~Microsoft純正のWindows RTタブレット |
米Microsoftは去る10月26日(現地時間)、Windows 8の発売に合わせて、Windows RT搭載タブレット「Surface with Windows RT」をアメリカやドイツ、中国など世界8カ国で発売した。Microsoftが初めて投入するWindows OS搭載ハードウェアとして、日本でも注目を集めていたものの、残念ながら日本での発売は見送られている。今回、アメリカで発売されたモデルを入手し、アメリカ滞在中に細かく触ってみたので、ハード面を中心に紹介したいと思う。アメリカでの販売価格は、ストレージ容量32GBモデルの本体のみで499ドル。
●ハードウェアとしての完成度はかなり高いMicrosoftが、Windows OSを搭載するデバイスとして初めて投入するハードウェア、それがSurfaceだ。Surfaceには、Windows 8 Pro搭載の「Surface with Windows 8 Pro」と、Windows RT搭載の「Surface with Windows RT」がラインナップされており、Windows 8と同時に発売されたのが、今回取り上げるSurface with Windows RTだ。Surface with Windows 8 Proは、Surface with Windows RTから90日後の発売が予定されている。
Surface with Windows RT(以下、Surface)を入手して真っ先に感じたのは、本体の質感の高さだ。無駄がなく洗練されたデザインに、本体の角や側面の接合部などの仕上げの美しさなどからは、しっかり作り込まれているということが伝わってくる。Surfaceが発表された時に公開されたムービーの映像からもある程度伝わってはいたが、実際の製品の完成度は想像以上であった。
もう1つ感じたのが、優れた剛性を実現しているという点だ。筐体素材は、背面上部の一部を除いて、特殊な加工を施した「VaporMg」と呼ばれるマグネシウム合金を採用。そして、液晶面にはCorning製のGorilla Glass 2を採用。これによって、優れた剛性を確保している。実際に、本体をやや強い力でひねってみてもびくともしない。Surfaceの特徴でもある、裏面のキックスタンドもVaporMgでできており、薄いながらも十分な強度が確保されている。開閉時やスタンドとして本体を立てて置いている状態でも不安を感じることは全くない。ニューヨークで行なわれた、Windows 8発売イベントでも、Surfaceの強度がさまざまな形で紹介されたが、実際に手にしてみるとそれがよくわかる。
もともとMicrosoftは、OSだけでなく、マウスやキーボード、ジョイスティックなどさまざまなハードウェアも手がけており、それらは完成度の高さで定評があるが、Surfaceも同様に時間をかけてしっかり作り込まれたのだろう。
本体サイズは、約274.6×172×9.4mm(幅×奥行き×高さ)。タッチパネル搭載のWindows 8 PC同様、液晶ベゼルがやや広く取られてはいるが、10.6型という液晶サイズを考えるとまずまず標準的なサイズと言える。ただし、厚さは10mmを切っているが、他の薄型タブレットデバイスと比較すると見劣りする。
また、重量は公称で約680g、実測で685.5gと、このクラスのタブレットデバイスとしてはかなり重い。剛性を高めた代わりに、重量は犠牲になっているようだ。事実、手にするとかなり重いし、手に持って長時間の利用はかなり厳しい。剛性とのトレードオフではあるが、個人的には、もう少し剛性を犠牲にしてもいいので、あと100gほどは軽くしてもらいたかった。
●独特のキーボードカバーは2種類用意
Surfaceのもう1つの特徴となるのが、オプションとして用意されているキーボードカバーだ。本体下部にマグネットで装着するようになっており、容易に着脱可能。マグネットはかなり強力で、キーボードカバーを持って本体をぶら下げるように持っても、本体が落ちることはない。
そして、カバーの内側にはキーボード機能が搭載されており、カバーを開くことでノートPCに近い感覚で文字入力が可能となる。キーボードカバーを装着している場合には、カバーを開くとスリープから復帰し、カバーを閉じるとスリープに移行する。カバーを本体の背面側にまで折り曲げると、キーボードは機能しなくなるようになっているので、カバーを付けた状態でタブレットとして利用する場合でも、キーボード誤動作の心配はない。
カバーは、キーボードの仕様が異なる2種類を用意している。1つは、物理的なキーボードを備える「タイプカバー」。もう1つは、タッチセンサー式キーボードを備える「タッチカバー」だ。タイプカバーは黒のみが用意されるのに対し、タッチカバーは黒、白、赤、シアン、マゼンダの5色が用意されている。ちなみに、タイプカバーおよびタッチカバーの黒は、カバーの外側がベロア調の加工が施されている。Surface本体のカラーは、素材の質感を活かしたメタリック調のブラックカラーのみだが、タッチカバーによって装飾が可能。これもSurfaceの特徴だ。
