特集
Steamを利用して無料OS「Ubuntu」で3Dゲームを楽しむ
(2013/3/8 00:00)
ゲームのネット配信やコンテンツ管理、ゲームコミュニティなどを形成するValveのゲームプラットフォーム「Steam」が2月14日(米国時間)、Linuxに正式対応した。
本記事では、推奨ディストリビューションである「Ubuntu 12.10」を使い、導入からゲームのプレイまでの流れを簡単に紹介する。当然、サポートなしの無料OSがメインの内容なので、初心者ではなく、記事に触れていない部分や、環境独自の問題を自己解決できる中級者向けの内容であることをあらかじめお断りしておきたい。
Steamが何であるか既にご存知の方が多いと思うが、改めておさらいをしておく。SteamはWindowsのみならずMac OSでも動く、ゲーム配信や管理を行なうことを主目的とするPC向けのプラットフォームである。特徴は、ゲームのライセンスがユーザーのアカウントと紐付けられているため、自らのアカウントでログインすれば異なるPCで使える点である(当然だが、同時実行はできない)。このため特に筆者のような複数のPCを所持したり、OSの再インストールなどを頻繁に行なうヘビーPCゲーマーにとってありがたい仕組みだ。
そのSteamがこのほど、Linux正式対応となったわけだ。Linuxと言えば「(個人利用において)無料のOS」なわけだが、SteamがLinux対応したことによって、ゲーマーは自作PCで無料のOSを使い、つまり(OS分の)コストを抑えながらSteam上のさまざまなゲームタイトルをプレイできるようになったわけである。また、UbuntuであればUSB HDDやUSBメモリなどからのブートもできるため、既存OS環境から切り離した状態でのゲームプラットフォーム構築なども柔軟にできる。
当然だが、Steam上のすべてのゲームがLinux版で使えるわけではない。ゲーム自体の対応OSはゲーム開発会社次第である。ゲーム購入時に対応OSのアイコンが表示されるため、そこで確認することになる。現時点ではホーム画面に「LINUX」のタブがあるので、簡単に対応タイトルを探せる。Linux対応タイトルは3月7日時点で79タイトルとなっている。
Ubuntuの導入
まず手始めにUbuntu 12.10を導入しなければ何も始まらない。幸いにも国内では有志による「日本語Remix」が開発されているので、ホームページからISOイメージをダウンロードし、DVDに書き込めばすぐにもインストール可能になる。
当然、UbuntuはWindowsのように国内でメディアが入手できないため、ダウンロードしてISOが書き込めるOSがないとどうしようもない。新規にPCを組む場合は「鶏が先か卵が先か」という問題になるわけだが、おそらくこの記事を読んでいる読者は問題ないと思うので次に行く。
インストール先は5GB以上の空きが必要だが、先述のようにUSBメモリでも可能で、16GBや32GBが1,000円~2,000円でも珍しくない現在においてネックになることはまずないだろう。今回は320GBのUSB 3.0 HDDを用意した。
また、無料OSを活かせるのは低価格ハードウェアと言えども、一応「ゲームプラットフォーム」名目なので、Core i7-2600K(3.5GHz)、メモリ8GB、Intel Z77 Expressチップセット(ASRock Z77E-ITX)、スリムDVDドライブ、Radeon HD 7870 GHz Editionなどの環境を用意した。
インストールはまずBIOSで起動順序をDVDドライブにし、Live CD版のUbuntuを起動する。左ペインで言語を設定してから「インストールする」ボタンを押すと先に進める。そこから先はウィザードも日本語化されているので迷うことはほぼ無いと思うが、インストール先のストレージ(この辺りは説明をちゃんと読み、Windowsなど既存環境がある場合は消してしまわないよう注意する必要がある)、無線LANのキー、キーボードのレイアウト、地域や言語の設定、ユーザーのアカウントやパスワードなどを設定するだけで完了する。12.10ではバックグラウンドでファイルのコピー処理を行ないながらこれらの設定が行なわれるので、Windowsのインストールと比較すると高速であることが体感できると思う。
インストールが終わって再起動し、BIOSから起動をインストールしたストレージに指定すれば、Ubuntuが立ち上がる。以前Linuxのインストールでかなり苦労を覚えたことがあるので「USB 3.0のドライバを持っていないのではないか、無線LANのドライバがないのではないか、デスクトップが表示されないのではないか」などの心配もしていたが、今回の環境ではあっさり立ち上がり、心配は杞憂に終わってしまった。
なおインストール直後はWindowsと同様、セキュリティパッチなどの更新が自動的にダウンロードされるが、このあたりも自動化されているため、更新ボタンさえ押しておけば複雑な処理に悩まされることはない。
SteamとRadeonドライバの導入
LinuxはWindowsと違い、ディストリビューションや対応CPUが多数あるので、本来はソフトの配布はソースコードで行ない、ユーザー側でコンパイルしてインストールする。しかしこれでは効率が悪すぎるので、UbuntuではAndroidで言う「Google Play」、iOSで言う「App Store」に相当する「Ubuntuソフトウェアセンター」を用意し、これを通してソフトをインストールする仕組みが用意されている。Ubuntuソフトウェアセンターはデスクトップ画面左側に並んでいるアイコン群から起動できるだろう。
これによってインストール手順もGoogle Play並みに簡単になり、カテゴリから選択できるようになっているほか、検索ボックスに探したいソフトを入力して検索もできる。今回はSteamを導入するので、「Steam」で検索し、見つかったら「購入」ボタンを押してインストールするだけである(ボタンは“購入”になっているが、Steamは無料である)。
なお、初回時はGoogle Playなどと同様アカウントの作成が必要。この画面は英語でしか用意されていないのだが、名前、メールアドレス、パスワードを入力するだけで作成できるため戸惑うことはないだろう。購入が終わるとダウンロードが開始し、自動的にインストールや更新がされる。
