レビュー

Atom C2750マザー「Supermicro A1SAi-2750F」レビュー

~8コアAtom最上位の性能とサーバーボードの使い勝手を見る

A1SAi-2750F
発売中

実売価格:56,980円

 Supermicroから、Atom C2750を搭載したMini-ITXマザーボード「A1SAi-2750F」が発売となった。実売価格は56,980円だ。Atom最上位モデルをオンボードで搭載するほか、サーバー向けの機能やインターフェイスを充実させている。非常に高価なボードではあるが、今回Supermicroの協力により1枚お借りできたので、Atom C2750の性能検証も含めてレポートをお届けする。

サーバー向けの機能が充実。“自作”の常識を破く実装

 今回はパッケージに入ったモデルではなく、ボード単体の状態で入手した。実際の製品にはSATAケーブルが6本、I/Oシールド、ドライバDVD、マニュアルなどが付属する。

 早速ボード本体を見ていこう。右側上部のヒートシンクの下には、8コアのAtom C2750(2.4GHz、Turbo Boost時2.6GHz)が搭載されている。Atom C2750は、コンシューマ向けのAtom Z3000シリーズのGPUを省いてCPUを4コアから8コアにし、さらにSATAを6ポート、Gigabit Ethernet論理層4ポート分、PCI Expressインターフェイス追加した、サーバー向けのSoCである。

 ヒートシンクを外してみたが、刻印などはされておらず、一見フットプリントが大きいチップセットのように見える。ダイサイズもそれほど大きいという印象はなかった。電源回路は2フェーズのようで、それほど大掛かりではない。消費電力が低いため当たり前だと言える。ただしコンデンサは固体タイプで、信頼性は確保されている。

 ヒートシンクは銅製+ニッケルコーティングされているシンプルなものだが、ずっしりと重い。ファンレス機構でファンも付属していなかったが、エアフローがまったくないケースで動作中の温度を監視する限り46℃を超えることがなく、このあたりはさすがTDP 20Wといった印象である。ケースファンを付ければかなり低温での動作が期待できそうだ。

A1SAi-2750F
本体背面
Atom SoCの電源は2フェーズのようである。またメモリも2フェーズ+2フェーズのように見える
Atom C2750本体。刻印などはされていない
搭載されるヒートシンク
銅製でずっしり重く、加工精度も高い

 Atomの上下にはECC対応のSO-DIMMスロットを2基ずつ計4基装備。コンシューマ向けのMini-ITXフォームファクタと言えばメモリは2枚程度が常識だが、本製品はサーバー向けのため合計4スロットも装備している。

 装着するメモリはECC対応のSO-DIMMのみとされており、ECC非対応メモリは非サポートのようである。今回はSupermicroのご厚意により、ECC対応の4GB SO-DIMMを4枚送っていただいたので、これを装着した状態でテストを行なった。ちなみにこのメモリはMicron製で1.35VのDDR3L-1600対応と、スペック上でもなかなかレアな一品である。

 メモリスロットの上には、メイン用24ピンATXコネクタと、12V4ピンコネクタが見える。PC自作の常識からすれば両方電源に接続すべきところだが、マニュアルをよく読むと、実はどちらか片方だけ装着すれば動作し、両方装着してはならないとされる。というのも、24ピンは一般的なATX電源用だが、4ピンはSupermicroが提供している高密度実装用シャーシに付属する電源専用だからである。

 また同様にSATAコネクタ付近にペリフェラル用4ピンのオスのコネクタが見え、ここも一見電源ケーブルを繋げられそうだが、こちらはマニュアルによるとSATAデバイスへの電源供給を行なうコネクタとされている。つまりペリフェラル4ピンメスからSATA用メスに変換するケーブルがある場合ケース内のケーブル配線の煩雑性を解消するためのものであり、決して電源を接続するためのコネクタではない。

 A1SAi-2750Fに搭載されるCPUはTDPがわずか20WのAtomであり、そのため電源への要求は低い。一般的なPC自作の常識で、出ているコネクタにむやみにケーブルを挿すのではなく、組む際にマニュアルを一読する必要があると言えそうだ。

ATX24ピン電源コネクタと4ピン補助用電源コネクタが見えるが、どちらか片方しか装着しない
今回マザーボードともに提供されたECC対応のDDR3L-1600対応SO-DIMM
メモリをフル実装したところ

実装されているチップやインターフェイス

 電源のコントローラはIntersil製の「ISL95837」で、製品情報によればIMVP-7/VR12準拠のCPUをサポート。VBOOT電圧/IMAX/IMAXなどがプログラマブルとなっており、オーバークロック保護などをサポートする。