カバーのフットプリントは、当然ほぼ本体と同じで、タイプカバー、タッチカバーともに同等だ。それに対し高さは、タイプカバーが5mm、タッチカバーが3mmと、タッチカバーのほうが2mm薄い。ただし、重量は実測でタイプカバーが214g、タッチカバーが211gと、わずか3gの差しかない。とはいえ、カバーはどちらもやや重く感じる。本体とカバーを合わせた重量は、890gほどになる。13.3型液晶を搭載するNECのLaVie Zよりも重くなってしまうことを考えると、やはり全体的に重量は重いと言わざるを得ない。
タイプカバーとタッチカバーのキーボードの使い勝手だが、これはさすがに物理キーを搭載するタイプカバーが圧倒。さすがに5mmと薄いためストロークは1mm程度とかなり浅く、素材自体が比較的柔らかいため、ノートPCのキーボードに比べるとたわみも大きいので、ノートPC相当とはいかないが、それでも打鍵感はしっかりと指に伝わってくるため、軽快な入力が可能。もちろん、慣れればタッチタイプも問題ない。
それに対しタッチカバーのキーボードは、打鍵感が全くないという点がかなり厳しい。一応、キー部分はある程度の力が加わらないと反応しないようになっており、誤入力は比較的少ない。しかし、指へのフィードバックがないため、常に指の位置を確認しながら入力しないと不安だ。文字入力時にスクリーンキーボードで画面の半分近くが見えなくなることがなくなるため、ないよりは便利といったところだ。
また、タイプカバー、タッチカバーとも、キーボード手前にタッチパッドも備えるが、こちらもタイプカバーは物理的なクリックが可能なクリックボタン一体型のタッチパッドとなっているのに対し、タッチカバーはタッチセンサー式で、ほぼタップ感覚での操作となる。これも、使いやすさは大きく異なり、やはりタイプカバーのタッチパッドの方が使いやすい。
鮮やかなカラーで装飾したいなら、タッチカバーの選択しかないのだが、使い勝手を優先するなら、やはりタイプカバーを選択すべきだろう。
●1,366×768ドット表示対応の10.6型液晶を搭載
Surfaceに搭載される液晶は、1,366×768ドット表示対応の10.6型。パネルの方式はIPS方式で視野角が広く、多少視点の位置が移動しても色合いや明るさの変化は少ない。また、輝度がかなり高く、明るい野外でも視認性を確保できる。
ところで、この液晶パネルは、液晶部と表面のガラスとの間にできる空間に特殊な樹脂で埋めることにより、光の乱反射が減り、優れた表示品質を実現しているという。実際に液晶の発色は非常に鮮やかで、このクラスのタブレットデバイスの液晶としてはトップクラスの表示品質という印象を受けた。写真や映像を表示させる場合などに、この表示品質の高さが大いに活躍するはずだ。ただし、パネル表面は光沢処理で、外光の映り込みが激しい点は気になった。
タッチパネルは静電容量方式で、最大5点のマルチタッチに対応する。タッチ操作の反応は申し分なく、特に不満は感じられなかった。
1,366×768ドット表示対応の10.6型液晶を搭載。パネルと表面ガラスのすき間を樹脂で埋めていることで、鮮やかな発色が実現されている。また輝度もかなり高く、明るい野外でも十分な視認性を確保している | 液晶上部中央には720p対応のカメラを搭載 | 液晶下部には、タッチセンサー式のWindowsボタンが用意されている |
●プロセッサにはNVIDIA Tegra3を採用
では、Surfaceの基本スペックを確認していこう。
プロセッサは、NVIDIAのクアッドコアプロセッサ、Tegra 3を採用している。動作クロックはクアッドコア動作時1.3GHz、シングルコア動作時で1.4GHz。メモリは標準で2GB搭載する。内蔵ストレージは、32GBまたは64GBのフラッシュメモリを搭載。また、本体にはmicroSDカードスロットが用意されており、64GBのmicroSDXCカードも利用できた。
無線機能は、IEEE 802.11a/b/g/n対応の無線LANとBluetooth 4.0を標準搭載。無線LANに関しては、2x2 MIMOアンテナを搭載しており、安定して高速な通信が可能としている。センサー類は、環境光センサー、加速度センサー、ジャイロスコープ、電子コンパスを搭載する。カメラは、液晶面と背面に搭載しており、双方とも720p撮影に対応。また、背面のカメラは、キックスタンドを開いて置いた状態で正面が撮影できるように、若干角度をつけて取り付けられている。
