特集

そのモバイルバッテリ、本当に安全ですか?

本稿の結論でもあるが、モバイルバッテリのリコール情報を収集するには消費者庁の「リコール情報サイト」が役立つ。まずは一度アクセスを

 モバイルバッテリの発火事故が世間を賑わせている。ご存じのように、一般的なモバイルバッテリにはリチウムイオン電池が部材として採用されている。充電容量や重量面で優れているが、その構造上、燃えやすい溶媒が内部に使われている。落下で破損したり、あるいは製造上の不具合がある個体を使い続けると、発火のリスクがある。

 モバイルバッテリの発火事故はここ数年来、断続的に報道されていた。2019年にはPSEマークのついていない製品の国内流通も規制された。しかし、2025年7月、JR山手線車内で発生した事故は、とりわけインパクトの大きいものとなった。国内企業が展開するスマートフォン周辺機器ブランド「cheero」が、2023年6月からリコールによる回収/返金を呼び掛けていた製品だったからだ。リコールの重要性を改めて実感した方は多いだろう。

 そこで今回は、モバイルバッテリのリコール情報をどのように集めたらいいのか、その方法について考えていきたい。

悩む前に、まずは消費者庁「リコール情報サイト」へアクセス

 モバイルバッテリは国内外のさまざまな事業者によって販売されている。購入にあたってメーカー名を意識せず、店頭に陳列されているものをなんとなく直感的に買う機会も少なくないだろう。製造元や品番を調べ、当該サイトへアクセスすること自体、億劫だという声は多そうだ。

 だが、そこはひとまずご安心を。消費者庁が開設/運営している「リコール情報サイト」を覗いてみてほしい。このサイト1つで、大方のリコール情報は集めることができる。

 このリコール情報サイトは、自動車や大型家電、さらには食品に至るまで、幅広いジャンルのリコール情報が収蔵されている。フリーワード検索機能があるので、メーカー名や品番、JANコード(バーコード)で検索するのが最も確実だ。

「リコール情報サイト」では、モバイルバッテリのような電子機器はもちろん、食品や車のリコール情報も調べられる

 今回の一件を受けて、モバイルバッテリ全般の傾向について知りたい方も多いだろう。この場合、検索キーワードを少し工夫した方がよい。たとえば「モバイルバッテリ」で検索すると28件分(本稿執筆時点)の情報が表示されたが、「リチウム電池」で検索すると、これが44件(同)となる。実際の情報を見比べると、後者でだけヒットするモバイルバッテリも存在する。

 本稿冒頭で触れた、cheeroのリコール対象製品は、本サイトに情報が掲載されている

消費者庁「リコール情報サイト」では、「cheero Flat 10000mAh」に関する返金・改修情報が掲載されている。

 詳細ページでは、正式な商品名「cheero Flat 10000mAh」とともに、リコールの理由や、製品カラー別のJANコードなどが記載されている。本製品だけに限らないが、販売期間やリコール対象台数の情報も併記されているので、影響規模を推察できる。

リコール情報サイト、具体的にどんな感じか調べてみた

 前述の通り、リコール情報サイトには20件をゆうに超えるモバイルバッテリリコール情報が掲載されている。その中から、気になるものを幾つかご紹介したい。

Anker Power Bank、Anker MagGo Power Bank(アンカージャパン)

Anker Power Bank、Anker MagGo Power Bank(アンカージャパン)(画像出典: Anker リコール告知ページ)

 「リコール実施事例が少ない=安全管理に優れている企業/ブランド」とは限らない。企業規模が大きく、製品ラインナップが多ければ、ある程度のリコールが発生するのが現実だ。Ankerブランドのモバイルバッテリは2021年以降で4件分、リコールを実施している。直近6月に発表されたのが、この情報だ。セル製造サプライヤーによる、不適切な部材使用が見つかったため、対象製品の交換/回収を行なうという。

