レビュー

Optane Memoryのちょい足しで大容量HDDからゲームが高速起動

~Core i+搭載マシンはゲーマーの福音となるか?

 ゲーミングPCで大事なのは、1にも2にもゲーム画面の描画性能。だが、その次くらいにストレージの容量とスペックが大事だ。今やOSやゲームはSSDにインストールするのが定石。HDDにゲームを入れてしまうと、ゲームのたびに読み込み待ち時間でストレスをためることになる。

 しかし、最近はゲームの大容量化が激しく、すべてのゲームをSSDに入れるのは難しいこともある。とくに有名メーカーのAAAタイトルともなれば、10GBどころか、50GBオーバーもめずらしくない。下手をすれば100GB超えだってある。SSD(Cドライブ)が250GBクラスのSSDだと、数本ゲームを導入しただけで容量が危険水域に達するのだ。今や、多くのPCゲーマーがSSDの容量不足という壁にぶつかっているはずだ。

R6Sは65GBオーバー。肥大化するゲームにどう対処する?

 ストレージを消費するのはゲームだけではない。たとえば写真などのデータの置き場所を確保したいだとか、ゲームの実況動画を高画質で録りたいといったニーズもある。そうなるとSSDは500GBクラスでも不足気味だ。これに対処するにはストレージの増設が基本だが、テラバイト級の容量を確保したいときはどうすればよいだろうか?

容量がそれほど大きくないSSDをCドライブにセットすると、あっという間に容量が足りなくなる。図は容量240GBのSSDにPUBGやR6Sなど、筆者お気に入りのゲームを数本入れたら、ドライブ残量がレッドゾーンに突入した状態
今時のゲームはサイズが大きい。左は「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(PUBG)」、右は「Rainbow Six: Siege(R6S)」のインストール時のサイズ。とくに登場キャラの多いR6Sは65GBを超えていた
8月10日にサービスインしたばかりのPC版「Monster Hunter: World」のサイズは約17GB。これでも最新AAAタイトルのわりに容量はおとなしめだ

Optane MemoryをHDDのキャッシュとして使う

 そこで登場するのが、Intelの「Optane Memory」を利用した大容量かつ高速なストレージシステムだ。Optane Memoryについては当サイトでもレビュー(Intel Optane メモリーは、HDDキャッシュとしてどれだけ有用か)があるが、要は超高速かつ大容量のSSDをHDDのキャッシュとして使うというもの。類似の技術はSandy Bridgeの昔から存在するが、Optane Memoryは高耐久かつ高速な不揮発性メモリ「3D XPoint」を利用しているため、NANDタイプのSSDよりも安心して長期運用できる。

 Optane Memoryを利用するにはいくつかの条件があるが、Optane Memoryを対応CPUとセットで提供するのがIntelの“Core i+”プラットフォーム。今回試用したLevel∞(iiyama PC)の「LEVEL-R03A-i7P-RNR」もこのプラットフォームをベースに構成されたコスパ重視のゲーミングPCだが、市販のCore i+版CPUと違い、Optane Memoryの容量が2倍の32GB版に変更されているのだ。

 今回は冒頭で述べたゲーマーを悩ませるストレージ問題が、LEVEL-R03A-i7P-RNRのOptane MemoryとHDDの組み合わせによってどれだけ快適になるかを検証するとしよう。