側面のポート類は、左側面にヘッドフォンジャック、右側面にUSB 2.0ポートとMicro HDMI出力が用意。右側面のキックスタンド内部にmicroSDカードスロットがある。物理ボタンは、左側面のボリュームボタンと、上部側面の電源ボタンのみで、液晶面のWindowsボタンはタッチセンサーとなっている。
左側面および下部側面には電極がみえる。左側面はACアダプタ接続用、下部側面はキーボードカバー接続用の端子だ。キーボードカバーは、上でも紹介したようにマグネットで固定する方式となっているが、ACアダプタのコネクタも、同様にマグネットで固定する方式を採用している。ACアダプタのコネクタ部分の端子は5つあるが、接続の向きは固定されておらず、上下どちら向きに取り付けても問題なく利用できる。また、こちらのマグネットは比較的軽い力で外れるようになっているため、ACアダプタのケーブルを引っ張っても本体が動くことなく外れるようになっている。MacBookシリーズで採用されているMagSafeとほぼ同等の仕様と考えていいだろう。
ACアダプタは、直方体に近いデザインで、まずまずコンパクト。こちらも本体同様デザイン性へのこだわりが感じられる。電源コネクタは収納式となっており、持ち運ぶ場合でも邪魔にならない。ACアダプタの重量は、実測で120gと軽量だ。
●簡単に言語の切り替えが可能
今回入手したSurfaceは、アメリカで販売されているものだ。電源投入直後の初期設定時には英語、スペイン語、フランス語が選択可能となっており、日本語は選べない。この状態でも日本語フォントは導入されており、Internet Explorer 10や、日本語の含まれるファイルを利用する場合でも、表示は全く問題ない。またWindows RTでは、言語パックを自由に導入できるようになっており、日本語言語パックを導入することで、ほぼ完全な日本語化が可能となっている。
日本語言語パックの導入方法は、コントロールパネルの「Language」から日本語を追加して言語パックをダウンロードするとともに、日本語の優先順位を最上位に設定するだけだ。これで、Windows 8スタイルUIや各種メニュー表記もほぼ全て日本語化される。また、日本語IMEも標準で導入され、日本語入力も問題なく行なえるようになる。さらに、Windows RT機に標準でインストールされている「Office 2013 RT Preview」も、標準では英語版が導入されているものの、日本語言語パック導入後にWindows Updateを実行すると、日本語版がダウンロードされ、自動的に日本語版に置き換えられる。
もちろん、日本語以外の言語についても同様の手順で対応できるので、日本語や英語以外の言語で利用したい場合でも全く問題がないと言っていいだろう。
●動作は軽快で、バッテリ駆動時間も長い
Surfaceの動作は、同じくWindows RT機であるNECパーソナルコンピュータの「LaVie Y」同様、思っていた以上に軽快だ。日本語化した後でも動作に全く差は感じられず、Windows 8スタイルUIの操作や各種Microsoftストアアプリの動作、Internet Explorer 10を利用したネットアクセスなど、どれもストレスを感じることなく利用できる。WMV形式やH.264形式のHD動画など、動画ファイルの再生もスムーズだった。動画再生に関しては、Tegra 3の持つ動画再生支援機能が有効に活用されていると言って良さそうだ。動作に関する印象は、LaVie Y同様、かなり好印象である。ちなみに、LaVie Y同様、WinSAT.exeを利用したパフォーマンス測定を行なったので、その結果を掲載しておく。
Surface | LaVie Y | VivoTab RT TF600T | |
CPU LZW圧縮 (MB/sec) | 91.15 | 87.98 | 88.40 |
CPU AES256暗号化 (MB/sec) | 30.61 | 30.18 | 30.17 |
CPU Vista圧縮 (MB/sec) | 218.57 | 212.98 | 214.00 |
CPU SHA1ハッシュ (MB/sec) | 277.5 | 273.86 | 274.94 |
ユニプロセッサ CPU LZW圧縮 (MB/sec) | 23.05 | 22.26 | 22.41 |
ユニプロセッサ CPU AES256暗号化 (MB/sec) | 7.65 | 7.52 | 7.53 |
ユニプロセッサ CPU Vista圧縮 (MB/sec) | 55.22 | 54.45 | 54.79 |
ユニプロセッサ CPU SHA1ハッシュ (MB/sec) | 71.36 | 71.03 | 71.03 |
メモリのパフォーマンス (MB/sec) | 1005.46 | 982.21 | 1049.89 |
Direct 3D Batchのパフォーマンス (F/sec) | 51.56 | 47.46 | 48.81 |
