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レコードはただデジタル化してもダメって知ってた?アナログ感を残す方法を解説しよう

 レコードを録音して普通にデジタル化すると、たとえハイレゾで録音したとしてもアナログならではのよさが消えてしまう。しかし、記録できる情報量が多く、音の濃淡を精緻に記録可能なDSD形式で録音すれば、アナログならではの質感を残したままデジタル化できる。本企画ではその方法を紹介する。

レコードをアナログライクなデジタル音源にして2倍楽しむ

 2010年代後半から世界でレコードが復活しており、その波は日本にも波及。現在、音にこだわるリスナーの多いクラシックやジャスだけでなく、ロック、国内ポップス、歌謡曲、アニメなど多岐に渡るジャンルで、新譜レコード、再発レコードがどんどんリリースされているなど、レコードが盛り上がっている。

 レコードの魅力は何と言ってもアナログならではの柔らかく暖かみのある音だ。低域から中域にかけては深みがあり、高音域もなめらかで、心の奥底まで響いてくるものがある。サブスク全盛の時代にこれだけレコードが注目を浴びているのはそれが理由だろう。

 しかし、レコードには1つだけ難点がある。それは、ほこりや静電気を除去した上でレコードプレーヤーで再生する必要があるなど、音楽を聴くまでに手間がかかることだ。

 もちろん、手間をかけて再生することもレコードの楽しみの1つである。しかし、音楽を持ち歩くことがスタンダードとなった現代においては、レコードの音をもっと手軽にどこでも楽しみたいと考えている人も多いのではないだろうか。

 そこでおすすめしたいのが、レコードをアナログならではの質感を残したままデジタル音源化することだ。詳細は後述するが、wavやflac、AAC、mp3などのPCM形式ではなくDSD形式で録音すれば、アナログらしさを残したままデジタル音源にできる。

 レコードをデジタル音源化すればスマホやデジタルオーディオプレーヤーで持ち歩くことも可能。家ではレコード盤を、外ではレコードを録音したデジタル音源を再生と、レコードをまさに2倍楽しめるようになる。

 実際、筆者は中古を含めて月に最低2枚はレコードを購入しているが、すべてDSD形式でデジタル音源化して、外出先ではデジタルオーディオプレーヤーでその音を楽しんでいる。

 本稿では、レコードをアナログらしい質感を残したままDSD形式でデジタル音源化する方法を紹介するので、興味を持った方はぜひ実践してみてほしい。

 なお、Windows、Macとも、後述するコルグのアプリ「AudioGate 4」などでDSD音源を再生可能。スマホでも対応アプリを使用すればDSD音源を再生できる。また、最近では、低価格のデジタルオーディオでもDSD音源を再生できるものが増えている。

最近はレコードが復活している。新譜や過去の名盤の再発が相次いでおり、HMVやタワーレコードなどで大量に販売されている。画像はHMV record shop online
レコードは再生に手間がかかるが、アナログの質感を残したままデジタル音源化すれば、手軽にレコードの音を楽しめるようになる

レコードを捨てられずにとってある人も注目

 レコード世代の読者の中には、レコードを捨てられずにとってある人も多いのではないだろうか。そういう人は今こそデジタル化して音を残すチャンスだ。というのは、昨今のレコードブームの中、レコードプレーヤーも復活しているからだ。ビックカメラやヨドバシカメラなどの家電量販店でもレコードプレーヤーは数多く販売されており、1万円台から入手できる。

 せっかくとってあったレコードをデジタル音源化するなら音質にもこだわりたいところ。そういうかたもぜひ本稿を参考にしてほしい。

レコードの復活に伴い、レコードプレーヤーも多く発売されている。レコードを捨てられずにとってある人は、今こそデジタル音源にして残すチャンスだ。画面はヨドバシ.comのレコードプレーヤー販売ページ

アナログならではの質感を残すポイントはDSD形式での録音

 デジタル音源の形式には、CDや一般的なデジタルオーディオフォーマット(wav、mp3、flac、AACなど)などに採用されている標準的な「PCM(Pulse Code Modulation)」と、SACD(Super Audio CD)などで採用されている「DSD(Direct Stream Digital)」がある。

