山口真弘の電子辞書最前線
シャープ「PW-SB1」
~液晶が360度回転してタブレットライクに使える電子辞書
(2014/1/20 06:00)
シャープの電子辞書Brain「PW-SB1」は、120コンテンツを搭載したビジネス向けの電子辞書だ。液晶画面が360度回転する構造を持ち、キーボードを背面に回してタブレットのようなスタイル(タッチスタイル)で利用できることが大きな特徴だ。
近年の電子辞書は、ハードウェアの大きなリニューアルは影を潜め、コンテンツの変更を中心としたモデルチェンジが繰り返される状況だった。これはタッチパネルの採用、カラー化など、ハードウェアの進化が一通り行き着くところまで行ったことが原因だが、数世代に渡って新機能を継ぎ接ぎで追加してきた結果、完全なフルモデルチェンジを行なわない限り、身動きが取れなくなっていたというのが正確なところだ。
そんな中、今回シャープから登場した本製品をはじめとする「PW-S」シリーズは、従来製品の隅々まで必要性を吟味して、新しい世代の電子辞書として再構築を図った、まさしくフルモデルチェンジの名に相応しい1品である。最大の特徴は画面を360度回転させて折りたたみ、タブレットのようなスタイルで使えることだが、そのほかにもハードウェアでさまざまな進化が見られるほか、メニュー画面以下の内容も一新されており、まったく別のメーカーの製品と言われても信じてしまいそうなほどだ。
今回はメーカーから試作機を借用することができたので、実際に試用してその特徴をチェックする。なお、市販される製品とは若干相違があるかもしれないことをあらかじめご了承いただきたい。
液晶の高解像度化、充電池の採用など変更点は多岐にわたる
冒頭でも述べたように、本製品は画面を360度回転させられることが最大の特徴ということになるが、これ以外にもさまざまな変更が見られる。1つずつチェックしていこう。
従来モデルと見比べるとまず気付かされるのが、キーボード手前にあった手書きパネルがなくなったことだ。もともとこの手書きパネルは、メイン画面がタッチに対応する以前から存在しており、メイン画面のタッチ化によって存在意義がやや薄れてしまっていた。今回この手書きパネルが廃止された(つまりメイン画面に一本化された)ことで、キーボード面が広く使え、レイアウトに余裕ができるようになった。本体の奥行きも削減されている。
そのキーボード面も、かなりの変化がある。1つはファンクションキーが大型になり、視認性が高まるとともに、押しやすさが向上したことだ。またスペースキーが手前に移動したことでキーレイアウトがPCのキーボードに近づくとともに、円形のカーソルキーが廃止されてスクエアなボタンに差し替えられたことで、全体的にスタイリッシュな印象へと変化している。使い始めて最初のうちは、隣り合って並ぶ「スペース/変換」キーと「決定」キーの役割の違いにやや混乱するが、すぐに慣れる。
変更箇所はキーのシルク印字にも及んでいる。従来モデルはキートップにカナ文字のほか、数字、電卓機能で使う演算機能など、さまざまな文字が異なる色で印字されていたため、非常に騒々しかった。今回のモデルではこれらが整理され、すっきり見やすくなった。中にはショートカットキーが廃止されたものもあるが、よりタッチ操作に比重を置くという意味でも、この方向性は正しいと感じる。
また、電源が乾電池からリチウムイオン充電池に変更になったのも大きな変化だ。これにより、乾電池を収めていたヒンジ部がスリム化し、画面回転時の障害にならなくなっている。駆動時間は従来の100時間オーバーから50時間へと短縮されたのはマイナスだが、本体重量が300gを切るなど軽量化も併せて実現しているので「従来の駆動時間を維持したがゆえに本体重量は大幅増」となるよりは好ましい選択ではないかと思う。
また画面については、従来の5型(480×320ドット)から、5.2型(800×480ドット)へと進化しており、従来のドット感が大幅に解消されている。メニュー画面のデザイン変更とも密接に関わっているので、のちほど詳しく紹介する。
液晶が360度回転してタブレットのようなスタイルで利用可能
では本製品の目玉である、液晶画面を360度回転させたタブレットのような利用スタイル「タッチスタイル」について見ていこう。