 I/Oバックパネル近くのMarvellの「88E1543-LKJ2」は、Marvellの公式ホームページによるとGigabit Ethernetの物理層を担うチップであるようだ。Atom C2750には4ポート分のGigabit Ethernet論理層があるものの物理層がないため、実装されている。

 もう1つ大きな実装面積を占めるASPEEDの「AST2400」は、Atom C2750に搭載されていないビデオ出力機能に加え、後述するサーバーの管理機能を提供するチップである。実はサーバー管理機能を実現するために、単体でも動作するようになっており、400MHz駆動のARM926EJコアを内蔵。管理システムを格納していると見られるMacronix製のNORフラッシュメモリ「MX25L25635FMI-10G」、そしてワーキングメモリ用と見られるWinbondのDDR3メモリ「W631GG6KB-15」も近くに実装されている。

 88E1543-LKJ2の上にはRealtekの「RTL8211E」が搭載されているが、こちらはAST2400による管理用のネットワークコントローラである。こちらの詳細は後述する。

 さらにその上には、ルネサス エレクトロニクス製の4ポートUSB 3.0コントローラ「μPD720201」を搭載。このうち2ポートはバックパネルに用意されるが、1ポートは内部のAコネクタ、もう1ポートは内部のピンヘッダで提供される。ピンヘッダは一般的なUSB 3.0で策定されたものと同じ19ピンタイプで、規格上は2ポート出せることになっているが、本製品はうち1ポートしか出力できないようである。

 バックパネルではこのほかに、シリアルポートを1基、USB 2.0ポートを2基、ミニD-Sub15ピンを1基搭載。DVIやHDMIなどのデジタルディスプレイ出力や音声入出力機能がないのだが、本製品の用途を考えれば妥当なところだろう。

 ストレージインターフェイスはSATA 6Gbpsが2基、SATA 3Gbpsが4基と、1世代前のIntel 7シリーズチップセットを彷彿とさせるものになっている。6Gbpsは白、3Gbpsは黒で色分けされている。また拡張スロットとしてPCI Express x8が用意されている。こちらはRAIDカード用と捉えたほうが良いだろう。このほか、パラレルポート、シリアルポートのオンボードピンヘッダも装備されている。

 ちなみに、以前レビューした「C7Z87-OCE」はなかなか変則的な配線であったが、A1SAi-2750Fはトリッキーな配線が行なわれていない。その一方で部品の実装密度はなかなかのもので配線も細い。これだけ部品が搭載されているならこの値段というのもなんとなく頷けるものである。

IntersilのPWMコントローラ「ISL95837」
Marvellの4ポートGigabit Ethernet物理層「88E1543-LKJ2」
ASPEEDのビデオ出力/マネジメント兼用チップ「AST2400」
Macronix製のNORフラッシュメモリ「MX25L25635FMI-10G」
WinbondのDDR3メモリ「W631GG6KB-15」
ルネサスの4ポートUSB 3.0コントローラ「μPD720201」
ほかにも多くの部品をかなりの密度で実装している
バックパネルのインターフェイス
SATAは6Gbps対応が2基、3Gbps対応が4基

意外と豊富なBIOS設定項目。リモートでも操作可能

 A1SAi-2750Fの電源を投入すると、まずはAST2400の管理用コントローラの起動シーケンスに入り、メモリチェックなどを行なう。このため初回起動では約1分ほど時間がかかる。その後x86側の起動シーケンスに入り、BIOSやOSなどが立ち上がる仕組みとなっている。

 BIOSは起動時にDelキーを押すことで入れる。この辺りは自作PCと同じだ。BIOSの画面は以前レビューした「C7Z87-OCE」と同様CUIベースのもので、マウスなどは利用できない。このあたりはいかにもサーバー向け製品らしい。

 設定できる項目は、サーバー向け製品らしからぬ豊富さで、CPUのCステートの深さやL1/L2キャッシュ利用の有無、Turbo Boost機能のオン/オフなども可能だ。見慣れない項目などもあり、Supermicroらしい、上級者向けの設定への力の入れようがよく分かる。

 ノースブリッジやサウスブリッジの設定(と言っても現在ではサウスブリッジも含めてAtomのSoCでワンパッケージ化されているが)も充実しており、メモリのチャネル数や動作クロック、メモリ電圧に加えて、レガシーUSBデバイスのサポートやUSB 3.0のサポートの有無なども設定可能だ。サーバー向け製品ではほぼ自動で最適な設定がなされることが多いと思うが、この辺りはいかにもSupermicroらしい。

BIOSの画面
ブート時の設定
プロセッサの設定
サーバーボードとしては珍しく、プロセッサの動作倍率上限も設定できる
ノースブリッジの設定
メモリに関する設定が多い
USB関連の設定
SATA関連の設定
PCI関連の設定
シリアルポートの設定
ブート順番の設定