 対象モデルの1つが「Anker Power Bank(10000mAh、22.5W)」で、対象製品は約40万台(!)。なお対象型番のすべてが対象ではなく、一部個体(シリアルナンバーで判別)に限るという。販売期間は2024年5月~2025年6月と、かなり新しめの製品だ

Belkin BoostCharge Pro Fast Wireless Charger for Apple Watch + Power Bank 10K(ベルキン)

Belkin BoostCharge Pro Fast Wireless Charger for Apple Watch + Power Bank 10K(ベルキン)(画像出典: 消費者庁 リコール情報サイトの当該製品ページ)

 アップル製品関連のアクセサリでよく知られるベルキン。消費者庁リコール情報サイトには2件の情報が掲載されていた。こちらの製品は、Apple Watch充電機能も備えたモバイルバッテリである。リコール理由は「リチウムイオンセル部品が過熱し、火災が生じるおそれがあるため」。

 2023年4月~2024年6月にかけて販売され、対象台数は約13,000台。交換ではなく、廃棄/返金での対応となる。

SMARTCOBY Ex01(CIO)

SMARTCOBY Ex01(CIO)(画像出典: CIO リコール告知ページ)

 USB充電器、USBケーブル類を広く手がけるCIOでは、2025年1月から約2万台規規模のリコールを実施している。対象商品名は「SMARTCOBY Ex01 SLIM Qi2 & CABLE」で、2024年7月~2025年1月にかけて販売されていた。公式サイトによれば、発火の事例が実際に確認されたため、リコールに至った。返金を実施している。

 出荷全数ではなく、一部ロットだけがリコール対象とされる。製造過程で明確な検査ミスがあったとしており、その全容についても詳しく説明している。発売からまだ1年程度しか経っていない製品とあり、現役でご利用の方も多いと考えられる。どうぞ、ご注意を。

Lenovo Go USB Type-C ノートブックパワーバンク20000mAh(レノボ・ジャパン)

 ノートPCでおなじみのレノボ。USB Type-C接続のモバイルバッテリをいくつかリリースしており、このうち型番「40ALLG2WWW」の1,210台についてリコールを実施している。リコール理由は「装置カバー内部のネジ受けの強度不足により、ごく稀に異常発熱に至る可能性があるため」。

 2022年1月~6月にかけて製造された特定製品だけが対象で、対応は交換のみ。対象製品1210台分の製造番号がすべてPDFファイルで公開されている。なお、リコール情報サイトにはレノボの過去のノートPCリコールに関する情報も掲載中。

VARMFRONT ヴァルムフロントモバイルバッテリ(イケア・ジャパン)

VARMFRONT ヴァルムフロントモバイルバッテリ(イケア・ジャパン)(画像出典: 消費者庁 リコール情報サイト 当該製品ページ)

 小売店チェーンが独自ブランドのモバイルバッテリを販売するケースは多い。家具や雑貨の大型販売店で知られるイケアもそんな1社だが、2024年2月~6月にかけて販売した一部製品でリコールを実施している。ただし対象台数は合計99個と、かなり少なくはある。

 対象の製品名は「VARMFRONT」で、特定の日付スタンプが印字されているものについて、リコールを行なう。対応は交換、返金(回収)のいずれか。製造不良による発火の可能性があるという。なおカスタマーサポートへの電話連絡だけでなく、実店舗の返品カウンターへの持ち込みでも対応する。

リチウム電池内蔵充電器: ACアダプタ内蔵モバイルバッテリ(ベイシア電器)

 ベイシア電器は群馬県を中心に展開する家電販売店チェーン。2020年7月~9月にかけて販売した、ACアダプタ内蔵モバイルバッテリ「DLCDB19134」について、リコールを発表している。対象台数は149台と少ないが、充電中に発煙/発火する可能性があるという。