ゲーム実行前に、ビデオカードのOpenGLドライバも導入しておく。今回はRadeon HD 7870 GHz Editionだが、「ATIバイナリX.Orgドライバー」を導入することでOpenGLのハードウェアアクセラレーション機能が利用できるようになった。
ちなみにUbuntu版においてもWindows版と同様「Catalyst Control Center」が用意されており、アンチエイリアシングや異方性フィルタリングの設定、色、ディスプレイの設定など、設定項目なども遜色ない。筆者はしばらくLinux界を離れていたのだが、その完成度の躍進ぶりには驚かされるばかりだった。
興味があるユーザーは、AMDのサイトからベータ版を入れてみても面白いだろう。ページから「amd-driver-installer-catalyst-13.2-beta6-linux-x86.x86_x64.run」をダウンロードしたら、そのファイルを右クリックしてプロパティ、アクセス権のタブですべて読み書きできるように変更する。そしてデスクトップ画面左上の「Dashホーム」をクリックし、Ctrl+スペースキーで日本語入力をオンにしてから、「端末」と入力すると、端末と呼ばれるアプリケーションが現れるので、これを起動。Windowsで言う「コマンドプロンプト」に相当するものだ。
詳細は省くが、MS-DOSとほぼ同じコマンドが使えるためとっつきやすいだろう。標準のカレントディレクトリはユーザー自身になっているので、例えば、先ほどAMDのホームページからデスクトップにダウンロードした場合、
cd デスクトップ
sudo ./amd-driver-installer-catalyst-13.2-beta6-linux-x86.x86_x64.run
で実行できる。余談だが、デスクトップは日本語なので、先述の通りCtrl+スペースキーで日本語入力をオンにすれば端末でも日本語が入力可能。また、amd-driver-installer-catalyst-13.2-beta6-linux-x86.x86_x64.runというのは「やたらと長いファイル名」なわけだが、先頭のaを入力してTabキーで簡単に補完できる仕組みが用意されている。ちなみにLinuxのファイル名の長さは「名が体を表す」わけで、8文字のしがらみがあるWindows/MS-DOSとは文化が違うといったところだろうか。
なお、NVIDIAのOpenGLディスプレイドライバに関してもUbuntuソフトウェアセンターからダウンロードできるが、Intelに関してはざっくり調べたところ、無理そうな気配であった(後述のゲーム中でも明らかに描画の色が違うなど、かなりの不具合を抱えていると思われる)。
Steamとゲームの起動
Steam自体はデスクトップのアイコンから起動できる。UIそのものは英語版のみのようだが、Windows版とまったく同じなので、戸惑うことは無いだろう。初回起動時は、Steamアカウントがなければ新規作成、あれば従来通り自身のアカウントでログインすれば利用できる。ゲームコントローラを使い、TVなどでの利用を前提とした「BIG PICTURE」(いわゆるMedia Centerに相当する10フィートUI)が利用できるのも、Windows版同様であった。
今回は試しにWindows/Mac/Linuxと全対応した「Serious Sam 3:BFE」(以下SS3)を購入してみたが、決済からダウンロードまで、Windows版と全く同じ手順であった。ダウンロードが終了すれば、いよいよゲームがプレイできるようになる。
というわけで、SS3を実際にプレイしてみた。先述の通りWindowsでも実行できるので、双方のプラットフォームで比較してみたが、オプションや各種エフェクトなどはWindows/Linux版ともに共通だった。SS3自体もともと「物凄いグラフィックス」とは特に謳われていないゲームだが、建物の凹凸や散乱したブロック、風に揺れる草やHDR表現などはWindows/Linuxともに共通であった。1枚の静止画として眺めても細部まで描かれた細かなクオリティで、なかなか立派と言えるのではないだろう。
ただし速度面ではやはりWindows版に敵わない。今回はLinuxでフレームレートを計測するソフトを持ち合わせていなかったため、筆者の目視による計測で申し訳ないのだが、2,560×1,600ドット/アンチエイリアスなし/最大ディテールの設定でおよそ15~50fpsだった。これがWindows版だと明らかに滑らかで、40~60fps程度だったと思われる。
特に、Windows版でもLinux版でも草地に入ると描画速度が低下するが、Linux版ではより顕著だった。とは言えそれ以外のシーンでは概ね30fpsを超えていると思われ、通常のプレイには支障がなかった。また、1,920×1,080ドット(フルHD)程度に解像度を落とすとフレームレートも向上し、快適にプレイできた。
タイトルの増加に加え、専用ハードウェアも期待
SS3は3Dゲームの中でも重い方だと思われるが、「無料のUbuntuでもここまで実行できる」ということを示す良いマイルストーンになったと思う。また、「LinuxでプレイできなくてもWindowsでプレイできる」ため、買っておいて損になることはないだろう。
ValveはCES 2013で、Steamを動かすことを前提としたハードウェアプラットフォーム「Steam Box」を発表している。これはオープンなプラットフォームで、特定のOSやハードウェアを要求せず、コントローラで「BIG PICTURE」さえ操作できれば良いとされている。今回Linuxに対応したことでハードウェアベンダーは選択肢が増え、より独創的なハードウェアを構築できる可能性を秘めている。
特にAMDのTrinityのようなAPUは、低価格でありながら統合型のグラフィックス性能が高く、Linuxのような無料OS、そしてダウンロード販売によって低価格を実現できるSteamとの親和性は高い。Linux対応のゲームタイトルが今後増えれば、コストパフォーマンスを重視するゲーマーにとってかなり有力な選択肢になることは間違いないだろう。