 一般のコンシューマ向けマザーボードでは見られない機能として、IPMI(Intelligent Platform Management Interface)をサポートしている点が挙げられる。これは1998年に策定された仕様で、特定のハードウェアやOSに依存することなくハードウェアを管理する仕組みである。

 本製品に搭載されたAST2400は、ビデオ出力機能以外に、この管理の仕組みを実現するためのチップである。AST2400からRTL8211Eを経由して出力されるGigabit EthernetにIPアドレスを割り当て、IPMI対応のビューワーソフトで接続すると、IPMIを通した電源のオン/オフやリセット、ファンの回転速度やCPUの温度などのモニタリング、そして、いわゆるリモートデスクトップによる管理が可能だ。

 つまり、別途OSが起動するPCがあるのならば、本機だけのために新たにディスプレイやキーボード/マウスを用意せずとも、ネットワーク経由で本機を操作できるのである。

 Supermicroのサイトでは、このIPMIに対応したビューワーソフト「IPMIView」が用意されており、ダウンロードすることで利用できる。このIPMIViewはJava上で実行するプログラムで、拡張子は.jarとなっている。このためWindowsとLinux両方で実行可能だ。Windows版ではJavaが入った状態で「IMIView20.bat」を実行すればソフトが立ち上がる。

 軽く使い方に触れておくと、まず最初に端末として、RTL8211E側のIPアドレスを登録しておく。端末が見つかり、それをダブルクリックするとログイン画面に遷移する。ログインのユーザーIDとパスワードはIPMIView付属のマニュアルに記載されている。それを入力してLoginボタンを押せば、IPMIインターフェイスを利用できるようになる。

 ログインすると、「Event Log」や「Sensors」などのタブが並ぶ。よく使うタブとしては「IPM Device」がある。ここではボードの電源のオン/オフ、リセットなどの操作が行なえる。また、ここにある「Blink UID LED」を押すと、ボード上後部の青色LEDが点滅する。複数管理する際、どのボードが該当しているのか見分けが付かない場合などに利用すると良い。

 一番右側のKVM Consoleが、いわゆるリモートデスクトップである。リモートデスクトップと大きく異る点は、OSが起動する前の段階から操作可能な点、このためWindowsのみならずLinuxなどもそのまま操作可能で、さらにはBIOSの設定などもKVM Console上から行なえる。

ダウンロードしたIPMIViewのフォルダ。IPMIView20.batを実行すると起動する
まずは接続IPアドレスの範囲を設定して検索し、リストに追加する
リストから接続したいIPアドレスを選択し、IDとパスワードを入力して接続
各種センサーの情報もリモートで取得できる
電源のオン/オフの操作も行なえる
KVM Consoleは起動時の画面から映し出され、操作できる
KVM Console上からBIOSを設定しているところ
監視を行ないながら、サーバー上の操作が行なえる

 なお、テスト時にゲーミングマウスを接続して操作していたが、マウスを動かすと画面が止まるという現象が現れた。試行錯誤したところ、マウスのポーリングレートが500Hzだと、マウスポインタ座標の転送に帯域が取られることが分かった。回避方法は簡単で、ポーリングレートを一般的なマウスと同じ125Hzにすれば良い。ゲーミングマウスでサーバーをリモート管理するというのはかなりイレギュラーなケースだと思うが、ここで紹介しておきたい。

 本機はUSB 2.0を2基しか備えていないし、ディスプレイもミニD-Sub15ピンのアナログのみと、スタンドアロンで使うにはやや不便であるが、このようにIPMIによる操作が前提で設計されているわけである。この辺りもサーバー用であることを意識させられる点だ。また、このAST2400側のEthernetポートはOS上からは見えず独立している。本製品を複数枚使ってラックサーバーを構築する際は、4本のGigabit Ethernetで外部へのサービスの提供を行ないつつ、別セグメントでIPMI専用ネットワークを構築し、IPMIViewを利用して複数枚管理することになるだろう。

Atomの性能は同クロックのBulldozer並みか

 最後に、Atom C2750の性能を見るために、SiSoftware SandraとCinebench R11.5によるいくつかのベンチマークを行なった。本製品の拡張スロットはPCI Express x8しかなく、ビデオ機能も貧弱なため、CPU性能を中心に計測した。

