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M.2 SSDが6台組み込める小型マザー「AD650I」で超小型ファイルサーバーPCを作ってみよう!
2023年11月21日 06:04
MINISFORUMが先日発売した「AD650I」は、コンパクトなMini-ITX対応マザーボードながら、なんと6台ものM.2 SSDを組み込める。このニュースを見てまず筆者が思ったのは、「これがあれば今までの概念を打ち破る『最新型のファイルサーバーPC』が作れるのでは?」ということだった。
そこで今回はこのAD650Iをベースに、コツコツ買いためた(?)2TBの私物SSDを6台組み合わせ、大容量ながらも超コンパクト、そして静かに動作するという常識外れのファイルサーバーPCを作ってみよう。
マザーボードはもちろんPCケースもMini-ITX対応だ
ファイルサーバーPCとは、ストレージ(ほとんどの場合は3.5インチHDD)をたくさん組み込んで、大容量ファイルをたくさん保存できるようにしたPCである。以降はサーバーPCと記述する。LANを経由して複数台のPCからアクセスし、複数人でファイルを共有する時に便利なPCだ。
こうした構成や用途から、タワー型のデカい筐体を採用することが多い。また組み込んだストレージをしっかり冷却しなければならないため、ケースファンによる動作音も大きめだ。そういった特性から、サーバーPCは普段作業している場所とは違う場所に置いているというユーザーも多いだろう。筆者もその1人である。
しかしAD650Iを使えば、こうしたサーバーPCの難点をいくつか解消できそうだ。AD650Iではデータドライブ用のストレージとしてM.2 SSDを使うので、3.5インチシャドウベイが必要ない。AD650IのフォームファクタとマッチしたMini-ITX対応の小型なPCケースが選べるので、PCのサイズも劇的に小さくできるだろう。
また3.5インチHDDは、ディスクの回転音をはじめとする動作音が気になる。しかしM.2 SSDには物理的に動く部分がないので、そうした動作音自体がない。今までの常識を覆す、まったく新しいサーバーPCを作れるのではないかという予感があった。
ここからは、今回の構成パーツを簡単に紹介していこう。
マザーボード
マザーボードは、先ほども紹介したMINISFORUMのAD650I。一般的な自作PC用マザーボードとは異なり、最初からIntelのノートPC向けCPU「Core i7-12650H」や冷却用のCPUクーラーが搭載済みの状態だ。細かい特徴は以下の記事を参照してほしい。
ACアダプタ
AD650IではCPUやCPUクーラーが搭載済みなので、あとはメモリとストレージを用意すればPCとして利用できるようになる。ただ一般的なMini-ITX対応マザーボードと異なり、電源はACアダプタが必要だ。スペック欄を見るとコネクタ部分の外径が5.5mm、内径2.5mmで、180W(19V/1.47A)までの出力に対応するACアダプタが必要になるようだ。
コネクタはちょっと古めのASUSやMSIのゲーミングノートPC用のACアダプタと同じサイズなので、今回はAmazon.co.jpで販売されていた、出力が180Wの互換ACアダプタを購入した。マザーボードに記載されている極性もマッチしており、今回のテストでも問題なく動作した。
ストレージ
ストレージは、システムドライブとして使う2.5インチSSDと、6台のM.2 SSDを用意した。最初はM.2 SSDの1台をシステムドライブとして利用する予定だったが、後述するPCケースが2.5インチベイを搭載できるタイプなので、どうせなら6台のM.2 SSDはすべてデータドライブとして利用しよう。
システムドライブとして使う2.5インチSSDは、パーツ収納庫にあったSamsungの「860 EVO」の500GBモデル。M.2 SSDはSamsungの「980 PRO」が2台、Hanyeの「HE71」が1台、Western Digitalの「SanDisk Extreme Pro M.2 NVMe 3D SSD」が2台、ADATAの「XPG SX8100 PCIe Gen3x4 M.2 2280」が1台で、すべて2TBモデルとなる。
