。再生方式は「1回聞いて覚える」、「3回聞いて覚える」、「めくって覚える」の3択で、例えば「3回聞いて覚える」であれば、「スペル表示と同時にネイティブ発音再生」→「日本語の意味を表示」というサイクルが計3回繰り返された後、次の単語が表示されるという流れになる。
再生は前述の「1回聞いて覚える」と「3回聞いて覚える」は自動、「めくって覚える」の場合のみ手動となり、戻ってやり直すこともできる。覚えた単語にはチェックを入れることで、次回の表示をスキップさせたり、逆にチェックを入れた単語だけを表示して暗記したか確認することもできる。また、デフォルトでは英単語を表示してから日本語訳を表示するという順序だが、先に日本語訳を表示させるといった順序に変更することもできる。
ちなみにこの「英単語ターゲット1900」は、本製品と連携する電子辞書にも同じコンテンツが搭載されているが、本製品で表示できるのは「英単語の綴り」と「日本語の意味」だけで、「発音記号」や「例文」および「例文の日本語訳」については表示されない。また、テスト機能やディクテーション機能も利用できない。
あくまでも暗記用に特化されているというわけで、このあたりは同じコンテンツだからといって、電子辞書と同等の機能が使えるわけではない。画面サイズがまったく異なることからも当然といえば当然だが、搭載コンテンツ名だけを見ていると勘違いすることもありそうなので、製品の購入にあたって理解しておきたいところだ。
電子辞書とのデータ連携や学習の進捗の共有が可能
続いて、電子辞書との連携機能について見ていこう。まずは電子辞書側でマーカーを付けた単語を本製品に転送する方法。覚えなくてはいけない単語を本製品に効率よく転送し、暗記に役立てる機能だ。利用できる辞書は「ジーニアス英和辞典」のみで、それ以外の辞書はサポートしていない。
マーカーを付けた単語を本製品に転送するには、6つあるマーカー単語帳のうち「マーカー単語帳6」に登録する必要がある。またUSBケーブルを繋ぐと自動的に接続モードに切り替わってくれるわけではなく、本製品を電子辞書との接続モードに切り替えた後、USBケーブルで繋いでから電子辞書側でライブラリを呼び出して「デジタル単語帳」→「デジタル単語帳接続」を選ぶことで、はじめて接続が確立する。頻繁に利用するには、やや手間がかかりすぎる印象だ。
さて、マーカーを付けた単語を本製品に転送するには、電子辞書側で「ミニ英和単語リスト」を選択して「見出し語/チェック」をタップする。確認メッセージが表示されるので「はい」を選んで転送を実行すれば、電子辞書側でマーカーを付けた単語のデータが転送され、本製品側で確認できるようになる。例えば、テストに出題が予想される単語にマーカーを引いて本製品に転送し、集中的に暗記に取り組むといった使い方が考えられる。
このほか、ジーニアス英和辞典で表示した履歴を本製品に転送したり、また本製品側で単語につけたチェックを電子辞書側に転送する機能も用意されている。前者については復習のための機能、後者については学習の進捗を同期するための機能だ。電子辞書から本製品への転送だけでなく、本製品から電子辞書への転送もサポートしているのが面白い。
暗記ツールとしての競合はスマートフォンアプリ?
さて、本製品は「電子辞書を持ち歩かない」というのが大前提になっているわけだが、こうした条件において、英単語を効果的に学習する方法はほかにも存在する。
代表的なのが、スマートフォンを使う方法だろう。すでにスマートフォンを所有しており、アプリを追加するだけであれば、追加費用はアプリ代だけで済み、なおかつ機器を複数台持ち歩く必要もなくなる。英単語の学習を目的に本製品の購入を考えているユーザーにとっては、本製品とスマートフォンアプリの違いは気になるところだろう。
本製品に収録されている「英単語ターゲット1900」は、iTunes App StoreおよびGoogle Playで600円の有料アプリとして販売されている。ここではiPhoneアプリ「英単語ターゲット1900」との機能の違いを見ていくことにしたい。試用したバージョンは2.2である。
まず機能面についてだが、本製品と電子辞書とで表示内容が違うのと同様に、本製品とiPhoneアプリもかなりの違いがある。本製品が「単語の綴り」と「その日本語訳」、および「単語の発音」だけなのに対して、iPhoneアプリ版では「例文」や「例文の発音」もサポートする。このあたりは画面サイズの違いがそのまま差に結びついている印象だ。
何よりも大きな違いは、日本語訳や例文などを個別にオン/オフしたり、音声を再生する間隔を調整したり、再生速度をコントロールできたりと、カスタマイズ性が高いこと。実戦問題集こそアプリ内課金で別途購入する必要があるが、作り自体は電子辞書版に極めて近いうえ、iCloudを用いてほかのiOS機器とマーカーなどのデータを同期できるなど、アプリ自体の完成度も非常に高い。
といったわけで、電子辞書と同期できるというアドバンテージはあるものの、スマートフォンが使える環境にあるのなら、本製品はさすがに分が悪い。ネットやゲームといったあらゆる作業ができてしまうスマートフォンと違い、本製品は学習用に特化しているので、暗記に集中するにはもってこい……という考え方もあるだろうが、価格面を考慮しても、そのためだけに購入するのは少々つらい。
これらを踏まえると、電子辞書で実際に検索した単語や、マーカーを付けた単語のみをピックアップし、効率的に学習できる点までひっくるめて、初めて存在価値のある製品、と言えそうだ。
付加価値付きのデジタル単語帳として受け入れられるためには
以上、ざっと見てきたが、電子辞書本体を持ち歩かずに、通学時間を使って暗記学習を行なうためには、軽量かつシンプルで有用な製品だといえる。ただし先に述べたように、本製品ならではの強みは電子辞書との連携機能であり、それを使わないのであればスマートフォンアプリなどの選択肢もあるので、現状では電子辞書の周辺機器の域を出ない。実売4,980円という価格も、もう一押し欲しいところではある。
コクヨから発売されていたメモリボは、英単語学習に留まらず、宅建やFP技能士などのコンテンツも用意されていたので、そちらの方向にラインナップが広がれば面白い存在になる気はするが、その場合でもやはりスマートフォンが競合になることは変わらないだろう。これら資格関連は学校から機器を指定されるのではなく、ユーザーが自発的に機器を選んで学習するスタイルなので、なおさら分が悪いことも予想される。
もっとも、65gという軽さや、単4電池1本で連続表示約100時間という長寿命は評価されてよい部分である。個人的には、本製品にしかできない機能が追加され、かつ厚みがせめて10mmを切れば、付加価値付きのデジタル単語帳として受け入れられる余地も出てくるのではないかと思う。新機軸の製品ということで、今後はボタンの配置など操作性の部分の改善にも期待しつつ、高校生モデル以外へのラインナップ展開に期待したい。