「Core i+」は第8世代CoreシリーズのリリースとともにIntelが立ち上げたプラットフォームで、第8世代のCore i7やi5にOptane Memoryを組み合わせたもの。このロゴが付けられたPCではOptane Memoryによってシステム性能が引き上げられている。Level∞を販売するパソコン工房では、Core i+搭載パソコンを一覧できるページを用意している
OS起動用に240GBのSSD、データ用に2TB HDDと32GBのOptaneを組み合わせた高速ストレージを備えたLevel∞のゲーミングPC「LEVEL-R03A-i7P-RNR」。同社の直販サイトにおいて169,980円(税別)で販売されている
【表1】LEVEL-R03A-i7P-RNR のおもな仕様
CPUCore i7-8700(3.2GHz)
チップセットIntel Z370
ビデオカードGeForce GTX 1060 6GB GDDR5
メモリ8GB×2 DDR4-2666
SSD240GB Serial ATA
HDD2TB 3.5インチSerial ATA
キャッシュ用SSD32GB(Intel Optane Memory)
光学ドライブDVDスーパーマルチドライブ
電源500W ATX(80PLUS Bronze)
OSWindows 10 Home 64bit
税別価格169,980円

LEVEL-R03A-i7P-RNRの各部をチェック

 まずはLEVEL-R03A-i7P-RNRを外見から中へ向けてチェックしていきたい。CPUは6コア12スレッドの「Core i7-8700」、16GBのDDR4メモリ、USB Type-C(10Gbps)などに対応したZ370マザーといった定番の組み合わせだ。

 今回のレビューのキモと言えるストレージは、Cドライブが240GBのSATA SSD、Dドライブは2TBのHDDだが、32GBのOptane Memoryを使って高速化されている。Optane MemoryはCドライブしか高速化できないのでは? と思うかもしれないが、Cドライブ以外にも適用できる。つまり、安定してHDDよりも高速なSATA SSDが1基、キャッシュの有効な範囲内ではあるが、瞬間的にはSATA SSD以上のスピードが出せるOptane MemoryでブーストされたHDDが1基という構成になる。

赤のアクセントカラーが印象的なフロントパネル
背面のポート配置はごく一般的なもの。最上部の水色のUSB端子は10GbpsのUSB 3.1、その脇にはType-Cコネクタも見える
ゲームもダウンロード版主体の時代に光学ドライブは無用では……と思うかもしれないが、バックアップや環境の復旧時など意外と助かるものだ
内部の構成はいたってスタンダード。中身の見えないPCケースだが、ちゃんと電源やSATAのケーブルも黒で統一されていてスッキリとまとまっている
CPUはOC非対応のCore i7-8700。クロック設定は8700Kよりも控えめだが、ゲーム向きの6コア12スレッドCPUとしては合理的なチョイスだ。CPUクーラーは価格重視で高負荷時の音も大きめなので、常時フル回転させたければBTOで簡易水冷ユニットを選ぶのがお勧めだ
ビデオカードはMSI製のGeForce GTX 1060カードが組み込まれていた。フルHD解像度なら大抵のゲームは快適に楽しめるだろう
ストレージはOSが240GBのSSD(Intel製)、それとは別に2TBのHDD(Seagate製)が搭載されていた。やや容量控えめのSSDと大容量HDDの組み合わせは定番中の定番だが、ここにOptane Memoryを足すことで、HDD側を高速化しているのがLEVEL-R03A-i7P-RNRの強みだ
Optane MemoryはCPUソケットすぐ脇のM.2スロットに装着されていた。PCI Express 3.0 x2でCPUに直結されていてSATA接続のSSDよりはるかに高速だが、キャッシュ用ということで容量は32GBと少ない
プリインストールされているiRST用の設定ツールを起動すると、2TBのHDDと32GBのOptane Memory(どちらも実容量は若干減っている)が組み合わせられていることが右上に示されている。ちなみにこれを解除することもできるが、戻すときにHDDの全データを消さなければならなくなったので、あまりお勧めはできない

ゲームの読み込み待ち時間はどの程度変わる?

