レビュー
AMDのミドルレンジGPU「Radeon R9 380X」を試す
(2015/11/19 23:00)
AMDは11月19日、Radeon R9 シリーズの新GPU「Radeon R9 380X」を発表した。今回の発表に先立ち、同GPUを搭載したビデオカードを借用する機会が得られたので、新GPUの性能をベンチマークテストでチェックしてみた。
2,048基のStream Processorを備えるRadeon R9 380X
Radeon R9 380Xは、Graphics Core Next(GCN)アーキテクチャを採用し、28nmプロセスで製造されたGPU。ラインナップ上では、TongaコアベースのRadeon R9 380と、HawaiiコアベースのRadeon R9 390の中間に位置する。
Radeon R9 380XのGPUコアは、32基のCU(Compute Unit)で構成されており、2,048基のStream Processor、128基のテクスチャユニット、32基のROPユニットを備える。AMDのレビュアー向け資料では、Radeon R9 380Xが採用するGPUコアについての情報は明らかにされていないが、スペックから察するに、下位モデルのRadeon R9 380と同じく、Tongaコアをベースにした製品であると思われる。
VRAMには5.7GHz相当で動作する4GBのGDDR5メモリを採用。GPUとVRAMを結ぶメモリインターフェイスは256bit。ビデオカードが消費する電力の指標であるTypical Board Powerは190W。メモリインターフェイスやTypical Board Powerについては、下位モデルのRadeon R9 380と同等の仕様となっている。
Radeon R9 380X | Radeon R9 380 | Radeon R9 390 | |
---|---|---|---|
アーキテクチャ | GCN | GCN(Tonga) | GCN(Hawaii) |
製造プロセス | 28nm | 28nm | 28nm |
GPUクロック(最大) | 970MHz | 970MHz | 1,000MHz |
Stream Processor | 2,048基 | 1,792基 | 2,560基 |
テクスチャユニット | 128基 | 112基 | 160基 |
メモリ容量 | 4GB GDDR5 | 2GB/4GB GDDR5 | 8GB GDDR5 |
メモリクロック | 1,425MHz(5.7GHz相当) | 1,425MHz(5.7GHz相当) | 1,500MHz(6GHz相当) |
メモリインターフェイス | 256bit | 256bit | 512bit |
ROPユニット | 32基 | 32基 | 64基 |
Typical Board Power | 190W | 190W | 275W |
Radeon R9 380Xを搭載するASUS STRIX-R9380X-OC4G-GAMING
今回、Radeon R9 380X搭載ビデオカードとして借用したのは、ASUSの「STRIX-R9380X-OC4G-GAMING」だ。
ASUS STRIX-R9380X-OC4G-GAMINGは、ASUSのゲーマー向けブランド「STRIX」シリーズに属するビデオカード。セミファンレス機能を備えたGPUクーラー「DirectCU II」を搭載し、GPUコアはRadeon R9 380Xのリファレンスクロックである970MHzから1,030MHzまでオーバークロックして搭載されている。
テスト機材
ベンチマークテストの実行環境には、Intel Core i7-6700Kを搭載したIntel Z170環境を用意。また、Radeon R9 380Xの比較用として、Radeon R9 380、Radeon R9 390、Radeon R9 390XのAMD製GPU3製品と、GeForce GTX 960、GeForce GTX 970のNVIDIA製GPU2製品の計5製品を用意した。
GPU | R9 380X/380/390/390X | GTX 960/970 |
---|---|---|
CPU | Core i7-6700K | |
マザーボード | ASUS Z170-A | |
メモリ | DDR4-2133 8GB×2(15-15-15-35、1.20V) | |
ストレージ | 256GB SSD(CFD S6TNHG6Q) | |
電源 | Antec HCP-1200(1,200W 80PLUS GOLD) | |
グラフィックスドライバ | Catalyst 15.11.1Beta | GeForce 358.91 Driver |
OS | Windows 10 Pro 64bit |
なお、比較のために用意した5つのGPUについては、Radeon R9 380Xと同じくASUSのSTRIXシリーズ製品で統一した。
いずれもオーバークロック仕様のビデオカードであり、通常であればリファレンスクロックに調整してベンチマークテストを行なうところだが、同一メーカーの同一シリーズで機材を統一したこと、また、市場に存在するリファレンス仕様の製品の少なさから、今回は借用したASUS STRIXシリーズの製品仕様のままベンチマークテストを行った。各ビデオカードの動作クロックについては以下の表の通り。
GPU | GPUクロック | Boostクロック | メモリクロック | VRAM |
---|---|---|---|---|
R9 380X | 1,030MHz | - | 1.425GHz(5.7GHz相当) | 4GB |
R9 380 | 990MHz | - | 1.375GHz(5.5GHz相当) | 2GB |
R9 390 | 1,050MHz | - | 1.5GHz(6.0GHz相当) | 8GB |