 ざっくりと解説すると、PCMは、デジタルらしいクリアな解像度の高いサウンドが特徴。対してDSDはサンプリング周波数や量子化ビット数を高くすることで細かな音のニュアンスまで忠実に再現することを目指して開発されたもので、アナログ的で柔らかななサウンドが特徴となる。

 つまり、アナログならではの質感をできるだけ残したいなら、DSD形式で録音するのがベストということだ。以下、筆者がレコードをDSD形式で録音するのに使用している機材と手順を解説しよう。

PCMは波形を一定時間ごとに数値化するもので、CD音質では44100分の1秒ごとにサンプリングを行ない、音の大きさを16bitで量子化している。対してDSDは1bitで量子化を行ない、2.8MHzの場合はサンプリング周波数がCDの44.1kHzの64倍となる。DSDはこのように情報量が多いため、濃密で質感のあるアナログレコードの音の特徴を維持したままデジタルで記録できる

コルグのDSD録音対応USB DACを使用

 筆者はレコードを録音にするのにコルグのUSB DAC「DS-DAC-10R」を使用している。発売は2017年と古いが、現状できるだけ低コストかつ手軽にレコードをDSD録音するなら、これが最良の選択肢と考える。なお、DS-DAC-10Rは発売当初6万円前後と高価であったが、現在は3万円前後まで価格が下がっている点も魅力だ。

 録音はコルグが自社製品ユーザー向けに配布しているPC用アプリ「AudioGate 4」で行なう。AudioGate 4はWindows版[11と10(64bit版)対応]とmac版(macOS 13以降に対応)が用意されている。

コルグのハイレゾ対応USB DAC「DS-DAC-10R」。実売価格は3万円前後。DSD音源(2.8MHz、5.6MHz)とPCM音源(最大192kHz/24bit)の録音と再生に対応。一般的なUSB DACと異なり、レコードプレーヤーを接続できるフォノ入力端子を装備しており、レコードをDSD形式で録音できる点が特徴
DS-DAC-10Rなどのコルグ製品ユーザー向けに、DSD録音と再生に対応するアプリ「AudioGate 4」が用意されている

 DS-DAC-10Rを使ってレコードを録音するのに必要な機材は、DS-DAC-10RのほかはレコードプレーヤーとPC。録音する手順は、以下の流れになる。

  1. レコードで再生した音をオーディオケーブルでDS-DAC-10Rに入力
  2. DS-DAC-10Rでデジタル変換した音をUSBケーブルでPCに伝送
  3. PC上でAudioGate 4で録音

 注意したいのは、レコードプレーヤーのカートリッジ(レコードの溝を読み取り電気信号に変換するレコード針の付いたユニット)の種類。カートリッジには大きく分けて「MM(ムービングマグネット)型」と「MC(ムービングコイル)型)」の2つがあるが、DS-DAC-10RはMM型しか対応していない。ただし、MM型の派生であるオーディオテクニカのVM型やナガオカのMP型など、MM型フォノ入力に対応したものは使用できる。

 なお、余談となるが、筆者はMC型の定番品であるデノン「DL-103」が使用したかったので、昇圧トランスを使うなどいろいろ試してみたが、うまくいかなかった。DS-DAC-10Rでレコードを録音する際は、無駄な努力はせず、大人しくMM型を使用したほうがよいと思われる。

DS-DAC-10R以外に必要なもの

レコードプレーヤー。DS-DAC-10Rにフォノイコライザーが内蔵されているので、フォノイコライザーを内蔵しない製品でも使用できる。写真は筆者がメイン機とは別にレコードの録音用として使用しているオーディオテクニカの「AT-LP7」。カートリッジはナガオカのMP型「MP-150H」に交換してある
Windowsは11と10(64bit版)に対応。MacはmacOS 13以降に対応する

レコードをDS-DAC-10RでDSD録音する

 レコードをDS-DAC-10RでDSD録音する手順は以下の通りとなる。以下その順番に詳細を解説していこう。なお、筆者はWindowsユーザーなので、Windowsを使用して解説するが、Macでもドライバのインストール以外はほぼ変わらない