本製品は、ノートPCなどでおなじみのクラムシェルスタイルでの利用のほか、液晶画面を後ろに倒してそのままぐるっと1周させることで、タブレットのようなスタイルで利用できる。操作はすべてタッチで行なえるので、キーボードを用いなくとも、タッチペンもしくは指先ですべての操作が行なえる。
液晶画面は、同社がかつて発売していたワンセグ電子辞書のように横に180度回転させて折りたたむわけではなく、そのまま後ろに倒して360度回す(表現としては、キーボードを液晶画面の後ろに回すといった方が正しい)ため、キーが裏側に露出したままになる。本体を持っただけで指がキーに触れて反応するのはさすがに具合が悪いので、タブレットスタイルでは電源キー以外のキーは反応しなくなる。またキーボード側を底にしてデスク上に置いた場合も、キーがわずかに浮くよう足が設けられるなど工夫されている。
さて、このタッチスタイルでは、操作は基本的にタッチペンもしくは指先で行なう。「決定」、「戻る」などの主要操作のキーは画面右列の「イージータブレット」に配置されているので、キーボードを利用しなくともとくに操作に支障はない。
またイージータブレット右下の「操作機能」をタップすると、表示中の画面で利用できるメニューがスライド表示されるので、現在どのような操作ができるか直感的に把握できる。2012年発売された「受験Brain」にも同様のインターフェイスがあり、そこからフィードバックされた格好だ。
タッチパネルは従来モデルと同様に感圧式で、それゆえタッチペンでも指先でも反応するが、スマートフォンやタブレットで使用されている静電容量式のタッチパネルと違って軽く押し込んでやる必要があるため、スマートフォン/タブレットと併用している場合はやや違和感がある。人によっても異なるはずなので、店頭のデモ機などで購入前に確認することをおすすめする。
メニューのデザインも一新。電子辞書機能がすぐに使える階層構造に
本製品はホーム画面のデザインも一新されている。コンテンツと合わせて見ていこう。
コンテンツ数は120で、ビジネスモデルということで英語および中国語を中心とした語学系コンテンツ、TOEICなどの学習コンテンツ、表現集、用語集、マナーコンテンツなどが中心になっている。同社電子辞書の特徴である動画コンテンツも健在であるほか、またブレーンライブラリーに接続することで辞書のほか、電子書籍コンテンツを購入してダウンロードできる。
ここで注目なのはコンテンツそのものではなく、その呼び出し方だ。従来はテキストメモや電卓、フォトスライドなどさまざまな機能がホームに並び、辞書もその中の1つという扱いだったが、本製品ではホームに「英語」、「中国語」、「ビジネス」など辞書の大分類が並ぶとともに、分類を問わず一括で検索するための「調べる」というメニューが追加された。これまで機能の肥大化によって下の階層に追いやられていた辞書メニューが、1番上の階層に「復権」した格好だ。
またデザインについては、Windows 8を思わせるタイルデザインに一新され、タップによる操作が容易になっている。下層に行くと従来のデザインに近いアイコンも使われているが、解像度が向上したことで格段に見やすくなっている。高解像度化により、フォントの野暮ったさがなくなったのもよい。
こうした思い切ったデザイン変更が行なわれた場合、従来モデルと操作性が違いすぎてユーザーが戸惑うことがよくあるが、本製品はホーム画面の下にある「辞書メニュー」をタップすると、従来同様の横向きタブ切り替えの画面が表示されるので、従来モデルの操作性が好みのユーザはこちらを使えばよい。将来的にこの画面を維持するかどうかという課題は残るものの、これだけ大規模なリニューアルでありながら、従来モデルのユーザーにきちんと配慮しているのは好感が持てる。買い替える際も安心だろう。
ところでこれら主要メニューについては、キーボード上段にあるファンクションキーからもアクセスできるのだが、実際に使ってみた限りでは、それらの挙動が統一されていないのが気になった。例えば1番左の「調べる」や、その隣の「英和大/和英」を押すと検索画面が表示されるのだが、さらに隣の「中国語」は辞書の一覧が表示され、検索画面を表示するにはどれかを選ばなくてはならない。