R9 390X | 1,070MHz | - | 1.5GHz(6.0GHz相当) | 8GB |
GTX 960 | 1,228MHz | 1,291MHz | 1.8GHz(7.2GHz相当) | 2GB |
GTX 970 | 1,114MHz | 1,253MHz | 1.75GHz(7.0GHz相当) | 4GB |
ベンチマーク結果
それでは、ベンチマークテストの結果を紹介する。今回実施したベンチマークテストは、3DMark(グラフ1~6)、3DMark11(グラフ7)、The Witcher 3: Wild Hunt(グラフ8)、ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド(グラフ9)、ベンチマーク MHFベンチマーク【大討伐】(グラフ10)。
3DMark Fire Strikeでは、1,920×1,080ドットの無印と2,560×1,440ドットのExtremeにおいて、Radeon R9 380Xが、Radeon R9 380に10%前後、GeForce GTX 960には15~18%程度の差をつけて上回った。この差は3,840×2,160ドットで実行される「Ultra」ではそれぞれ約40%と約70%にまで拡大しているが、これはRadeon R9 380とGeForce GTX 960のVRAMが2GBと、4K解像度の高負荷ベンチマークを実行するには不足していることによる影響が大きい。
一方、上位GPUとの差は下位GPUとの差にくらべ大きく、Radeon R9 380XのスコアはRadeon R9 390には30%前後、GeForce GTX 970には20%前後の差をつけられている。
3DMark11では、Radeon R9 380との差は変わらず10%前後だが、GeForce GTX 960にスコアを逆転されている。逆転されたとは言え、その差は2%程度と僅差であり、ベンチマークテストの得手不得手はあるにせよ、GeForce GTX 960に対して、Radeon R9 380Xは同等以上の性能を持っているという認識で良いだろう。
The Witcher 3: Wild Huntでは、3DMark Fire Strikeでは劣勢だったGeForce GTX 960がRadeon R9 380を僅かに上回るフレームレートを記録しているが、Radeon R9 380Xは、両GPUより10%以上高いフレームレートを記録した。
3,840×2,160ドットの最高描画設定では、メモリ不足でRadeon R9 380とGeForce GTX 960が大きくフレームレートを落としており、相対的にRadeon R9 380Xの優位が拡大しているが、上位GPUを含め、この設定はゲームとしてプレイ可能なフレームレートでは無い。
ファイナルファンタジーXIVでは、1,920×1,080ドットの画面解像度において、Radeon R9 380に対し10%弱の差をつけているRadeon R9 380Xだが、DirectX 11の最高描画設定ではGeForce GTX 960とほぼ同等のスコアとなっている。
ただし、3,840×2,160ドットの画面解像度ではRadeon R9 380XがGeForce GTX 960に20~30%の差をつけて逆転している。メモリ帯域の差が効いているという面もあるが、同画面解像度のDirectX 11の最高描画設定は2GBのVRAMでは不足する傾向がみられ、Radeon R9 380も大きくスコアを落としている。
MHFベンチマークでも、Radeon R9 380XはRadeon R9 380に10%弱の差をつけている。GeForce GTX 960に対しては、1,920×1,080ドットでは約3%の差に留まるが、3,840×2,160ドットでは約15%差に拡大している。モニタリングした限り、このベンチマークではVRAMの不足は確認できておらず、このスコア差の拡大はメモリ帯域などによるものだろう。
最後は各GPU搭載したシステムの消費電力を測定した結果の比較だ。消費電力はサンワサプライのワットチェッカーを使用し、アイドル時と各ベンチマーク実行中の最大消費電力を測定した。
Radeon R9 380Xのアイドル時の消費電力は51Wで、これは比較した6製品の中で3番目に高い結果で、下位のRadeon R9 380の50Wとは1W差。ほぼ同等の結果と言ってよいだろう。一方、GeForce勢はGeForce GTX 960が43W、GeForce GTX 970は47Wをそれぞれ記録している。アイドル時の消費電力についてはGeForce搭載製品の方がやや優位なようだ。
ベンチマーク実行中の消費電力については、Radeon R9 380Xは210~240W前後を記録。これは下位モデルのRadeon R9 380とほぼ同じ結果だ。ベンチマーク時消費電力が100W台に収まっているGeForce GTX 960の電力対性能比には及ばないが、電源ユニットに求められる出力は、それほど大きいわけではないようだ。
Radeon R9 380X
以上の通り、Radeon R9 380Xを搭載したSTRIX-R9380X-OC4G-GAMINGの性能をベンチマークテストでチェックしてみた。Radeon R9 380の上位GPUとして、消費電力の増加は抑えつつ、おおよそ10%程度上回る性能を実現したのがRadeon R9 380Xだ。
この性能向上により、GeForceが得意とするタイトルでも、GeForce GTX 960を上回ることが可能となっており、フルHD(1,920×1,080ドット)を超える画面解像度であれば、256bitのメモリインターフェイスによるメモリ帯域のアドバンテージが効いてくる。さすがに3,840×2,160ドットの4K解像度は厳しいが、フルHDと4Kの中間でゲームを楽しみたいなら魅力的なGPUとなりそうだ。