  1. レコードプレーヤーとDS-DAC-10Rを接続
  2. PCにASIOドライバとAudioGate 4をインストール
  3. PCにDS-DAC-10Rを接続
  4. Windows(ASIO)でDSDネイティブ再生ができるようにする
  5. レコードの録音設定を行なう
  6. 録音を行なう
  7. 録音したデータを曲単位に分割
  8. アルバム名、曲名などのタグ情報を付ける
  9. ほかのアプリでも利用できるようにExportする

1. レコードプレーヤーとDS-DAC-10Rを接続する

 レコードプレーヤーとDS-DAC-10RはRCAオーディオケーブルで接続する。フォノイコライザーのオン/オフが可能な場合は、どちらかに設定しておく。

レコードプレーヤーとDS-DAC-10RはRCAオーディオケーブルで接続
フォノイコライザーのオン/オフも設定する。DS-DAC-10Rのフォノ・イコライザーを使用する場合はオフにする。写真のAT-LP7の場合本体のフォノ・イコライザーを使用する場合は「LINE」に設定、出力先のフォノ・イコライザーを使用する場合「Phono」に設定する

2. PCにASIOドライバとAudioGate 4をインストールする

 Windowsの場合、DS-DAC-10Rを使うにはASIOドライバをインストールする必要がある。まずは専用アプリ「AudioGate 4」とドライバのセットアップファイルをコルグのWebサイトからダウンロードしてインストールする。なお、Macの場合はAudioGate 4をインストールすればよい。

Windowsの場合、コルグのWebサイトから「AudioGate 4」とドライバのセットアップファイルをダウンロードする
DS-DAC-10Rを接続する前に、ダウンロードしたファイルを展開してセットアップファイルを実行する
KORG AudioGate and USB Audio Device Setupが起動したら「DS-DAC-10R-Driverのインストール」をクリックしてASIOドライバをインストールする
ドライバのインストーラーが起動したら言語で日本語を選択。後は画面の指示に従いインストールを進める
次にKORG AudioGate and USB Audio Device Setupの「AudioGateのインストール」をクリックしてAudioGate 4をインストールする

3. PCにDS-DAC-10Rを接続

 ドライバのインストールが終了したら、PCにDS-DAC-10Rを接続。ネットに接続した状態でAudioGate 4を起動する。

DS-DAC-10Rに付属するUSBケーブルでPCとDS-DAC-10Rを接続する
ネットに接続した状態でAudioGate 4を起動すると自動的にアクティベーションされ、AudioGate 4が利用可能となる

4. Windows(ASIO)でDSDネイティブ再生ができるようにする

 DSDで録音するにはAudioGate4でDSDのネイティブ再生ができるようにしておく必要がある。ドライバとアプリのインストールが終了したら、DS-DAC-10Rを接続してAudioGate 4を起動。下の手順でDSDのネイティブ再生の設定を行なう。

メニューから「編集」→「環境設定」と選択する
環境設定メニューが開くので、オーディオ・デバイスのタブをクリック。ドライバの種類で「ASIO」を選択する
出力デバイス名と入力デバイス名を「KORG 2ch 1bit Audio Device」に設定する
サンプリング周波数を音質最重視の場合は「5.6MHz」に、ファイルのサイズも考慮する場合は「2.8MHz」に設定する。これで設定は終了

5. レコードの録音設定を行なう

 次にAudioGate 4のメイン画面の右下のある「Rec Setting」ボタンをクリックして録音設定を起動。DSD 録音ファイル形式、入力の種類、録音用フォノ・イコライザーの種類の設定を行なう。各設定の詳細は以下の通りだ。

メイン画面の右端にある「Rec Setting」ボタンをクリックして録音設定を起動する
DSD 録音ファイル形式は、タグ情報の埋め込みに対応しており管理が容易な「DSF(DSD Stream File)」を選択したほうがよい。DSF形式のファイルであれば、DSD再生を謳う音楽再生アプリやデジタル音楽プレーヤーでほぼ間違いなく再生できる
入力の種類ではフォノイコライザー付きのレコードプレーヤーを使う場合は「Line」に設定する。フォノイコライザー付いていない場合やDS-DAC-10Rのフォノイコライザーを使用したい場合は「Phono」を選択する
入力の種類で「Line」を選択した場合は録音用フォノ・イコライザーの種類を「オフ」に設定。「Phono」を選択した場合は選択肢の中から選択する。通常はアメリカレコード協会が1954年に規格化した「RIAA」を選択すればよい。ほかの規格を選択して音の違いを比べ、自分好みのものを選択するという手もある