 Web検索してみると、ベイシア電器公式サイト内に別途、詳報が掲載されていた。消費者庁サイトからはリンクしていないのでご注意を。もともとはヒロ・コーポレーション社製の製品のようで、同じくリコールが発表されている

Baseusマグネット式ワイヤレス充電モバイルバッテリなど2機種(Shenzhen Baseus Technology)

 モバイルバッテリ販売メーカーは本当に多い。失礼ながら筆者、このBaseusというブランドは全く見聞きしたことがなかった。完全ワイヤレスイヤフォンや充電器などを広く展開しているようだが、モバイルバッテリ2機種のリコールを2024年7月から実施している。内蔵リチウムイオン電池のオーバーヒートによる火災発生の恐れがあるという。

 対象製品は2機種合計で約8,000台。AmazonもしくはAliExpressで主に販売された。電話窓口もしくはメールで申告を受け付けており、原則として返金を実施する。


 各社のリコール対応を比較してみると、意外に差がある。該当型番すべて対象か、特定シリアルナンバーの品だけか。交換か返金か、受付は電話かメールか店頭か……といった具合だ。いざとなって慌てないよう、どんな受付フローになっているか、リコール遭遇前から確認しておくとよいだろう。

データで見てもモバイルバッテリは火事が多い!? リコール状況は定期的に確認を

 東京消防庁によると、管内で発生したリチウムイオン電池関連火災は、2023年(令和5年)の1年で167件あった。これを出火した製品別に分類すると、最も多かったのはモバイルバッテリの44件で、続く携帯電話(スマートフォン)の17件を大きく引き離している。ちなみにモバイルバッテリからの出火44件のうち、「製品の欠陥(リコール)」を要因とするものも1件あった(不明は15件)。

 どんな電子機器でもリチウムイオン電池を内蔵する以上、発火の危険は少なからずあるというのが大前提ではある。だがそれでも本データを見るに、モバイルバッテリについては特段の注意が必要だと言えそうだ。

 とはいえ、過度に危険視するのも筋違いだろう。取扱説明書に説明された使用条件を守り、物理的な破損がなく、膨張などが確認されていないモバイルバッテリであれば、過度に恐れる必要はない(厳密な意味での安全保証はできかねるが)。ライターやナイフと同じく、注意を払いながら適切に扱うことを心がけたい。

 リコールについては、いくら消費者庁のサイトが便利とはいえ、毎日のようにチェックするのは難しい。1年に1回、たとえばお盆などの長期休みになったら手持ち製品についてすべて調べるとか、何らかの自主ルールを決めておくのが現実的だろうか。またECサイトなどには、リコール品を販売した顧客に対する注意喚起メールの発信なども期待したい。

筆者の手元には少なくとも4台のモバイルバッテリがあった。1年に1回とか、あるいは大規模なリコールがあった時とか、何らかのタイミングでリコール状況を棚卸しするのも、1つのアイデアだろう(画像の製品とリコールの有無は関係ありません)

 「不要になったモバイルバッテリをどう廃棄したらいいか分からない」という声も聞かれる。まずは、居住自治体のゴミ出しルールに従うというのが大原則だ。その上で、一般社団法人JBRCが実施している協力店店頭回収サービスなども活用するといいだろう。PC Watchでは過去に関連特集を掲載しているので、参照されたい。

 モバイルバッテリを巡る情勢は、しばらくの間、変化し続けるだろう。たとえば、モバイルバッテリなどのリチウムイオン電池を一般ゴミに混ぜて廃棄してしまい、それが原因とみられる火災で清掃工場が焼損、長期に渡ってゴミ処理ができなくなるという事態が近年発生している。この問題への対応が放置されるとは思えない。航空機への持ち込みに関しても、2025年7月にはルールがさらに厳格化された。

 消費者としても、火事を起こして得することなど1つもない。安全を最優先に、便利に使いつつ、守るべきルールはしっかり守る。この姿勢を普段から徹底していこう。