用意したM.2 SSDは、980 PROとHE71がPCI Express 4.0対応モデルで、それ以外の3台がPCI Express 3.0対応モデルだ。AD650Iが搭載するM.2スロットはPCI Express 3.0までの対応なので、帯域的には問題にならないだろう。ちなみにサーバーPCに組み込むストレージは、後述するRAIDで利用することを考えると同じ型番が望ましいが、今回はテスト目的なので目をつぶってほしい。
PCケース
PCケースは、Amazon.co.jpで購入したSGPCのMini-ITX対応ケース「K29」。今回の構成では電源ユニットを組み込む必要がないので、なるべく小さくてサーバーPCらしくないものを選んだ。Amazon.co.jpでは、一般的なパーツメーカーにはないユニークな構造のMini-ITX対応PCケースがたくさんあって、一度試してみたかったというのもある。
メモリ
メモリは、8GBのPC4-25600対応のSO-DIMMメモリを2枚組み合わせたG.Skillの「F4-3200C18D-16GRS」だ。ファイルサーバーPCなので容量はそれほど必要はなく、合計16GBもあれば問題なく動作する。
組み込みは非常に簡単。サーバーのOSはWindows 11 Proを使う
AD650IにM.2 SSDを設置する場合は、マザーボード表面と裏面のヒートシンクを外す必要があり、固定ネジの着脱のために軸が細い精密ネジが必要。組み込み作業自体は、マザーボードや2.5インチSSDをPCケースに固定するだけなので簡単だ。
OSはWindows 11 Proを選択した。サーバーPCとして利用する場合、フリーのNAS用OSを使う手もある。ただシンプルにファイル共有で利用するなら、扱いやすいWindows 11でもまったく問題ない。このWindows 11はシステムドライブとして利用する2.5インチSSDにインストールし、6台のM.2 SSDはすべてデータドライブとして利用する。
Windows 11のインストールや各種デバイスドライバのインストールが終わったら、まずはスタートボタンの右クリックメニューから「ディスクの管理」をクリックしよう。するとディスクの管理画面が表示される。そこには、今回組み込んだ2TBのM.2 SSDが「ディスク 1~6」として認識されているはずだ。まずは1台のM.2 SSDをWindows 11に登録してみよう。
データドライブを登録したら、そのドライブ内に共有フォルダを作ろう。まずは普通にフォルダを作ったら、フォルダの右クリックメニューから「プロパティ」を開き、「共有」タブから「詳細な共有」ボタンを押してフォルダの共有ルールについて設定していく。ここでは、Windows 11 HomeとProの両方で利用できるシンプルな共有フォルダ設定を紹介しよう。
これでサーバーPCに共有フォルダが作成された。次に、LANで接続された別のPCからサーバーPCにアクセスし、共有フォルダ内にファイルを保存したり、ファイルを読み出したりするための方法を紹介する。
エクスプローラーを起動したら、左にあるナビゲーションウィンドウの一番下、「ネットワーク」をクリックする。すると現在利用中のPCと同じLANに接続されているデバイスが表示されるので、先ほどのサーバーPCのデバイス名をダブルクリックし、サーバーPCに設定しているサインインアカウントでサインインすると、先ほど設定した共有フォルダが表示されるはずだ。
とりあえずこれで、共有フォルダにほかのPCからアクセスできるようになったはずだ。こうした共有フォルダのショートカットをデスクトップに作ったり、共有フォルダ自体をクイックアクセスに登録したりすれば、より使いやすくなるだろう。
RAIDを利用して大容量のドライブを作ってみる
ただ、今回のテーマ的にはここで終わるわけにはいかない。ここからは、6台のM.2 SSDをまとめて1つの大容量ストレージとして扱う方法を紹介していこう。具体的には「RAID」という仕組みを利用する。
Windows 11 Proでは、複数のドライブをまとめて扱うRAID設定について、RAID 0(ストライピング)、RAID 1(ミラーリング)、RAID 5(分散パリティ)という3つの設定が利用できる。まずはこれらの特徴を簡単に紹介しよう。
RAID 0では、複数のストレージをまとめて1つのドライブにできる。ファイルの書き込みは、RAID 0のドライブを構成するストレージに対して分散して同時に行なわれる。読み出す際にも各ストレージに対して同時にアクセスするため、リード/ライト性能は大きく向上する。