6. レコードの録音を行なう

 まずは録音レベルの設定を行なう。メイン画面右にある「Input Monitor」をクリックした後、レコードの再生を開始するとレベルメーターが動きだす。録音するレコードの最も入力レベルの高いところが、赤や黄色のクリップ・インジケータが点灯する直前のところになるように、メーターの左にある入力レベル・スライダーで調整する。

メイン画面右にある「Input Monitor」をクリックした後、レコードの再生を開始する
レベルメーターが動きだす。赤や黄色のクリップ・インジケータが点灯しているところは音声がひずむところ
録音するレコードの最も入力レベルの高いところがクリップ・インジケータが点灯する直前になるように、入力レベル・スライダーで調整する

 入力レベル調整が終わったら、AudioGate 4の「録音」ボタンをクリックした後、レコードの再生を開始して録音を開始する。なお、レコードの再生を開始した後、AudioGate 4の録音ボタンを押すという手もあるが、針を落とす位置によっては曲のアタマが録音できないということもあるので、先に押しておいたほうが余裕を持って録音を開始できる。不要な部分は後で削除できる。

メイン画面中央あたりにある録音ボタン(赤丸が付いたボタン)をクリックした後、レコードの再生を開始する。これで録音が開始される
レコードの再生が終わったら、停止ボタンを押す。録音された曲は自動的にライブラリとプレイリストに登録される

7. 録音したデータを曲単位に分割

 次に録音したデータを分割する。メイン画面の再生ボタンを押して曲を分割する位置で止め、「Divide」ボタンを押すとデータが分割される。これを繰り返して、録音したデータを曲単位に分割する

メイン画面の再生ボタンを押して録音したデータを再生、分割したい時点で再生を止める
「Divide」ボタンを押すとデータが分割される
これを繰り返して、録音したデータを曲単位に分割する
録音の冒頭と終わり、曲間など、必要でない無音部分のデータがあれば、そのデータを選択して右クリックメニューそ表示、「ソングを削除」を選択して削除する

8. アルバム名、曲名などのタグ情報を付ける

 このままだと曲名が「Recording_20250602104554.1.2」などとなっているので、アルバム名、曲名、アーティスト名などのタグ情報を付ける。タグ情報は右クリックメニューの「ソング情報の一括変更...」で行なえる。ここでは省くが、ジャケット画像を用意して関連付けすることもできる

まずは全部の曲を選択して右クリックメニューを表示、「ソング情報の一括変更...」を選択する
「アーティスト」、「アルバム・アーティスト」、「アルバム」など、全曲に共通するタグ情報を入力して「OK」をクリックする
次に曲名のタグを付ける。曲を選択して右クリッ右クリックメニューを表示、「ソング情報の一括変更...」を選択する
「タイトル」、「トラック番号」を入力してOKを押す。これを繰り返して全曲にタイトルとトラック番号を付ける

9. ほかのアプリでも利用できるようにExportする

 録音、タグ付けした音楽データをほかのアプリでも利用するには、曲単位でExportする必要がある。ExportするにはExportしたい曲を全部選択して「Export」ボタンをクリック、出力するソングを「選択されているプレイリスト」に設定、出力先フォルダを選択して「OK」をクリックする。なお、ファイル形式やサンプリング周波数などは録音時の設定が反映されているので特に設定する必要はない

Exportしたい曲をすべて選択して「Export」ボタンをクリックする
エクスポートの設定画面で出力するソングを「選択されているプレイリスト」に設定、「出力先フォルダ」などを設定して「OK」をクリックする
指定されたフォルダに曲がエクスポートされる

 以上が、レコードをDSD形式のファイルで録音する手順だ。DSD形式で録音した曲を、たとえば同じ機材を使ってPCM形式で録音した曲(Flac、192kHz/24bit)と比較すると、やはり音の密度が異なる。たとえば、DSD形式で録音したものは、レコードと同様にぶ厚い音で迫ってくるような感じだが、PCM形式で録音したものはレコードよりうすべったく角のある音となる。

 レコードをなるべくそのままの音でデジタル化したい人は、DSD形式の録音を試してみてほしい。