レビュー

安価にMini-ITXで8コア16スレッドの夢を叶える「BIOSTAR X370GTN」を試す

X370GTN

 株式会社アユートから、BIOSTAR製のRyzen対応Mini-ITXマザーボード「X370GTN」が発売された。実売価格は15,000円前後だ。今回アユートのご協力により1枚お借りできたので、レビューをお届けしよう。

コストを抑えたコンポーネント

 X370GTNの最大の特徴はなんといってもその価格設定だろう。市場に唯一無二のRyzen対応のX370チップセット搭載Mini-ITX製品でありながら、15,000円という比較的リーズナブルな価格を実現している。

 近年のPCパーツの価格高騰で、ハイエンドチップセット搭載Mini-ITXマザーボードは2万円台もめずらしくない中、比較的手が出しやすい価格だ。しかも本機には、RGB LEDのイルミネーション機能や、RGB LEDテープを接続するためのピンヘッダなどが搭載されており、他社のハイエンド製品に引けを取らない機能も備わっている。コストパフォーマンスは抜群だと言ってもいい。

 低価格を実現したのには理由もある。それは電源周りの部品選定だ。コンデンサは日本大手メーカーのものではなく、台湾のAPAQ TECHNOLOGY製のものを利用している(ただしこれは数年前のASUS製マザーボードに多用され実績もある)。そのほかの部品に関しても、主要チップを除き台湾メーカーの採用が目立つ。

 たとえば、CPU側のMOSFETはNIKO SEMICONDUCTOR(Niko-Sem)製の「PK612DZ」、メモリ側のMOSFETはSinopower Semicondutor製の「SM4377」(シングル)、「SM7302」(デュアル)だ。電源用のリニアレギュレータとしてAnpec Electronicsの「APL5933C」が多用されているほか、24ピン付近にはRichtek Technology製の1.8Aシンク/ソースバスターミネーションレギュレータ「RT9045」が実装されている。これらはすべて台湾メーカー製だ。

 いずれも現在のASUSやGIGABYTE、MSI、ASRockといったブランドではあまり採用されていない部品でありめずらしい。台湾好きにはたまらない部品選定だろう。

パッケージは2層構造で、マザーボードが上部に置かれている
付属品など
X370GTN本体
CPUは4+3フェーズ構成。MOSFETはNIKO SEMICONDUCTOR(Niko-Sem)製の「PK612DZ」だ
コンデンサはAPAQ TECHNOLOGY製。一時期のASUS製品に多用された
メモリ側のMOSFETはSinopower Semiconductorの「SM4377」と「SM7302」
電源用リニアレギュレータはAnpec Electronics製の「APL5933C」
オーディオコンデンサはHi-Fi CAPの印刷がある

主要チップはメジャー

 一方、主要チップや部品についてはメジャーどころが集まっている。オーディオコーデックはRealtekの「ALC892」で、24bit/192kHzをサポートし、SN比はDACが95dB、ADCが90dBとされているものだ。有線LANコントローラにはRealtekの「RTL8118AS」が採用されており、こちらはゲーミング向けにアプリケーションのバンド幅などを調節できる「Realtek Dragon Software」が利用できるユニークなものとなっている。

 スーパーI/Oは裏面にITEの「IT8613E」を実装。これによりファン速度などのハードウェア監視や、PS/2ポートの機能などを実現しているとみられる。また、ASMedia製のUSB 3.1 Type-C用コントローラ「ASM1543」の実装も見える。

 電源周りはさきほど述べたとおり台湾系メーカーの部品だが、CPUの電源コントローラに関しては、“きっちり”Intersil製の「ISL95712」を搭載している。このコントローラはAMD Fusion SVI 2.0規格に対応した電源コントローラで、コア電源供給は1~4フェーズ、ノースブリッジの電源供給には1~3フェーズの間で自由に実装できる。本製品に関して言えば、4+3フェーズなので、最大の実装と言っていいだろう。当然、フェーズダブラーなどは使われていない、オーソドックスな構成だ。