また容量は組み合わせたストレージの最大容量が利用でき、今回の場合は2TB×6で12TBのドライブを作れる。ただしRAID 0を構成するストレージが1つでも故障すると、保存されているファイルはすべて読み出せなくなる。
RAID 1でも複数のストレージをまとめて1つのドライブにできるが、RAID 0とは異なりそれぞれのストレージに同じファイルを書き込む。こうした挙動のため、RAID 1を構成するストレージの片方が故障しても、ファイルは普通に読み出せる。Windows 11 Proでは2台1組までの構成に対応しており、2TBのドライブを3台作れるため、合計で6TBのファイルを保存できる。
RAID 5では、ドライブを構成する各ストレージのいずれかが故障しても復旧できるよう、「パリティ」というデータを各ストレージに保存する。そのため最低3台のストレージが必要になり、1台のストレージが故障しても、RAID 5設定のドライブを回復してファイルを復旧できる。
ファイルは各ストレージに分散して書き込まれるため、RAID 0と同じようにリード性能は高い。ただしパリティ計算の関係でライト性能は大きく低下する。またパリティデータ用に1台分の容量が必要になるため、今回の場合は容量が10TBのドライブが作れる。
1台で大容量ドライブを作れるというメリットを考えると、RAID 0かRAID 5が適切だが、M.2 SSDドライブの容量を十分に生かすことを考えて、今回はRAID 0を選択した。故障によってファイルが失われることを防ぎ、連続的な運用性を重視する一般的なサーバーPCではRAID 5が利用されることが多いが、筆者の環境ではもう1台「サーバーPCをバックアップするPC」も用意しているので、今回は容量重視の方向で運用することにする。
ここからは、このRAID 0設定でのドライブを作成する方法を紹介しよう。スタートボタンの右クリックメニューから「ディスクの管理」を呼び出すのは先ほど紹介したドライブの登録時と同じだ。ストレージの右クリックメニューから「新しいストライプボリューム」をクリックすると、RAID 0設定のドライブを作るウィザードが開始される。
共有フォルダの性能はいかに。そしてM.2 SSDの温度は?
RAID 0構成のドライブでは、ストレージすべてに同時にアクセスしてファイルを読み書きできる。そのためリード/ライト速度がかなり速くなるのでは、と期待をしている人も多いだろう。実際に1台、2台、4台、6台のRAID 0設定でCrystalDiskMarkを実行し、そのシーケンシャルリード/ライト性能を比較したのが下のグラフだ。
順当に考えれば、2台なら1台の時の2倍、4台なら4倍、6台なら6倍になりそうなものだが、実際のところはそこまでリニアに性能は向上しない。M.2スロットを増設するための変換チップや、ファイルをやりとりする通信帯域の問題があると思われる。
それに、そもそもサーバーPCでは本体のシーケンシャルリード/ライト性能はあまり重要ではない。というのも、LANを通じてファイル共有を行なうほかのPCから見た場合、そうしたストレージの性能はLANの通信速度が上限になってしまうからだ。
下のグラフは、実際にLAN経由でほかのPCからサーバーPCにアクセスし、共有フォルダのシーケンシャルリード/ライト性能を計測したものだ。LANの環境はGigabit Ethernetと2.5Gigabit Ethernetの有線LAN、Wi-Fi 6となる。
グラフのバーの長さではなく数値を見てもらうと分かるが、ほかのPCからLAN経由でアクセスする場合、M.2 SSDが1台構成の時の速度にもまったく追いつかないことが分かる。もちろん10Gigabit Ethernetなど、より高速なLAN環境がより安価に利用できるようになれば話は別だが、現状ではなかなか厳しい。
ただ、だからといって3.5インチHDDを利用する旧来のサーバーPCと比べて違いがないというわけではない。冒頭でも紹介したような大型のPCケースを用意する必要がなくなるし、ランダムアクセスについてはM.2 SSDのほうが圧倒的に有利だ。
たとえば数百枚単位の写真データを保存したフォルダを開いてサムネイルを表示する場合、旧来のサーバーPCではノロノロジワジワとサムネイルを表示する。しかし今回作成したM.2 SSDを利用するサーバーPCではタイムラグを感じることなく、パッと開けることが多い。扱うファイルにもよるが、こうしたメリットもある。