 比較用に、クロックを2.4GHzまで落としたCore i7-4770K(Haswellアーキテクチャ)と、同じくクロックを2.4GHzまで落としたFX-9370(Piledriverアーキテクチャ)の結果を掲載した。またCore i7-4770KではTurbo Boostを35倍以下に下げられないため、公正に性能を見るためにCore i7-4770KではTurbo Boost、FX-9370ではTurboCOREをOFFにし、Atom C2750のTurbo BoostをOFFにした状態でも計測した。メモリはいずれもDDR3-1600で、CL9-9-9-27で揃えてある。

SiSoftware SandraAtom C2750Atom C2750@2.4GHzFX-9370@2.4GHzCore i7-4770K@2.4GHz
Dhrystone SSE4.260GIPS55.4GIPS62.85GIPS95.64GIPS
Whetstone SSE4.141.31GFLOPS38.44GFLOPS45.45GFLOPS65.24GFLOPS
Whetstone FP64 SSE4.126.59GFLOPS24.85GFLOPS37.45GFLOPS49.79GFLOPS
Whetstone 倍精度 Native33.14GFLOPS30.91GFLOPS41.24GFLOPS57GFLOPS
MEMORY Interger16.86GB/sec16.85GB/sec17.5GB/sec20.46GB/sec
MEMORY Float16.88GB/sec16.87GB/sec17.5GB/sec20.54GB/sec
Inter-core Bandwidth4.13GB/sec4.18GB/sec9.77GB/sec20.39GB/sec
Inter-core Latency117.9ns123.4ns289.2ns58.9ns
暗号化/復号化3.63GB/sec3.32GB/sec4.15GB/sec6.57GB/sec
ハッシュ処理1.25GB/sec1.14GB/sec1.6GB/sec3.21GB/sec
Cinebench R11.5
CPU3.813.534.165.18

 まずは整数演算のDhrystone SSE4.2だが、Atom C2750のSilvermontアーキテクチャはPiledriverアーキテクチャに似通ったスコアで、ほぼ9割方の性能だ。Piledriverが1世代前のBulldozerの改良型アーキテクチャであるということを踏まえると、Bulldozerに近い性能かもしれない。一方、同クロックのHaswellと比較すると6割未満の性能であり、同じプロセスルールであることを踏まえると、設計思想が異なることが分かる。

 これはメモリ帯域にも共通して言えることで、同じくDDR3-1600で動作するHaswellと比較すると約3.6GB/sec分少ない。ただしHaswellのメモリコントローラ自体Silvermontより高クロックで動作している可能性がある上、今回はリングバスの倍率を引き下げていないので、その差が現れている可能性はある。

 コア間のバス幅はPiledriverの半分未満、Haswellの5分の1と言ったところだ。ただしPiledriverはその分レイテンシが長い。一方HaswellはそもそもHyper-Threadingによる仮想8コアなので、実質コアを共有する2スレッド間で帯域幅が広くレイテンシが少ないのは当然だと言える。

 AES命令セットに対応しているため、暗号化/復号化処理も比較的高速。またCinebench R11.5の結果も、ほぼSandraのCPU演算ベンチマークの結果に準じるものとなっている。

 今回80PLUSの80W電源を使い、Cinebench R11.5ベンチマーク中の消費電力を見たところ、最大35Wだった。これは一般的なデスクトップシステムのアイドル時消費電力よりも低く、非常に省電力であることが分かる。なお、先述の通り電源オフ時もIPMI関連のシステムが動作しているため、4Wほど消費する。

高密度サーバー向け製品だが、個人用としてもユニーク

 電源コネクタがやや特殊なことから、ECCメモリが必須で4枚まで搭載できる点、IPMIによる管理が前提な点、ビデオコントローラが2D機能しか備えていない点、そしてTDP 20Wながら8コアでそこそこの性能を備えるAtom C2750を搭載している点などから分かるように、本製品はれっきとしたサーバー向け製品だ。それも演算性能を追求するようなサーバーではなく、低消費電力でも、ある程度のワークロードやネットワークトラフィックに耐えなければならない静的Webコンテンツを収容するサーバー向けだと言えるだろう。

 しかし本製品がユニークなところは、サーバーにありがちな大型フォームファクタや専用フォームファクタではなく、Mini-ITXフォームファクタを採用し、ちょっと自作に詳しい個人ユーザーでもサーバーシステムを構築できる点だ。24時間稼働する自宅サーバーを構築するようなユーザーや、サーバーの構築について勉強しようとしているユーザーにとって、なかなか面白い選択肢になるだろう。

 そして何よりもAtom C2750は、現在入手できるAtomのうちの最上位であり、“省電力ながらリアル8コアを搭載している”点がユニーク。各部の仕上がりや部品の実装密度も随一であり、やや値は張るものの、他人とは異なるパーツで組みたいといったPC自作上級者にもぜひ手に取ってもらいたい製品である。

(劉 尭)