 このコントローラにはリップルを抑える「R3 Technology」が搭載されているほか、負荷に応じてスイッチング周波数を自動的に変更させることで効率性を高める機能も実装されている。変換効率は5A時で約60%、10Aで約80%、3~60Aで最大の90%に達する。電圧は0.5V~1.55Vの間を6.25mV単位で調節できる。

 そのほか、スロットやコネクタなどもFOXCONNやLOTESといった大手メーカー製であり、このあたりは信頼性重視だ。全体的に言えば、電源部分は低コスト化し、そのほかの部分は信頼性を重視、適材適所な部品選定を行なっている印象を受ける。

CPUやメモリスロットはLOTES製だ
メモリスロットはいわゆる“片ラッチ”で、ビデオカード側を操作することなくメモリモジュールの抜き差しができる
X370チップセット。カーボン調のヒートシンクの下に隠れている
IntersilのAMD Fusi SVI 2.0対応電源コントローラ「ISL95712」。4+3フェーズは最大構成
本体底面。AMD標準のCPUのバックプレートが使用されているが、M.2スロットが隣接しているため、サードパーティー製CPUクーラーでは厳しい場合もあるかもしれない
実装スペースの関係上、CMOSバッテリはコードで接続され、縦配置されている
RealtekのGigabit Ethernetコントローラ「RTL8118AS」。ゲーミング向けとされている
Realtekのオーディオコーデック「ALC892」
Winbondの「25Q128FWSQ」は128Mbitのシリアルフラッシュメモリ。BIOSを格納しているとみられる
M.2スロットの近くにあるBCD Semiconductorの「AS324M-G1」は4チャンネルのオペアンプ
Super I/OはITE製の「IT8613E」

シンプルな使い勝手のBIOS

 UEFI BIOSは同社のRACINGシリーズを踏襲したものとなっており、グレーを基調に、チェッカーフラグの背景や黄色をアクセントに取り入れた、グラフィカルUIを備えている。左ペインはCPUとメモリのクロックと電圧、ファン、そしてCPU温度を常時監視。中央のペインで各種設定を行ない、右ペインはそのヘルプを表示するものとなっている。

 一応、マウスも使えるようになっているのだが、従来のBIOSと同じくキーボードで難なく操作できる。このため古くから自作PCを経験しているユーザーにとってとっつきやすいものとなっている。

 設定できる項目については、オーバークロック向けの設定はかなり少ない。主にCPUとメモリクロックとそのタイミングの設定、そして一部の電圧を変更できるというだけで、最新のIntel製品のように、非常に細かな設定ができるというわけではない。もっとも、これはBIOSTARの製品のみならず、AMD向けマザーボード全般で言えることである。しかし、Mini-ITXということを考えれば十分だ。

 Ryzen CPUやチップセットの各機能のオン/オフの設定は細かいが、自作PCユーザーがここを触ることは少ないだろう。ユニークなのは、RyzenのCCXの構成を選択できる点。ご存知のとおり、Ryzenは4コアを1CCXとして、Ryzen 7では2つのCCXをつなぎ合わせることで8コアを実現しているのだが、本機では2基のCCXにあるCPUコアを2基ずつ有効にした4コア構成と、CCXを1基無効にした4コア構成を選べる。もっとも、現時点では実験用でしかないだろうが、面白い機能だと言える。

 また、本製品のVRMヒートシンクにRGB LEDが埋め込まれているほか、ボード上にもRGB LEDテープ用の5050ピンヘッダを備えており、さまざまな発色や発色パターンによるイルミネーションを楽しめるのだが、そのコントロールもBIOS上の「Vivid LED Control」によって行なえる。

 ただし、現時点ではR/G/Bの値を0~127の間で入力して選択するようになっているなど、直感的ではない。直感的に操作するなら、Windows上のユーティリティを使うべきだろう。この点は、ファン回転数を設定するSmart Fan Controlも同様だ。

UEFI BIOS。3ペイン構成を採っている
高度設定。各種I/OやCPUの機能のオン/オフなどが行なえる
CPU設定の一例
1つのCCXだけを有効にできる
メモリ関連の設定
ACPIの設定
CPUファンの設定。残念ながらグラフで調節するのではなく、数字を入れるタイプ
チップセットの設定
ブートデバイスの設定
セキュリティの設定
オーバークロック関連やRGB LED関連の設定はO.N.Eにまとめられている
設定は保存しておける