 それではLEVEL-R03A-i7P-RNRに何本かゲームをインストールし、そのインストール先が「SSD」、「Optane Memory+HDD」、「HDD」の場合でゲームの読み込み待ち時間はどう変化するかを検証してみたい。

 その前に確認しておくと、Optane MemoryはNVMe SSDであるとはいえ、容量たかだか32GBのキャッシュである。純然たるSSDであるCドライブにゲームもインストールするのが理想的だ。ただし、前述のとおりCドライブは容量不足に陥りやすい。Optane Memory+HDDがCドライブのSSDに近い性能を発揮してくれるなら、SSDが苦しくなってきたらOptane+HDD側にゲーム本体を移す、あるいは最初からそっちにインストールするという運用を知っておく必要があるだろう。ちなみにSteamのゲームは設定や進行状況をリセットすることなく、簡単にインストールドライブを移行できる。その方法は本稿の末尾に記しておくので参考にしてほしい。

まずは各ストレージ単体の性能をチェック

 ゲームを使ったテストを実施する前に、各ドライブの読み書き性能がどの程度か知っておかないと、正しい評価は下せない。そこで「CrystalDiskMark」を用い、ざっくりと読み書き性能を計測してみた。計測条件はデフォルトの1GiB、5回テストである。

LEVEL-R03A-i7P-RNRに搭載されていた240GBのSSDの読み書き性能
LEVEL-R03A-i7P-RNRに搭載されていたOptane Memoryで高速化された2TBのHDDの読み書き性能
LEVEL-R03A-i7P-RNRに搭載されていたOptane Memoryのキャッシュ機能を無効化し、純粋なHDDとして運用したときの読み書き性能

 まずSSDの性能、とくにシーケンシャルリード性能はSATAの限界値と言ってよい。そしてOptane Memory+HDDの読み書き性能は、リードが1.4GB/sを超え、Optaneと同じく3D XPointをベースにしたOptane SSDの性能とほぼ同等、だがシーケンシャルライトは今時のSATA SSDよりだいぶ遅い。これはOptane Memoryの容量が32GBなのが原因だろう。

 つまり、大容量データを書き込む際の性能はSSDより遅いことがあるが、一度キャッシュに入ったデータを読み出すだけの状況になったら、性能が期待できる。もちろんデータがキャッシュから追い出されたら再び遅くなるのは原理的に避けられないが、経験上、ゲームなら数回起動→終了でまたキャッシュに入ってくる感じだ。

最新ゲームの起動がSSD並みに!

 では検証方法の解説に入ろう。今回は「PUBG」、「R6S」、「Fortnite」、そして「MHW」の合計4つのゲームタイトルを準備。各ゲームをCドライブ(SSD)、Dドライブ(Optane Memory+HDD)、そしてOptane Memoryを解除したHDD単体にそれぞれインストールし、デスクトップ上のショートカットを“開く”した瞬間から、各ゲームそれぞれに設定した画面に遷移するまでの時間をストップウォッチで計測した。起動時に表示されるクレジットやムービーなどは、すべてキーやマウスボタン連打で最速でスキップすることとした。

 この手のテストの場合、得られた結果には必ずブレがあるので、それぞれ5回計測し最大値と最小値を除去した中央3つの値の平均値を求めた。1回計測するたびにPCを再起動し、メモリにゲームのデータがキャッシュされないようにした。

 まずは「Rainbow Six: Siege」だ。メインメニューが出るまでの時間を比較する。

「Rainbow Six: Siege」の起動時間

 この時点でOptane Memory+HDDの有⽤性は明らかだ。OptaneMemory+HDD内にゲームをインストールしてもSSDとOptane Memory+HDDがほぼ同着、その10秒以上あとにHDDの起動処理が終了する。R6Sはインストール容量が大きく起動時間もとにかく長いという、(PC的には)ストレスフルな設計であるため、Optane Memory+HDDに導入するのはCドライブ容量と起動時間の両方をセーブできる妙案と言えるだろう。

 続いては「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」だ。メニュー画面にプレイヤーの姿が表示されるまでの時間を計測している。

「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」の起動時間

 こうしていろいろなゲームを横並びにすると、PUBGの起動時間はかなり短い。そのためHDDだけでも待ち時間は短めだが、Optane Memory+HDDにすればさらに短くできるのだ。