長く続いたこの検証もいよいよ最後。運用中のM.2 SSDの温度についても調べていこう。M.2 SSDは転送速度が速いが、発熱も大きい傾向がある。特に今回組み合わせたSamsungの「980 PRO」、そしてWestern Digitalの「SanDisk Extreme Pro M.2 NVMe 3D SSD」は、ヒートシンクなしでの利用は難しいといわれるモデルだ。実際の運用中の温度が気になる人は多いだろう。
AD650Iではマザーボード表面と裏面にヒートシンクを備えるが、特に裏面のヒートシンクはちょっと厚めの金属プレートなので少々不安はあった。ただし今回の膨大なベンチマークテストや、高負荷時を想定したPCMark 10のストレージテストを終えたあとの980 PROやSanDisk Extreme Pro M.2 NVMe 3D SSDの温度は60~65℃。予想よりもちゃんと冷えているという印象だ。ベンチマークテストなどを行なわないアイドル時はどちらも40~42℃だった。
サーバーPCでは、今回行なったベンチマークテストのように長時間ドライブにアクセスし続ける状況になることは少ないため、基本的には問題はないだろう。ただ、ベンチマークテストが終わっても温度が下がりにくいということはあった。こうした不安を解消するためにファンを追加したいところだが、今回のケースは小さすぎるため、通常の手段ではケースファンを追加できない。
こういうときに筆者がよく使うのが、ファンを磁石で固定できるマウンタキットだ。今回は長尾製作所の「ショートファンステイ 強力磁石式 SS-NFSTY-SMG」を使った。ファンステイの底面に磁石が組み込まれており、スチール製のフレームを採用するPCケースなら好きな場所にファンを追加して冷却を強化できる。
ちょうど電源ユニット用のエリアに9cm角ファンを取り付けられるだけのスペースがあったので、吸気方向で取り付けた。スリットが設けられた天板から外気を取り込み、マザーボード裏面にも外気を流すようなイメージである。そしてこうしたファンを追加して風の流れを作ることで、M.2 SSDの温度は下がりやすくなる。
実際の状況をファンの有無で比較したのが下のグラフだ。検証したのは6台のM.2 SSDをRAID 0設定で1つのドライブとしてまとめた時の状況で、温度変化の状況を分かりやすくするために一番コントローラ部分の温度が高かった980 PROの数値のみを比較している。2台の980 PROは、マザーボード裏面のM.2スロットに組み込んだSSDの状況を確かめたかったので裏面に取り付けている。
高負荷時を想定したPCMark 10のストレージテスト中の最高温度は、980 PROで60℃。グラフには掲載していないが表面のM.2スロットに取り付けたSanDisk Extreme Pro M.2 NVMe 3D SSDは58℃だった。またベンチマークテストが終了してから5分後にはアイドル時とほぼ同じ温度まで低下しており、ケースファンを追加することでSSDの冷却を強化できることが分かる。
今回は詳しくは紹介しないが、UEFIの設定画面からこうしたケースファンやCPUファンの回転数を調整する機能もある。必要に応じて調整するのもよいだろう。
欠点を大きく上回る利点あり、個人的にも買いたい……
検証部分でも述べた通り、LANに接続するインターフェイスがボトルネックになっているのは事実だが、個人的には「それはそれ」だ。仮に5Gigabit Ethernetや10Gigabit Ethernet環境が広く普及しているなら欠点になり得るが、現状では仕方がない。
またそうした高速LANインターフェイスを載せ、マザーボードが5万円高くなることを望むユーザーは少ないだろう。PCI Express拡張スロットを搭載し、こうした部分をユーザー側で改良できるようにすると、より使いやすくなるかもしれない。
ACアダプタを自分で用意しなければならないこと、また大容量のM.2 SSDを複数台用意するにはそれなりのコストがかかることは難点ではあるが、利点はそれを大きく上回るように思う。AD650Iが、サーバーPCの新しいスタイルを切り開くことは間違いない。
今回はメーカーからの借用品を使ったが、AD650Iは個人的にも非常に欲しくなったため、直販サイトのカートに出し入れしながら迷っているところである。筆者は自他ともに認めるMini-ITXフォームファクタのマニアであり、そうであるなら当然買うべきという声も響いてくる……。