あっさりしているユーティリティ

 ユーティリティも非常にあっさりしている。統合ユーティリティソフトである「RACING GT Utility」は、システムの情報表示を行なう「System Information」、ソフトウェア上からヘッドフォンのインピーダンスに合わせて出力最適化する「Smart Ear」、LEDコントロールの「Vivid LED DJ」、現在の稼働状況やファンコントロールを行なう「H/W Monitor」、そしてCPUの電圧/クロックを設定する「OC/OV」の5ページがあるのみだ。

 設定できる項目は少ないため、標準の状態で満足しているのであれば、わざわざ入れる必要もないだろう。ことRyzenのオーバークロックに関連した設定は皆無に等しいのだが、そこはAMDが提供する「AMD Ryzen Master」を使えば良いということだ。

 一方、「FLY.NET」はRealtekのRTL8118ASが提供するRealtek Dragon Softwareそのものだ。ゲームやストリーミング、ブラウジングといったアプリケーションを自動で認識し、最適な帯域幅および応答速度を提供するよう、優先度を調整する。言わばゲーミング向け有線LANで有名なKiller対抗なユーティリティだ。

 このほか、インターネット上から最新のBIOSを自動的にダウンロードしてアップデートを行なえる「BIOS Update Utility」、起動時のBIOS表示を好みのものに変更できる「BIOSCreen Utility」も用意されている。

「System Information」のページ
ヘッドフォンのインピーダンスに合わせて最適な出力を行なう「Smart Ear」
LEDコントロールの「Vivid LED DJ」
「H/W Monitor」のページ
「OC/OV」のページ
一応、各電圧を設定できるが、AMD Ryzen Masterを使ったほうが良いだろう
FLY.NETのユーティリティ
BIOS Update Utility
BIOSCreen Utility

安価に8コア16スレッドをMini-ITXフォームファクタで実現する夢の製品

 Mini-ITXフォームファクタでは、実装スペースが限られている関係上、TDPが高いマルチコア/ハイエンドCPUに対応しにくい。これまでのMini-ITXと言えば、4コア/8スレッドが当たり前の世界であった。“常識はずれ”な製品として、ASRockの「X99E-ITX/ac」があり、これとXeon E5-2699v4のようなプロセッサを組み合わせれば、22コア/44スレッドという驚異的なMini-ITX環境を実現できるが、メモリチャネルが2つに制約される上に、価格もゆうに70万円を超えるので、一般消費者としては現実的ではない。

 その点、X370GTNならば、4万円台のRyzen 7 1700と組み合わせて、10万円台の8コア/16スレッドマシンを手軽に実現できる。加えて、100W超が当たり前なXeon E5シリーズと比べ、TDPが65Wまたは95WのRyzenのほうが、放熱や電源容量も配慮しなければならないMini-ITXのフォームファクタに組み込みやすく、スレッド数を重視するハイエンドユーザーにとって現実的な選択肢である。

 ちなみにどうしてもX370チップセットでなければイヤという人以外は、下位の「B350GTN」も検討してほしい。Mini-ITXマザーボードではNVIDIA SLIやAMD Crossfireができないため、2,000円近く安価なB350でも十分だ。

 GIGABYTEやASRockこそRyzen対応のMini-ITXマザーボードを予告しているものの、実物はいまだお目にかかれていない。一方、ASUSやMSIといったメーカーは、Ryzen対応のMini-ITXマザーボードをアナウンスしていない(COMPUTEXで期待できるかもしれないが)。

 実はAMDがRyzenを正式発表するかなり前から、BIOSTARはZenコアの高いポテンシャルに目をつけ、開発早期の段階でAMDと協業をすることで、他社に先駆けてこのMini-ITXマザーボードをリリースできたのだという。ここしばらくは、Ryzen+Mini-ITXはBIOSTARの天下だと言ってもいいだろう。