また同じ並びにある「ボイスメモ」は、押すとすぐに録音画面が表示されるのはよいのだが、ほかのキーと異なり、HOMEボタンを押すとすぐホーム画面に戻るのではなく、確認のYボタンを押すという余分な行程が間に挟まる。ボタンの左半分が辞書エリア、右半分がツールエリアという解釈らしいが、見た目が同じなので混乱する。完全に挙動を統一するのは無理でも、もう少し揃えたほうが違和感なく使えるのではないかと感じた。せめてボイスメモの終了確認はなくしてほしいところだ。
ボイスメモや手紙文作成など多彩なツールを用意
ホーム画面のデザインおよび階層の変更にともなって、テキストメモや電卓など、辞書以外のアクセサリやツールの階層構造もかなり変化している。また、新しいアクセサリも多数追加されている。こちらは写真を中心に紹介しよう。
これらの中で目立つのはボイスメモ機能で、ファンクションキーにも割り当てられるなど利用頻度の高い機能として扱われている。ボイスレコーダーとして決して多機能なわけではないが、周りに意識させずに講義やセミナーなどを録音できるという点で、活用できる場面は多そうだ。
ノートや付箋といった、手書きに対応した記録機能も目立つ。ノートはいわゆる手書きノートで、同社の電子ノートをフィードバックした機能として面白い(ちなみに従来モデルに搭載されていたキーボードから入力するテキストメモ機能は、本製品では省かれている)。また付箋は、ホーム画面にまで貼り付けられるというユニークな使い勝手で、ToDoや電話番号などを貼り付けるのに重宝しそうだ。
ちなみにこれらツールを起動したままホーム画面に戻ると、アプリのアイコンがフローティング表示される。タップすればすぐさま呼び出せるので、辞書機能を使いながらこれらツールを使いたい場合に行き来が楽になる。起動しっぱなしであることを忘れないための備忘録としても役立つだろう。
電子辞書のあり方を見直した意欲的なモデル。画面の回転方法は課題か
以上ざっと見てきたが、長年継ぎ接ぎで凌いでいた電子辞書のさまざまな機能をいったん棚卸しし、電子辞書のあり方を見直して再設計した意欲的なモデルとして高く評価できる。1週間ほど使ってみたが、本製品に慣れた後で従来モデルを使うと、デザインはもちろん操作性まで、非常に野暮ったく感じてしまうほどだ。
また動作速度もきびきびとしており、ストレスなく利用できる。タッチパネルが感圧式なので、スマートフォンやタブレットで採用されている静電容量式のパネルとの操作性の違いを指摘する声はあるだろうが、ペンを中心に使うこちらの方式のほうが使いやすいと感じる人もいるだろう。
個人的に惜しいと感じるのが、画面の回転ギミックだ。タッチスタイルではキー操作が無効になるとはいえ、キーボードが背面に露出していて常に指に触れるというのはやはり違和感がある。部品の強度や生産コストとの兼ね合いもあるだろうが、同社のかつてのワンセグ電子辞書のように、画面を180度横回転させて折りたたむ方式のほうが望ましかったと感じる。
もし、180度横回転させて折りたたむ方式か、あるいはせめて270度まではキーボードは無効のままにする仕組みであれば、写真を表示してフォトビューワーとして利用する際も、スタンドのように立てて利用できたはずで、少々残念だ。タッチスタイル抜きでも秀逸な製品という評価は変わらないが、タッチスタイルを中心とした利用を考えているユーザーは、購入前に店頭で使用感を確認することをおすすめする。
製品名 | PW-SB1 |
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メーカー希望小売価格 | オープンプライス |
ディスプレイ | 5.2型カラー |
ドット数 | 800×480ドット |
電源 | リチウムイオン充電池 |
使用時間 | 約50時間 |
拡張機能 | microSD、USB、ブレーンライブラリー |
本体サイズ(突起部含む) | 152.4×96.5×18.8mm(幅×奥行き×高さ) |
重量 | 約295g(電池含む) |
収録コンテンツ数 | 120(コンテンツ一覧はこちら) |