 次は「Fortnite」だ。起動中に出現するゲームのモードを選択するシーンは、マウス連打で最短時間でスキップしている。

「Fortnite」の起動時間

 ここではSSDがダントツで早く、その後にOptane Memory+HDDが続くがその差は小さい。そしてHDD単体に対してはOptane Memory+HDDは十分アドバンテージがある。

 ただ、ここまでの結果を眺めて気が付いたと思うが、ゲームの起動時間はHDD単体よりSSDやOptane Memory+HDDで短縮されるが、そう劇的に短縮されるわけではない。せいぜい10秒(これでも十分長いが)といったところだ。とくに最近のゲームは起動時にDLCの確認やゲーム独自のネットワークへのログインプロセスなどがあるものが多く、ストレージの性能以外でも時間を取られているようだ。

 残った「Monster Hunter: World」についても同じテストを実施したが、このゲームではさらに集会エリア作成~自キャラが実際に画面に表示されるまでの時間も計測してみた。

「Monster Hunter: World」の起動時間
「Monster Hunter: World」で集会エリア作成〜自キャラがマップ上に出現するまでの時間

 起動時間については、これまでに検証してきたゲームと同じ傾向にあることが確認できた。ただ2つ目のテストに関しては、SSDよりもOptane Memory+HDDが1秒下回った点に注目したい。Optane Memoryのリード性能がSATA SSDのそれより高いため、キャッシュにすっぽり入っている状況なら効果がより期待できるということだろう。

SSD増量もよいが、データドライブにOptane Memory+HDDを選ぶのもアリ!

 Optane MemoryにはOSや対応CPU・マザーボードの条件があって、PCの技術動向にうとい人にとってはややハードルの高いテクノロジーだが、メーカー製PCにセットアップ済みであればじつに簡単に使える。

 今回テストしたLEVEL-R03A-i7P-RNRは、安易にOptane Memory+HDDを起動ドライブにせず、安定して速いSSDを起動ドライブにして、Optane Memoryをデータドライブの高速化に使うことで、全体的な快適さを確保しつつ、容量と性能のバランスを見事に取った製品であると言える。BTOによってビデオカードなどの変更にも対応しており、いろんなゲームをプレイしたいゲーマーにはとくにオススメしたい。

Steamでは再インストール不要でゲームを移動可能

 最後に、CドライブにインストールしてあったSteamのゲームを、Dドライブ(本稿ではこれがOptane+HDDのドライブレター)に移す手順を紹介しておこう。今回の検証でも、このSteamライブラリフォルダ移動テクニックを利用しながら進めている。

Steamライブラリフォルダの移動手順
まずはSteamのメニューから「設定」を選択する。左の「ダウンロード」をクリックして開き、一番上に出てくる「STEAMライブラリフォルダ」と書かれた部分をクリックしよう。Steamのゲームはライブラリフォルダに保存されるからだ
これが普通にセットアップしたSteamの状態。C:Program Files (x86)Steamフォルダ(パスの区切りが「¥」ではなく本来のバックスラッシュ表記になっている)。ここで「ライブラリフォルダを追加」をクリックしよう
ファイル選択のダイアログが出現するので、上部のポップアップからDドライブを選び、適当なフォルダを作って(図ではGames)それを“選択”しよう
指定が成功するとこのような感じになる。この時点で筆者のCドライブの空き容量は11GB程度。もう限界だ
次にインストール先を移動させたいゲームをSteamのブラウザの上で右クリック→プロパティを選択。「ローカルファイル」タブを開き、一番下の「インストールフォルダの移動」をクリックする
Steamライブラリフォルダを複数設けている場合は、このウィンドウで移動先を指定できる。逆にHDD側からSSD側に戻すときは、ここで移動先のフォルダを選択すればよいのだ
編集協力:Intel