Direct 3D Alpha Blendのパフォーマンス (F/sec) | 45.79 | 50.4 | 49.61 |
Direct 3D ALUのパフォーマンス (F/sec) | 11.08 | 10.98 | n/a |
Direct 3D Texture Loadのパフォーマンス (F/sec) | 7.9 | 7.89 | 9.92 |
Direct 3D Batchのパフォーマンス (F/sec) | 0 | 0 | 0 |
Direct 3D AlphaBlendのパフォーマンス (F/sec) | 0 | 0 | 0 |
Direct 3D ALUのパフォーマンス (F/sec) | 0 | 0 | 0 |
Direct 3D Texture Loadのパフォーマンス (F/sec) | 0 | 0 | 0 |
Direct 3D Geometryのパフォーマンス (F/sec) | 0 | 0 | 0 |
Direct 3D Geometryのパフォーマンス (F/sec) | 0 | 0 | 0 |
Direct 3D constant Bufferのパフォーマンス (F/sec) | 0 | 0 | 0 |
ビデオメモリのスループット (MB/sec) | 1466.67 | 1352.79 | 1467.26 |
メディアファンデーションデコード時間 (sec) | 0.47356 | 0.52038 | 0.48 |
Disk Sequential 64.0 Read (MB/sec) | 34.6 | 35.68 | 45.87 |
Disk Random 16.0 Read (MB/sec) | 20.11 | 17.56 | 21.85 |
また、Surfaceの特徴である、キーボードカバーについても、なかなかいい感じだ。特に、物理キーを持つタイプカバーは、ノートPCのキーボードに近い、かなり快適な入力が可能で、これだけで長文の入力も問題なく行なえる。背面のキックスタンドを開いて机の上に置けば、ほぼノートPC同等の感覚で利用できることも合わせ、これなら取材時の機材としても十分に利用できそうに感じた。
バッテリ駆動時間は、公称では特に数字は公表されていないが、ニューヨークで開催されたイベントでは、HD動画を10時間再生可能と紹介された。バックライト輝度を40%に設定し、無線LAN、Bluetoothともにオンの状態で、Windowsストアアプリ版Internet Explorer 10でYouTube Discoを利用してYouTube動画を連続再生したところ、6時間経過時点でのバッテリ残量は約21%であった。それに対し、同等の設定でWindowsストアアプリ版ムービーアプリを利用してWMV9形式のHD動画(1,280×720ドット、約3Mbps)を連続再生した場合、6時間経過時点でのバッテリ残量は約40%であった。この結果から、HD動画の連続再生であれば10時間は十分に持つものと考えて良さそうだ。ちなみに内蔵バッテリの容量は31.5Whとなっている。
Surfaceに対する印象だが、軽快な動作に加えて、本体、キーボードカバーも含めた優れたデザイン性など、ハードウェアの完成度の高さに非常に大きな魅力を感じる。ただ、本体の完成度は高いものの、できればもう少し本体の軽量化も突き詰めてもらいたかったように思う。上でも紹介しているように、本体のみで680gほど、キーボードカバーも含めると900g弱と、かなり重い。あと100g軽ければ、印象も大きく変わったと思うだけに残念だ。
ただし、LaVie Yの時にも書いたが、いくらハードウェアの完成度が高いからと言って、現時点でSurfaceを手放しでおすすめできるかと言われると、それはかなり難しい。現時点では、Windows RT向けのアプリはそれほど充実していないうえに、一般的なWindows向けソフトも一切利用できないからだ。Office 2013 RTが標準で付属するため、ビジネスシーンでの利用にはある程度対応できるとは思うが、自在なカスタマイズが行なえるレベルには到底到達しておらず、現時点では標準アプリの範囲内での活用が中心とならざるを得ない。加えて、Surfaceには技術基準適合証明マークが記載されておらず、日本国内での利用は難しい。もちろん、正式に日本で販売されることになれば当然解消されるはずだが、海外版を輸入して利用しようと考えている場合には、この点にも要注意だ。
とはいえ、これだけの完成度を誇る製品なので、発売されれば日本でも大いに話題となるはず。また、話題となるような製品が登場しない限り、Windows RTの普及はもちろん、Windows RT向けのアプリの拡充も難しいはず。そういった意味でも、日本マイクロソフトには、なるべく早い段階での投入を検討してもらいたい。
(2012年 11月 12日)
[Text by 平澤 寿康]